真相
時計の針は、もう午後十時を回っていた。夜の学校は薄暗く不気味で、『闇の使者』にはお似合いの様な場所だ。曇りが掛った空は、真丸い月を時折チラつかせる。今から起きる出来事の不吉さを、預言している様だ。
校門前へと到着をすると、既に貴志の姿が在った。集団で到着をすると、貴志はその面子に驚いてしまう。
「あっれぇ~?なして桜さんまでぇ~?」
メンバーと聞いていた貴志は、桜まで一緒に居る事に驚くと、祐一郎は美雪を気にしながら、慌てて言った。
「アレンは正真正銘、我等のメンバーだ。アリス、ギルド、マロンにも、その正体を既に明かした。」
祐一郎は貴志を軽く睨み付けると、空気を読めと目で訴える。しかし残念ながら、祐一郎の訴えは届かず、貴志は的外れな事を言い出してしまう。
「あれれぇ?まっつぁんまた中二病再発ぅ~?」
「なっ!」
祐一郎は貴志の腕を掴むと、校門から少し離れ場所に引っ張り連れて行き、コソコソと小声で話す。
「今は皆、エージェントモードって事にしてんだよ!この馬鹿!合わせろよっ!」
「なしてぇ~?」
「高野さんが犯人だって分かったんだけど、高野さんが本気で信じてるなら、下手な事して何かされても危ないからだよ!」
「へぇ~犯人高野さんだったんだぁ~。て~かぁ~、だからって、なして合わせるの~?」
相変わらず呑気な口調でどうでもよさそうに言う貴志に、祐一郎は流石にムカつき、貴志の頭を軽く殴った。
「何すんの~?」
痛そうに頭を摩っていると、二人の元に雅人がやって来る。雅人も美雪に聞かれないよう、声を小さくして話した。
「何遊んでんの?何か屋上に行くとか言ってんだけどさ。」
「屋上?」
祐一郎はチラリと美雪の方を見ると、美雪は校門を開け、校内へと桜と柚木に入るように言っている。
「どうやって開けたんだ?鍵掛かってるのに・・・。」
「つーより、これからどうするワケ?祐一郎さん、何か考えてんの?」
「え?あぁ・・・。」
祐一郎は少しその場で考え込むと、パンッと手を叩く。
「取りあえず、高野さんに合わせるんだ。中二病には、中二病で対抗するのが一番!って事で、貴志!お前もちゃんと合わせろよ!」
そう言うと、貴志を睨み付ける。
「オッケェーオッケェー。」
ヘラヘラとした顔で貴志が返事をすると、本当に大丈夫か?と祐一郎は不安になってしまう。
「おーい!行くニャりよー!」
校門から柚木に呼ばれ、三人も校内へと向かった。
美雪に誘導され、外の非常階段を上がると、ドアを持っていた鍵で開け学校内へと入る。そこから屋上に続く階段を上がると、屋上のドアの鍵も開けた。
「マロン、その鍵はどうしたんだ?」
不思議に思い、祐一郎が聞くと、美雪は嬉しそうな顔をして答えて来た。
「これは七人目からの贈り物です。私に課せられた任務を、今遂行します。」
そう言うと、屋上のドアを開ける。
屋上に入った瞬間、全員地面に描かれた大きな円陣を目にし、驚いてしまう。
「なっ!これは・・・。」
「ニャんと馬鹿デカイ円陣ニャー!」
屋上の地面一面に、いつもPC画面に表示させている、大きな円陣が赤い色で描かれている。雅人はその場にしゃがみ、円陣の線を指でなぞると、指に微かに付いた赤い液体の、匂いを嗅いだ。すぐにその匂いで気付いた雅人は、祐一郎の元にそっと近づき、小声で言う。
「これペンキだけど、動物か何かの血も混ざってる。ちょっと流石に、マジでヤバいかもしれないし。」
「え?」
祐一郎は、血と言う言葉に反応してしまうと、顔が無意識に青褪めてしまう。ゴクリと生唾を飲み込むと、恐る恐る美雪の方を見た。
美雪は奥へと進み、円陣内を通ると、屋上の出入り口とは反対側の、円陣の外まで歩いて行く。屋上の端の所で足を止めると、クルリと体を、祐一郎達の方へと向けた。
