表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

 祐一郎は目の前で笑う貴志が、全く知らない他人の様に見えた。始めて見る、祐一郎の知らない貴志の顔。隠された素顔。友達だと思っていた貴志に、思いもよらぬ言葉を言われ、祐一郎はショックと驚きで愕然としてしまう。それと同時に、怒りが込み上げて来た。

「じゃぁ・・・俺の事カラカウ為に、関係無い桜さんや、真理恵先生を?」

 声を震わせながらに聞くと、貴志は可笑しそうに話して来る。

「あぁ~。桜さん元演劇部っつってたし、まっつぁんの事タイプそうだったからさぁ~。そんでお願いしたら、案の定即効オッケェーっつーしぃ。あの性格じゃん?変なメール届いたら、パニくって絶対まっつぁんの所行くと思ったら、その通りでさぁ~!もう傑作!」

「そんな・・・酷い。」

 桜は思わず手で口を覆うと、ジワリと涙を滲ませた。お陰で散々怖い思いをしたと言うのに、目の前の貴志は楽しそうに話している。桜も祐一郎同様、ショックを受けてしまう。

「でもちょっと意外だったよぉ~。まっつぁんビビって、オフ会来ないかもとか思ってたからさぁ~。しかもまだシャノン演じちゃって!そんで佐久間や真理恵先生の名前出すからさぁ~。またいいネタ見っけぇ~って思って。お陰で俺の計画も続行出来たしさぁ~。」

「計画って言うのが、桜さんにあのネカフェから、メールを送り付けるって事なワケだ。」

 付け加える様に雅人が言うと、貴志は嬉しそうに、パチパチと拍手をし出した。

「そうそう!流石佐久間並の頭のギルド君だねぇ~。帰ったフリして別の部屋入って、桜さんにバゼルフだってメール送ったんだよぉ~!まっつぁんには嘘の時間言っとけば、まっつぁん単純馬鹿だから、信じて他の奴に聞いたりしないだろうなぁ~って思ってたのに。ここで言うかなぁ~?」

 そう言うと、ワザとらしく大きな溜息を吐いて見せた。

 話を聞いていた柚木は、不思議そうに雅人に尋ねる。

「うニャニャ?二次会のネカフェに留まっていたのは、マロンちゃんじゃニャく、ジェイド君だったと言う事?」

「そう言う事。あの店を選んだのは貴志さんだし。貴志さんはきっと予め、別の部屋も予約もして有った筈だよ。それに常連客だろうね。だから下手に怪しまれない。それでもしかしてって思ったワケだけど・・・。当たりだったワケか。」

 すると貴志は、またもパチパチと、楽しそうに拍手をする。

「ブラボーブラボー!流石はギルドっちだねぇ~!」

 楽しそうに笑う貴志に、祐一郎は込み上げる怒りを押さえるよう、グッと拳を握り込んで聞いた。

「じゃぁ・・・真理恵先生も・・・。お前が?」

 貴志はピタリと拍手をするのを止めると、ハッと鼻で笑った。

「だったら何?あいつ人の事馬鹿にして、ムカついてたし、丁度いいじゃんって思ってさぁ~。ほら、リアリティーだよ、リアリティー!まっつぁんが出した名前の奴が、実際何か起きたら、面白くなるだろうなって思ってさぁ。ちょっと軽く背中押してやったら、下まで転がり落ちてんの!マジ傑作だったしスッキリしたよ~。アハハッ!」

 祐一郎はギュッと唇を噛み締めると、可笑しそうに笑う貴志を、鋭い目付きで睨み付けた。

「そのせいで、先生大怪我したってーのに!何笑ってんだよ!結婚式前だったって言うのにっ!人に怪我させて何が可笑しい!」

「そうだよっ!真理恵先生の言い方は、親しみ込めて言ってるだけなんだよっ!上官は決して、訓練生を馬鹿にする事なんて、一度も無かったのでありますよっ!」

 祐一郎に続いて美雪も叫ぶと、貴志は下らなさそうに、地面に唾を吐き捨てた。

「バッカじゃねぇ~?何熱くなっちゃってんだか?別に死んだ訳じゃないから、いいじゃん。」

 貴志の言葉を聞き、祐一郎はカッとなり、貴志に殴り掛かろうとした。透かさず雅人が祐一郎の体を掴み止めると、雅人は冷静な態度で言う。

「美雪さんにメールをしたのも、アンタだよね?美雪さんに七人目としてメールを送ってから、祐一郎さんに電話を掛けて林真理恵の事を知らせた。すぐに知る事が出来たのは、林真理恵に何が有ったか知ってる、犯人だからって事なワケでいい?」

