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次の日の昼、祐一郎は貴志と一緒に、林真理恵が入院をしている病院へと、お見舞いに行った。お見舞いがてら、何か犯人に繋がる情報が有れば、教えて貰おうとも考え。
林真理恵の居る六階の病室内へと行くと、既に何人かがお見舞いに来たらしく、机にはゼリーの詰め合わせとフルーツバスケットが置いて有った。
祐一郎達も、持って来たお見舞いの造花を渡すと、林真理恵は嬉しそうに感激をする。
「ありがとー!まさか色んな意味で問題児の二人が、お見舞いに来てくれるなんて・・・。先生嬉しいわ。」
やはり酷い言葉を交えながら、お礼を言う林真理恵に、貴志は大きな声で叫ぶ。
「真理恵せんせぇ~い!俺っち超~心配したんだよぉ~!もうビックリしちってさぁ~!」
「ごめんね、心配掛けちゃって。でも川島君、病院では静かにしましょうね。五月蠅いわよ。」
「だって心配だしぃ~!でも、思ってたより元気そうでよかったぁ~!」
「だから五月蠅いわよ。先生が看護婦さんに、怒られるんですからね。」
そう言って笑う林真理恵の右足は、ギブスが嵌められ、上からは紐で吊るされている。痛々しく、見ているこちらの右足まで、痛く感じてしまう。
「真理恵先生、突き飛ばされたって聞いたけど・・・。犯人に心当たりとか有るの?」
心配そうに祐一郎が聞くと、林真理恵は驚いた顔をして言って来た。
「やだっ!松田君が普通に心配してくれるなんて!夏は人をおかしくするって言うけど、本当ね。」
「俺も真理恵先生突き飛ばしたい・・・。」
ボソリと恨めしそうに言うと、林真理恵は、「冗談よ。」と可笑しそうに笑う。
「でも本当に、ありがとう。やっぱり自分の生徒がお見舞いに来てくれるって、嬉しいわ。親ってくれてるんだなって、思えるから。」
「せぇ~んせいぃ~!俺真理恵先生の事超~好きだしぃ~!当然じゃぁ~ん!」
「分かったから、川島君はもう黙りましょうね。看護婦さんがこっち睨んでるから。」
ニッコリと微笑みながら林真理恵が言うと、貴志は「イエッサァー!」と元気よく大声で返事をした。そして看護婦に叱られてしまい、林真理恵は貴志に帰る様命令をした。
「ごめんめんご~。もう俺静かにしてるからぁ~。」
声の音量を下げ、貴志は林真理恵に軽く頭を下げながら謝ると、林真理恵仕方なさそうな顔をする。
「本当に、次大きな声を出したら、すぐに帰って貰いますからね!」
「了解ぃ~。」
「それで真理恵先生、犯人に心当たりとか有るの?」
改めて祐一郎が聞くと、林真理恵は困った顔をしてしまう。
「それが分からないのよ。警察の人が犯人を探してくれているんだけど、もう突然の事でしょ?ビックリして。結婚相手の人に、女関係でトラブルは全く無いし、先生だって、そこまで恨まれる事していないわよ。本当・・・嫌になっちゃうわ・・・。」
そう言うと、深い溜息を吐いた。
「もうすぐ式だって言うのに、せっかくのサマーウェディングが、松葉杖突いて登場よ。もう日程決まっちゃってるから、今更変えられないし。幸せすぎて、罰が当たったのかしら・・・。」
悲し気に俯く林真理恵に、祐一郎は力強く叫んだ。
「そんな事ないよ!先生は何も悪い事してない!先生の幸せのせいじゃないよ!悪いのは突き飛ばした奴だ!」
「松田君・・・。」
真剣な眼差しで訴える祐一郎に、林真理恵は微かに微笑んだ。
「貴方も静かにしましょうね。また怒られるでしょう?」
「あ・・・ごめんなさい・・・。」
祐一郎は、慌てて口を手で塞ぐ。
「でも真理恵先生ぇ~。駅の階段つったら、沢山人見てんじゃぁ~ん。そん中の誰かがぁ~目撃してたりしない?」
「あぁ、それなら警察の人達が、聞き込みをしてくれているって。一応、傷害事件らしいから。」
「傷害事件って、それ思いっ切り犯罪って事じゃん。」
祐一郎は眉間にシワを寄せると、三浦瞳の事を思わず思い出してしまう。
「まぁ、私も余り大事にはしたくないんだけど、婚約者がね。もの凄く怒っちゃって。」
「つ~かそれ惚気っしょ~!真理恵先生愛されてるぅ~!」
「やぁねー!川島君ったら!まぁ、実際愛されてるんだけどー!」
照れ臭そうに頬を赤くしながら、バシッと貴志の背中を強く叩く。すると廊下から、「ウッウウンッ!」とワザとらしく咳をし、こちらを睨み付けている、看護婦の姿が見えた。
