15
ジールはその日、昼過ぎになってディーンの部屋に呼ばれた。
城内を歩いて行く。
人払いのされた階段を上ると、その先にある細長い廊下は薄暗い。廊下の壁面には歴代白の王の肖像画が並ぶ。いつにもましていい知れない威圧感を放っていた。
ジールは一枚目の絵の前で足を止めた。
初代白の王・レフロの肖像画だ。
レフロは最初の4人の天使の1人であり、全ての白の天使の祖であり、海と空、水と風を1人で統べる四属の王だった。銀白のレフロと呼ばれた彼は、純白の銀の髪に銀の瞳を持ち、銀糸のあしらわれた白い装束に身を包んでいた。白の王に相応しい、凛々しい姿で、こちらを見ている。
ジールは廊下の先にある扉を見やった。
その扉の向こうは王の執務室だ。
中に入る。歴代王も使ったであろう部屋は、今やカワイイ系のぬいぐるみであふれていた。もはやため息すら起きない。ジールは床に転がったひよこちゃんを押し退けて部屋に分け入ると、隣室に続く扉をノックした。
返事がある。
扉を開けると、中に白い装束に身を包んだ王が立っていた。
ジールは一瞬、銀白の王と見紛った。
黒髪に黒い瞳。それでかろうじて兄だと分かる。
ディーンは肩に垂らした黒髪を揺らし、ジールに微笑んだ。
そして。
突進してきた。
「どーしよー、ジール!!」
「知るか。」
ジールはディーンのタックルを寸でで躱し、部屋の奥に逃げた。
その部屋はディーンの寝室だ。なぜだか執務室と違って、年相応の落ち着いたインテリアで揃えられている。
ベッドの上に転がったヒツジさん以外は。
ジールは方向を変えて弟の方に向かってくるディーンにヒツジさんを投げつけた。
「いい加減、覚悟決めろよ。舞踏会は今晩なんだから。」
「だって・・・・。」
「だってじゃないだろ。」
ディーンはヒツジさんを潰れるほどに抱きしめ、ベッドに腰を下ろした。
せっかく、ちょっとだけ格好良く見えたのに。ジールはそう言い損なって、眉根を寄せた。
「用って何だよ。」
「ジールはどこにいるの?」
「舞踏会の間?書庫に隠れてるつもりだけど。」
「・・・ずるい。」
「ずるくない。お前のための舞踏会だろ。」
「むー。」
ジールはため息を吐いた。
ディーンの気持ちは分からないでもない。でも、きっと国中がこの日のために準備してきたのだ。城内の盛り上がりようも、今朝からフライング気味に最高潮に達している。今さらどうにもならない。
「それ、今日の衣装だろ。皺になるからそんなとこに座るなよ。」
ジールはディーンを立たせ、ヒツジさんを取り上げた。
兄の顔を見上げる。
「口を突き出すな。堂々としてろよ。
王様業はいつもやってることだろ?」
ディーンの顔がぎこちないながらも普通に戻る。
ジールは兄の胸を拳で小突いた。
そして無言で部屋を出た。