「そりゃそうっしょ~。俺が突き飛ばしてやったんだからさぁ~。高野さんのメアドも知ってるしさぁ~。何当たり前の事聞いちゃってんの?」

 鼻で笑う貴志に、雅人も鼻で笑い返した。

「それ、自供したって事になるけど?いいワケね。」

「はぁ~?何言っちゃってんだか。俺のアリバイ完璧だし!携帯ももう解約したしさぁ。」

「あぁ、桜さんにメール送る為の、フリーメールのID取得用の携帯ね。」

「別に桜さんだけじゃねぇ~し。高野さんにも送ってるしさぁ~。もうIDも全部消去したから、余裕だけどねぇ~。」

 ヘラヘラと笑う貴志に、祐一郎は雅人に抑えられたまま叫んだ。

「余裕って何だよ?自分は捕まらないからいいとか思ってんのか?他の人沢山傷付けといて、呑気に過ごそうってーのか?」

「祐一郎さん、ちょっと落ち着いて―――― 。」

 祐一郎は、無理やり雅人の体を振り払うと、前へと突き進んだ。一歩一歩足を力強く踏み出すと、溜め込んだ怒りを爆発させるように、貴志に向けて怒鳴り付ける。

「お前のせいで、どんだけの人が傷付いたと思ってんだよっ!桜さんや真理恵先生だけじゃない!柚や高野さんまで!楽しく過ごし続けたかっただけの柚は、無理やり夢から覚めさせられて!高野さんにだって、変な期待持たせて!俺をカラカイたいなら、俺だけにすればいいだろっ!何関係無い人達まで巻き込んで迷惑かけて、ヘラヘラ笑ってんだよっ!友達だと思ってたのに・・・。友達だってっ!」

 祐一郎はそのまま顔を俯けると、込み上げる怒りと同時に、涙が溢れ出して来た。

 今まで一緒に過ごし、友達だと思っていたのに、裏切られたと思い、胸が張り裂けそうだ。裏切り者!裏切り者!裏切り者!何度も心の中で叫ぶと、こんな最低な奴だとは思わなかった――――― 。と、友達で有った事を後悔する。そして何より、下らない妄想にばかり気を取られ、貴志の本性を見抜けなかった自分が、情けなくて仕方なかった。

 貴志はまた白けた表情をさせると、素っ気ない口調で言い始める。

「はぁ~?てかさ~お前等中二病の奴等だって、周りに迷惑掛けてんじゃん。マジお前の妄想話に付き合うの、大変だったんだけど。いい歳して何言ってんだか。馬鹿らしくて笑えもしねーし。ダッセェーの。揃いも揃ってガキみたいな妄想抱いちゃってさぁ~。お前等頭オカシイんじゃねー?中二病拗らすと厄介って、マジだよなぁ~!面倒くせぇ~し。」

 そしてケラケラと笑うと、その場に居た者達は、一斉に黙り込んでしまった。

 シン――― とその場が静まり返ると、貴志の笑い声だけが響く。只無言で皆貴志を睨み付けていると、祐一郎はゆっくりと口を開いた。

「中二病で何が悪い。」

 祐一郎は低い声で、小さく言うと、ゆっくりと顔を上げた。一筋の涙が頬を伝うと、乱暴に腕で拭い、ギュッと右手の拳を、深く握り込む。

「中二病で何が悪い?ただ自分達の中で、妄想抱いて楽しんでるだけだろーが。馬鹿らしいんなら無視すりゃいいだろ。相手にしなきゃいいだろ。中二病だからって、そんなに誰かに迷惑かけてんのか?誰かに怪我させてんのか?誰かを傷付けてんのか?違うだろ。一番人に迷惑かけて、面倒臭いのはなぁ・・・。」