「と、とにかく、二人共心配してくれてありがとう。後は警察の人達が、犯人を探してくれるから。」
林真理恵は微妙に口元を引き攣らせ、声のトーンを押さえて言うと、貴志も同じく声を小さくして話した。
「そっだねぇ~。プロに任せるのが一番っしょ~。てか、本当に突き飛ばされたのぉ?実はぶつかって踏み外しただけだったりぃ~。」
貴志の言葉を聞いた祐一郎は、確かにその可能性も有ると思い、同じ様に聞いた。
「そうだよ。先生の勘違いとかは無いの?人混みに揉まれて、後ろからぶつかられたとか。」
「それは無いわよ。だって確かに、誰かに後ろから手で押されたもの。それに、そこまで酷い人混みじゃ無かったし。もっと沢山前に人が居たら、真っ逆さまに下まで転げ落ちないわ。前の人にぶつかる位よ。そう思うと、先生運悪いわよね・・・。」
そう言うと、また俯いてしまう。
やはり誰かに後ろから、突き飛ばされたのだと再確認をすると同時に、人がそこまで多かった訳では無いなら、目撃者も居るかもしれないと、少し期待が持てた。
「でも本当、思ってたより、真理恵先生元気そうだから安心したよ。」
祐一郎はニコリと笑うと、林真理恵は俯いていた顔を上げ、嬉しそうに微笑んだ。
「教え子がお見舞いに来てくれたからよ。二人共、余計な心配しないで、ちゃんと夏休みの宿題しなさいよ。」
しばらくの間、お見舞いのゼリーを食べながら話しをした後、二人は林真理恵に軽くお辞儀をし、別れを告げ病室を後にした。
思っていたより、林真理恵は元気そうで安心するも、どこか表情は寂し気だった。やはり結婚式前にこんな事になってしまい、ショックも有ったのだろう。
祐一郎は、隣でヘラヘラとした顔で歩く貴志に、真剣な口調で言った。
「なぁ・・・。掲示板に書き込みした奴、誰だろうな。真理恵先生結婚式前だってのに、あんな足になっちゃって・・・。せっかくの花嫁衣装着る日に、松葉杖って酷いよ。俺犯人、絶対許せない。」
すると貴志は、全く関係無い事を言って来た。
「あっれぇ~?まっつぁんあれって、高野さんでない?」
「え?高野さん?」
ふと貴志の指差す方を見てみると、確かに美雪が歩いている姿が、病院の窓の外に見える。美雪は病院へと向かって来ている様だ。
「本当だ・・・。こっちに来てる。」
「高野さんもぉ、真理恵先生のお見舞いかなぁ~?」
二人はエレベーターで一階まで降りると、少し急いで病院の外へと向かう。
病院の外へと出ると、丁度美雪の姿がすぐ近くに見え、祐一郎は「高野さん!」と声を掛ける。すぐに二人に気付いた美雪は、笑顔で二人に向かい、手を振って来た。美雪は二人の側まで行くと、凛々しく敬礼をする。
「これはこれは、二人揃ってご苦労様であります。」
「あぁ、ご苦労様・・・って。何が?」
釣られて言うも、何の事か分からず聞くと、美雪は手に持っているケーキの箱を見せた。
「お見舞いだよ。不戦した真理恵先生の。二人もその帰りでは?」
「そっだよぉ~!結構真理恵先生元気だったお~!」
嬉しそうに言う貴志を見て、美雪はニッコリと笑う。
「そうなんだ!それは安心したでありますよ!物資のケーキも、食べて貰えそうであります。」
そんな美雪の姿を、祐一郎は不確かそうな顔をして見つめた。
「ってか、高野さん喜ばしい事だって言ってなかった?それで何でお見舞いなの?」
少し不機嫌に言うと、美雪は相変わらず笑顔で答えて来る。
「魔術が効いたのは喜ばしいけど、真理恵先生が負傷したのは、生徒として心配だからね。二年の時は、上官にお世話になったでありますから!」
そう言ってまた、ビシッと敬礼をして見せる。
「何それ・・・意味分かんないし。」
不貞腐れた顔で言うと、「まぁ~まぁ~。」と貴志が割って入って来た。
「お互い同じ教師を想う、い~い生徒ってぇ~事で、いいんじゃね?」
「そう言う問題じゃ・・・。」
祐一郎は言い掛けるも、能天気な貴志の顔を見ると、怒る気力も失せてしまう。
「それじゃあ、私もう行くね。ケーキ温まっちゃうし。猛暑が生物の寿命を、奪ってしまうのでありますよ。」
「え・・・?あ、ちょっと待ってよ。」
慌てて引きとめようとするも、美雪は足早に病院内へと入って行ってしまった。
「何だよ・・・。自分勝手な奴だな。」
膨れた顔で祐一郎が拗ねていると、貴志が呑気な声で言って来る。