「さぁ、今宵全てのエージェントが結集しました。今こそ私達の力の覚醒を行いましょう!さぁ、一人目のエージェントから順に位置へ。」
両手を広げ、高らかに声を上げて言うと、祐一郎達に位置に着くよう指で指し示す。
「ゆっゆっゆ!祐一郎君!どうしよう!私どうすればいいの?」
ガタガタと体を震わせながら、桜は祐一郎にしがみ付いた。流石の祐一郎も、どうしたらいいのか分からず戸惑っていると、意外な人物、柚木が助け舟を出す。
「しかしニャがらマロンちゃん!七人目がいニャいのですよー!こりでは力の覚醒は無理ニャのだー!それに今日は、六の付く日じゃニャいしー!」
しかし美雪は、ニッコリと笑顔を見せる。
「安心して下さい、アリスさん。七人目なら、ちゃんとここに居ますよ。それに、七人揃えば関係有りません。」
「それはどう言う意味です?この場には、六人しか揃っては居ませんよ?」
雅人も柚木に乗っかり言うと、美雪はクスリと笑った。
「七人目なら、私の中に。」
「マロンの中に?」
雅人は厳しい目付きに変わる。
やはり美雪が犯人だったのか?と思うと同時に、腑に落ちない点が、まだ心のどこかに感じた。
「祐一郎さん、一度マロンの言う通り、やってみよう。」
雅人は何かを確認しようと、祐一郎に提案をすると、どうしたらいいのか分からなかった祐一郎は、取りあえずはそうするしか無さそうに思え、了承する。
「よしっ!いいだろう!全員配置に着け!覚醒魔術を行う!」
大声で叫ぶと、雅人に連れられ柚木も配置に着いた。貴志も頭を掻きながら、配置に着くと、祐一郎の後ろで震えている桜にも、配置に着く様に言う。
「でっでっでっでっでもっ!私!」
「桜さん、取りあえず立ってるだけでいいから。その後は俺達の真似して。アレン演じて!」
祐一郎にそう言われ、桜はゆっくり頷き、恐る恐る配置に着いく。
祐一郎、貴志、美雪、柚木、雅人、桜の位置で円陣の外に円になり、円陣を囲む様に立つと、美雪は大きく腕を上げ、手を満月に向かい翳した。大きく深呼吸をし、ゆっくりと腕を下ろすと、今度は円陣の前に手を翳す。他の五人も、美雪と同じ様に円陣に向け手を翳した。
美雪はゆっくりと目を閉じ、静かな声で言い始める。
「今ここに、選ばれし七人の使者が集いました。これより力の覚醒魔術を行います。第一エージェントより順に、その名を示しなさい。」
美雪はゆっくりと目を開けると、祐一郎の顔を見つめた。祐一郎は軽く深呼吸をすると、祐一郎から順に、エージェント名を上げていく。
「第一エージェント、シャノン。」
「第二エージェントぉ~。ジェイド~。」
「第三エージェント・・・マロン。」
「第四エージェント、アリスちゃん。」
「第五エージェント、ギルド!」
「第六エージェント、アレンだ。」
最後に桜が言い終えると、美雪は両手を大の字に広げ、瞳を閉じ再び声を発した。
「そして・・・第七エージェント。我等が名と魂の元に命ずる。七人の悪魔よ、我等の鎖されし力を解き放て。闇より扉を開き、今此処に目覚めよ。」
生温かい風が吹き付けると、雲は吹き飛ばされ、黄色く光る満月がハッキリと顔を見せた。そして月の光が丁度円陣の中心を照らす。
美雪はゆっくりと腕を下ろすと、閉ざした瞳を開いた。すると何かが憑依でもしたかの様に、人が変わってしまう。
「今我等の封印は解き放たれた。力を得た我等には、如何なる鉄槌も弾き飛ばす。何億もの矢を持っても貫けまい。鋼の肉体を手に入れたのだ。」
薄気味悪い笑みを浮かべ、それまでの雰囲気とは全く違う喋り方に、一同はゾッとしてしまう。
