六日目~雫と決戦~
六日目。藍色の月がのぼる頃。
あたしたちは、二日前にいた場所へ再び赴いた。
だが。
「・・・なに、これ」
そこは、荒廃しきっており、城だけが不動のものとなっていた。
瓦礫と隆起した地面、乾いた土地がそこにあった。
「・・・」
兄ちゃんは哀しそうに帽子の縁に触れ、くいっと顔を隠した。
「・・・酷いものだね」
ムトが呟く。
「月大王・・・!!」
タイムが握り拳を深く作り、憎み声で言った。
「行こう、皆」
『その必要はない』
また、あの声が聞こえた。
「!!」
『吾の眠りを妨げるとは、そんなに死に急ぐか』
と、そこには実体の。
「月大王!!!」
『大夢、夢人』
月大王が二人の名前を呼んだ。
『吾に刃向うとは、真に哀れな子供たちよ。どうすることも出来ないのに』
「煩い!」
「俺らは、負けるわけにいかねぇんだよ!!」
『・・・来い、貴様たちに絶望を味あわせてやる』
そう言って、月大王が杖を振るおうとした。
「させないっ!!」
あたしは常闇剣を振るった。
その瞬間、斬撃が波動に変わり、月大王へと向かっていった。
『・・・!』
月大王の少し驚いた顔。そして不気味に口を歪ませた。
『小娘・・・面白い。興が乗った。貴様の相手をしてやろう』
月大王は杖を持ち、あたしの方へ向けた。
『吾を精々楽しませることだな』
杖が軽く振られ、しわがれた声で唱えられた。
『地獄の火焔《ヘル・バーナー》』
その瞬間、地割れの間からマグマが噴き出た。
「ッッ!!」
タイムが思わず腕で顔を覆い隠した。
「わ・・・『我に鎮静の水を、我が本に雨を宿せ』!」
ココロの下に蒼い魔方陣が描かれ、その光が天にとんだ。
次の瞬間、豪雨があたし達を襲った。
『ほう・・・小娘、魔法が使えるのか』
月大王は興味深そうにココロを見遣った。
途端に肩を大きく震わせるココロ。それを見た瞬間、ムトがココロの顔を隠すように庇った。
「ムト君・・・?」
「月大王、彼女に手を出したら、僕は貴方を一生恨み続ける」
『・・・? ああ、ムト。女に興味を示さなかったお前が・・・ほう』
薄く笑う月大王に、ムトが少し怯えているのがわかった。
「・・・ッ、月大王、お前の相手はあたしだっ!!」
さっきやったように常闇剣の大きく振った。
黒い斬撃が月大王に当たる。
『ぐあっ・・・』
攻撃をまともにくらい、少し後退する月大王。
「効いてる・・・!」
『小娘、吾に血を流させるとは、そんなに死にたいのか』
月大王が流れた血を眺めながら嗤った。
「死にたいわけないでしょ!あんたを倒すんだから!!」
あたしは叫んだ。それを皮切りに、激しい攻防が始まった。
あたし、ココロ、ムト、タイム、兄ちゃん。
五人でようやくまともに相手取れる、といった感じだ。
月大王、やっぱり強い・・・!
『まだだ、まだ吾を楽しませろ・・・!』
「くそっ!」
タイムとムトが同時に攻撃するも、頑丈なバリアで防がれる。
「『我に裁きの光を、我が本に滅びを宿せ』!」
「補助魔法『攻撃増加』、対象、ココロ」
ココロの魔法と兄ちゃんの補助魔法で月大王に攻撃する。月大王の攻撃と相殺し合って消えた。
「・・・このままじゃやばいね。魔力を無駄に消費するだけだ」
兄ちゃんが言う。確かに、このままじゃ皆で共倒れだ。
「あたしがやる!皆は下がってて!!」
言いながらあたしは月大王の元へ走った。
「こっちだ!」
『ほう、吾と独りで挑むか。面白い、乗ってやろう』
月大王はあたしの後を追うようについてきた。
「シズク!!!」
タイムが叫ぶ声が聞こえた気がした。
『・・・さて小娘、独りで吾に勝てる算段でもあるのか?』
「あるよ。これで」
そう言って常闇剣を目の前に翳した。
『ろくに上手く扱えないのに、か?』
月大王が嗤った。
「・・・それは、皆が一緒だったから」
『・・・?どういうことだ』
「皆も巻き込んだら、元も子もないでしょ?」
あたしが言うと、月大王は理解したかのように笑った。
『成る程。本当はお前、その剣の本来の力を出していないんだな?』
「ご名答。どうなるかはわからない。けど、あんたの事は倒せるよ」
笑って言うと、月大王が面白そうに笑った。
『いいだろう、来い、小娘!!』
あたしは目を閉じて、常闇剣を構えた。
そして、ゆっくり目を開ける。
視界は黒。オールオッケー。
剣に込めた力を更に強くした。
―――いくよ、常闇剣。
次の瞬間、辺り一面が黒い闇に包まれた。
「・・・あれは?」
「黒い・・・丸?」
「闇、のようだね」
ゼロさんの声に全員がハッとする。
「もしかして!」
「おそらく、常闇剣の溜めていた『闇』が、一気に放出されたんだ」
「シズクちゃんも、あの中に!?」
「きっと」
ココロが心配そうに、胸のあたりで両手を握りしめた。
「シズク、死ぬなよ・・・」
タイムが辛そうに言った。
「・・・シズク」
どうか、無事で。
六日目、諸事情によりこの一話のみになります。
最終決戦、物語ももうすぐおわります。