「別にいいじゃあ~ん。チャットでも電話でも、いつでも話せんだからさぁ~。俺も話してるしぃ~。」
「まぁ・・・そうだけどさ。ケーキに負けるとかって、何かムカつく・・・。」
「それまっつぁんが甘党だからでねぇ~?」
林真理恵のお見舞いから帰った祐一郎は、貴志と別れ、一度家に戻ってから、雅人との待ち合わせ場所へと向かう。そして丁度午後六時五分前、雅人の通う塾の前へと到着をする。
ちらほらと塾生が建物から出て来る中、祐一郎は佐久間洋助の姿はないかと去り気に探すが、見当らなかった。変わりに雅人の姿を見付ける。
雅人はすぐに祐一郎に気付くと、側までやって来た。目の前に来た雅人に、祐一郎は恨めしそうな顔をして言う。
「お前待ち合わせ場所がここだったのは、塾の帰りで面倒が無いからか。」
「正確には暑い外で待つ必要が無いから。それと、柚のバイト先に近いから。桜さんは?」
悪びれた様子も無く言って来る雅人に、祐一郎はムッと膨れた顔で答える。
「この先のカフェで、お茶して待ってて貰ってる。佐久間は?」
「まだ塾の中で勉強中だし。祐一郎さんも見習ったら?」
「黙れ小僧!貴様に何が分かる!」
祐一郎は雅人を睨み付けるも、雅人は相手にせず、さっさと歩き出してしまう。
「つか、三浦瞳を殺した犯人って、まだ捕まってないんでしょ?もしかしたら、それも柚の仕業とか思ってるワケ?」
歩きながら聞いて来る雅人に、祐一郎はハッと、三浦瞳の存在を思い出す。
「そうだ!いや・・・そこまでは分かんないよ。でも真理恵先生を突き飛ばした奴と、桜さんにメール送ってる七人目は、同じ奴に間違いないと思う。今日午前中貴志とお見舞いに行ったけど、やっぱ先生突き飛ばされたって言ってたし。」
「貴志さんと?何か情報とか有ったワケ?」
「いや・・・先生も突然の事だったから、分かんないって。傷害事件って事で、警察が犯人捜してるみたいだけど・・・。あっ!そうだ!高野さんもお見舞いに来たんだ。」
思い出したかの様に言うと、雅人は不可解そうな表情を浮かべた。
「マロンも?つか、祐一郎さんマロンと会う確率高くねー?それって全部偶然なワケ?俺からしたら、マロンもやっぱり怪しい気がするけどさ。」
雅人に指摘されると、祐一郎は確かに、と思ってしまう。
「そう言えば、やけにタイミングよく現れるよな。まさか・・・高野さんが三浦瞳を殺したとか・・・。」
考えたくも無い事が頭の中を過ると、あの日美雪が持っていた大きな買い物袋の中身には、嫌な物が入っていたのでは、と一瞬想像してしまう。
顔を真っ青にさせている祐一郎に、雅人は軽く溜息を吐いて言った。
「つか想像力凄過ぎ。流石にそれは無いと思うけど・・・。でも、意図的に祐一郎さんの近辺うろついてる可能性は有るかも。」
「何で?」
「そんなの俺に聞かれても知らないし。それこそ、本人にでも聞けば?今は取りあえず、柚が先なワケだけどさ。」
話しながら歩いていると、柚のバイト先の店へと到着をする。二人は店の裏口へと回ると、柚が出て来るのを待った。
「アリスはもう、バイト終わってるのか?」
緊張した趣で祐一郎が尋ねると、雅人はポケットから携帯を出し、柚から届いたメールを確認する。
「十分位前に、もうすぐ終わるってメールが届いたよ。きっと今は、着替えてるんじゃねーの?もう少ししたら、出て来ると思うよ。」
雅人の言う通り、しばらく待つと裏口のドアが開き、中からは相変わらずフリフリのロリータファッションをした、柚が姿を現せた。
柚は思いもよらぬ組み合わせの二人に出迎えられ、驚いた顔をする。
「あれぇー?こりはニャんとビックリ!意外な組み合わせのお出迎えニャのだー!ギルド君だけだと思ってたのに、シャノン君も一緒だったのー?」
驚きながらも、嬉しそうな笑顔で言って来る柚。祐一郎は、「ギルドだけ?」と柚の言葉に、不思議そうに首を傾げた。
「あぁ、終わったら話そうって約束しておいたの。その方が確実だしさ。」
「なっ!だったら先に言えよな・・・。俺変な緊張してたんだから。」
やはり悪びれた様子も無く、軽い口調で言って来る雅人に、祐一郎は改めて、「嫌いだ。」と再確認をする。
「それニャらばっ!三人で謎の人物出現について語るのだー!」
元気よく手を上げて言う柚に、雅人は「その前に。」と早速柚に話を持ち出す。
「一つ確認したい事があるんだけど。つか柚は、本気で信じてるワケ?」
