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ジールは彼女を中に通した。
リーナは清楚な水色のドレスを着ていた。舞踏会用の勝負服だからか、いつもとずいぶん印象が違う。セットされた髪型も、メイクも、今夜のために気合いが入っていた。
ジールは夕食のプレートと鍵をテーブルに置き、彼女を振り返った。
「そんな恰好で、勝負前に何の用だよ。」
リーナは、いつものブリッ子な様子とは正反対の、凛とした表情で立っていた。
「レントは王立高等院の学長夫妻に嵌められたって本当ですか?」
リーナが「レントさん」ではなく「レント」と呼び捨てにしたことなど、ジールは聞き流していた。
目を見開く。
「どこでそんなこと聞いたんだ?」
問い詰める。
知り合いから小耳に挟んだんです。と、リーナはその点についてだけ言葉を濁して続けた。
「王立高等院では、ずいぶん前から派閥争いがあって、亡くなったハジ教授は学長夫妻と対立してたそうです。
レントはハジ教授の秘蔵っ子というか、一番弟子みたいな感じで、とても信頼されていたんです。そのレントが王宮のジール様を訪ねていたのは、ジール様を通じて、ハジ教授と王様との間でやり取りをするためだったって。
でも、そのハジ教授が殺されて。レントが手配されましたけど、レントの仕業のわけないんです。きっと、学長夫妻が裏で糸を引いてるに決まってます。
きっとレントは、亡くなる前のハジ教授から学長夫妻の不正の証拠かなにかを託されていて、今も学長夫妻雇った殺し屋とかに追われているから姿を見せられないんです。」
ジールは半分耳を疑いながらその話を聞いていた。
確かにあり得ない話ではない。そうであって欲しくはある。
しかし。
ジールは唇に手を当てた。
ディーンから聞いたハジ教授死亡時の状況が本当なら、レントが第一の容疑者であることは疑いない。ハジ教授が死亡したと思われる時刻に一緒に室内にいたのは、レントだけだったのだから。廊下も窓の外も警備の者が見張っていて、侵入者はいないと証言している。
たとえハジ教授殺害が第三者の仕業だったとしても、レントが今まで姿を見せないのはやはりおかしい。ハジ教授から何か大事なものを預かって、殺し屋とやらに追われているのなら、王に助けを求めるのが最も安全な道のはずだ。彼は、ディーン王が味方であると知っているのだから。
それに。
ジールは顔を上げ、リーナを見た。
何で彼女がそんなに王立高等院内の事情に詳しいのか。彼女が学長夫妻の娘だからか。
しかし、彼女の話しぶりはレントを庇っているように聞こえた。もちろん、書庫の中で同じ時を過ごした仲として、ジールにもレントを庇いたい気持ちはあるが、彼女の様子はそれとは違う気がした。まるで、書庫で会う前からレントのことを知っていたかのような。
それに。
気のせいだろうか。
しゃべり方も、立ち振る舞いも、目の前のリーナはいつものリーナとは違うように感じる。顔立ちは同じ気がするが、正直なところ、化粧のせいでよく分からない。
ジールは少し悩んで、口元の手を下ろした。
「お前、何者だ?」
リーナは息をのんで一歩後ずさる
それとほぼ同時に、書庫の扉が大きく開いた。




