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どうやら舞踏会は、まず娘たちが一人ずつ王様にごあいさつし、それが終わってから立食もありのダンスパーティーになるとのことだった。
「一体、全員が挨拶するのに何時間かかるのかしら。」
学長が呆れ声で言うのが聞こえた。エレナはその意見にだけは同意だった。
玉座の前を先頭に、長い列ができる。学長一家はなるべく前に行こうと躍起になっていたが、結局真ん中よりちょっと前に行けただけにとどまった。エレナは何とか学長一家のすぐ後ろに付けた。あなた、父親ならもっとがんばりなさいよ。学長が一人ぶつくさと文句を言っているのがよく聞こえた。
少しずつ列が前に進み始める。一人のアピール時間は数秒もないらしいと周囲から情報が入って来た。学長夫妻はそわそわと娘に何かを仕込み始めた。挨拶の仕方とか、声のトーンとかを指導しているらしい。
そのおたふく顔じゃ無理よ。エレナは心の中で毒づいた。
長かった列だが、段々先頭が近づいてきた。
学長一家もさすがに黙り始めた。さすがに緊張しているのか、学長はそわそわと手に持った扇子を弄っている。
ふん。みっともない。
エレナは鼻で笑って、王様の方を見やった。
ディーン王は玉座の背にもたれて、何とも気怠そうに挨拶を受けていた。当然だろう。今までに何百人が挨拶して、さらに後ろにはそれ以上が控えているのだ。
エレナは、自分の番が回ってきたら、格闘技の型でもやって見せてやろうかと思ったが、やめておくことにした。そんなことをしたら両親揃って卒倒するだろうから。普通に礼だけして横に捌けよう。そして、そんな感じのお辞儀を延々見せられる王様に、ちょっと同情した。
同時に、エドと一緒に閉じ込めてきた王の弟君を思い出す。彼にはちょっと悪いことをした。少し生意気そうな男の子だったが、きっと弟って本当はあんな感じなのだろう。
そして本物の弟、もとい今は妹かもしれないエドには、本当に悪いことをしたと思う。あんなに舞踏会を楽しみにしていたのに。謝ったら許してもらえるかな。少し不安になる。
一方で心配になった。
エドの奴、弟君を襲ってなきゃいいけど。二人は同い年くらいに見えたけれど、エドの方が腕っ節は強そうだ。
と、急に前を行く学長一家の足が止まった。
エレナは気付くのが遅れ、学長のふわふわのバディーにぶつかってしまった。弾力で跳ね返され、顔を上げる。「ちょっと、気をつけて下さいな。」振り返った学長に睨まれ、エレナは顔を背け気味に謝った。
母親が横からエレナの腕を大きく引いた。学長に見つかったことに動揺していたエレナは、無視し損なって母親を振り返った。母親は驚いた表情で前方を指さした。エレナもそちらを見た。
ディーン王が立ち上がっていた。
王は玉座を離れ、段を下り、列の先頭の方に歩み寄っていく。
誰か王の目に留まったのだろうか。さあっと人垣が割れ、エレナの目にも王の全身が映った。
王が手を差し伸べる先に、一人の少女がいた。
ずいぶん小さい体を、ごく薄いすみれ色のドレスで包んでいる。服より少し濃い色の髪はウェーブを描いて肩に掛かっていた。二の腕まで隠れる長い手袋をしていたが、ドレスの袖と手袋の間に覗く肌は透き通るように白かった。
少女は少し戸惑うように王の手を取った。
ドレスの裾を取り、王に礼をする。ちょっと首をかしげた瞬間、長い睫に覆われた、大きな瞳が見えた。
まるでスミレの花の精が立っているかのようだった。
王は少女の手の甲にキスを返した。
一瞬のざわめきがホールを覆った。




