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そんなことしてるの?

────月曜になった。

私は嫌な音のするアラームで、睡眠薬でドロドロと溶けた脳みそを少しばかり起こし、燃えるゴミを時間ギリギリに出すことができた。

冬とはいえ、生ゴミを含む燃えるゴミはちゃんと出したい。

ただでさえする生活臭をこれ以上部屋に残してはいけない。

そんな思いだった。

一昨日の彼女からの電話以降、彼女からは連絡がない。

無事家に着いた、という報告は届いたが、それでもまだ不安である。

まだD社の目の届くところに彼女はいるのだろう。

それが、不憫で不穏で、許しがたかった。


一昨日の出来事があり、その翌日はバイトに力が入らなかった。

普段から入っているわけではないが、特段、脱力しきっていた。

脱力しきっていた私は、迷惑客に絡まれ、怒号と罵声を浴びせられた。とても不快で、不快で。

ただ、毅然とした態度と対応はしたつもりである。店として守るべきルールを徹底した、それだけである。


歳の割に怒号を飛ばす厄介な客────それを何事もなかったかのように捌いてしまう、私はそんな人間だ。


怒鳴られることはこの仕事をしている以上避けられないのだ。

これを何事もなかったかのように完遂してしまう。私の悪いところだ。

大事にならなかったことだけは及第点か。


その時の頭の中は、泣いたバナと手を繋いだバナとの思い出で埋め尽くされていた。


不純だが、頼られて嬉しかった。

ただ、私は確信を持った。


彼女と恋人になることは絶対にあり得ない、と。

一日限定のカップルごっこに過ぎないうえ、彼女から見て私は意識する異性ではない、と感じとることができた。


いつかボーイフレンドと別れた時にきっと私に傾倒してくれるかもしれない、と彼女の不幸せを願ってしまった私も、間違いなく私の中にいた。

そう思って、思い込んで、それでもどこか期待してしまった私は…

私の持っていた淡くて、不純な思いは行き場をなくし、この寒空に影を残し、溶けていった。

そう感じた帰り道だった。


その後にあった不審者に付けられているかもしれない、という通話は何よりも私の心をざわつかせた。


それでようやく、一つ思い出した。

"タガメ"に連絡を入れなければ、と。


私自身には何一つ関係のない、"メダカ"の活動に対し、なにかを覚えたわけではない。

彼女の尊厳と努力を踏み躙るようなことをしたD社に報復しなければならない。

そう思い込んでいた。

だが、具体的に何かをするというのはあの大男から説明を受けていない。

おそらく過激な、大々的なことをするのだろう。そう思った。

ただ、それがどの規模のものなのか、想像がつかない。

メディアが無視できないような出来事を起こす、そうあの大男は言っていたはずである。

それに少し躊躇した。

一介のフリーターである私にできることが何かあるのだろうか。


そう思いながら、眠たい目を擦って、伸びをして、上着に入れっぱなしだった電話番号が書かれているメモを取り出し、電話をした。


ワンコールですぐに連絡がついた。

「はい、田辺です」

あの大男の名前は田辺だったのか。

そう言えば名前を聞くのを忘れていたな、と思った。

「この間お世話になった者です」と、曖昧な自己紹介をしてしまった。だが、田辺はすぐにそれに気がついた。

「ああ、この間の!」

以前も聞いた、高い声だった。

「はい、先日はありがとうございました」

「とんでもないです、前回のお返事の電話…ということでお間違いないでしょうか」

「はい、その件について連絡させていただきました」

「悩まれたかと思います、簡単な決断ではなかったはずです。答えをお伺いしてもいいですか?」

「はい、"タガメ"に参加させていただきたく、お電話差し上げました」



──やや沈黙があった。数日も空けてしまったから、田辺はノーという返事が来ると思っていたのだろう。


イエスと告げると、重々しく、こう答えた。


「覚悟が決まった、と仰るわけですね」

「はい、後輩が"メダカ"に脅かされる生活になってしまった。私はそれに強く憤りを感じました。何か報復を、と思いました」


また沈黙があった。


「そうですか、では、会わせたい人が今偶然宮城から来ていて、今晩会う予定があるのですが、そちらにお越しいただくことは可能ですか?」


スピード感のある展開に私は物怖じした。

だが、少し歩みを進めるには一度会って、改めて話を聞いてみたい。そう思った。


「はい、可能です。ですが、その話次第では、返答がノーに変わってしまうかもしれません」

「それでも結構です。では、20時にH市のM町にある、サンシャインビルの4階にある、コックテイルというお店にお越しいただけますか?」

