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睨み合っていた二人は、お互い桜の存在を思い出すと、「あっ!」と同時に声を上げた。
「そうだ!桜さん待たせたままだった!」
慌てて祐一郎が言うと、雅人も少し焦った表情を浮かべる。
「柚が犯人じゃないって事は、マロンが犯人って事じゃねー?あれから桜さんに、またメールとか来てるワケ?」
「あぁ、また来たって。今度はなんか、林真理恵は取りあえず自分が警告しておいたから、今度はちゃんとお前がやれって、内容のメールが。掲示板にも同じ様な事書いて有ったから、やっぱり掲示板に書き込みしたのは、七人目のバゼルフって奴だよ。」
「そのメール、保存しておいた方がいいよ。林真理恵の犯人と、同一人物って証拠になるかもしれないからさ。林真理恵の事は、ニュースでやってなかったから、間違いなくメンバーの仕業って事になるし。」
「あぁ、そうだな。取りあえず俺、桜さんにメールするよ。柚は犯人じゃなかったって。」
アタフタと慌しく二人が話していると、柚木は顔をムッと不機嫌にした。
「おいっ!テメェー等何人をのけ物にしてんだよっ!こっちは全っ然話が見えねぇーんだけどー。」
柚木の怒鳴り声を聞き、二人はピタリと動きを止めた。
「あぁ・・・柚はまだ知らないんだっけ・・・桜さんの事。」
ポリポリと頭を掻きながら、祐一郎は少し困った顔をする。
「取りあえず、祐一郎さんは桜さんに連絡してよ。そっち向かうってさ。柚には俺から説明しとくし。」
「あぁ・・・分かった。」
祐一郎は桜へと電話を掛け、柚木が犯人ではない事と、今から桜の待つカフェへ三人で向かう事を話した。同時に雅人は、柚木に今までの事を詳しく説明をする。
柚木はすぐに雅人の話を飲み込むと、納得をし、取りあえず雅人を殴り返した。
「ニャる程ニャる程~。って事はーアリスちゃんの任務は、その送信元を突きとめる事ニャりねー!」
すっかりいつのも調子に戻っている柚木に、祐一郎は無表情で尋ねる。
「お前どこからそんな可愛らしい声出してるの?てか設定は続行なの?」
「組織が解散をしていニャい限り、当然ニャのだー。これはこれ、それはそれ。別腹ニャのだよ。」
両手を腰に当て、自信満々の態度で答えて来る柚木の足元には、痛そうに頬を摩る雅人が転がっていた。
少し雅人が可哀想に思えてしまうと、祐一郎は視線を痛がる雅人に気に掛けながら、柚木に聞く。
「えっと・・・。それで、出来そうなのか?」
「フッフッフー。アリスちゃんに不可能はニャいのだ!でも話を聞く限りー、一々メアド変えるって、結構面倒ニャ事してるねー。フリーメールって、何回もメアド変えるのすぐに出来ないから、きっと色んなブロバイダのフリーメールID持ってるニャよ。それに登録用の携帯も持ってるかニャー。」
「登録用の携帯?」
首を傾げる祐一郎に、柚木ではなく、その足元で転がっていた雅人が、ゆっくりと立ち上がりながら説明をして来た。
「携帯のメアドを登録して、同じブロバイダでも幾つもIDが作れる様に、秘かに持っている二台目携帯ってワケか。登録をしては携帯のメアドを変えて、また新しいIDを発行する。携帯のメアドなら、すぐに変える事が出来るし。」
「そう言う事ニャっ!多分その携帯はすぐに解約できる様な、使い捨てじゃニャいかニャー?そこまで面倒な事までしてー、アレンちゃんにメールを送るって事は、絶対に正体がバレたくニャいからって思うけど、詰めが甘いニャっ!国内で契約した携帯ニャら、身元は割り出せてしまうのだー。」
「って事は、身元は割り出せるって事か?」
嬉しそうな顔をして祐一郎は聞くも、柚木は少し困った表情をさせてしまう。