「さぁ!今こそ我等の力を存分に発揮する時!敵組織への攻撃を!」
「待て。」途端に雅人が遮る。
声を張り上げ、興奮気味に言っていた美雪に、雅人は眼鏡を持ち上げながら、ゆっくりと歩み寄った。
「なっ!雅人!・・・いやっギルド!迂闊に近づくな!」
慌てて祐一郎も掛けよると、雅人は余裕の表情を浮かべ、祐一郎に向け手を軽く翳した。
「マロン、一つ確認しておきたい事があります。七人目の名を口にしていませんが?それでは魔術は成立しませんよ。」
雅人の言葉を聞き、そう言えばそうだと祐一郎も気付くと、雅人に合わせる様に言った。
「そうだ!全てのエージェントの名を示さなければ、術は完成されない!」
「それならば問題無い。我が心の内で示した。」
余裕な態度で美雪が答えるも、雅人は更に美雪に突っ込む。
「それでは問いますが、貴女は今七人目か、マロンかどちらですか?」
「我は七人目にして三人目のエージェント。」
「では七人目、貴女の名を教えて下さい。」
「我は七人目にして三人目。それ故名はマロンのみ。」
美雪の言葉を聞いた瞬間、雅人はニヤリと口元を緩ませた。
「貴女は七人目では無い。よって術は完成されていません。」
「ニャニャー?どう言う事ー?」
不思議そうに柚木が首を傾げていると、桜もハッと気が付いた。
「そっか!マロン、貴様は偽物の七人目だ!七人目の名を知る者は、私とシャノン、そしてギルドとアリスのみだ。貴様とジェイドは知らない筈だ。」
「ニャる程ー!そう言う事ニャのか!ニャらばこの魔術は未完成ニャのだっ!」
柚木もようやく気付き、納得をする。しかし、美雪は怯む様子は無い。
「我は七人目。我の力に寄り三浦瞳に死を招き、林真理恵に不幸を招いた。全ては我の手に寄り行われた事。今も尚三浦瞳の死は、この世に謎めきさ迷っている。我を捕える事等、如何なる者も叶わない。」
「我のっ手ってぇ~事はぁ~。やっぱりマロンたんが犯人だったってぇ~事じゃあ~ん!」
嬉しそうに貴志が言うと、祐一郎は大声で叫んだ。
「違う!高野さんは自分がやったって思い込んでるだけだ!三浦瞳を殺した犯人は捕まってる!高野さんも犯人じゃないって事だよ!桜さんのメールの事だって知らないっ!」
「そう言う事。三浦瞳の犯人が捕まったって事も、七人目の名前も知らないって事は、犯人じゃないし。」
続いて雅人も言うと、柚木はポンッと手を叩いた。
「ニャる程ー!でもでもー、ちょっと困り者ですニャー!完全にあちら側へ行っちゃってるよー。」
気付くと美雪は、屋上の縁へと立ち、両手を大きく広げていた。
「我が七人目!我の力を見せてやろう!我の肉体は、如何なる者も傷付ける事が出来ない!」
今にも風に煽られ、屋上から落ちてしまいそうな、ギリギリの所に立つ美雪に、一同は慌てて近くに掛けよる。これには流石の貴志も焦り、慌てて美雪に訴えた。
「流石にそれはヤバいってぇ~!幾らなんでも、大怪我しちゃうっしょお~!」
「高野さん落ち着いて!力なら、別の方法で示せばいいからっ!」
祐一郎も必死に訴えるが、美雪の足元は徐々に後ろへと下がって行く。
「これは別の意味で、柚と違ってヤバいかも。」
雅人も焦りを見せると、自分の思い違いだったのだろうかと、一瞬考えてしまう。
「我の力を持ってすれば、地面等柔らかい!」
美雪の足が、コンクリートから少しはみ出すと、下から大きな風が吹き付けた。風に因り美雪の体が少し揺れると、バランスを崩し落下しそうになる。しかし美雪は気にする事無く、大声で叫んだ。
「今こそ示そう!我の偉大なる力を!」