「わかりました、20時に、コックテイルに向かえばいいのですね」

聞いたこともない店だった。

それも仕方ない。繁華街の中だ。

人を隠すなら人の中、そう思い了承した。

「ありがとうございます、では、そちらで改めてお話をしましょう」

「わかりました、よろしくお願いします」

その後も定型文が続き、電話が切れた。

まずはビルを探すところからだ、私はマップを開き、大体の目星をつけ、再び微睡の中に溶けていった。


二度寝から目覚め、布団から重たい体を持ち上げると、改めて部屋が散らばっているのがよくわかった。

一服すべく、換気扇の下へ向かった。

そこで、些細な変化に気がついた。

台所のハンドソープの横に、石鹸があったのだ。

いつからあったのか。


私は石鹸は使っていない。買った覚えもない。

あまりに台所の風景の中に自然と溶け込んでいたので、驚きと恐怖が襲いかかってきた。


これはなんだ?なぜこんな物が?いつからあった?

恐る恐る手に取った。

いわゆる石鹸だ。


泡も立つし、ちゃんと石鹸の匂いがする。

誰かがこの部屋に忍び込み、これを置いたのか?

そう思うと不安と恐怖でいっぱいになった。


包丁を取り出し、割ってみる覚悟ができた。

包丁を握った手は震えていた。それでも、何かを確かめずにはいられなかった。

すると、中から小さなマイクのようなものが出てきた。


ゾッとした。

まさか"メダカ"の誰かが私の部屋に忍び込み、設置したのか?

いつからあったのか、バナとの話もまさか聞かれていたか?

これはいけない、と思い包丁の側面で力を入れて、割った。

時すでに遅し、かもしれないが今後の不安はなくなるだろう、そう思い、部屋を見渡した。他に気になるところは何もない。

ひとまずはこれでいいか、と思い、洗い物をして心を落ち着かせようとした。

20時までたっぷり時間がある。

私は質問すべき内容をメモにとり、20時が来るまで静かに待った。


質問を、と思ったが複数個しか用意することができなかった。

"メダカ"を内面的に攻めるのか、あるいは暴力的に介入するのか、どちらにとっても心地のよいものではない。

なんとかして平和的な方法で解決できないのか。

悶々と考えた、田辺は「イエスかノーかの二択だ」と言った。

一度私はイエスと言ってしまった。

どのようなことになるのか、皆目検討がつかなかった。


少し早めに家を出た。

軽く夕食を済ませ、落ち着いた状態で、"タガメ"との接触をしたいと思った。

人を隠すなら人の中、その通りに夜は喧騒を奏でていた。(イヤホンをする私にはあまり関係のない話だったが)

繁華街を征く人だかりは楽しそうだったり、孤独を隠そうとする大人たちに溢れていた。

月曜だというのに、これだけ繁華街に向かう人がいるのだ。私もそのうちの一人だったが。

キャッチがたむろし、タバコを吸いながら闇雲に声をかけ、不快感しかなかった。


指定されたサンシャインビルに到着するまで、赤信号に何度も捕まった。これもまたフラストレーションを感じさせた。

赤信号だというのに渡る者、それに便乗して行く者、いずれにも腹が立った。ルールは守れよ、と。

だが、時刻はすでに約束の時間の5分前だった。

私も一つ、信号を無視した。

クラクションを鳴らされた。

流し目でそちらを見たが、車高を低くし、ブルーライトで飾った、下品な車だった。

どちらもまともではないのだからいいだろう。と、歩みを進めた。


ビルの少し手前の信号まで来た。

それもまた、赤信号だった。

辟易とした。

ほんの数秒が、やけに長く感じた。


そしてようやく雑居ビル群を抜け、ビルに着き、階段で4階まで登った。

傾斜の急な階段であった。

少し息を切らしながら登り切った先には田辺が待っていた。

私に気がつくと、田辺は会釈をして、私に声をかけた。


「こんばんは、お越しいただいてありがとうございます!公民館だったり、目印もエレベーターもないビルだったりと、偏屈な場所ばかりにお呼びして申し訳ありません」


確かに、ビル群を抜けるのには一苦労した、私は息を切らしながら

「こんばんは、少しお約束の時間を跨いでしまってすみません」

「私ももう少し目印になるようなものをお伝えすればよかったです、申し訳ありません。寒かったでしょう、店内でお話をしましょう、ささ、お入りください」

確かに寒かったが、階段を登ったことで体は温まっていた。

汗ばむほどだった。


コックテイル、とドアにテプラで貼り付けられているのを見つけた。

隠れ家的な場所だ、バーなのだろう。

店は落ち着いた雰囲気で、薄暗い上に音楽はなく、客の私語はあったが、グラスの中の氷のカランとした音や、紙タバコを吸う、ジリジリという音が聞こえるほどには静寂な店内だった。

