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 七月二十六日。『闇の使者エージェント』の初めての会合の日がやって来た。

 午後八時五分前、待ち合わせの駅前に祐一郎は到着をすると、貴志の姿が見えた。珍しく、貴志の方が先に到着をしている。貴志の他に、二人居る。

 一人はツインテールのロリータファッションをした、少女だ。もう一人は、スラリと背が高く、眼鏡を掛けた真面目そうな男子。軽く周りを見渡してみるが、アレンの姿は無い様だ。

「シャノンっちぃ~!」

 貴志は祐一郎の姿に気が付くと、元気よくこちらに向かって手を振って来る。祐一郎は三人の元へと行くと、「珍しいな、お前が先に来ているとは。」と貴志に向かって言った。

「五分前原則っしょ~。」

 嬉しそうに顔をニコニコとさせている貴志の姿を見て、祐一郎は軽く溜息を吐いた。こう言う時に限って、五分前原則を守られても、素直に喜べない。

 呆れた顔をしている祐一郎に、他の二人が挨拶をして来た。

「ハニャロォ~!どうもっ!コードネームアリスちゃんでぇーす。これが噂のシャノン君ですニャ!てか可愛いー!」

 コードネーム『アリス』と名乗る、ロリータファッションをした少女が、元気よく挨拶をすると、祐一郎の顔をマジマジと見た。祐一郎は最後の『可愛い』と言う言葉に、口元を引き攣らせると、コホンッと軽く咳をして、「どうも。」と少し不機嫌そうに言う。

「んで、こっちの眼鏡君が、ギルド君ねー。」

 アリスは隣に立っている男の子を指差すと、彼は眼鏡を軽く指で上持ち上げながら、挨拶をして来た。

「コードネーム、ギルドです。初めまして、は少しお門違いかもしれませんが、敢えて初めまして。先に手柄を取ったからと言って、いい気にならないで下さい。すぐに追い付いてみせますので。」

 コードネーム『ギルド』と名乗る眼鏡の男子は、見た感じのまま、堅物眼鏡のようだが、どこか冷めている癖に自信過剰な感じだ。

「どうも・・・。」

 不貞腐れた顔で、適当に返事をすると、「遅れてすみません。」と後ろから聞き覚えの有る声がした。振り返ると、パタパタと駆け足でこちらに向かって来る、美雪の姿が見える。

 美雪は皆の元まで来ると、軽く息を切らせながら、自己紹介をする。

「初めまして、コードネームマロンです。お待たせしてしまったでしょうか?」

 美雪の姿を見た貴志は、驚きながらも嬉しそうな顔をして言った。

「あっれれぇ~?マロンたんって、高野さんだったんだぁ~!こいつぁ~ビックリだ!あぁ~、シャノンっちも今来た所だから、大丈夫よぉ~。」

「ニャにニャにー?知り合いだったのー?」

 アリスが興味津津で聞くと、美雪は恥ずかしそうに、少し顔を赤くしながら答える。

「あぁ、はい。シャノンさんとジェイドさんとは、同じ高校なんです。シャノンさんは、昨日偶々会ったので、もう私の事は知っているんですが。」

「そうなん?シャノンっちぃ~?」

 顔をニヤニヤとさせながら聞いて来る貴志に、「まぁな・・・。」と祐一郎は、少し戸惑いながら答えた。

 三人が美雪にそれぞれ自己紹介をすると、美雪は各々に丁寧に挨拶をする。そんな美雪の姿を、祐一郎は不可解そうな顔で見つめた。

(何だ?高野さん、昨日とはまるで別人みたいに、またキャラが変わって・・・。同士の前では曝け出すとか言ってた癖に・・・。)

 昨日の明るい美雪とは打って変わり、今日の美雪はやけにお淑やかだ。

 早速全員で、予約をしておいたカラオケboxへと行く。カラオケboxは、駅のすぐ側の場所だ。広い大人数用の室内に入ると、貴志がマイクを握り仕切り始める。

「そっれでわぁ~!記念すべき我等が闇の使者、初会合を始めたいと思いまぁ~すっ!」

 一斉に盛り上がって拍手をする中、祐一郎は両腕を組み、静かに様子を窺った。

「ではではぁ~。まずは詳し~い自己紹介でも、お願いしちゃいましょうかねぇ~。って事でぇ~、アリスたんからっ!」

 貴志はアリスにマイクを向けると、アリスは貴志から奪うようにマイクを手にする。

「はいはーい!一番手っ!アリスいっきまぁーす!普段はメイド喫茶でバイトをする、高校一年生の本城柚ちゃん!しかぁーし!それは仮の姿!その正体は、魅惑のエージェントアリスニャのだぁー!」