その直後、再び突風が吹き荒れ、美雪の体は思い切りバランスを崩してしまった。今にも落ちそうになると、急いで雅人と祐一郎が美雪の元へ掛け寄り、手を伸ばした。美雪の体が後ろへと倒れると、二人は美雪の左右の手をそれぞれ掴み、同時に力一杯引き寄せる。そのまま力の反動で、三人は地面へと倒れ込んでしまった。
「祐一郎君!雅人君!大丈夫?」
急いで桜が駆け寄ると、柚木と貴志も三人の元へと駆け寄った。
「間一髪ニャのだー!」「まっつぁ~ん!ギルドっちも高野さんも平気かぁ~?」
尻餅を付いた雅人は、痛そうにお尻を摩ると、隣で美雪に上から乗っかられ、潰されている祐一郎の姿を目にした。
「おいっ!祐一郎さん大丈夫か?」
祐一郎は重そうに、美雪が乗り掛かったまま体を起こすと、美雪の体を大きく揺すった。
「高野さんっ!高野さん大丈夫?」
美雪はゆっくりと体を起こすと、目の前で心配そうな顔をしている祐一郎に、ニッコリと微笑み笑顔を見せる。
「いやいや、失敗してしまったのであります。」
「へ?」
いつもの高野美雪の口調に戻っており、祐一郎の顔は、キョトンとしてしまう。ポリポリと恥ずかしそうに頭を掻く美雪に、雅人はホッと息を吐くと、呆れた表情をさせて言った。
「気が済んだか?高野美雪さん。」
雅人の言葉を聞いた美雪は、少し驚いた表情をさせた。
「あれ?もしかして、立花君にはバレていたでありますか?」
「バレてたっつーより、薄々感づいてた。ずっと引っ掛かるなーって思ってた事有ったし。」
「え?何?どう言う・・・事?」
訳が分からない様子で、祐一郎が戸惑っていると、他の三人も不思議そうに互いに顔を見合わせていた。
雅人は軽く溜息を吐くと、ズレた眼鏡を直しながら話す。
「掲示板に書き込んだ犯人は、美雪さんって事だよ。七人目を装って。さっき七人目の名前が言えなかったから、やっと確信持てたワケ。でも流石に屋上の縁突っ立った時は、少し焦ったし。」
「へ?じゃぁ・・・やっぱり高野さんが、犯人って事か?」
驚いた顔をする祐一郎に、雅人は呆れながらに説明をする。
「掲示板のはね。エージェント名が無かったじゃん?あれは名前が分からなかったから、空欄だったワケ。適当に書いて、名前知ってる奴に見られたら、嘘だってバレると思っただろうからさ。」
「ニャる程っ!あの書き込みはマロンちゃんの自演って事ニャりか!」
「え?え?そうなの?じゃぁ・・・私のメールとは・・・。」
「関係無いって事なワケ。」
雅人がハッキリと言うと、美雪は小っ恥ずかしそうに、エヘヘと笑う。
「ってかぁ~。何で高野さん、んな事したのぉ~?」
当然の質問を貴志がすると、美雪の顔は真っ赤に染まってしまう。
「高野さん?」
不思議そうに祐一郎が首を傾げると、美雪は目の前に座る祐一郎に向かい掌を合わせ、そのまま下へと頭事と下ろした。
「ごめんなさいっ!松田君!これも全部、大佐の為にした事であります!大佐の願いを叶えようとここまでしたけど、やはり無駄死にで終わってしまったのでありますよ!」
「え・・・?俺の願い?」
美雪はゆっくりと顔を上げると、ションボリとした顔で頷き、説明をした。
「松田君と一年の時、同じクラスになって・・・大佐はいつも、楽しそうにエージェントの話をしていたのであります。私・・・その時人見知り、今以上に激しかったから。私もエージェント仲間にしてって、言い出せなくって・・・。それで何とか頑張って、川島君に、サイトを教えて貰ったのでありますよ。」
「貴志に?」
祐一郎はチラリと貴志の方を見ると、貴志は困った顔で苦笑いをしていた。
「無事エージェント仲間になったのはいいけど、チャットで話す事しか出来なくて・・・。だからせめて、松田君の言う通りの事を起こそうと、奮闘したのであります。しかしながら、いつまで経っても召喚魔術は使えず・・・己の力不足に、故郷アルプスを思い嘆くしかなかったのでありますよ。」