「う~ん・・・。ブロバイダ先と携帯会社は口が堅いので、ニャかニャか個人では知る事が出来ニャいかニャー。お上の紙切れ持って来ないと、言わニャいニャ!ハッキングすれば余裕ニャんだけど、林真理恵と同じ犯人ニャら、傷害事件って事で扱われてる、そちらにお願いしちゃった方が、賢明かニャ?」
「それって、警察に任せるって事?」
「ニャっ!アリスちゃん達が手を汚す必要は、ニャいって事ニャ!アリスちゃん達は、送信元を突止めて、アレンちゃんにメールを送っている証拠を見つければいいニャ。」
「確かにそうだな。俺達が犯罪してまで、細かく身元を割り出す必要は無いし。そう言う法に係わる事は、ちゃんと警察に任せた方がいいワケだしな。ま、柚がやろうとしてる事も軽く犯罪だけど、これ位は多目に見て貰わないと。」
「でも雅人!そうなると、そいつは警察に捕まるって事だよな?それは当然の罰だけど・・・。俺達まで捕まったりはしないのか?」
一度警察で事情聴取を受けている祐一郎は、その時の不安を思い出してしまう。そんな祐一郎を安心させる様に、雅人は少しだけ優しく言った。
「それは大丈夫だし。俺等はネタにして話していただけ。逆に、協力者って事になるんじゃねー?柚の行為は黙ってればいいワケだし。」
「その通りニャっ!それにお友達のアレンちゃんを、助ける為に動いているのだニャンっ。実際シャノン君は、アレンちゃんから依頼を受けているしねー。」
二人の言葉を聞き、祐一郎はホッと肩を撫で下ろす。
「取りあえずー!移動開始ニャのだー!アリスちゃんも、早くアレンちゃんに会いたいしー!」
嬉しそうな笑顔で柚木が言うと、早速桜の待つカフェへと向かった。
その道中、隣で歩く雅人に、祐一郎は少し照れ臭そうに、話し掛ける。
「なぁ・・・あのさ。」
「はい?」
雅人がこちらを振り向くと、祐一郎は思わず雅人から、顔を逸らしてしまう。
「いや・・・さっきの話しなんだけど・・・。その、俺達実際はそんな仲良くないって言う・・・。」
「あぁ・・・。あの話しか。それがどうかしたワケ?」
「いや・・・その・・・。これから仲良くなってけば、いいんじゃないのか?これからちゃんと、お互いを知ればいいって言うか・・・その。」
祐一郎は少し頬を赤く染め、恥ずかしそうにポリポリと頭を掻いた。その後の言葉が、照れ臭くて中々言い出せない。
雅人は祐一郎から顔を背けると、「いいんじゃない?」と一言だけ言う。その言葉を聞き、祐一郎は嬉しそうな表情を浮かべると、雅人の方を見た。すると雅人は、少し真剣な表情を浮かべている。
「何だよ?どうかしたのか?」
不思議そうに祐一郎が尋ねると、雅人は顎に手を添えて、少し悩まし気な表情をさせた。
「いや・・・ちょっと引っ掛かる事が有ってさ。」
「引っ掛かる事?って・・・高野さんの事か?」
「あぁ・・・それも有るけど・・・。基本的な事を忘れてる様な・・・。」
「ニャっははーい!到着ー!」
突然の柚木の元気な大声に、二人はハッと前を見た。気が付くと、桜の待つカフェへと到着だ。柚木は率先して、店の中へと入って行く。
「あっ!ちょっ・・・ちょっと待て!いきなりお前みたいな濃いのが行くのはっ・・・!」
祐一郎は、慌てて柚木の後を追う。事前に知らせているとは言え、突然フリフリの洋服を来た柚木が目の前に現れたら、桜が怯え出し、また取り乱してしまうかもしれない。
祐一郎は柚木の腕を掴むと、「待てって!」と叱り付ける。雅人も店の中へと入ると、店内をざっと見渡した。
「それで、桜さんってどの人なワケ?」
まだ桜の顔を知らない雅人が言うと、そう言えばそうだったと、祐一郎は思い出す。
