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ワルツを踊るすみれ色の少女が、ちょっと手を震わせた。
ステップが遅れる。
「どうしました?」
ディーンはそう少女に声を掛けた。
少女はどこか深刻そうな、青ざめた表情をしていた。
足が止まる。
「どうしたのです?」
すると、少女はディーンを突き放すように離れた。
「ごめん、なさい。」
「え?」
少女はドレスを翻し、駆け出した。
呆然とした人混みをかき分け、ホールを出ていく。
「ちょっと待って!」
ディーンは少女の後を追った。
廊下に出る。
しかし少女は、ヒールを履いているとは思えない速さで廊下を走り抜けて行った。
追いつけないまま外が近づく。
庭先から、天馬の馬車が一台、空に舞い上がろうとしている光景が見えた。
少女は入り口の階段を駆け下りていく。その全身が、一瞬階下に消えた。
ディーンが階段上に着いたときには、そこにはガラスの靴すら残っていなかった。
宙に浮いた馬車を見上げる。ディーンの目を盗むように、小さな水たまりが地面に吸い込まれるようにして消えた。