 そう言うと、握り込んだ拳を、大きく後ろに振り翳し、笑う貴志を目掛けて走り出した。

「お前みたいなDQNなんだよおおおおぉぉ――――――――!」

 叫び声と共に、拳を貴志の顔目掛け、前へと打ち込む。勢いの付いた拳は、貴志の顔面を思いっ切り殴り付けると、貴志はその反動で後ろへと倒れ込んだ。

 祐一郎はハァハァと息を切らせると、前に突き出した拳をそっと胸元へと戻し、左手で摩った。

「人を傷付けるのは、こんなにも痛いんだよ・・・。」

 拳をギュッと胸元で握り締めると、ゆっくりと後ろに下がり、顔を俯かせる。雅人はそっと祐一郎の元へと寄ると、肩をポンッと軽く叩いた。

「流石リーダー。皆の気持ちを代表した一撃は、見事だったし。」

 柔らかい笑顔を見せる雅人に、祐一郎は泣きそうな顔を必死に堪え、同じ様に笑顔を見せた。

 雅人は倒れ込み、痛そうに鼻を押さえている貴志を睨み付けると、厳しい口調で言い放つ。

「警察には通報しておいたからな。せっかく決まった進路も、これでパアだな。DQNの馬鹿げた遊びのせいで。」

 貴志は鼻を押さえたまま、下らなさそうに笑いながら言う。

「はぁ?証拠も無いし。何無意味な事してんだか~。」

「所がドッコイー!証拠は有るのだニャー!証拠はアリスちゃんが握っているのだっ!」

 柚木は腰に手を当て、偉そうな態度で言うと、雅人はニヤリと笑った。

「アンタさっき自供したし。それ、ちゃんと全部録音に録画もさせて貰ったから。柚に頼んどいたワケ。」

「そう言う事ニャり!ついでに削除し忘れてるID発見してるしー。警察介入で出所調べられたらー一発ニャりよっ!DQNがやりそうなミスー!」

「なっ・・・テメェーそれ消せよぉ!」

 貴志は慌てて立ち上がると、柚木目掛け走り出し、拳を柚木に突き立てた。しかし、拳が柚木に届く前に、柚木の猛烈なキックが貴志の腹にドカッと入る。貴志はお腹を抱えると、その場に蹲り座り込んでしまう。

「な・・・おまぇ・・・。女の癖に・・・。」

 苦しそうにお腹を抱えて言うと、柚木は足元で蹲る貴志の顔を、更に足で思いっ切り蹴飛ばす。

「誰がテメェーのヘナチョコパンチなんか喰らうかよっ!馬鹿がっ!とっくに自宅のパソコンに転送してあんだよ!どっちが頭わりぃーんだか!」

 男口調で柚木が言うと、貴志は唖然としてしまう。

「そうか・・・貴志は柚が男だって知らないから、油断したのか。」

 祐一郎がハッと気が付くと、雅人は口元をニヤケさせ、頷いた。

「そう言う事。だから予め、柚に頼んどいたワケ。ま、犯人が美雪さんだった場合も考えて、美雪さんの時も録音して有るけど、それは削除だな。」

「おぉ!何と本城さんは、本城君だったのでありますかっ!これはわたくしめも、一本取られましたのであります!」

 美雪もその事実には驚き、口をパクパクと開いている。

 貴志はお腹の痛みを堪えて立ち上がると、急いでその場から走り出し、逃げて行こうとした。祐一郎は、慌ててその後を追い掛けようとする。

「待て!逃げるのか!」

「祐一郎君、放っておきなさい。」

 とっさに桜が祐一郎を止めると、貴志は屋上から出て行き、逃げて行ってしまった。

「桜さん!いいの?あいつきっと、家に帰ってID削除するつもりだよ!」

「大丈夫よ。私がさっき、あいつのお姉さんにメールしといたから。家に帰って来たら、縛り付けて部屋にも入れず、外にも出すなって。すっごく悪い事したからって。知ってる?あいつのお姉さん、怒るとめちゃくちゃ怖いんだから。」

