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城内を歩いて書庫に戻る道すがら、ジールは進路を変えて厨房へ向かった。
厨房のあるエリアは城の一番裏手にある。普段なら、王の弟が行く場所ではないと立ち入りを咎められる場所だ。しかし、今日は誰も彼も舞踏会の準備にかかりきりで、それどころではないと見える。場違いな少年のことなど目にもとめない。
ジールは誰にも咎められることなく、城の裏方まで入り込んでいった。
厨房をのぞき込む。中では当然のように、スタッフが今夜のパーティーの準備に追われていた。とても入り込める雰囲気ではない。
ジールは調理師やメイドたちの中心で指示を飛ばしている料理長を見つけ出し、入り口から合図を送った。
料理長はジールが物心つく前から厨房を取り仕切っている。城の職員の中でもジールが心許せる相手の1人だった。
気付いた料理長は、慌てた様子でジールの元にやって来た。すでに用意してあったらしいカートを持ってくるよう、部下に指示する。書庫まで送り届けさせると言うのを丁重に断り、ジールはカート上のプレートを受け取って厨房を後にした。
それはジールの夕食だった。舞踏会は、国中を照らす光球が光量を落とし始める頃から始まる。夜の帷が下りる頃には、ドレスアップした娘たちとその親たちが城に集まってくる。
宴は夜半まで続く予定だ。その間、書庫に引きこもった弟君のことなど誰も顧みないだろうから、あらかじめ夕食を頼んでおいたのだ。今から舞踏会が終わって城が寝静まるまで、ジールは書庫に籠もっているつもりだった。
書庫に着く。プレートを片手に持たせておいて、鍵を取り出す。
普段は書庫に鍵などしないのだが、これも今日は城への人の出入りが激しいから念のためだ。
扉を開けて中に入ろうとすると、「あの。」と背後から声がかかった。
リーナだった。