 自己紹介を聞いた祐一郎は、驚いた顔をして慌てて言った。

「なっ!本名とかって言っちゃっていいのか?」

「ニャ?だってもう本格始動だから、隠す必要もニャいですよー。」

 首を傾げ、当然のような口調で言って来るアリス事柚に、祐一郎は唖然としてしまう。他の者も、当たり前のような顔をしており、驚いているのは祐一郎一人だけだった。

 祐一郎はコホンッ、と咳を吐くと、「そう言えば、そうだったな。」と慌てて頷く。

 危うく昨夜の計画を、忘れる所だった。いつも通りのフリをして、様子を窺うと言う事を思い出す。

「邪魔をして悪かったな。気にするな、続けろ。」

 凛々しい声で言うと、柚は祐一郎の前にマイクを突き出して来た。

「ニャらば、二番手はシャノン君で!」

 祐一郎は戸惑いつつも、マイクを受け取ると、今まで通りの中二病口調で自己紹介をした。

「俺は高校三年、松田祐一郎として仮の生活を送り続けていた。だがその正体は、使命に恐れを為し、逃げ出した臆病者の父の跡を継いだ、勇敢なるエージェントシャノンだ!」

 堂々とした態度で言い放つと、「おぉ~!」と周りからは拍手が零れる。

(完璧だ!俺!そして何だ・・・この懐かしい感覚は・・・。物凄くいい気分だ!)

 自分の中で謎の感動をすると、グッと拳を握りガッツポーズを小さくした。

 手にしたマイクを隣に居た美雪に無言で渡すと、美雪はそっとマイクを受け取り、次は美雪が自己紹介をする。

「えっと・・・。私は高校三年生の、高野美雪と言います。ご存じの通り、シャノンさんとジェイドさんとは、同じ高校の同級生ですが、正体を隠し続けてきました。本日を持って、その正体を明かします。私は神秘のエージェントマロンです。」

 そう言うと、ゆっくりと深くお辞儀をする。パチパチと拍手が鳴る中、マイクをギルドに手渡した。

「私の名は、立花雅人。高校二年生で、普段は進学塾へと通う仮の生活を送っていました。しかしそれは、私が研究の為の知識を備える為。本来の姿は、科学者エージェントギルドです。そこに居るアリスとは、私の通う塾とアリスのバイト先が近く、同じ力に導かれ知り合いました。」

 ギルド事雅人は、眼鏡をクイッと持ち上げると、マイクをクルリと一回転させ、貴志へと渡す。貴志は勢いよくマイクを掴むと、元気な声で言って来た。

「ほいほぉ~い!大トリを務めますぅ~俺っちはぁ!川島貴志高校三年生!シャノンっちとマロンたんと同高でぇ、アリスたんのファンで~つ!しかぁ~しぃ?その正体は忍びのエージェンツっ!ジェイドお~!」

 パチパチと拍手が鳴ると、「ありがとう~!ありがとぉー!」と、貴志は両手を上げて叫んだ。そして手にしたマイクを、マイクスタンドに戻すと、パンパンッと二回手を叩いた。

