四日目~雫と真実~
「常闇剣には、その能力が強すぎる所為で、代償を払う必要があるんだ」
タイムが訥々と話し始めた。
「相手を救う代わりに、その代価として常闇剣に蝕まれる。相手に光を見せる代わりに、自分が光を失うんだ」
タイムが言う。あたしはビックリした。声も出なかった。
「・・・・・・そんな話、聞いたことないよ・・・?」
やっとの事で出た声は、情けないくらい弱々しかった。
「言うタイミングがなかったし、最初はまさかお前が保持者になるとは思わなかったから」
「それで、ずっと引きずった結果、こんな形でわかってしまったと」
兄ちゃんが指をくるくる動かしながら呟いた。
「・・・で、このままその眼は侵蝕していくの?」
「ああ。七日で終わる・・・」
「つまり、月大王が永遠を手に入れる瞬間に・・・?」
ココロが呟いた。
「そんなの、そんなの・・・酷いです!どうして、シズクちゃんが!!」
「でも、眼だけなんでしょ?」
あたしは訊いてみた。
「ああ、両目が見えなくなるだけ・・・だと、思う」
タイムが自信なさげに言った。
「・・・と、思う?」
「うん。だって常闇剣は歴史上、空想上の伝説だと思われていたからね」
「じゃあ、なんで『水のある都』なんかにこれがあったの?」
あたしが訊くと、
「パチモンのレプリカだと思われてたのが案外安値で売れて、それを持ってたのがその『水のある都』にあったってことだ」
タイムが説明してくれ、あたしは納得がいった。
「そうだったんだ・・・」
「でも、やっぱり伝説上とは言え、これまた伝説とも言われた『永遠』が手に入れられるから、常闇剣も満更嘘でもなさそうだと思ったわけだ」
兄ちゃんがまとめた。
「そう。だから僕はその隣国である『岩山の国』にいたんだ」
そこで落ち合おうとしたのか。
「俺が保持者になるつもりだったんだ。月大王を倒したら、ムトに新しい王様になってもらおうと思ったから。でも、」
タイムはそこで区切り、あたしを見た。
「常闇剣はお前を選んだ。だからお前を連れて行くしかなかったし、お前に運命を背負わせなければいかなかった」
「で、でも。タイム君も保持者にならなくてもよかったんじゃないですか・・・?」
ココロがおずおずと言った。
「世界の民を救えるなら、俺の両目なんてくれてやる」
タイムが決心強くいった。
「でも、新しい王様が両目が見えないんじゃどうしようもねぇだろ。だから、王様はムト」
そう言ってタイムはムトを指差した。
「ちなみに、どうやって決めたの?」
あたしは訊いてみた。
「俺はまとめるのは苦手だし、国の仕事は頭が痛くなる。ムトならそういうのは大歓迎だろ」
「大歓迎ではないけど・・・。でも、僕がまとめて、タイムが士気を高める。こういうやり方が一番だと思ったんだ」
ムトが静かに言った。
「じゃあ、よかったじゃん」
あたしは笑っていった。誰もが驚いていた。
「次期王様と、一介の平民。どっちの方が大事かって言ったら、王様でしょ?」
それに、友達の命は大切だ。なによりも大切だ。
そう言うと、ムトとタイムは哀しそうに眉を顰めた。
「明日、もう一度月大王に攻め入ろう。これが最後だ」
それを聞いて、兄ちゃんが静止をかけた。
「待って。あと三日ある。今は緑だから・・・四日目だ。明日はゆっくりやすんで、明後日に行くのが得策だろう」
「でも・・・!」
タイムが何かを言いかけた。
「伝説、って言うんだったら、僕も常闇剣の事についてひとつ知っているよ」
兄ちゃんは人差し指をあげて言う。
「・・・どんなの?」
「常闇剣は七日間で保持者の光を奪う。それ故に、常闇剣の力は日を追う毎に強力になるんだ」
「六日目なら、最大・・・」
「そう。七日目になった時点で完成する。六日目の時点で苦しみは最大になる。倒すチャンスはそこだよ」
兄ちゃんは頷きながら言った。
あたしたちはお互いの顔を見合わせて、頷いた。
そしてあたしは自分の目に触れ、呟いた。
「ムトとタイムとココロを救うためだったら、両目なんてくれてやる」
呻きのような呟きだと思った。
兄ちゃんはそれを聞いたのかはわからないけど、満足げな顔で、
「それじゃあ、明日は各々休息及び最善の準備をしておくように」
その言葉に、全員が頷いた。
書き溜めしてました、明夢です。
次回は休息回です。羽休め程度にお読みください('-'*)