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白の王弟と水の姫君2  作者: ユイカ
4.舞踏会
18/26

18

 階段の上には、深紅のドレスを着たリーナが立っていた。

「お姉様!」

 深紅のリーナは、水色のリーナをそう呼んだ。

「・・・え?お姉様?」

 ジールは2人のリーナを見比べた。

 水色と深紅の2人は、まさにうり二つだった。しかし、よく見比べれば細部が少し違うような気がする。雰囲気はずいぶん違う。

 深紅のリーナが階段を駆け下りて来る。これでもかという内股や乙女っぽい身のこなしは、いつものリーナのものだった。

 水色のリーナは唇を噛みしめている。深紅のリーナは水色に詰め寄った。

「お姉様、何でここにいるんですの?それに、その格好・・・。」

「ゴメン!」

 水色のリーナはそう言い放ち、不意に振り返ってジールを突き飛ばした。ジールはテーブルに背中をぶつけ、彼女自身もテーブルに突進する。何をする気かと思ったら、水色のリーナはすぐにターンした。深紅のリーナの横をすり抜け、書庫の入り口の階段を駆け上がっていった。

 不意打ちのうえ、おそらくとばっちりで突き飛ばされたジールは、呆気にとられてその様子を見ていた。

「ごめんなさい!でも、こうするしかないの!」

「お姉様、何を!」

「本当に、ごめん!!」

 下手な小芝居のようなやり取りの後、書庫の扉が閉まる。

 それから、ガチャリという音がした。

 ガチャリ???

 ジールはテーブルの上を確認した。そこに置いてあったはずの書庫の鍵がない。

「ごめんなさい!舞踏会が終わったら開けに来るから!」

「お姉様!!」

 ヒールの音が遠ざかっていく。

 すっかり音が聞こえなくなってから、ジールはようやく我に返った。

「お、おい・・・!」

 入り口の階段を駆け上がる。扉にはしっかり鍵がかかっていた。押しても、体当たりしても、びくともしない。

「嘘だろ・・・。」

「ちょっと退いていただけます?」

 深紅のリーナが階段を上がってくる。

 リーナはヒールを脱ぎ捨て、ドレスのスカートをたくし上げた。ふうっと息をためる。「ああああー。」という雄叫びを上げ始めた。

 次の瞬間、渾身の回し蹴りが扉にめり込んだ。

 しかしそれだけだった。木製の部分に傷は付いたが、金属製の鍵や番部分は軋みすらしなかった。

「そんな!私の蹴りでも開かないなんて!」

「・・・・。

 いや、呼べば誰か気付いてくれるかも。」

 2人揃って扉を叩く。喉を枯らすまで叫んで助けを呼んだが、書庫があるのは普段からあまり人の寄りつかない城の片隅だ。しかも今日は、みんな舞踏会のことで頭がいっぱいなのだ。ちなみに書庫から会場の白のホールまでは、直線距離でも数百メートルはある。助けが来るのは絶望的だった。

「舞踏会・・・、夢だったのに・・・。」

 深紅のリーナが崩れ落ちる。

 ジールは声を掛けることができず、階段を下りた。小声でリヴァを呼ぶ。反応はない。ちっと舌打ちする。

「答えろよ、リヴァ。舞踏会出てもいいから。」

 そう言い添えたが、同じだった。

 ジールは途方に暮れて、空を見上げた。あっと息を漏らす。

「そうか。天窓。」

 なぜ真っ先に気付かなかったのか。なんて後悔はどうでもいい。

 ジールは翼を出し、飛び上がった。

 天窓は塔の天井に一個だけ開いている。四角い窓枠に格子が4つ割になっていて、それぞれにガラスがはめ込まれていた。窓から見える空は少しずつ暗み始めている。白の国の太陽である光球たちの光量が落ちてきているのだ。舞踏会の開始時刻が近づいている。

 天窓は昔は開いたらしく、蝶つがいが付いていた。しかし、ずいぶん前から開かずの窓になっているらしい。今まで何度か開けようとして失敗した経験があったから、ジールは覚悟を決めた。窓ガラスに手を触れ、感触を確かめる。

 リーナも翼を出して飛んでくる。

 ジールは彼女に退いているよう言って、一度階下に戻った。椅子を一つ運んでくる。

 椅子の背を持ち、ガラスの一枚の横に立つ。息を整える。ジールは椅子を振り上げた。

 木製の椅子を窓ガラスにぶつける。

 その瞬間、ガシャンとか、パリンとかいう音がするはずだった。

 ジールの腕に痺れが走った。

 ガンっという音と共に砕けたのはガラスではなく、椅子の方だった。もげた椅子の脚が塔の底に落下していく。

 ジールはまだ感覚の薄い腕を庇いながらも、椅子の残骸を取り落とさないように抱えた。窓ガラスを確認し、目を疑う。肉眼にも、指で触れた感触上も、傷一つ付いていなかった。

「嘘だろ?」

 リーナは落胆して降りていく。

 ジールは最後の手段に拳を握りしめた。こぽりと水滴がわき出す。が、やはり覚悟が付かず、降下した。

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