「そんではぁ、早速だけど本題入っちゃっていいかなぁ~?」

「はーい!いいでぇーす!」

 元気よく柚が返事をすると、「オッケェー!」と貴志はテーブルの上に、柚が持って来た大きな円陣の描かれた、紙を広げた。

「じゃ、皆座って座ってぇ~。」

 円陣を囲むように、全員が座ると、貴志は隣に座る祐一郎の肩を、ポンッと叩いた。

「ではまずぅ、シャノンっちの活躍に拍手っ!」

 そう言うと、全員は一斉に拍手をする。

「えっとぉ~、六人目のエージェントのアレンたんが、無事現れました~。そしてシャノンっちと一緒に、敵組織の重役を一人抹殺っ!ここまでは、皆分かるかなぁ~?」

 幼稚園の先生の様に簡単に説明をすると、全員頷き、それぞれの意見を言い始める。

「誘導チームリーダー、三浦瞳ですね。シャノンも危うかったと聞きましたが?」

「そこはアレンちゃんが、ズバズバーってやっつけちゃったんだよねー。」

「六人目のエージェント、アレンさんは特殊エージェントと聞きましたが、直接会ったのはシャノンさんだけですね。どんな方だったんですか?」

 美雪に振られ、祐一郎は一瞬体が跳ね上がるも、冷静な表情をさせ答えた。

「プロの暗殺者だと言っていた。確かに、彼女の目は氷の様に冷たかったのを覚えている。敵に回れば厄介だが、味方として、とても心強い。」

「ニャる程ー!とう事は、他の敵組織重要人物も、アレンちゃんが颯爽とやっちゃってくれるねー。」

「我々には七人目を見付け出せと命じていましたね。アレンは七人目の情報を、何か掴んではいないのですか?シャノン。」

 今度は雅人に振られてしまう。

「あぁ、七人目の事はまだ何も言っていなかった。だが敵組織の全貌は、概ね分かったと言っていた。」

「おぉ~敵組織の全貌っつ~ことはぁ、ラグナロクを引き起こそうとしてる方法も、分かっちったのかなぁ~?」

「俺もそこまでは詳しく聞いてはいない。アレンも立場上、まだ極秘に動かなければならない事があるのだろう。」

「もしやっ!他の敵組織重要人物も、発見したとかだったりしニャすかー?」

「それは・・・俺は深くアレンと語ってはいないからな。我等で探す必要も有るだろう。」

 次から次へと祐一郎は話を振られ、困惑してしまう。様子を見ようとしていたにも関わらず、話しは自分中心に進んでいる様に思え、何とか流れを変えなければと思った。

「そんな事より、三浦瞳について、皆に聞きたい事がある。彼女は死を遂げたが、ニュースでも報道をされている。公の場に知られるのは、少し不味いんじゃないのか?」

 さり気なく話をすり替えると、他の者達は意外にも喰い付いて来た。

「確かに、それは一理有りますね。我々はまだ七人目を見付けていない以上、本格始動とは言え、目立つ行為は避けた方が賢明。敵を下手に刺激するだけになりかねません。」

 眼鏡に手を掛けながら、真剣な表情で言う雅人に、祐一郎は少し引いてしまう。三浦瞳の死には全く触れず、敵組織の動きを心配するだけだ。

「ですが、敢えて晒す事によって、敵組織を動揺させる事が出来るかもしれませんよ。私達の力を示す為にも、いいかと。」

 美雪は雅人とは逆の意見を言うも、重点を置く部分は同じだ。

「ん~・・・俺っちはよく分かんね~やぁ~。取りあえず、敵は皆やっつけちゃえばいいんっしょ?そんでいいじゃぁ~ん!」

「七人目が見付かるのも、時間の問題かニャー?って思うから、アリスちゃんはガンガン攻撃しちゃえばいいと思う!あーでも敵組織に先に七人目見付けられちゃったら、ちょっとヤバ目って感じかニャー?」

 貴志に至っては、相変わらず能天気な事を言っているが、柚は七人目の方が気掛かりの様だ。

 祐一郎は、質問が不味かったか?と思うと、直球に聞いてみる事にした。

「では、三浦瞳の死については、どう思う?」

 すると突然、皆一気にテンションが上がり始めてしまう。

「そりゃもースカッと痛快だニャのだー!ニャんてったって、初の敵抹殺だったしー!もう興奮しまくりニャのだー!」

「確かに、痛快でしたね。中々尻尾を掴ませない敵組織でしたので、ようやくこちらに運が回って来ましたよ。」

「あぁ~もうアレンたんの報告見た時、俺超~テンションマックスでぇ、ヤバかったよぉ~!」

「誘導チームリーダーなので、早いうちに抹殺されて本当よかったと思います。敵組織の人員が増えれば、こちらが不利になるので。アレンさんとシャノンさんのお陰ですね。」

「なっ・・・。」

 嬉しそうにハシャグ皆の姿を見て、祐一郎の顔は一気に引き攣ってしまう。

(マジかよこいつ等・・・。ガチで喜んでやがる。本当に死んでるって言うのに・・・頭おかしいんじゃないのか?狂ってる・・・正気じゃねーよ・・・。)