田辺がマスターに、カウンターからテーブルに移動してよいか確認をとり、テーブルに席を移した。

上座に座らされ、落ち着いた雰囲気にさらに圧倒された。

田辺はもう既に一杯ひっかけているようだった。

そして、田辺がグラスを持ち、テーブルに移動してきた。

「こちらが、会わせたいとお話しした、宮城に住んでいらっしゃる四木(しぼく)さんです」

聞き馴染みのある苗字だった、珍しい苗字だったため、記憶していたのだ。

すると、田辺の真横には見知った顔があった。

海周(かいしゅう)さん?」

バイト先で、何年か前に退職された、私の先輩であった。

四木海周、学生ながらにアルバイトの総合リーダーに上り詰め、大手の就職先の内定を蹴り、フィリピンへ向かい、日本へ帰ってきて宮城でクラフトビールを作っている、フットワークが軽くて、頭の切れる変人だ。宮城に行ってからも私と交流があるその先輩が、田辺から紹介されるとは思いもしなかった。

「おっ、久しぶりじゃん、何?"タガメ"に入ろうとしてんの?」

「え、いや、そんなところ…かな」

と歯切れの悪い返答をしてしまった。それほどに動揺した。

なぜ海周さんが?

「あれ、お知り合いなのですか?」

「そうそう、バイトで一緒だったんだよ。コイツの大学デビューの話から、失恋の話まで全部知ってるよ」

知っている顔なのに、このコックテイルという場においては初対面かのように背筋が伸びた。

安心と緊張が同時に生まれた。

「それは都合がいい!そのお話もぜひしましょう、聞かせてください」

アハハ、と彼はやはり高い声で笑った。

「じゃあ二次会開始ってことで、みんなビールでいいね?」

と促され、同調圧力に負け、ビールを提供された。

乾杯をし、濃い苦味と強い炭酸に、思わず眉をしかめてしまった。


私と海周さんの話が弾みに弾んだ。何度もネタとして話していることを話され、赤面したり、おもしろおかしく笑ったりもした。


アイスブレイクとしては十分すぎる時間だった。

公民館で会った時の田辺(さん)からは想像がつかない程に彼は砕けた口調で、私たちの話にちゃちゃを入れた。


私は未だにビールを半分しか飲めていなかったが、二人は既に3杯目

のビールを平らげ、カクテルを飲み始めていた。

「やっぱビールの方がうまいよなあ、っていつも思うんだよな」

「そりゃ仕事にしてるからでしょ」と田辺(さん)と海周さんは饒舌にトークを進めてゆく。

二人は大学の同期で、ゼミから何まで、ツーマンでつるんでいたようだった。

白門の名門だ、二人とも理知に富んだユーモアと運動部的なノリを続けていた。

私が相槌をうつ間に、ようやく私のグラスが空いた。


「あなたはお酒はあまり飲まれないのですか?」

「はい、下戸なもので…」

「それでも、ぜひ"タガメ"参加祝いとして、一杯私からご馳走させてください」

と、田辺はこの店で3番目に値段のするウイスキーのロックを3人分頼んだ。


ウイスキーか…と思ったが、ご馳走してくれるのだ、受け取らないわけにはいくまい。

再度乾杯を交わし、一口目を口にした。

スモーキーでかつ奥行きのある味がした。

安いウイスキーしか飲んだことのない私にとって、驚きの味だった。

海周さんが口を開いた。

「んで、"タガメ"についてどこまで知ってんの?"メダカ"の話は聞いた?」

「おおよそは話したよ。それでいて、多分だけど"メダカ"についての詳細ももうわかったと思う」

「はい、"メダカ"についてはもうとことん。頭にきています。後輩が被害にあった、なんとか報復したい、とまで思っています」

「相変わらずアツいねえ、もうちょい冷静になった方がいいんじゃないの」

「"メダカ"のせいで貞操の危機に陥れられそうになって、彼氏と別れて、あの子は涙を流した、それだけが理由じゃダメですか」

「そもそも、あんたは"メダカ"に入ってなかったでしょ」

「入ってなかった…海周さん入ってたの?」

「俺は入ってたよ、入ってたし、D社まで行った」

驚きだった、"メダカ"でも成績が優秀だったのだ、大学に、バイトに、"メダカ"?すごすぎる。

「いざ入社前のインターンで、座り仕事ばっかだったから耐えられなくてね、蹴っちゃったけど。周りからは散々言われたから、うんざりしてフィリピンまで行ってコンサルしてた。そっちはあんま座り仕事なかったから相性よかったなあ」