直球に聞く雅人に、祐一郎は少し慌てながらに言った。
「ちょっ!いきなりは不味いんじゃないか?少し確信に迫ってからの方が―――― 。」
「つか祐一郎さんだって、直球に俺に聞いて来たじゃん。それにこの手のタイプは、俺みたいに冷めてる奴の方が扱い上手いから、ちょっと任せてくれねー?」
祐一郎の言葉を遮り言うと、雅人は柚の顔を、冷めた表情をさせ見つめた。
「ニャ?信じてるって、ニャにがかニャ?」
相変わらずの笑顔で聞く柚に、雅人は軽い口調で言う。
「ラグナロクとか、闇の使者とか、そう言う下らない妄想話の事。自分は選ばれたエージェントとかって、柚は本気で思ってるワケ?つかその前に、魔術やら呪いが、本気で使えるとか信じてるの、お前はさ。」
すると柚は、目をキラキラと輝かせながら、少し興奮気味に言って来た。
「当然ニャのだっ!アリスちゃんは声を聞いたのだ!そんニャ時に、同じエージェントが集まる組織を見付けたのだ!これはアリスちゃんに課せられた使命ニャのだと、すぐに分かったニャっ!ラグナロクを生き抜き!新しい世界を作り上げる使者の一人ニャのだとっ!」
柚の熱弁を聞いた祐一郎は、少し前までの自分を見ている様で、何だか恥ずかしくなってきてしまう。対する雅人は表情一つ変える事無く、冷たい口調で言い放った。
「つかそんなの嘘に決まってんじゃん。お前馬鹿じゃねー?本気で信じてるとかって、頭悪過ぎ。全部祐一郎さんの作り話だし。」
「ニャんとっ!そんな事はニャいのだ!アリスちゃんの力は本物ニャのだっ!アリスちゃんの呪いで、林真理恵は恐怖を味わったニャよー!」
「林真理恵、誰かに後ろから突き飛ばされたって証言してたし。」
「それはアリスちゃんの呪いの効き目ニャ!」
自信満々に言って来る柚の言葉を聞き、雅人はクスリと小さく笑った。
「祐一郎さん。柚は犯人じゃないよ。柚は只、呪いが本当に効果有るって、思い込んでるだけ。」
「え?そうなの?」
雅人に言われ、祐一郎はキョトンとした顔で、柚を見つめた。
「お前マジで、呪いとかって効果有るって思ってるだけなの?って事は、中二病って言うより、変な宗教にハマってる奴等寄りって事?」
不思議そうに祐一郎が聞くと、柚はムッと膨れた表情で、反論をする。
「似非宗教と同じにするニャっ!アリスちゃんの力は偉大ニャのだっ!てかシャノン君もギルド君も、突然ラグナロクを疑うニャんてー!裏切り者にニャったのー!」
「あぁ・・・そこは中二病入ってんだ・・・。」
戸惑いながらも祐一郎が言うと、雅人は軽く溜息を吐く。
「ま、そこは祐一郎さんのせいって事じゃねーの?取りあえず、このままじゃ埒が開かないから、柚の本性でも見せて貰おうかなっと!」
そう言い終えると同時に、思い切り右手で、柚の左頬をバシッと叩いた。気持ちのいい平手打ちの音が響くと、突然の雅人の行動に、祐一郎は驚き引いてしまう。
「お前っ!何いきなり女の子思いっ切り殴ってんだよっ!」
「こうした方が手っ取り早いからだけど。」
平然とした顔で答えて来る雅人に、祐一郎は更に引いてしまう。すると柚は、叩かれた左頬にそっと手を逸れると、プルプルと小刻みに体を震わせた。
あぁ、きっと泣いてしまうんだろうな――――― 。と思い、心配をする祐一郎だったが、柚の体からは禍々しいオーラが立ち込めていた。
柚は目の前に立つ雅人の胸座を、思いっ切り片手で鷲掴み出すと、物凄い鋭い目付きで睨み付け、怒り任せに怒鳴り付けた。
「テメェ―――― 何大事な商売道具の顔殴ってんだよー!っざけんなよっ!跡残ったらどぉー落とし前つけてくれんだぁ?あぁー?誰の顔殴ってんだよぉ!何誰よりも可愛い僕の顔殴ってんだよぉー!もうすぐ人気投票あるってぇーのに!テェーのせいで人気落ちたら、どぉー責任取ってくれるってんだぁー?」
キャラ以前に声質まで変わってしまっている柚の姿に、祐一郎は顔を引き攣らせ、思いっ切り引いてしまう。しかし雅人は、相変わらず表情を崩す事なく、平然とした態度をしていた。
「へーそれがお前の本性。割と定番&普通って感じで、あんまり面白くないし。」
「テメェーが面白いとかどーでもいいんだよ!ホッペタ赤くなってたらどうしてくれんだよ糞眼鏡!」
「つか、そんなに強気な性格なら、ストーカー位自分で追い払えるんじゃねーの?何ぶりっ子して怖がってるワケ?」