柚木も雅人も、まだ桜には一度も会った事が無かった。柚木が突進して行ったとしても、誰だか分からない。と言うより、これから紹介をしないといけないと思うと、心成しか憂鬱だ。
「えっと・・・あぁ、居た!あの角に座ってる、髪の長い人だよ。」
祐一郎は桜を見付け指差すと、カフェの奥の席に座り、本を読む桜の姿が有った。始めてみる桜の姿に、柚木は感激をしてしまう。
「おぉ~!あれがアレンちゃんっ!想像していた通りの、クール美人の大人の女ニャのだー!」
「いや・・・クールでは無いよ・・・。」
ボソリと祐一郎が呟くも、雅人と柚木は早速桜の元へと向かい、歩き出してしまう。祐一郎も慌てて桜の元へと向かうと、二人が何かを喋り出す前に、素早く声を掛けた。
「桜さん、お待たせ。」
祐一郎の声に気付いた桜は、本を閉じ嬉しそうに後ろを振り向いた。が、祐一郎ともう一人の男子はともかく、ニコニコと笑顔でこちらを見ている、フリフリの洋服を来た、明らかに浮いている人物が目に入ると、思いっ切り後退りをしてしまう。
「え・・・えっと・・・。祐一郎君。私そのっ・・・。ここに居なきゃ駄目?」
「あの・・・桜さん。取りあえず、店の中では騒がないでね。」
祐一郎と桜は、お互い顔を見合わせ、苦笑いをする。
「ニャー!これはこれは初対面っ!こりが噂のアレンちゃんですニャー!」
目をキラキラと輝かせながら柚木が言うと、桜は更に後退りをしてしまう。
「嘘っ!本当にニャっとか言ってる!普通に言ってる!しかも見ちゃいけない洋服着てるしぃ―――――― 。」
またも桜が叫びそうになり、祐一郎は慌てて桜の口を塞いだ。流石に店内で、あの騒がれ方をされたら、居た堪れない。
「えっと、桜さん。紹介するね。あー二人はもう知ってるよね?アレン事、矢吹桜さん。桜さん、もう手・・・放して大丈夫?」
桜は大きく頷くと、祐一郎はそっと手を放した。
桜は恥ずかしそうに顔を赤くし、軽く咳を吐くと、「初めまして。」と軽くお辞儀をして挨拶をする。
「初めまして。俺は立花雅人です。エージェンととしては、ギルドって名前使ってますが。」
普通の話し方をする雅人に、桜は安心した様子で、ニコリと微笑んだ。
「あぁ、祐一郎君から聞いているわ。ありがとう。私の為に、協力してくれているって聞いたわ。」
「はい。まぁ・・・流石に度が過ぎるので、放っておけなくて。」
そう言って爽やかな笑顔を見せる雅人に、祐一郎は不貞腐れた顔で言う。
「お前何またキャラ変わってんの?猫被ってんじゃねぇよ。」
「別にいいじゃん。歳上の人だし、礼儀正しくしてるだけだし。」
「俺も歳上なんだけど。」
更にムッとした顔で雅人を睨みつけていると、祐一郎のシャツを、柚木が引っ張って来た。
「アリスちゃんはぁ~?」
未だ紹介して貰えず、拗ねた口振りで言うと、祐一郎は慌てて柚木も桜に紹介をする。
「あぁ・・・。こちらは例のアリス。本名は本城柚木君。男の子です。」
「あぁ、犯人じゃないかって疑ってた・・・。初めまして。そう、男の・・・子?」
言い掛けている途中、サラリと言った祐一郎の重大な発言を口にし、桜の思考は止まってしまった。
硬直をしてしまっている桜に、祐一郎は、「未知との遭遇を果たしたか・・・。」と呟くと、桜の思考を再起動させようと、体を揺らしながら言った。
「桜さん!あの・・・所謂男の娘ってヤツだよ。女装好きの子ね。柚がどこから送信してるのか、調べてくれるんだよ。」
ユサユサと祐一郎に体を揺すられ、ハッと桜は我に帰ると、マジマジと柚木を見る。
「ほ・・・本当に男の子?どう見ても、女の子にしか見えないんだけど・・・。」
「ニャ?それを言うなら、シャノン君もいい線行ってるニャよー?ちなみに本城柚だから。」
「あぁ、確かに祐一郎君も・・・そうよねぇ。え?柚?柚木?どっち?」
