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居もしない魔物来襲報告してやろうかしら!

「そっそんなことより、アイスはいいのか!?」

「……え?」

「お前の部屋に取り残されてんぞ」

「……あっ」

 レイの言葉でようやく思い出したシャドウは怪しげな魔導書を閉じ、自分の部屋へと走り出す。

「……レイはそこから抜け出せたら許してあげる」

「えぇ!? 無理だろこんなん! あっちょ!」

 レイは手と足を黒い霧に包まれ、身動きがとれないでいる。

「手もふさがれてちゃ魔法も使えないじゃねぇかよぉ……」

 とりあえずゴロゴロ転がってみるレイだった。



「……すっかり忘れていたわ……」

 レイではなく、魔物のせいとは口が裂けても言えないだろう。

「……それにあの子絶対なにかやらかしそうだし……まあ、可愛いから許すけど」

 可愛いって永遠の正義よねーとか、そんな事を思いつつ部屋のドアを開ける。

「……あの場所にいるのかしら……」

 先程待たせた場所に向かう。だが、アイスの姿はなかった。

「……一体どこに……」

「あ! シャドウ! 遅かったですね!」

 捜索魔法でも使おうかと思っていたとき、声がかかった。

「……アイス……一体どういう状況なのよ……」

「いえ……とりあえずは自分で見つけられたんですけど、高くて……」

 アイスは本を何冊も積み上げてその上に座っていた。17段目なのでかなり不安定。というか、良くそこまで積み上げたものだ。

「……あっちに梯子あるわよね?」

「え、そうなんですか? じゃとりあえず……ひゃっ!」

 まあ、当然バランスを崩すわけで。大量の本と共にアイスが落っこちてくる。

「……あ、はは……結局こうなるのね……」

 覚悟を決めたように、そんな事を言い残すシャドウ。

 バサバサッにドシャッという二連コンボで、少し埃が舞う。

「……いたたたた……大丈夫です……か」

 アイスが何かに気付く。

「……痛いわね全く……」

 そこまで言ってシャドウも口を噤む。

「……えーっと……アイス」

「はっはい!」

「……何かしらこの手は?」

 落ちる時にシャドウがクッションになったらしい。シャドウの上にアイスが覆い被さるようにして倒れていた。それはいい。問題はアイスの置かれた手。しっかりとある部分を掴んでいたのだ。……シャドウの、胸を。