「はぁー?今んな話ししてねぇーだろーが!あのピザ関係ねぇーし!あのヤローは只の親衛隊だし!ストーカーでも何でもねぇーし!」
「は?ストーカーじゃないなら、何でストーカーとか言うワケ?自演ってヤツ?そんな事までして、か弱いアピールしたいワケ?ダッセェー。」
二人の言い合いを見て、祐一郎は完全に本来の目的から脱線していると思ってしまい、二人を落ち着かせようと、慌てて間に割って入った。
「ちょっ・・・ちょっと二人共!一旦休戦!雅人も、目的忘れてない?何日頃の鬱憤晴らす様な事言ってんだよ!アリスもっ!」
「っせーなっ!テメェーは黙ってろよっ!」
今度は祐一郎が怒鳴り付けられてしまい、少し怯えてしまう。だからと言って、ここで引き下がれば男が廃る!と思い、雅人の胸座を掴み続ける柚の手を、離させようとした。
「ほらっ!手離して話し合おう!シャツ伸びちゃうし、やっぱり暴力はよくないし、雅人も殴った事はちゃんと謝って、って・・・。」
雅人から柚の体を離そうと、柚の肩を掴んだ瞬間、柚が暴れ出してしまい、祐一郎の手は肩から滑り落ち柚の胸元へとタッチしてしまった。その一瞬で祐一郎は悟るが、柚は気付かず、雅人の胸倉を両手で掴み更に怒鳴り付ける。
「テメェーの人を見下した態度、前から気に喰わなかったしマジムカつくんだよっ!何頭いいからって、図に乗ってんじゃねぇーよ!」
「お前こそ図に乗ってんじゃねーよおっ!お前男かよっ!胸ペッタンこだったぞ!キャラ所か、性別まで変わってんじゃんかっ!」
思わず柚に続いて祐一郎が叫ぶと、先程触った柚の胸の感触に、気持ち悪そうに手をズボンで拭いた。
「え?男・・・て。」
流石の雅人もその言葉には驚き、目の前の柚の胸を、両手でしっかりと触った。確かに真っ平らで、男の胸だ。「マジだ・・・。」雅人が呟くと、柚は慌てて雅人から手を放し、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、両手で胸を覆った。
「何堂々と触ってんだよっ!変態!」
顔を赤らめながら言う柚に対し、雅人は顔を引き攣らせながら言った。
「どっちが変態だよ。男の癖にフリフリの服着て、メイド喫茶で女の振りしてバイトとか。つか店の奴等は知ってるワケ?」
「違うっ!これは呪いのせいなんだ!産まれた時に呪いに掛けられ、男の体にされちまったんだ!」
真剣な顔をして言って来る柚に、二人は何となく理解をした。しかしその理解は、互いに違う物だった。
「所謂、性同一性障害ってヤツなワケか。」
雅人が由緒正しい解釈をするのとは裏腹に、祐一郎は祐一郎らしい解釈をする。
「いや、違うな。只の女装好き男の娘だ。オカルト好きから来る妄想だな。きっと本気で魔術や呪いを信じる切っ掛けとなった原因が、そこに有ると俺は睨んだ!」
「成程ね。確かにそれは一理有るかも。性同一性障害なら、素が出ても話し方は女のままだろうし。今の柚は男気に溢れているし。」
祐一郎の意見に雅人も納得をすると、二人はうんうん、と何度も小さく頷いた。
「勝手な解釈してんじゃねぇーよ。この体は呪いのせいだっつっただろーが!その呪いを解く為に、どんだけ魔術を勉強したか・・・。テメェーらに分かんのかよ!」
反論をする柚に、雅人は少し考えると、「よしっ!」と何かを思い付く。
「取りあえず、呪いを信じているままじゃ話にならねーから。まずその幻想をぶち壊そう。」
「そんな事出来るのか?」
「任せろ。」
そう言うと、雅人はクイッと眼鏡を指先で持ち上げた。
「柚、お前の本名は?」
改めて雅人は柚に尋ねる。
「はぁー?てか知ってる癖にー。本城柚だよ馬鹿眼鏡!」
敵意むき出しで言うと、雅人は軽く面倒臭そうな顔をした。
「成程ね・・・。じゃ、敢えてギルドとして話そうかな。」
そう言うと、雅人は喋り方を、ギルドの時の口調に変える。
「ではアリス、貴方が魔術を行い、実際に効果が有ったと言う証拠は有りますか?」
「はぁー?だから言ってんだろーが。林真理恵だって、僕の魔術の呪いを受けただろーがよ!」
「成程、林真理恵ですか。貴方はどの様な方法を使い、林真理恵に呪いを掛けたのです?」
「会合ん時テメェーも一緒にやってただろーが!馬鹿かっ!」
それを聞いた雅人は、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「ならばその呪いは成立していませんね。」
