三日目~雫と『幸せの国』~
何故か兄ちゃんとレンもついて行く事になったこの旅。
それぞれがそれぞれの反応をしつつ、『幸せの国』を歩く。
そこで、気付いた。
「・・・どうして、みんな月獣になってないんでしょう・・・?」
ココロが小さな声で言った。それに頷く。
「おかしい。普通はあの光を浴びたら、この世界の人間皆月獣になるのに。・・・僕等は例外として」
「あれ、そう考えたら、なんで兄ちゃんやレンも月獣になってないの?」
あたしが言うと、話を振られた兄ちゃんは、「呆れた」と言いたげな顔だった。
「今更気付くなんて、お子様にも程があるよね、君達・・・」
わざとらしく溜息をつくと、人差し指を上に指して、
「『幸せの国』の天井を見てごらん」
それを聞いて、あたし達は歩きながら上を見上げた。
天蓋のような大きなドーム状の幕に覆われていた。透明だから、そこから空が見えた。
「あの日起きた光、あれには月獣になる成分が含まれているんだ。イコールして考えると、あの光を直接浴びなければ月獣にはならないんだ。・・・そして、この『幸せの国』は、天井が全てあのように覆われているんだ。だから、『幸せの国』の住民はみんな月獣になっていないでしょ?」
言われて気づくものもあるんだなぁ、と思いながら周りを見る。
そこは、月祭以前の活気と全然変わっていなかった。
「不思議な事もあるもんだ」
両手を後ろで組みながら、ムトが興味深げに辺りを見ていた。
そして、後ろにいる兄ちゃんを睨んで、
「・・・で?なんでお前はそれを知ってるんだ?」
一言、告げた。
「あーあ。タイム君は頭の悪い子かと思ってたのに・・・意外だねぇ」
いつもの調子を狂わせる声で笑うと、顰め面をしたのは何故かムト。
「ゼロさんは、なんで僕やタイムの知らない事も知ってるんですか?これは、国の国家機密レベルの情報です」
「それは、まあ・・・。ねぇ、シズク?」
行き成り話を振られてビックリした。兄ちゃんを一睨みして、溜息をつきつつ答えた。
「・・兄ちゃんは、数ヶ月前まで国の魔術師として働いてたの」
「まあ、嫌気が差してやめちゃったんだけどね?」
ふふっ、と笑う兄ちゃんを見て、ムトとタイムは顔を見合わせた。
「俺たちは、お前を見たことはないぞ?」
「まあ、僕は王子様達の見えないところで働いていたからね」
さも当たり前の様に答える兄ちゃんに唖然とする二人。
「・・・知らなかった」
「僕も。・・・気配でも消せるの?」
驚きすぎて敬語を使うのも忘れていたようだった。
「前にも言ったけど僕は『空間移動』と『物理移動』が得意なんだ。まあ、それ以外も使えるけど、得意ではないから使いたくはないんだ。王宮でも使ってはいないよ。・・・まあ、僕が王宮で働いていたのは、魔術師としてというか占い師としてなんだけどね」
「ああ、それでか」
やけに納得したような声をだすタイムに不思議そうな顔をすれば、ムトが答えてくれた。
「占い師は、代々僕らの目の前に出てくる事はないんだ」
それでなのか。あたしとココロは適当に相槌を打った。
「あの・・・、今思ったんですけど」
と、ココロはそろそろと手を上げた。
「なに?」
兄ちゃんが促すと、ココロは不安そうな顔で言った。
「ここの人たちが月獣になってないのはわかりました。でも、それで何のメリットがあるんですか?」
「ほぉ、ココロちゃんは目の付け所が違うね。よく勉強をしているね」
褒められたと感じたのか、ココロは顔を真っ赤にして俯いていた。
「うん、それにはちゃんとした理由があるんだ」
「理由?」
「そう。『幸せの国』には、金持ちが多いんだ」
「金持ち・・・。あっ、そうか!」
先に気づいたのはムト。その次にココロ。
「お金持ちが月獣になれば、お金を投資する人がいなくなっちゃいますよね」
「それで、この国だけは月獣対策が万端だったのか」
「うんうん。頭のいい子が二人もいて嬉しいね」
「・・・」
その台詞に目を逸らすあたし。
そうだ、あたしは他の三人と違って、そういう知識はない。
だから、あたしはあたしで足りない知恵を振り絞って頑張るしかないんだ。
「・・・で?あたし達の今後の予定は?」
「ふふ、シズクらしいね」
何故か笑われて、きょとんとした。
「まあ、僕にいい考えがあるんだ。任せておいてよ」
その笑みを見て、嫌な予感が脳を過ぎった。
はい、どうもお久しぶりです!!
今回は、レン以外の全員を会話させてみました。
・・・というか、道のど真ん中でなに大事な話してんでしょう(笑)
今回はゼロの仕事について少し触れてみました。
そして次回は『元』職権濫用します(笑)
次から四日目スタートです!