 そう言ってニッコリと笑うと、祐一郎はホッと肩を撫で下ろした。

「何だ・・・。俺が一人で頭に血ー上ってる時、皆冷静に色々やってたんだ。」

 一人だけ熱くなっていた様に思え、恥ずかしそうに祐一郎は頭を掻き毟る。すると美雪が、祐一郎の目の前までやって来ると、ニッコリと満遍無い笑みで言って来た。

「違うよ。松田君が、皆の為に怒ってくれていたから、皆は冷静に他の事が出来たんだよ。松田君は、皆の気持ちや傷付けられた人達の気持ちを、全部纏めて、あの堕落兵を痛め付けてくれたのであります!そんな大佐に―――― 敬礼っ!」

 そう言うと、美雪はビシッと敬礼をした。すると他の者達も、祐一郎に向けて、敬礼をし出す。

 祐一郎は照れ臭そうな表情を浮かべるも、敬礼をする皆に向かい、同じ様にビシッと、敬礼をやり返した。そしてゆっくりと敬礼をした手を下ろすと、小さく深呼吸をする。

「よしっ!本日この日を持って、ジェイドは裏切り者と見なし、追放した!」

 大きな声で祐一郎が言うと、皆は一斉に、嬉しそうに拍手をした。

「そしてこの時を持って、『闇の使者エージェント』は解散をするっ!」

 祐一郎が再び大声を上げ、解散宣言をすると、それまで嬉しそうに拍手をしていた皆の顔は沈み始め、拍手も徐々にと止んで行った。

「ま、それが妥当だろうな。仕方ないワケか。」

 雅人が眼鏡に手を掛けながら言うと、柚木は駄々を捏ねる様に言った。

「ニャんでー!いいじゃんいいじゃんー!ニャにが妥当ニャのぉー?追放したならいいじゃんー!」

「私も、少し寂しいであります。が・・・大佐がそう決断するなら・・・。」

 そう言いながらも、美雪は悲しそうな表情を浮かべる。すると祐一郎は、ニッコリと笑顔を見せ、「話は最後まで聞きましょう!」と得意気に言う。

「この時を持って、『闇の使者エージェント』は解散する!そして、現時点を持って新たに、悪しき者から人々を救い、謎めく事件を解き明かす!『光の十字団』をここに結成するっ!異論は無いな?」

 一瞬シンッとし、お互いに顔を見合わせると、真っ先に柚木が大きな返事をした。

「ニャいで―――― すっ!」

 嬉しそうに祐一郎に抱き付くと、祐一郎の顔は軽く引き攣ってしまう。

「いや・・・抱き付くな・・・。男に抱きつかれても・・・。女に見えても男だし・・・。ここはやはり高野さんが・・・いやっ・・・。」

 ブツブツと言っていると、美雪はビシッと再び、祐一郎に向かい敬礼をする。

「大佐命令ならば、賛同でありますっ!」

「同じく無し。」

 雅人は軽く手を翳すと、ニコリと小さく笑った。祐一郎は皆の返事に、嬉しそうに頷くと、近くで微笑んでいる桜の方を見る。

「それと、桜さんさえ良ければ、改めて正式メンバーとし、迎え入れたいと思う。桜さん、せっかく知り合ったんだし、一緒に馬鹿やらない?大学生で、恥ずかしいかもしれないけどさ。」

「え?私・・・?」

 桜は少し戸惑うも、ニッコリと笑顔を見せる祐一郎の顔を見ると、嬉し恥ずかしそうに、両頬に手を添えた。

「そっ・・・そうね。合コンしてもロクなの居ないし。私も、混ぜて貰っちゃおうかしら。」

「おぉー!アレンちゃんも正式メンバー決定ニャのだっ!」

 柚木は、今度は嬉しそうに桜に抱き付く。

「え?え?男の子よね?女の子に見えるけど、男の子よね?私男の子に抱き付かれてるのよの?合ってるわよね?これは叫ぶべき?それとも照れるべきなの?どっち?」

 今度は桜がブツブツと言い出してしまう。

 すっかり空の雲が無くなると、夜空には沢山の星が顔を出し始める。キラキラと光輝く星空の元、新生『光の十字団』は結成された。

 雅人はクイッと眼鏡を指先で持ち上げると、いつもの調子で祐一郎に尋ねる。

「それで?シャノン。我々『光の十字団』の初任務は?」

 祐一郎は柔らかい笑みを浮かべると、星空を見上げた。

「それは当然――――――――― 。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