「はぁー?何言っちゃってんだかぁー。てか実際あの女怪我してるしー。」
鼻で笑う柚に、雅人は淡々と説明をし始めた。
「本来魔術による呪いと言う物は、黒魔術、白魔術、ブードゥー、と様々な種類の物が存在しますが、全ては対象者も信じていなければ、その効力は発揮されません。何故ならそれは、心理的作用により、引き起こされる現象だからです。例え呪いの対象者が信じていなかったとしても、催眠や心理誘導を行えば、効果は発揮されます。例えば不気味な人形を送り付ける等すれば、対象者は例えその時は信じていなくとも、心に出来た一瞬の隙の不安や動揺から、何らかのミスをしてしまいます。するとその一瞬の不安や動揺は大きくなり、やがては呪いのせいなのでは?と疑い始める。こうして信じてしまう者も多いでしょう。しかしアリス、貴方は林真理恵に対し、その様な心理的作用を促す行為を彼女に対して、何も行ってはいない。それ所か、貴方は彼女と会った事すら無い。只円陣に意識を集中させ、林真理恵の不幸を願っただけです。当然呪い等と言った事を信じていない林真理恵は、貴方が呪いを掛けた事すら知らない。つまりは、林真理恵は貴方の呪いで怪我をしたのでは無く、偶々偶然に、怪我をしただけと言う事になります。以上。」
長々とした説明を終えると、雅人は柚に鼻で笑い返した。しかし柚も、簡単には引き下がらない。
「何ダラダラ長ったらしー事言っちゃってるんだかー。僕の力が強いから、円陣を通して念じただけで、その効果は発揮されるんだよ。」
「ではその力とやらを、実証して貰いましょうか。私に今ここで、呪いを掛けて下さい。そうですね・・・私の足の骨でも折って貰いましょう。」
「はっ!んな事喜んでやってやるよ!テェーの足の骨、ズタズタにしてやらぁー!」
そう言うと、柚はバックの中からノートPCを取り出すと地面に置き、画面に円陣を表示させた。そして真っ赤なロウソクと短剣を取り出し、手慣れた様子で儀式の準備をする。
「後悔しやがれっ!」
不敵な笑みを浮かべると、その場に膝を着き、ブツブツと唱え始める。その光景は何とも不気味だがシュールだ。
「我が力よ示せ!この者に災いを!」
最後に大声で叫び、手にした短剣を地面に突き刺した。しばらくはその体勢がずっと続くと、柚はニヤリと笑いながら、雅人を見上げる。
しかし雅人は、両腕を組み退屈そうな顔をして、足を交互に何度も組み変えていた。
「あ・・・あれ?我が力よ示せ!この悪しき眼鏡に災いを!」
再び叫び短剣を突き刺すも、雅人は余裕の表情を浮かべ、柚の目の前に足をワザとらしく突き出して来る。
「我が力はその程度ですか?それとも、即効性は無いとか?私の足は、こんなにもピンピンしていますよ?」
偉そうな態度で言って来る雅人に、柚は睨み付けながら、何度も何度も「示せ!」と叫び短剣を、コンクリートに突き刺し続ける。その姿は余りに痛々しく、見るに耐えかねた祐一郎は、座り込む柚にそっと話し掛けた。
「なぁ・・・もうその辺で止めとけよ。雅人は信じていないんだから、無理だよ。」
「っせーなっ!今丁度この辺まで来てる所なんだよっ!テメェーは邪魔してんじゃねぇーよ!」
半分ムキになっている柚に、雅人は普段の口調に戻し、下らなさそうな顔をさせた。
「あーあ。マジ下らねーの。つか、思い込みってマジ厄介だし。正直俺、下らなさ過ぎてもう付き合ってらんねーや。」
そう言うと、その場に座り込み、一気にやる気を無くしてしまう。
「なっ!下らないだとっ!下らなくねーよ!昔は色んな国の王様だってなー、魔術使って国動かしてたんだぞ!」
「それ位知ってるし。歴史のお勉強?俺進学塾に通ってるし、校内では成績一位なんだけど。」
「ラグナロクが起きれば、歴史は変わるんだぞっ!そしたら、僕の呪いだって解ける筈なんだっ!」
真剣な眼差しで言う柚の言葉を聞き、祐一郎の胸は、一瞬痛んだ。
自分の妄想話のせいで、オカルトマニアだけで済んだかもしれない柚を、ここまで悪化させてしまったのかもしれない。やはり自分に責任が有ると思うと、やり切れない気持ちになってしまう。
祐一郎も地面に正座をして座ると、柚に向かい頭を下げ、土下座をした。
「すまない!アリス!いや・・・柚!全部嘘なんだ!ラグナロクが起きるって言ったのも、皆が選ばれたエージェントだとか、使者だとか、敵組織が居るって言うのも、全部俺の作り話で、嘘なんだ!」
