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白の王弟と水の姫君2  作者: ユイカ
1.訪問者
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 二人目は書庫の前だった。

 白髪交じりの紫髪の老婦人が、書庫の前でジールの帰りを待ち構えていた。

 本当は無視したかったのだが、一人目の勢いに飲まれて疲れていたせいか、うっかり捕まってしまった。そうしたら、このおばさんがまたよくしゃべった。

「私、ディーン王にお見合いを勧めに参ったのですの。」

「はあ?」

 ジールはおばさんの言葉の意味を飲み込めず、思いっきり怪訝な声でそう問い返した。

「お見合いですわ。お・見・合・い。

 ディーン王も今年で御年22歳。そろそろ身を固めてもよろしい年齢でいらっしゃいます。むしろ今まで浮いた話がなかったのが不思議なくらいです。きっと御幼少時より政務に励んでこられ、妙齢の女性と出会う機会がなかったのでございましょう。

 失礼ですが、聞き及ぶところに寄りますと、ディーン王は弟であるあなた様を溺愛していらっしゃるとか。それもきっと、これまで他に愛すべき相手に出会えなかったからなのでしょう。

 そこで差し出がましいとは思いましたが私、ディーン王に相応しいレディーを集めて、パーティーを開きたいと存じておりますの。愛すべき伴侶に出会えば、弟君への執着は薄れましょうし、何より、王様が守るべき家族を多く持つことは、この国の未来にとってとても良い影響を与えると、私、信じておりますの。

 そこで弟君には、ぜひ私の意見に賛同して頂きたくてお話に来たんですのよ。」

「・・・はあ。」

 そうですか、としか返事できない。

 夫人は言いたいだけ言って、名乗りもせずに満足して帰って行った。

 ジールは書庫の扉の前に取り残され、ただ呆然と立ち尽くした。



「お疲れ様。」

 書庫に入ると、姿無き少女の声が言う。

 ジールは書庫中央に設置された椅子に座って、テーブルに突っ伏した。

「何だったんだ。」

 少女は声を掛けるタイミングを窺っていただけで、きっと全てのあらましを見ていたに違いない。

 声だけでジールに語りかけるこの少女こそ、世界の記憶者と呼ばれる『水の姫君』だ。水底の神殿に本体を置く彼女は、水を通して世界のほぼ全ての事情を垣間見る能力を持っている。もちろん彼女の目は二つしかないから、一時に見られる映像には限りがある。しかし、ジールが突然の訪問者にたじたじになっている姿など、嬉々として鑑賞していたに違いない。形こそ労いの言葉も、からかっているようにしか聞こえなかった。

「何って、書庫に入りたい王立高等院からの使者と、ディーンにお見合いをさせたいお見合いおばさんでしょ?」

 少女は一言でまとめた。

「そんなことは分かってる。」

「じゃあ、何をそんなに悩んでるのよ。」

「うー・・・。」

 ジールは突っ伏したまま唸った。

「書庫を独占してるのは悪いと思ってる。ここの書物は、俺が私物化していい代物じゃない。」

「だったら開放してあげたら?」

「・・・そしたら、俺はどこへ行けばいい?」

 ああそういうこと、と少女は息を吐いた。

「せっかく、うるさいお兄ちゃんからの逃げ場所を見つけたんですものね。」

 うー、とジールはまた唸った。

「独りで悩まずに、レイタ辺りに相談したらいいじゃない。」

「レイタなら、さっさと開放しろって言うはずだ。その方が国のためなんだから。」

「じゃあ、直接ディーンに聞けば?書庫を気に入ってることも話して。」

「そしたら兄貴は、俺の好きにしろって言うに決まってる。」

「そうかしら。」

「そういう奴なんだ。」

 ジールは深くため息を吐いた。

 弟のことに関してはべったべたに甘い兄は、兄の元から離れたいという願い以外なら、弟の頼みは大概のことなら聞き入れてくれる。もう15歳にもなる弟を束縛し甘やかす兄などクソくらえだが、その兄から逃れる場所を確保するために、その兄に判断を仰ぐなど、矛盾以外のなにものでもなかった。

「好きにしろって言われたら、俺はきっとほっとするんだ。

 俺はここを手放したくない。

 でも、それじゃ何も変わらない。」

 今度は少女がため息を吐く。吐いた息の深さを競い合っているみたいだった。

「じゃあ、お見合いおばさんを応援すれば?おばさんの言ったとおり、いい女性に巡り会えば、お兄さんはあなたのことを構うのをやめるんじゃない?」

 はあ。と今度はジール。

「それはそれで複雑な気持ちになってるから悩んでるんじゃないか。

 兄貴がいなかったら、俺は何の取り柄もないただのガキだ。」

 少女はフンと鼻を鳴らした。

「それを分かってるだけマシね。

 けど、女々しい。」

「はあ・・・。

 どうしよう、リヴァ。」

「知らない。」

 少女、リヴァはそう言って気配を消した。

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