 一気に引いてしまうと、改めて自分は普通だと痛感し、どこかで安心する。しかし昨日美雪が言っていた様に、ネタとして楽しんでいるだけかもしれない、と思い、祐一郎は当初の計画にあった、爆弾発言をしようと決意した。

「よしっ!ならば一旦静まれ!」

 大声で言うと、周りは不思議そうな表情を浮かべながら、黙り始めた。祐一郎はコホンッ、と軽く咳を吐いてから、「提案が有る。」と話し始める。

「例えアレンがプロの暗殺エージェントと言っても、一人では数が多いと思う。その間大きな動きをされたら困る。そこで、我等も敵組織重要人物を各々が始末する、と言うのはどうだ?」

(フフフ・・・流石俺!自ら手を汚すとなると、流石に引くだろう!)

 祐一郎はニヤリを笑うと、自分のナイスアイデアに酔い痴れる。しかし返って来た回答は、祐一郎の期待を裏切る物だった。

「それはいい提案ですね。確かにアレンさん一人に任せてばかりでは、大変でしょうし。」

 パンッと手を叩きながら、笑顔を浮かべる美雪に、祐一郎の口はパックリと開いてしまう。

「確かに、アレンが他の人物に気を取られている間、他の人物が何らかのアクションを起こす可能性もありますね。七人目を先に見つけられてしまう危険性も。私も遅れを取ったままでは、悔しいですし。」

「とニャると、アレンちゃんとの通信手段を確保する事も、必須うだと思うかニャー?情報交換は大事ニャので!」

 雅人と柚まで、ノリノリで言い出してしまうと、祐一郎の額にはジワリと冷や汗が浮き上がる。

「その・・・分かっているのか?自らの手を、血で染め上げる事になるのだぞ!へっ平気か?」

「それは何れ、嫌でもそうなってしまいますよ。ラグナロクが起きれば、多くの血が流れますから。」

 笑顔で答える美雪に、祐一郎の口元は思い切り引き攣ってしまう。

(落ち着け・・・落ち着け・・・。きっとリアリティが無いから駄目なんだ・・・。)