「故郷アルプス?」
「祐一郎さん突っ込むとこ違うし。」
雅人は白けた顔で祐一郎に突っ込むと、美雪の変わりに続きを話した。
「そんな時に、三浦瞳の事件が起きたってワケ。美雪さんからしたら、最高の事件なワケだし。やたらと祐一郎さんが美雪さんと会ってたのも、そのせいでしょ?」
美雪は小さく頷くと、涙ながらに話しの続きをした。
「ようやく私の力が発揮出来る時が来たって思って、浮かれてしまったのであります。しかしながら、松田君がその気を無くし掛けてしまってたから、大佐の戦力を復活させようと、周りをうろついていたのでありますよ。」
「なっ!じゃあ、俺の中二病を復活させようと思って、色々と言っていたのか?」
美雪はまた小さく頷いた。
「ニャる程ニャる程~。って事はー。マロンちゃんは全部シャノン君の為に、色々と動いていたニャりねー!このデッカイ円陣を描いたのもー学校の鍵を盗んだのもっ!」
パンッと手を叩きながら柚木が言うと、桜は「えっと・・・。」と少し考え、柚木同様パンッと手を叩いた。
「ああっ!美雪ちゃん、祐一郎君の事が好きなのね!だからそんなにまでして、頑張ったのね!」
嬉しそうに桜が言うと、美雪の顔は真っ赤に茹で上がってしまう。
「えぇ~?そうなのぉ~?高野さん、まっつぁん狙いだったのぉ~?」
残念そうな顔をして貴志が言うと、祐一郎の顔まで赤くなってしまった。
「ま、そう言うワケ。俺がずっと引っ掛かってたのって、変に常識ある癖に信じてるって事。口では散々言ってるけど、結局林真理恵のお見舞いとかに行くとかって、やっぱ矛盾してるし。それって結局、好きな奴の言う事だから信じて、叶えてやりたいって思ってたってだけの事じゃねー?」
「少佐っ!これ以上の恥は耐えかねないのでありますっ!どうかこの辺で処罰は!」
美雪は顔を両手で覆い、耳まで真っ赤にさせて叫んだ。
「でも・・・だからって、学校の屋上にこんな大きな円陣描いて、血まで混ぜて・・・。その上鍵も盗むなんて・・・。それに危うく落ちて大怪我だってするとこだったんだよ!」
祐一郎が困りながらに言うと、美雪はパッと手を顔から退け、ニッコリと笑顔で説明をして来た。
「それなら大丈夫でありますよ。鍵はちゃんと先生にお願いして借りた物だし、このペンキは水性なのであります。血は、ステーキの肉汁をギュゥ~って絞って絞って!天気予報では、明後日辺り雨って言ってたし、雨で洗い流されるのでありますよ!一応着地地点には、マットを用意していたのでありますっ!後で片づけなくては!」
「え?先生にお願いしてって・・・。」
「昔の好みで、真理恵先生にお願いしたのであります!流石元上官なだけ有り、わたくしめを信頼して貸出許可を得てくれた事に、感謝でありますぞ!」
そう言うと笑顔でビシッと敬礼をした。
「な・・・何だよ・・・。」
美雪の話を聞き、祐一郎は一気に気が抜けてしまう。
「あら?でもそうなると、私にメールして来た犯人って、誰になるのかしら?全然知らない人?」
ふいに思い出し、桜が言うと、「そうだ!」と祐一郎は慌てて立ち上がった。
「そうだよ!高野さんでもないって事は、誰が?」
「メール?犯人?そう言えば、メールがどうとか言っていたでありますね?わたくしめの所にも、メールが届いたでありますよ?」
首を傾げながら言う美雪に、祐一郎は驚いた顔をしてしまう。
「って、高野さんの所にも?何て?」
「え?何やら真理恵先生の負傷を知らせるメールが、七人目って人から。それで私思い付いて、掲示板に書き込みしたのでありますが・・・。」
「それってー、メアドパソコンのドメインじゃニャかったかニャ?」
