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「・・・ということがあったのよ。」
リヴァの話を聞いていたジールは、頬杖をついたまま、ふーん、と鼻を鳴らした。
菫色の少女は扇子を投げて寄越す。
「ちょっと!私の活躍聞いてた?」
ジールは瞬き一つで扇子を止めた。水でできた扇子はぶよぶよと宙に浮かぶ。
「聞いてたよ。映像もちゃんと見た。
殺し屋の操る霧の水を逆に操り、エレナの盾になって凶刃から守ってやったんだろ?」
水の神殿の天井のスクリーンはまだ稼働している。身を挺して少女を守るリヴァの勇姿を映し続けていた。
「あーあ。もう少し私に使える水が多かったら、もっと活躍できたのに。」
「やめろよ。お前の存在がばれると面倒だろう。」
うーん、とリヴァは口を尖らせる。ちなみに、一番困るのはリヴァ本人ではなく、おそらくジールであることは言わない。
ジールは小さく欠伸した。
「なあ、リヴァ。俺、そろそろ城に帰らないとやばいんだが。」
「何言ってるのよ。あなた、いつもはお兄ちゃんとのおやつタイムなんて毛嫌いしてるじゃないの。」
「嫌だけど、行かなきゃ仕方ないだろ。」
ジールはため息をついた。
ハジ教授の死はやはり偽装だった。レントと共に身を隠していただけらしい。油断した学長夫妻が動きを見せるのを待っていたのだそうだ。レントが犯人だという護衛たちの証言は嘘だったということになる。みんなで口裏を合わせていたのだ。当然ディーンも知っていた。しかも、匿われていた場所というのは、ガウロの屋敷だったらしい。
あの野郎。
敵を騙すにはまず味方からとはよく言うが、あの兄に騙されたと思うと頭に来る。でもしょうがないのだ。ジールはただの王の弟に過ぎないのだから。
エレナが学長夫妻を追っていったのに気付いたのも兄だったらしい。不審な動きを感じて、ガウロに命じて兵を差し向けたという。それに。
「拗ねてるわねえ。エドくんに迫られたことが、そんなにトラウマになってるの?」
リヴァが顔をのぞき込んでくる。
「うるせ。」
ジールは顔を背けた。それはまた別の話だ。それに、不穏な感じだったのは最初だけで、あとは一晩中作業の続きをしていただけなのだ。必死に作業に没頭したおかげで、一晩で本のタケノコ4本を消滅させた。
ジールは、「そういえば。」と顔を上げた。じっとりとリヴァを見る。
「リヴァ。お前、舞踏会の間は何してたんだ?まさか、最初からずっとエレナを見張ってたわけじゃないんだろ?」
「え?」
リヴァの声が微妙に裏返る。
「な、何でそんなこと?」
「いやさ。どうやら兄貴が、舞踏会で誰かと良い感じだったらしいんだ。でも、レイタはもちろん、あのお見合いおばさんのイエロ夫人も、相手が誰か分からないって言うんだよ。兄貴は惚けるしさあ。」
「へ、へえー。そんなことが・・・。」
「お前、舞踏会の映像は撮ってないのかよ。
菫色の髪の、小柄な女だったって話なんだけど。」
目が合った。
「や、やだ。私じゃないわよー。だって、私なんかが四属の王であるディーンと踊ったら、化け物だってことがばれちゃうじゃない。」
「あれ?ディーンとその女が踊ったって、俺言ったか?」
「あ・・・ははは。やだわあ。私を誰だと思ってるの。城内の噂で聞いたのよ。」
「ふーん。」
「そうよ。あはははは。」
まあいいか。
ジールは立ち上がった。
王立高等院の学長選挙も無事終わった。全会一致でハジ教授が学長が選ばれた。前学長の下で甘い汁を吸っていた者たちは次々と告発されているし、王立高等院は今後、ハジ学長の下で改革が推し進められていくことだろう。
レントは正式に助手として採用されたらしい。これからもハジ学長の元で尽力していくつもりだと、腫らした頬を庇いながら言っていた。年内にはエレナとも結婚するとかしないとか。ちなみにエドは両親にこっぴどく叱られて連れ戻され、王立高等院の入学試験を受けさせられることになったらしい。
しばらくはみんな忙しい。
書庫の整理は、またしばらくはジール1人で続けることになりそうだった。
「ほら、リヴァ。城に送ってくれって言ってるだろ。もうお前の活躍は十分に見たからさ。」
「う、うん。」
リヴァはいそいそと水のトンネルの準備をする。
ジールはもう一欠伸して、水たまりに飛び込んだ。
fin.
第3章に続くのですが、しばらくお待ち下さい。