 心の中で、何度も落ち着くよう自分に言い聞かせると、引き攣った口元を笑顔へと変えた。

「そうか・・・皆いい志だ。」

 歪な笑顔を見せると、冷や汗が流れ落ちる。

「はいはぁ~い!先生っ!それはいいんだけどぉ~。その重要人物ってーのが、誰だが分かんなくね?」

 手を挙げながら言って来る貴志の言葉を聞き、祐一郎はとっさにいいアイデアが浮かぶ。

「そうだっ!その重要人物だが、何人かは分かっている。俺の知る内では、二人だ。他にお前達の身近な人物で、怪しい奴は思い浮かばないか?」

「おぉ~流石シャノンっち!二人もゲッツしてたんだぁ~!」

「それで、シャノンの知る重要人物とは?」

 雅人に聞かれ、一瞬祐一郎は固まるも、「一人は佐久間洋助だ。」と、とっさに思い付いた名前を口にした。

「佐久間洋助ってぇ、俺等と同じ高校のぉ~?」

 首を傾げながら貴志が言うと、祐一郎は何度も大きく頷く。すると名前を聞いた雅人は、少し考え込み始めると、小さく頷き納得をする。

「確かに、奴は怪しいとは思っていたが・・・やはりそうですか。」

「ギルドさんも、佐久間洋助の事を知ってるんですか?」

 不思議そうに美雪が尋ねると、雅人はまた小さく頷く。

「奴とは同じ塾に通っています。成程、私に負けず劣らず優秀で、怪しいとは思っていましたが・・・。敵組織の科学者でしたか。」

 とっさに口から出た名前だったが、思いもよらず、雅人は佐久間洋助と面識が有る様だった。祐一郎は小さくガッツポーズをすると、得意気な顔をして言う。

「よし、ならば佐久間洋助の抹殺は、ギルドの役目だ。」

「同じ科学者同士の対決、と言う訳ですか。面白い、いいでしょう。」

 そう言うと、雅人は眼鏡をクイッと持ち上げ、微かに笑みを浮かべる。

「んでぇ~、もう一人はぁ?」

「へぇ?」

 今度は貴志に聞かれ、思わず声が裏返ってしまった。しかしまた、コホンッと軽く咳を吐くと、「林真理恵。」とだけ一言言う。

「ってぇ~真理恵先生?俺等の担任じゃぁ~ん。」

「あぁ・・・えっと・・・。あの女は、敵組織の偉大な魔女なのだ!俺とジェイドを監視する為に、担任として入り込んだのだ。」

「林真理恵と言えば、私が二年生の時の担任でも有りました。なら、二年の時は私を監視していたんですね。」

 ここでもやはり、思わぬ共通点を見付け、祐一郎は嬉しそうな顔をさせた。

「そうだっ!よし、ならば林真理恵は、ジェイドかマロン、どちらかが抹殺しろ。」

 凛々しく言い放つと、二人は「了解です。」と笑顔で返事をする。

 と、四人が話しをしている間、ずっと何か考え事をしていた柚が、突然勢いよく手を挙げた。

「はいっ!居たぁー!」

「え?居たって?」

 慌てて柚の方を見ると、柚は真剣な表情で、祐一郎に言って来る。

「シャノン君!実は最近ずっと、バイト帰りにアリスちゃんの事付けて来る、謎の巨漢男が居たのです!ニャんと実は敵組織の重要人物だったとわっ!」

「付けて来るって、後を?」

 柚は大きく頷く。

(いや・・・それってストーカーとかじゃ・・・。バイト帰りだし・・・メイド喫茶だし・・・。)

 そう思うも、これは都合がいいと思い、「そいつに間違いない。」と言った。

「ならばアリスは、その巨漢男を抹殺しろ。」

 祐一郎はビシッ、とアリスを指差しながら言うと、アリスは「イエッサー!」と大きな声で返事をする。

 取りあえずは、それぞれ身近な人物の抹殺命令を下したが、このままでは只の口だけ約束になってしまう。それではリアリティが足りないと思い、祐一郎は付け加えるように、全員に言った。

「よし。それぞれ抹殺したら、確認する為に死体を写真で撮り掲示板に載せろ。確実な死を見なければ、安心出来ないからな。」

(よしっ!これは流石に引くだろう!)

 そう思うも、皆の返事は意気込んでいた。

「了解でぇ~す!」

「確かに、他のエージェントに示す為には必要ですね。」

「了解ニャりー!」

「分かりました。」

 誰一人引かない事に、祐一郎は唖然としてしまう。

「えっと・・・。本当に殺すんだからな!分かってるのか?人殺しをするんだぞ?」

 しつこい位に念を押すも、全員真剣な顔で頷く。祐一郎は軽く後退りをすると、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

(ヤバい!ヤバイヤバイヤバイ!こいつ等マジだ!マジで殺す気だ!何とかしないと!)