「柚木だよ。ってか桜さん、何納得してんの?」
恨めしそうな顔で祐一郎が言うと、桜は目を泳がせながら、苦笑いをした。
「つか、自己紹介も済んだし、早速本題入っちゃっていい?桜さんの携帯借りたいんだけど。」
いつもの調子で、雅人が素早く話を切り替え言い出すと、それもそうだと思い、他の三人は頷いた。
祐一郎、雅人、柚木も席に座ると、適当に飲み物を注文し、柚木は桜の携帯メールをチェックする。
「ニャる程ニャる程ー。確かにバラバラだけど、使っているブロバイダ自体は少ニャいニャ。IDを幾つも作ってるニャねー。」
「どこから送ってるのか、分かりそうか?」
祐一郎が携帯を覗き込みながら聞くと、柚木は頷き、バックの中からノートPCを取り出した。
「楽勝ニャりっ!ネカフェから送ってるニャら、フリーメールが使える店は限られてるから、店自体絞り込むのは簡単ニャのだ!そのニャかから、最初に使ったメアドを辿って、お店を吊りあげるニャよー。久しぶりのハッキングー!」
そう言って、嬉しそうにカタカタとキーボードを叩き、早速作業に取り掛かる。
「どうして最初に使ったメアドなの?最新の方が、いいんじゃないかしら。」
不思議そうな顔をして桜が尋ねると、作業に集中している柚木の変わりに、雅人が説明をした。
「もしマロンが犯人なら、オフ会の時の服装で店内に入る様子が、防犯カメラに写ってるだろうから、証拠になるってワケ。マロンは友達の家に泊まるって言って、帰ったワケだし。解散が二時で、最初のメールが届いたのが、二時三十五分過ぎなら、どんなに急いでも、着替えて変装する時間は無いだろうし。実際解散した時間だって、キッカリ二時ってワケでも無いし。実際には三十分位しか間は空いてない事になるワケ。」
「そう言う事ニャのだ!ウィッグやサングラスは着けれても、移動をしてお店入ってとニャると、着替える時間まではニャいから、服装はそのまんまー。あの日のマロンちゃんは、小さいバックを肩に掛けてただけだしねー。服装はその時撮った写メが証拠にニャるっ!」
作業をしながら柚木が付け加えると、「成程。」と桜と祐一郎は頷く。
「でもさ、何でそんなに急いで桜さんにメールしたの?一時間後とかにでもすれば、ゆっくり変装して移動だって出来たのに。」
今度は祐一郎が質問をすると、雅人は少し面倒臭そうに言った。
「それは混乱をさせる為じゃねー?それか自分には無理だって言う、カモフラージュとか?犯人の心意までは、知らないし。」
「あぁ・・・そうか。多分混乱させる為かな・・・?実際俺混乱しちゃったし・・・。」
「それって祐一郎さんだけじゃねーの?」
「違う。断じて否だ!桜さんも混乱してた!」
「桜さんはメールに対してでしょ。」
再び二人して睨み合っていると、桜は溜息を漏らし、少し不安を覚えてしまう。
本当に、頼りにして大丈夫かしら――――― 。と思うと、憂鬱な顔で外を眺めた。
ふとビルに設置して有るテレビを目にすると、丁度ニュースが流れていた。桜は流れているニュースの内容を見ると、驚いてしまう。
「あああああぁぁぁぁぁ―――――――――!」
勢いよく席を立ち上がりながら、叫び声を上げると、一斉に周りの視線は桜へと集中する。桜は周りの視線にハッと気付き、慌てて席に座るも、慌しく外を指差した。
突然の桜の叫び声に、他の三人も驚いてしまい、柚木の手も思わず止まってしまった。不思議そうに皆して、桜の顔を見つめていると、桜は慌ただしく、「外!外!」と繰り返し言った。
「外?・・・がどうしたの?桜さん・・・。」
困惑した表情で祐一郎が聞くと、桜はバンバンと、テーブルを叩きながら言って来た。
「外のテレビ!ニュース!犯人!捕まったってっ!」
