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ひゃっ! シャドウ! 見えちゃいます! 見えちゃいますよ!

 深夜。広い芝生の庭で踊る二つの影があった。

「『フレイム・ブラスト』!」

 燃えるような赤い髪、瞳をした少女がそう叫ぶと、手に魔法陣が現れそこから炎が湧き起こる。

「ちょっ、木に燃え移ったらどうするのよ! 『クレイ・ウォール』!」

 栗色の髪にブラウンの瞳をした少女もそれに応戦するように魔法名を叫ぶ。手に魔法陣が現れ、土で出来た壁が造られる。

「うるさーい! ソイルが私のケーキ落とすのがいけないんだぁー!」

「あれはアンタがぶつかってきたんでしょ!」

 ……訂正。踊ってない。戦っている、というより喧嘩だ。

「とにかくソイルの寄越せー! 『フレイム・アロウ』!」

「だからあたしはもう無いってば!」

 ソイルと呼ばれた少女は矢のように飛んでくる火を避けると、手を振りかざした。

『万物の基礎となりし大地よ。我の手足となりし人形を顕現せよ!』

 今度は手ではなく、ソイルを中心に地面に魔法陣が現れる。それが発光したかと思うと、大きな土で出来た怪物。つまりはゴーレムが出現。赤髪の少女に向かって拳を振り上げる。