 本当に今名前が出た人達が、殺されてしまいそうで、祐一郎は心の中で焦りまくる。何とか路線変更をしなければと、必死で頭をフル回転させ考えた。

「ちょ・・・ちょっと待て!やっぱり少し作戦を変更する!」

「作戦コード変更うー?どおしてニャのだー?」

 柚に聞かれるも、未だいい案が思い浮かばずにいる。すると助け舟を出すかのように、貴志が思い出し言って来た。

「あぁ~あのニュース報道とかってヤツ~?まだ意見真っ二つに分かれたまんまだったしねぇ。」

「そっ、そうだ!それだ!だからその・・・。そうっ!いきなり暗殺ではなく、軽く脅す程度にした方がいいんじゃないかと思って!その方が敵も恐れるだろう!」

「ニャる程ー!いつでもやろうと思えばやれるぜぇーって事を、分からせちゃうって作戦ねー!」

「そうですね。こちらの力を敵に纏めて見せてしまうのも、不利ですしね。」

 納得をする様子を見て、祐一郎はホッと肩を撫で下ろした。

「ならばシャノン、どの程度脅せば?こちらの手の内を全て曝け出さない程度として、やはり姿を見せずに・・・と言うのが妥当だとは思いますが。どんな攻撃を?」

 具体的な事を雅人に聞かれると、祐一郎は再び困り果ててしまう。

「えっと・・・。ペイントボールを投げ付ける・・・とか?」

 適当に思い付いた事を言うと、ハハハ――― 。と苦笑いをした。

「それじゃガキの悪戯じゃぁ~ん!でも面白そうだから俺オッケェー!」

 賛同する貴志に、祐一郎は少し安心する。しかし、他の者は不満の様だ。

「それだけでは、流石に脅しとは・・・。やっぱり、歩けなくなる位が丁度いいと思います。」

「もっとこードッカァーン!的な事の方がいいんじゃニャいかニャー?ドアを開けたら、ドッカーンってニャるとかー。」

「え・・・いやでも・・・。」

「アリスの提案では、そのまま粉々になってしまいますよ。マロンの提案は悪くは有りませんね。それぞれが思ういい方法で、と言うのはどうでしょう?シャノン。」

「え・・・いやだから・・・。」

 祐一郎は言葉に詰ってしまうと、オドオドと周りを見渡す。皆の視線は、一斉に祐一郎に向けられている。祐一郎は頭を抱えると、自分でもどうしたらいいのか分からなくなり、自棄糞で叫んだ。

「呪いだ!元々魔術って設定なんだから、呪いの魔術かなんかでやれよ!目の前に魔方陣広げてるだろ!それでやればいいだろ!直接怪我させるとかって、そんな犯罪出来るかよ!」

 叫び終えた後、祐一郎はハッと我に返り、自分の発言の失態に気付いた。

(しまった・・・。設定とか犯罪とか・・・。こいつ等マジで信じてるっぽいのに、そんな事言ったら・・・。)

 恐る恐る頭から手を退かし、周りを見渡す。すると周りは一斉に静まり返り、皆無表情で祐一郎を見つめていた。

「いや・・・違っ・・・。」

 慌てて言い訳をしようとするも、静まり返った室内が恐ろしく感じ、言葉が出て来ない。祐一郎の頬を、汗が伝う。

「シャノン君・・・。」

 柚がポツリと言った瞬間、祐一郎の体中に恐怖が襲い掛かり、とっさに部屋から飛び出し、逃げ出した。

「ニャイスアイデアだと思ったのに・・・魔術。」

 呆けた顔で柚が言うと、突然慌てて部屋から出て行った祐一郎の姿に、皆首を傾げた。


 部屋から出て、カラオケboxの外へと一直線に走って行った祐一郎は、ゼェゼェと息を切らしながら、胸に手を当てた。ドクドクと鼓動が高鳴る音がする。走ったせいもあるが、きっとそれだけでは無い。

「ヤベェよ・・・。裏切り者とか、スパイとか思われたかも・・・。」

 ゆっくりと後ろを振り返るも、誰も追っては来ていない様だ。ホッと安心をするも、このままでは不味いと思ってしまう。

 柚と雅人の心意は結局ハッキリと分からなかったが、あの様子だと他の者達同様、本気で信じている様子だ。何とか目を覚まさせてやらなければならないと言うのに、何も出来ず、今更戻る訳にもいかない。

「どうしよう・・・。取りあえず帰るしかないよな。この後どうなったかは・・・貴志にでも電話して聞けばいいか。貴志なら、俺を疑ったりはしないだろうし・・・。」

 祐一郎は首を落とすと、家へと帰る事にした。

 トボトボと地下鉄のホームへと向かい歩いていると、電車が到着をするアナウンスが聞こえて来た。丁度祐一郎が乗る電車だ。急いで階段を駆け降りると、電車は丁度到着をする。電車に乗り込み、数回深呼吸をすると、乱れた息を整えた。

 ゆっくりと電車が動き出すと、ドアに凭れ掛った。何だかドッと疲れが襲って来た様な気がして、体が重い。

 今日はもう早く寝て、貴志には明日電話をしよう―――― 。と思いながら、ボーと反対側のホームを見つめていると、一瞬見覚えの有る姿が、目に映った。

「アレンッ!」

 慌てて振り返ると、確かにその姿はアレンだった。隣にもう一人居るが、顔がよく見えない。

「何でここに居るんだよ・・・。」

 ドアに張り付いて見るも、ホームはどんどんと遠ざかって行く。やがて反対側の線路を電車が通り過ぎると、車両が全て通り過ぎた頃には、ホームは見えなくなってしまっていた。

 ガタガタと電車に揺られる中、祐一郎の鼓動はドクドクと高鳴る。

「まさか・・・監視してたんじゃ・・・。でももう一人誰か居たし・・・。偶然・・・だよな・・・?」

 祐一郎はギュッと胸元を押さえ付けると、「考え過ぎだ。」と、何度も自分に言い聞かせた。



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