方言の外国人みたいに単語単語で言うと、全員一斉に外に見えるテレビを見た。そして流れているニュースを目にすると、桜同様、全員驚いてしまう。
「なっ!三浦瞳を殺した犯人、捕まったのか!」
祐一郎は目を真丸くさせて言った。雅人と柚木は口をパックリと開け、驚いた顔をしたまま固まっている。
ニュースに因れば、三浦瞳を殺した犯人は、三浦瞳の元恋人との事。凶器も見付かり、口論からの殺害と本人も認めているとの事だった。
「つー事は、少なくとも三浦瞳の死とは、直接的な関連性は無いって事なワケか。流石に人殺しはしてないって分かっただけでも、安心かな。」
雅人はホッと息と漏らすと、肩の力が抜けた。
「そうよね。三浦瞳さんとは、何の関係も無かったって分かってよかったわ。それに犯人も無事捕まったみたいだし、一安心ね。」
同じく桜も安心をすると、体の力が抜けてしまう。柚木はハッと我に変えると、すぐに作業に戻った。
祐一郎はじっとテレビのニュースを見つめると、微かに目をうるませた。自分が第一発見者であり、生前に話をしていたせいもあって、誰よりも安心をすると、犯人が捕まった事が嬉しくて仕方ない。あの時一瞬見た人影は、きっと犯人の元恋人だったのだろう。
「よかった・・・。犯人捕まって・・・よかった。」
祐一郎は滲んだ涙を、そっと指で拭った。
一方でカタカタと柚木は奮闘をしていると、「ビンゴー!」と嬉しそうに声を上げた。その声を聞き、皆して一斉に柚木の方を見る。
「見付かったのか?」
祐一郎が尋ねると、柚木は頷くも、不可解そうな顔をして首を傾げた。
「釣りあげたのニャけどー・・・。このお店ってー、二次会で使ったお店ニャのだよー。」
その言葉を聞き、雅人は慌てて柚木のノートPCを自分の方へと向ける。
「本当だ・・・。つー事は、帰った振りしてここに留まってたってワケか。」
「えぇ!そうなると、その・・・証拠の防犯カメラとか、あんまり意味が無いって事になるのかしら?」
「残念ながら・・・そうなるワケ。へぇー結構考えてるじゃん。」
桜はガックシと首をうな垂れさせ、雅人は悔しそうに、唇を噛み締めた。
「他の日のとかは?今日だって送られて来てるんだし、その時のとかはどう?」
祐一郎が案を出すも、柚木は残念そうに首を横に振った。
「ダメダメ~。変装してる可能性大だニャー。お店変えてる可能性も有るしー。コロコロ変えられちゃったら、お店の数は少ニャくても面倒臭いのだ。それにこの手の悪戯メールは、最初の場所が大事ニャのだよー!マロンちゃん意外と手強いニャりニャー。」
「そっかぁ・・・。」
祐一郎も残念な顔をさせるも、ハッと思い付く。
「そうだっ!居座り続けたんなら、誰かが見てるかも!トイレ行く時とかさ。」
「どうだろう。マロンがこの店の常連とかだったら、店員とかに聞いても、いつも見てるって言われるのがオチじゃねー?あの日も居たって言われたとして、席を教えて貰っても、そこで終了。それこそ警察でもなければ詳しく調べさせては・・・そうか、だからこの店を選んだんだ。常連なら、下手に怪しまれないし。」
自分の発言にヒントを見出すと、雅人は顎に手を添え、考え始める。
「ニャ?ギルド君、ニャにか分かったのかニャ?」
「柚、お前マロンと部屋出てってから、どうした?」
「ニャ?マロンちゃんはお手洗いに寄るって言ったから、アリスちゃん先帰っちゃったのだ。もうお店の前に、親迎えに来てたしー。」
「そうか・・・。周りは警戒してるだろうしな・・・。」
雅人は又、考え込み始めると、祐一郎は「そうだ!」と思い出す。
「貴志に聞いてみればいいんだ!あいつ朝まで居た筈だから。」
「貴志さんなら、俺より先に帰ったけど・・・。」
考え込んだまま雅人が言うと、祐一郎はキョトンしてしまう。