「は?何だよ今更・・・。テメェーは裏切り者だろーが!」
今度は祐一郎を睨みつけて言うと、祐一郎はゆっくりと顔を上げ、真剣な顔付きで柚に言った。
「聞いてくれ。俺も初めは、本気で信じていた。自分の抱いた妄想に。でも本物の死体を見て気付いたんだ。馬鹿げてるって!柚は本物の死体、見た事有るか?魔術で動物の血とか使ってるのか?」
「はぁー?動物の血位、当然使ってんに決まってんだろっ!死体だって、沢山写真みてっしー。」
「写真と本物は違うよ・・・。写真からは、何の匂いもしないだろ?本物は、すっげぇ臭いんだよ。血生臭いんだ。動物の血の匂いとは、全然違う。葬式で見る様な、綺麗に化粧された死体とも、全然違う・・・。三浦瞳の死体は・・・。」
その後の言葉に詰り、祐一郎はギュッと唇を噛み締めた。そんな祐一郎の変わりに、雅人が柚に言う。
「魔術つってもさ、実際に人間殺して、その血肉使うのも有るワケじゃねー?生贄とかさ。柚は本格的に魔術やるなら、それもするワケ?柚より年下の子供とか、材料にされる事だって有るんだし。つっても魔術の種類に因るけどさ。」
「それはっ・・・。僕のはそう言うのじゃないっ!」
「今の柚の魔術はさ、只のごっこ遊び。召喚魔術つっても、見えなきゃ意味ねーし。柚は幽霊だって見た事ねーだろ?逆に獲って喰われちゃうだけだし。」
「うっせーな!関係ねぇーだろっ!お前等裏切り者なんか・・・関係ねぇーしっ!」
乱暴に短剣を地面に叩き付けながら叫ぶと、グッと唇を噛み俯き、零れて来そうな涙を堪えた。
祐一郎はそっと短剣を拾うと、俯いている柚に差し出す。
「リアルな事言われると、ちょっとは実感湧くだろ?俺なんかリアルな死体見ちゃってさ。マジビビっちゃって・・・。世界が変わって見えたよ。最悪な方に。警察には尋問されるしで。こんなんなら、夢から覚めなきゃよかったって思ったけど、覚めてから分かる事も沢山有ったよ。俺の事本気で心配してくれてる、親や友達が居るんだなって分かって、少しありがたく思ったよ。本当、自分は馬鹿な妄想抱いてたなって。でも妄想抱くのって、別に悪い事じゃないんじゃないかな?雅人が言ってたよ。息抜きには丁度いい遊びだってさ。」
「僕はまだ・・・夢から覚めたくないんだ。夢から覚めたく・・・。」
震えた声で柚は言うと、自然と一筋の涙が頬を伝う。
「覚めたら・・・この体が呪いのせいじゃ無くなると・・・。また笑われる。また・・・馬鹿にされる・・・。」
「柚?」
柚は乱暴に祐一郎の手から短剣を払い除けると、顔を上げ、泣きながら叫んだ。
「何でだよ?何で急に、ラグナロクは来ないなんて言うんだよっ!嘘だって言ってくんだよっ!ラグナロクが来て全てが変われば、僕の体だって変わってくれると思ってたのに・・・。信じてたのに・・・。嘘吐きっ!期待させやがってっ!」
「ごめん・・・。本当、ごめん。」
祐一郎は顔を俯けると、只謝る事しか出来ない。
「テメェーが言ったんじゃねぇーかっ!世界が変わるって!それ見て・・・僕は嬉しかったのに・・・。言い出しっぺのテメェーが夢から覚めてんじゃねーよっ!何現実見てんだよっ?夢から覚めたきゃ、一人で覚めてりゃいーだろっ!人を巻き込むなよっ!」
「柚が変わって欲しかったのは、自分の体じゃなくて、自分の周りの奴等なんじゃねーの?」
雅人に図星を突かれ、柚の体はその場に固まると、ポタポタと涙だけが零れ落ちた。
「柚はさ、何となくは分かってたんじゃねー?半信半疑ってヤツ?本当にそうなって欲しいって言う、願望も有ったんじゃねーの?だから言い出しっぺの祐一郎さんに、嘘だったって言われて、ショックなんだよな。お前エージェントしてる時、マジ楽しそうだったから。」
「うるさい・・・。」
柚は小さな声で呟くと、ギュッとスカートの裾を握り締めた。
「僕は只・・・こう言う格好するのが好きなだけなんだ。可愛い服が好きなだけなんだ・・・。文句あるのかよ。男だから着ちゃいけねーとか・・・男なのに変だとか・・・誰が決めたんだよ。勝手だろ・・・。何で笑うんだよ。だから呪いのせいだって言ってやったんだ。そしたらまた笑うから・・・そいつ等に呪い掛けてやるんだ・・・。」
体を小さく震わせながら小声で言うと、更にスカートの裾を、強く握り締める。