「ひぅ! すすす済みません! ホントに!」

 慌てて手を離すアイス。

「……まあ、別にいいんだけどね。減るもんじゃないし。つか減るもんってなによ?」

「あぅ……」

 真っ赤になってアイスは俯く。

「……それと、そろそろ起き上がってもらっていいかしら? 貴女にその気があるのなら別だけど」

「なっ、ちっ違います! すぐ起きます!」

 急いで起き上がり、シャドウから離れる。

「……そう……その気はないのね……」

「なんで残念そうにしてるんですかっ!」

「……ふふ、冗談よ冗談」

 シャドウも起き上がる。

「……さて、片付けましょうか……」

「あっはい! 済みませんご迷惑をお掛けして……」

「……いいわ。慣れっこだしね」

 とりあえずその辺の本を拾い上げるシャドウ。

「……大体の本は13ブロックのものね?」

「あ、はい。隣の本棚です」

 アイスも拾って一カ所にまとめる。

「……あ、貴女が持つと……」

 持ち上げようとするアイスをやんわり止めようとする。

「大丈夫です……ひゃぁ!」

 バランスを崩し、あえなく転倒。

「……はぁ……」

「ごめんなさいごめんなさい……」

「……いいわよ。もう一度まとめればいいのだし。持ち上げなくていいけどね」

「うぅ……ごめんなさい……」

「……何回も謝らないの。ほら立って」

 シャドウが手を伸ばす。アイスがそれを取ると、シャドウはアイスの手を引っ張った。

「……なんでいつも失敗しちゃうんでしょう……」

「……もうそういう性格なのよね。仕方のないことよ」

 どっちかっていうと属性よね、と心の中で付け足す。

「性格……そうなんですか……」

「……嫌なの? そういう性格」

「いえ、そういう訳じゃ……」

 シャドウはいまいち要領を得ない、といった顔だ。

「まあ、これだけ人が集まってるんですもんね。色んな性格がいて当然ですよね」

「……六人だけどね」

「細かいことはいいんです!」

 そういうものかしら……、とシャドウは顎に手をやる。

「……ってそれはいいのよ。早く片付けましょう」

「あ、そうでしたね」

 アイスと二人で片付ける。

「……じゃあ、あの梯子使っていいから。何かあったら呼んでね」

「分かりました」

 アイスの下を離れ、レイの所へ戻る。

「……どうせレイじゃ抜け出せるはずないもの。急がなくちゃ」

 何だかんだ言ってやはりレイが気になるらしい。

 扉を開けて中へ入る。

「……あ」

 床に寝っ転がって眠るレイの姿。魔法は相変わらず掛けられたままだ。

「……ホント、子供ねぇ……」

 溜め息をつきながらレイの手足の魔法を解き、抱き上げる。

「……どこに寝かせておこうかしら……」

 とりあえずレイの部屋へおいておこうとする。

「……んー……ふぁぁ……」

「……あ、起きた?」

 眠い目を擦りながら目を覚ますレイ。

「……あれ? なんでオレ運ばれてんの?」

 いまいち回らない頭を回して考えるレイははっと何かに気付く。

「うぉう!? まさかアレか!? まさかオレにさらなる教育を施そうというのか!?」

「……やってあげようか?」

 ちょっとだけ心配した私がバカだったわ……。とシャドウはそんな事を思うのだった。



 シャドウが本の襲撃を受けていた頃、ピール達にも新たな試練が待ち受けていた。

「ほらほらファイア。早く運んで」

「うー! なんで私ばっかり重労働なんだぁー!」

 少し前に焼いた土を運んでいるところだった。

「いいじゃない。私と比べたらファイアの方が力持ちだしね」

「でもこんなの地味ー! もっとなんか花に水あげたり雑草刈ったり邪魔な枝ぶった斬ったりとか!」

「ファイアの中では物騒な仕事なんだね。庭師って。そしてそれはもうやったよね?」

「とにかくとにかく! もうちょっと面白いものはないのかっ!」

 握り拳して熱演。

「どこの主人公なのそれ。ていうかこれ終われば水やりなんだから我慢しなって」

「おお! じゃ急ぐぜ善は急げー!」

 土を運んでいるとは思えないスピードで走り去るファイア。

「……急いでどうするの……っていうかあの子運ぶ場所分かってんのかな?」

「早くしろーピール!」

「あーはいはい! あんまり先行かないでよねー!」

 結局ファイアの後を追うこととなったピールである。



 そしてさらに同時刻。見張りの部屋と扉に掛けられた札。つまりはソイルが見張りを行っている部屋だ。

「……ふぁぁぁ……眠……」

 暇そうに庭でのファイア達の騒ぎを見ているソイル。

「……ホント、ファイア失敗したりしないでしょうねぇ……」

 ボーッと、すごい勢いで荷車を引くファイアを見ながら呟く。

「ま、ピールもいるし大丈夫よね。……ん……はぁ……」

 大きく伸びをして、見張り再開。

「……ていうかさぁー……魔物なんてそう簡単に来ないっつの……」

 先程来たのは棚にダンクシュートである。

「それにしても暇だわ……暇潰しにファイアに上級魔法使ってやろうかしら……」

 酷い暇潰しだ。

「っていうかそう! 昨日のもファイアのせいなのにファイアには追っかけられるわピールには怒られるわ、ホント意味分かんないっ!」

 根に持っているようだ。

「つーかそうよ! そもそもファイアがケーキの皿もって走り回るのがいけないのよ! 『部屋で食べたかったのにー!』とか子供かあいつは! バッカじゃないの!」

 どうやら頭は完全に昨日のことへとシフトしているらしい。愚痴にしか聞こえないのは内緒だ。

「あーもうなんか腹立ってきた! もう居もしない魔物来襲報告してやろうかしら!」

 それじゃただの八つ当たり。



「……あ」

 シャドウが思い出した様に声を上げる。

「どうした。シャドウ」

「どうしたんですか?」

 質問するのはレイとアイス。……ソイルは怖いので放っておこう。

「……お昼ご飯作らなきゃと思って」

「あーそうか。じゃシャドウがんば」

「……貴女達もやるのよ」

「私もですかぁ!?」

 当然、といった感じで頷くシャドウ。

「……こんなちびっ子と二人なんて不安でたまらないわ」

「うっせ!」

「ま、まあとにかく! 私でいいなら手伝います」

 いがむレイを落ち着かせながらシャドウに言う。

「……ありがと。じゃあそうと決まれば早速行きましょう」

 そう言って歩き出すシャドウとアイス。

「なあオレ、行くって言ってないよな?」



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