「そうなの?途中で寝ちゃったって聞いたから、てっきり朝まで居たのかと思ったや。」
「途中で寝て起きて帰って行ったし。何あの人?失礼じゃねー?」
雅人に言われ、祐一郎は何のフォローも出来ず、困った様子で頭を掻いた。
「あのぉ~。やっぱり私、もう一度警察に相談しに行ってみるわ。その方が、調べて貰えるなら。」
恐る恐る桜は自分の意見を言うも、雅人にバッサリと切られてしまう。
「無意味だと思うけど。実害が無い限り、警察は動いてくれないだろうし。被害届出せば、相手は見付け出してくれるけどさ、時間掛かるよ。そうなると裁判って事になって、本格的に桜さん巻き込まれるし。林真理恵の名前が書かれていても、実際に桜さんとマロンは赤の他人だから、只の悪戯って事で処理されるだろうし。俺達が騒いで関係有るだの何だの言っても、実際に繋がりが有るって現実的な証拠がまだ無いから相手にされない。理想はマロンが防犯カメラに写ってる所を押さえて、それで桜さんに悪戯メールを送り始めた証拠を掴み、その後林真理恵が被害に遭い、その事も桜さんにメールをして来た事を警察に告げる。そうすれば警察も桜さんにメールをしている奴と、林真理恵に危害を加えた奴が同一犯だって疑うだろうと思ってたけど――――― 。」
「ああああっ!もう分かったから、分かりました!もう私、何も口出ししないわ。」
延々と長ったらしい雅人の話しを遮ると、桜はうんざりとした顔をし、溜息を吐いた。
「そうなると、やっぱり柚の時みたいに、直接高野さんに聞いてみた方が早いかもよ。意外とすんなり白状するかも。」
今度は祐一郎が意見を言うも、やはり雅人にバッサリと切り捨てられてしまう。
「どうかな。柚と違って、マロンは変に常識あったりすりから、逆に危険だと思うけど。つーより、ここまで徹底してるなら、自分から白状したりしないんじゃねー?」
「マロンちゃんは、狂信者的な感じニャので、皆纏めてドッカァーン!って事しかねニャいしねえー。」
柚木にまで駄目だしを喰らってしまい、祐一郎の顔は沈んでしまう。
雅人は又顎に手を添え、何かを考え込むと、沈んでいる祐一郎に話し掛けた。
「それよりさ、俺ずっと気になってる事有るんだけどさ。祐一郎さん――――― 。」
「あれ?皆さんお揃いで、どうしたんですか?」
突然美雪の声が聞こえ、話している途中の雅人は、ハッと慌てて口を噤んだ。
全員が一斉に美雪の方を見ると、美雪はニコニコと笑顔で立っている。いつから居たのかは分からないが、突然噂の張本人が現れ、誰もが動揺を隠せない。
「どうしたんです?あれ?始めてお会いする方も居ますね。」
美雪は桜の姿に気が付くと、ニッコリと笑い軽くお辞儀をした。釣られて桜も、軽く頭を下げる。
祐一郎は美雪の喋り方に気が付くと、こっそり雅人に耳打ちをした。
「雅人。今の高野さんは、マロンとして話してる。お前と同じで、高野美雪として話す時は、喋り方全然違うんだ。」
祐一郎の話を聞いた雅人は、小さく頷くと、同じく小声で祐一郎の耳元で囁く。
「柚は問題ないから、桜さんにはアレンとして、話す様に伝えてくれねー?俺が適当に話しをして、気を逸らすからさ。」
祐一郎も小さく頷くと、そっと桜の側に寄った。
雅人は眼鏡を指先で上げると、微かに笑みを浮かべ、席を立ち美雪の前へと行く。
「奇遇ですね、マロン。こんな所で何を?」
ギルド口調で話し掛けると、美雪はおっとりとした笑顔を見せ答える。
「この近くに用事が有ったので。帰る途中、外から皆さんの姿が見えたから、何か進展でもあって相談してるのかと思って寄ったんです。何かの相談ですか?」
「あぁ、実はそうなのですよ。丁度よかった、貴女にも紹介をしておきましょうか。私とアリスも、先程紹介を受けました。」