「店の奴等は信じてくれたんだ・・・。呪いのせいだって。だから・・・夢から覚めちゃいけないんだ・・・。店の奴等まで・・・信じてくれなくなる・・・。」
ポタポタと涙を零す柚の頭を、祐一郎はそっと優しく撫でた。
「柚・・・本当にごめん。傷付けるつもりは無かったんだ。本当に、最初は俺だって、信じてたんだし。でも、今はそれ所じゃなくなって・・・。俺だって、今まで通り気にせず皆で、使命だとか言って、楽しくやってたいよ。でも、実際に人に怪我までさせる奴が出て来ちゃったんだ。」
そう言うと、祐一郎はスカートを握り締める柚の手を、上からギュッと強く握り締めた。そして真剣な口調で言う。
「柚は本当に、真理恵先生が怪我した事、嬉しい?会った事もない人だろうけど、真理恵先生は、もうすぐ結婚式が有るんだ。それなのに、足にギブス嵌めてさ。松葉杖突いて、ウェディングドレスを着るハメになっちゃったんだよ。こう言う可愛い洋服着てる柚になら、分かるよね?ウェディングドレス着るの、女の人にとってどれだけ嬉しい事なのか。」
始めて聞いた林真理恵の結婚式の話しに、柚は驚いた顔をしてハッと顔を上げると、涙を流しながら、祐一郎に聞いた。
「結婚式・・・?結婚・・・するの?その人。バージンロード・・・歩くの?」
「うん、そうだよ。サマーウェディングだって、言ってた。」
祐一郎はニッコリと笑うと、柚の瞳からは、ポロポロと大粒の涙が零れた。
「駄目だよっ!駄目だよ駄目だよ!完璧じゃなきゃ駄目だよっ!バージンロード歩く時は、女の子は完璧に綺麗にしなきゃ駄目だよっ!ウェディングドレスは女の子の憧れなんだよっ!それなのにっ・・・駄目だよ!松葉杖なんてみっともないよ!そんなの僕が許さない・・・。」
祐一郎に泣き付きながら叫ぶと、そのままヒクヒクと泣いてしまう。祐一郎と雅人は、お互いに顔を見合わせると、クスリと小さく笑い、柚が泣き止むのを待った。
柚が徐々にと泣き止み、落ち着きを見せると、祐一郎はそっと指で柚の涙を拭う。
「柚、ごめんな。柚の夢壊しちゃって。」
「謝んなよ・・・。本当は自分でもどっかで分かってたんだ。ギルドの言う通り、そんな事起きる訳無いって・・・。僕の願望が・・・有った事位・・・。」
祐一郎は優しい笑顔を見せると、柚の頭を撫でた。
「そっか。でもごめん。俺が変な期待させちゃったんだよね。でも柚は、俺より二つも年下なのに、しっかりしてるよ。俺みたいにガチで信じてた訳でも無くてさ、ちゃんと真理恵先生の事情知ったら、心配してくれて。普通に優しい男の子なんだね。」
柚は恥ずかしそうに祐一郎の手を振り払うと、顔を真っ赤にさせ、ソッポを向いた。
雅人は微かに笑みを浮かべると、改めて柚に尋ねる。
「それで?アリス、貴方の本名は?」
柚はチラリと視線だけ雅人の方に向けると、又視線を戻し、ポツリと答えた。
「本城柚木。」
「柚木・・・あぁ、柚って漢字、ユウとも読むっけ。それで木を取ってユズだったんだ。」
祐一郎が一人で納得をしていると、柚事柚木は小さく頷く。祐一郎の言葉を聞いた雅人は、少し驚いた表情をさせていた。
「祐一郎さんがそんな事知ってるって、意外。」
「それどう言う意味だよ。俺だってそこそこ勉強出来るって言っただろ。」
祐一郎は恨めしそうな顔で雅人を睨むと、柚木同様雅人からソッポを向いてしまう。
「つか、俺等メンバーって仲良しそうな感じで、実際はそうでも無い感じじゃねー。」
少し腹を立てた雅人は、嫌味ったらしく言うも、祐一郎はその意見には賛同してしまう。
「あぁ・・・確かに。チャットとかではすげぇ仲良いけど、実際会ってからは全然違うよな。雅人と柚も、仲良いかと思ってたけどそうじゃないし。俺も雅人嫌いだし。てかよく話す様になって嫌いになったし。ギルドの時も気に入らなかったけど。」
そう言って膨れっ面で雅人の顔を見ると、雅人もムッとした表情をさせ言った。
「俺も祐一郎さんが、想像以上の馬鹿!でビックリしたし。あーあ!柚には糞眼鏡とか思われてるしさー。やっぱ実際素で会って話してみねーと、分かんないワケだよなー。桜さんの事が無ければ、俺絶対今ここに居ないワケだしさ。」
「俺だって、桜さんや真理恵先生の事が無ければ、お前と一緒にここに居ないよ!」
二人が互いに睨み合っていると、柚木が不思議そうに首を傾げて、涙を拭きながら聞いて来た。
「桜さん・・・て、誰?」