興味津津で柚木が尋ねると、美雪は不思議そうな顔をして頷いた。
「ちっと待ってよぉ~!俺っち全然話し見えないんだけどぉ~!」
悲しそうに貴志が嘆くと、雅人はゆっくりと立ち上がり、パンパンッとズボンの砂埃を叩いた。
「ちゃんと見えてるんじゃねー?俺もう一つ、引っ掛かる事が有ったんだよね。」
「もう一つ・・・引っ掛かる事?」
不思議そうに祐一郎が尋ねると、雅人は眼鏡をクイッと指先で持ち上げた。
「そう、基本的な事ってヤツ?『闇の使者』やら『中二病』に囚われて、余計ややこしくして、分からなくなってただけなワケ。本当の犯人がさ。」
そう言うと、鋭い目付きをさせた。
「随分人を振り回してくれたよな。美雪さんが違うってなると、これで犯人は一人しか居ないって事になるし。ね、貴志さん。」
そして貴志を睨み付けると、一同は驚いた顔をして、一斉に貴志の方を見た。
「なっ!貴志だって?何で?」
「貴志君?基本的な事・・・そっか、私のメアド!」
桜も気が付くと、雅人は大きく頷いた。
「そう言う事。最初から桜さんのメアド知ってる奴なら、メアド変えられても、桜さんの方から教えて貰えるワケ。わざわざ調べる何て面倒な事しなくてもさ。」
「ちょっちょ~っち待ってよ!なして俺になるの~?俺別に、まっつぁんの妄想話信じてないんだしさぁ~!」
慌てて貴志が言うと、祐一郎も慌てて言った。
「そうだよ!だって貴志は、お前とネカフェに三時過ぎまで居たんだろ?だったらメール送れないよ!お前から散々数字の出る話し、聞かされたって言ってたよ!」
祐一郎の発言に、雅人は少し驚いた表情をした。
「は?そんな時間まで居なかったし。つか、貴志さん一時過ぎに寝ちゃって、途中で起きて柚達が帰ってすぐに帰ったし。その後最後に俺が帰ったんだけど?」
「え?だって貴志が・・・。」
祐一郎は恐る恐る貴志の方を見ると、貴志はそれまでニコヤカだった顔を、一気に白けた表情へと変えた。
「あ~あぁ~。まっつぁん何余計な事言ってくれちゃってんだろうねぇ~。俺ちゃんと、完璧な言い訳考えてたのにさぁ~。」
「なっ・・・貴志?本当に・・・お前が・・・?」
態度を急変させる貴志に、祐一郎は唖然とすると、余りの驚きからその場に硬直してしまう。
「嘘だろ?おい・・・だってお前、真理恵先生の事だって・・・あんなに心配して・・・。」
声を震わせながら言うと、貴志はかったるそうな態度をして言って来た。
「あぁ~あ。もっと楽しめるかな~って思ったけど、思ってたより退屈だったわ~。そこのギルド君が、予想以上に感が良かったみたいでさぁ~。せっかくいい遊び思い付いたのにさぁ~。」
「な・・・どう言う事だよ?」
困惑をする祐一郎に、雅人は普段より低い声で言った。
「つまりこう言う事。三浦瞳の死を切っ掛けに思い付いたのは、美雪さんだけじゃ無かったって事なワケ。この人の場合は最低な事。」
「最低な・・・。どう言う・・・。」
貴志はニヤリと笑うと、眉間にシワを寄せる祐一郎に、嬉しそうに話した。
「まっつぁんで遊ぶ事だよぉ~。散々まっつぁんの遊びに付き合ってやったんだから、今度は俺が遊ぶ番じゃん。進路も決まったしさぁ~。後は退屈な夏休み過ごすだけだったしさ~。」
「何だよそれ。俺で遊ぶって・・・。お前俺の進路の事心配して、中二病治そうとしたって言ってたじゃんかよ。」
「心配してたよぉ~?一応はね。けどさ~。よくよく考えたら、俺はもう無事決まったんだから、後は関係なくね~?だったら退屈凌ぎに何すっかって考えたら、まっつぁんが慌てる顔見るのが一番面白いかなぁ~ってさぁ~。」
そう言うと、貴志は可笑しそうにケラケラと笑い出す。