「こんなとこで上級魔法使うの!? 『フレイム・ウォール』!」

 炎の壁がゴーレムの拳を遮る。だが、上級魔法だけあって押され気味だ。

 徐々に拳が炎を押しのけ、魔法が壊されると思った瞬間、

「二人ともいい加減にしなさぁーい!」

 城の窓より金髪の少女が飛んでくる。

「うげっ! ピール! まだ起きてたの!」

 ソイルが慌てて魔法を解く。魔法を解かれたゴーレムはその場に崩れ、土も跡形もなく消えた。

「あなた達が騒がしくて寝られないの! 二人ともそこまで! ファイアも自分のせいなんでしょ! 未練がましいことしない!」

「うー、でもっ!」

「でもじゃないの! またみんなで作ればいいんだから、大人しくしなさい!」

「うぅー!」

 ファイアは駄々をこねる子供のように唸る。

「シャドウも呼びましょうか?」

「うぐ……分かったよー……」

 しぶしぶ引き下がるファイア。

「二人とも大人しく寝ること。ソイルもこれ以上は言及しない」

「いや、するつもりないし……」

「むー……。ピールがそういうなら……私はもう寝る」

「はいもう終わり。もう遅いんだから、早く寝なさい」

「「はぁーい」」

 ソイルとファイアの声が重なる。それを見てピールという少女は満足そうにうなずいた後、元来た窓へと戻っていった。



 ここは、普通の魔界からちょっとだけずれた世界にある普通の城。火、氷、土、雷、光、闇の魔導師が住む城。……まあ、彼女達からすれば、ちょっと広いのだが。

「……ふぁぁ……」

「何ソイル。眠そうだな」

 朝食。ソイルの対面に座るのは白い髪に銀の瞳。低身長なのがコンプレックス「光の魔導師」レイだ。

「んー? まあ昨日少しね……」

「ふーん……?」

「なーなーそれより今日はどうするんだー?」

 ファイアが全員に尋ねる。

「あたしはいつも通り午前中は庭のお手入れするわ。……昨日あんなになったし」

 まずソイルが答える。

「オレは特にやることないしなぁー。あ、シャドウの図書室いってもいいか?」

「……構わないけど、私の部屋は別に図書室じゃないからね?」

 レイの言葉に黒髪黒眼の『闇の魔導師』シャドウが答える。

「あ、じゃあ私もご一緒させていただいていいですか……? お城は昨日掃除したばかりですし……」

 『氷の魔導師』アイスがおずおずと手を挙げる。

「……いいわよ? ふふっ。貴女が来るなんて久しぶりね。私も自室で本でも読もうかしら」

「うー……。あ、ピールは?」

「ん? 私はソイルの手伝いをするつもりだけど?」

「そっかーなるほどー。じゃ私もソイルを手伝うー」

「いいけど、邪魔だけはしないでよね?」

 若干顔をひきつらせてソイルが言う。

「しないしないー」

「あれ? でも今日誰が見張り番だ?」

 見張り、とはつまり、簡単に言うと魔物だ。ずれた世界に迷い込んだ魔物をいち早く見つけるのが見張り番の仕事。

「昨日は……」

「……私よ」

 レイの後をシャドウが継ぐ。

「ってことはあたしかぁ。……じゃ、ファイアはピールにやること聞いて、余計なことはやらないでよね」

「はいりょうかーい」

 ソイルはそう言い残して見張りに向かった。

「さてじゃあ、私達も行きましょう。ファイアはソイルのお皿も洗いなさいね」

 本来は自分の食器は自分で洗うのだが、見張り番だけは他の人が代わりにすることになっている。

「分かってるよー」

 ファイアとピールも立ち上がり、食器を洗いに隣の部屋へ向かった。

「うげーまたピーマン入ってるし。シャドウ。頼んだ」

「……頼まれないわ」

 ピーマンを挟むレイの手を素早く掴むシャドウ。

「くっ……」

「……好き嫌いはダメよ。ちゃんと食べなさい」

「ちぇっ。分かったよ……」

 大人しくピーマンを食べるレイ。

「あ、あのぉ……」

「……ん? 何?」

「いや……レイ普通にシャドウのお皿に入れてますよ?」

「……え?」

 見ると、先程レイが食べていたはずのピーマンがシャドウの皿に移されていた。

「……ほぉ」

「あっ! アイス何余計なこと……うっ」

「……そうねぇ、貴女光の魔導師だものねぇ……幻術だったのねアレ」

「錯覚じゃね?」

「……黙りなさい。さっさと食べなさい」

「了解です」

 身の危険を感じたレイは今度こそ自分で食べる。

「……さぁ、食べ終えたら行きましょ。ついでに手伝ってほしいし」

「えー手伝いもかよー。いいけど別に」

 そう言いながら、レイは食器を洗いに向かう。

「……アイスも行きましょ」

「あ、はい」

 先に立ち上がったシャドウを慌てて追いかけるアイス。



 一方その頃である。いや、正確にはシャドウ達が食器を洗っている時。

「良かったじゃない。ファイアの専門分野があって」

「こんなの望んでないー」

 ソイルから庭仕事をバトンタッチされたピール達は今、土を燃やしているところだ。

「なんで私なのぉー」

「仕方ないじゃない。土には植物を喰らう微細性の魔物だっているんだから」

「そんなのどうせ土属性でしょー? ピールがやればいいのに……」

「あら。私じゃファイアも巻き込んじゃうわ」

 さらりと恐ろしいことを言うピール。ファイアは分からないようだが。

「……はい。終わったー」

「よし。とりあえずこの土はもういいとして、次は庭木の手入れよ」

「お、庭師らしい仕事」

「今のも十分庭師の仕事に入るけどね。あっちから順番に手入れするわよ」

「りょうかーい」

 まず一番奥の木から手入れを始める。

「あ、ファイア。この枝切っちゃって」

「おっけー」

 パチリ、と小気味良い音を立てて枝が切られていく。

「……よし、次の木」

「らじゃー」

 順調に切りそろえていくファイアとピール。意外とファイアも器用らしい。

 しかし半分ほどいったところで問題が。

「ん? 何これ」

 木とは明らかに違う色の物体。ピールはそれを確認するために枝をどかした。

 現れたものは紫色のうねうね動く物体。(寄生性魔物)