そう言うと、雅人はチラリと視線を祐一郎の方へと向ける。祐一郎は雅人の視線に気付くと、小さく頷き、桜も準備万端と言った様子で、そっと親指を立てた。
「シャノン、貴方から彼女を紹介してあげてはくれませんか?」
祐一郎は大きく頷くと、席から立ち上がり、懐かしの中二病口調で桜を美雪に紹介する。
「マロン、彼女が極秘エージェント、アレンだ!俺の元に、アレンから連絡が入り駆け付けた。実はアレンの元に、重要人物からの連絡が入ったとの事だ。その人物の確信を得る為に、ギルドとアリスも呼び出した。」
それを聞いた美雪は、嬉しそうな表情をした。
「貴方があの特殊エージェント、アレンさんですか。お会いできて嬉しいです。」
桜もゆっくりと席から立ち上がると、顔付きを変え、凛々しい声で言う。
「貴様がマロンか。貧弱そうな体だが、任務はこなせているのか?今我々は、極秘会議の最中なのだ。邪魔をする事は、例え同じエージェントだろうが、許さんぞ。」
「ニャー!アレンちゃんカッコイイーのだー!ニャんと凛々しい!まさにアリスちゃん想像通りニャのだー!」
始めてみる桜のアレンモードに、柚木は嬉しそうにハシャギ出してしまう。祐一郎はコホンッ、と軽く咳を吐くと、誤魔化す様に言った。
「アリス、浮かれるのはいい加減止めろ。これで何度目だ。これ以上は俺も我慢の限界だぞ。右目が疼く・・・。」
「ニャ?皆エージェントモードニャりか?了解ニャりー!」
柚木も何となく状況を飲み込むと、ノートPCの画面を素早く切り変え、『闇の使者エージェントの集いし部屋』を表示させた。
「それで、重大人物とは?」
笑顔で聞いて来る美雪に、全員は少し戸惑ってしまう。
しかし、これは美雪に鎌を掛けるチャンスかもしれない。美雪の口から七人目の名前等が出れば、犯人が美雪だとハッキリ分かる。そうなれば、後は本人が自白をする様な言葉を、煽ればいいだけだ。
真っ先にそう考えた雅人は、眼鏡をクイッと指先で上げた。
「マロンも既に、気付いているのでは?」
「私が・・・ですか?あぁ・・・。」
そう言うと、美雪はクスリと笑った。そして不適な笑みを浮かべ、静かに言う。
「全てのエージェントが、今ここに揃ったと言う事ですね。」
美雪の言葉を聞いた四人は、驚きながらも、緊張が走った。
「貴様の言う意味、分かっているのだろうな。その言葉の重みもだ。」
桜はアレンらしく凛々しい態度で言うと、美雪はクスクスと小さく笑いながら答える。
「当然ですよ。その為に私達は、今日まで頑張って来たんじゃないですか。」
美雪は少し周りを見渡すと、チラホラと見える、カフェ内の客を見つめた。
「場所を変えませんか?ここじゃ目立ってしまいますよ?ジェイドさんが居ないみたいですね?」
「ジェイドは別で動いて貰っている。俺が命じた。」
慌てて祐一郎が言うと、美雪はまたニッコリと笑った。
「そうですか。だったら、ジェイドさんも呼んで下さい。全てのエージェントが集う時が、やって来たんですから。」
「いいだろう。どこに場所を移す?」
「そうですねぇ・・・。」美雪は少し考えると、「なら、私達の通う学校へ。」と指定をする。
美雪を先頭に店から出ると、祐一郎の通う高校へと、全員で向かう事となった。その途中貴志に電話を掛け、貴志にも来る様に伝えた。
学校までは、今居る場所から電車に乗り移動しなくてはならない。四人でぞろぞろと駅へと向かうと、電車に乗り込んだ。
全員で電車に乗ると、雅人は美雪の目を盗み、こっそりと柚木に話し掛ける。
「おい、柚。」
「ニャ?」
「俺の話しだけ聞いて、返事はするなよ。頼みたい事がある。」
柚木は雅人に言われた通り、無言で頷くと、雅人は小声で柚に話しをした。