「きゃぁぁぁぁ!!」

「うにゃっ!? どしたピール!」

 突っ立っていて見ていないファイアはピールの悲鳴に何事かと驚く。

「ええい! 気持ち悪っ!」

 バッと手を掲げるピール。

「ちょっ待ったピール! 木が死ぬ! ついでに私も!」

 先程の言葉はしっかり記憶していたらしい。

「なにこの気持ち悪いの!」

 通信用の魔法陣を発動させ、ソイルに連絡をとるピール。

『え? 何が?』

 魔法陣からソイルの声。

「あ、そうよね。……えーと、なんか紫色の変なの」

『ああ。簡単に言うと魔物よ。色からしてまだ幼生体かな?』

「なにそれ……成体とかあんの……」

『うん。とりあえずそうなる前に燃やしちゃって」

「え、ええ……。邪魔したわね」

 ピールが魔法を解く。

「じゃあファイア。任せたわ」

「任しとけー!」

 木も燃やしてしまわないか心配だ。

 ……まあ結局、ちょっと木も焦げてしまったが、一応は問題なく庭木の手入れを終える。

「終わったわね……」

「中々面白いなー庭仕事」

 くたくたのピールに対し、ファイアはまだやりたそうな顔だ。

「とりあえず……一回休んで、それからまたやりましょう」

「はーい」



 所変わって、シャドウの図書室……じゃなくて、部屋。

「おいシャドウー。光の魔導書どこだー」

「……ああ、24ブロック15段、342番から43ブロック4段、182番まで光に関する書物よ」

「ん? おう……ってだからどこだよ! どこだよ24ブロックって!」

 馬鹿でかい本棚をバックに叫ぶレイ。

「……何回か来てるんだから覚えなさいよ……。はい地図」

「覚えられっか!」

 シャドウから地図をひったくると本棚の奥に消えていった。

「……はぁぁ……」

「……ん? どうしたの? アイス」

「いや……いつきても大きな本棚ですね……レイが図書室っていうのも分かる気がします」

「……貴女までそんなこと……」

「あ、いえ……私は言いませんよ」

 シャドウの部屋はとにかく本。というか、本以外ない。いつもどこで寝ているのかと聞きたくなるほどに生活感がない。

「……貴女はどうするの? 地図ならあるわよ?」

「あ、じゃあそうします」

「……そう。はい」

 ありがとうございます。と言ってアイスはその場を離れる。

「……まあでも……」

 シャドウはその辺の椅子に座って呟く。

「シャドウー! 全然分かんないです!」

「……どうせ迷うのよね。あの子は。……分かったわ。ついてきて」

 2ブロックで迷ったアイスがシャドウを呼ぶ。

 シャドウは苦笑しながらアイスの下へ向かった。

「シャドウ、これどこが北でどこが南ですか?」

「……十字書いてあるわよね?」

「……あ、ホントだ」

「……はぁ……」

 額に手を当てて溜め息をつくシャドウ。

「……う……済みません気付かなくて……」

「……いえ、いいのよ。確かにちょっと小さすぎたっていうのもあるわけだし」

 シャドウがそういった直後、爆音。

「……あれは……レイの仕業ね。ごめんなさいアイス。ちょっと制裁をしてくるわ。待ってて」

「あ、はい。分かりました」

 シャドウは軽く手を振ると、軽々と本棚の上に飛び上がった。

「ひゃっ! シャドウ! 見えちゃいます! 見えちゃいますよ!」

「……大丈夫よ。どうせここには女しかいないもの」

 そう言ってそのままレイの所へと行ってしまった。

「そういう問題なのでしょうか……」

 言いながら、アイスは椅子に腰掛ける。

「……私はどうすればいいんでしょう?」

 シャドウがレイの下へつくと、立ち尽くすレイの姿。

「……レイ。何やってるの」

「いや、ちょっと新しい魔法を覚えようと思ってな。失敗した」

 周りに本が散乱している。どうやら巻き込んで吹っ飛ばしたらしい。

「……片付けは誰がやると思ってるのよ」

「お前」

 即答だった。

「……貴女ねぇ……」

 どうやって制裁をしようかと考えていると、辺りに魔法陣が浮かぶ。土色に光っているところをみると、ソイルの通信魔法だろう。

『シャドウ! 魔物よ魔物! 光属性だからあんたの出番よ!」

「……分かったわ。レイ。私が帰ってくるまでに片付けること。じゃ」

 またもや本棚を飛び移って部屋を出て行った。

「えー、この量をかよー」

 一人レイは喚いていた。



「……で? ソイル。そいつはどこ?」

『えーっと……今はまだ門の前。でもほっとくと入って来ちゃうかも』

「……分かったわ」

 長い廊下を走りながらソイルに状況を聞く。

「……久しぶりの私の獲物だものね。たっぷりと楽しませてもらおうじゃない」

『……魔物退治を楽しんでるのってあんただけよ』

「……あら? ソイルは楽しくないの?」

『楽しいワケないでしょ!? 面倒だし!』

「……そう。まあいいわ。もう切って大丈夫よ」

『はいはい』

 それを最後に、ソイルの魔法陣が全て消える。



「……さぁて……と」

 門前で徘徊している魔物(ドラゴン型)を見つけると、シャドウは思わず笑みを浮かべる。

「……待たせちゃったわね。すぐに……」

 手を前に突き出す。そこから真っ黒な魔法陣が現れる。

「……楽にしてあげる!」

 言い終わると同時に黒い霧のようなものが凄まじい速さで魔物に向かっていく。

 魔物は身を翻してそれを避ける。

 ……ああ、そっか。説明し忘れてた。『相対属性』っていう理論がある。まあ簡単には火と氷、みたいなやつだ。相対属性の場合はダメージが増えるっていう理論。この場合は光と闇。だから、お互いの被ダメージが増えてしまう諸刃の剣なのだが。

「……どんどん行くわよ……」

 両手に別々の魔法陣を浮かべて、まず右手を相手に向ける。

 魔法陣から真っ黒な霧が大口径のレーザーの様に魔物に襲いかかる。

 ドラゴンは攻撃というより回避に長けた魔物だ。こういう誘導性のない攻撃をかわすことなど容易である。

「……甘いわね」

 ここでシャドウは左手の魔法陣を発動。いや、正確には発動させていた魔法陣はトラップ性の魔法だ。条件が揃うことで発動する魔法。

 魔物の周りを黒い球体が囲む。それが一斉にはじけた。

「……まだまだ行くわよ!」

 それぞれの魔法を解き、先程のトラップで体の一部を破壊された魔物に今度は両手を向ける。

「……これはどうかしらッ!」

 大きな魔法陣が現れ、中心に黒い球体を造る。

「……今回は特別に誘導効果も付けてあげるわ……」

 黒い霧を吸い込むようにしてどんどん巨大化する黒い球体。魔物を簡単に飲み込みそうだ。

「……消えなさい」

 シャドウがさらに両手を前へと突き出すとその大きな球体は比較的ゆっくりと魔物へ向かっていく。当然、避ける魔物。

 だが球体は魔物の方へと方向転換し、また比較的ゆっくりと進んでいく。

「……早く当たればいいのに……」

 少し苦しそうな表情を浮かべて言うシャドウ。誘導効果というのは便利な分、単純魔法より魔力を必要とするために魔法を維持することで徐々に体力を奪われていく。

 だが、運がいいのか魔物の尻尾部分に黒い球体が当たる。瞬間、その球体は魔物を包み込んだ。

「……ふぅ。疲れるものね。いじめ殺すのってこっちも疲れるわ……」

 いい性格したシャドウは軽く溜め息をつくと、開いていた手のひらを閉じた。

 黒い球体はそれに呼応するように急激に縮小し、魔物を巻き込んで消滅した。

「……あ、力入れすぎちゃった。ギリギリで止めて断末魔くらいさせてあげようかと思ったのに……」

 いい性格も考え物だ。



「……さて、レイ。これは一体どういう事かしら」

「さぁ?」

「……平然ととぼけるんじゃない」

 シャドウの部屋に戻ってみれば、ひどい有り様だった。もう散らかっているとかじゃない。まさしくカオス。

「いや、一回片付け終わったんでもう一回やってみようかと……」

「……外でやろうとか思わなかったの?」

 その手があったか、と言いたげにポンと手を打つレイ。

「……いいわ。貴女は私が一から教育し直してあげる」

「いや間に合って……っていたたた! 悪かった! 悪かったから離せ!」

 そんな悲鳴を残してレイとシャドウは部屋を後にした。


 ……もう一人いたことなど忘れて。


「……うぅ……遅いです……どうしちゃったんでしょう……?」

 椅子から立ち上がり、辺りを行ったり来たり。

「……まさか……忘れて……わひゃっ!」

 何も無いところでアイスは転ぶ。それがドジっ子のお約束。



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