と、口にし、カランと球体の氷が溶けてグラスの中で回る音がした。


「だから今、フィリピンでやれることやりきって、宮城でビールお兄さんとして働いて、フィリピンから"タガメ"まで銃を提供するお仕事をしてるってわけ」


サラッと、言った。


「…銃?」

「うん、ピストル、鉄砲、なんて言ったら伝わる?火縄銃?」

「いや、いやいや、伝わるよ。そんなことしてるの?」

"タガメ"は銃を取り扱っているのか?

人を殺すための道具、銃だ。

寒気がした、なにをするつもりなんだ。

「人を殺そうというわけではありません、抑止力としての、銃です」

と、田辺は言った。

「大きな話題にする、隠しきれないほど、とお伝えしたと思います。銃ならとにかく話題になる」

クイとグラスを傾け、田辺は続けた。

「言ってしまえば、我々は反社会組織です。サークルとは名目だけで、とにかく"メダカ"に抵抗すべく、存在している、そんな団体です」


私は言葉を失った。

正義感のためだけに銃を握らなければならないのか?

すると、それを読み取ったかのように田辺はこう言った。

「あなたが銃を握り、撃つことはありません。ないことを願っています。柄の部分で、めだかの水槽を割るだけです」

これもまたサラッと新しいことを言われた。

「入ってすぐの人が銃を撃つ機会を我々は作りません。撃つのは私たちのような人間で、頑強に守られた"めだか"の育成のデータやそれらに基づく"めだか"の根絶のために撃つのです。これはもう既に何度も行われている行為です。その度にD社は隠蔽し、何事もなかったかのように経済活動を続けます」

さらにクイとグラスを傾け、タバコを手に取り、蒸した。

「"タガメ"は全国に無数とあります。そしてその活動を、D社は隠蔽できなくなりつつあり、揺らいでいるのです。これは好機です。どうにかしてあの不純なD社の行いを絶やさねばならないのです」


私は、私は動揺した。

撃つことはないにしても、銃なんて持つだけで違法だ。

「ハンマーなどで代用できないのですか?」

「ハンマーのようなものを持ち歩けますか?話題性を生み、小型でポケットに入るサイズで破壊力のある、銃がよいのです」

「まあこうは言ってるけどさ、俺はハンマーでもいいと思うよ」

「そこが甘いんだよなあ、前からそうだ」

「俺は儲かるからいいんだよ、それでまた美味い酒が飲める」

と、海周さんはウイスキーを飲み干し、ビールをオーダーした。

「俺も、"メダカ"は正直言っていい思い出はない。それによくないことをした覚えもある。ラッキーと思うこともあれば、これは良くないなあ、と思うこともあった。できることなら、必ずあの会社は痛い目にあわなければならない、と思う」

ビールがすぐに提供され、ナイススピード!と海周さんはマスターを褒めた。

そのビールを飲みながら、また続けた。

「好きな人が泣かされた、それだけで動くのも悪くないと、俺は思うよ。動機がどうあれ、俺はお前がこっちにいるのは心強い。その分、活動しやすくなる、冷静でホットな奴がいるってのはチームに必ずよく作用する」

質問しようとしていたことは全て暴力性に訴える方向であることがわかった。至って平和的な結末が訪れないことを理解した。

それでいて、結論づけた。

"タガメ"は必要悪だ。

人を殺すことはない。

器物損壊と銃刀法違反だけで済むのなら、と、酒に飲まれた頭は判断した。


石鹸の中にマイクがあったことを思い出し、伝えた。

すると田辺が身を乗り出し

「それ以外に異変はありませんでしたか?トイレットペーパーの芯の中だったり、時計の置いてあった場所が変わったりはしていませんでしたか?」

と早口で言った。

「石鹸以外に特に異変はなかった、と思います。朴訥とした部屋なので、異変が起きて気づくような部屋ではありませんので…」

すると安心し、落ち着いた様子で

「ならいいのですが…、いずれにせよ、D社にマークされてしまったのは事実ですね。あなたのお部屋で、"メダカ"や"タガメ"について語るのはお控えください、我々の行動まで先読みされてしまってはいけません」

バナと話した際にはもうあったかもしれない、ということを付随して伝え、その話の内容を赤裸々に語った。

二人とも苦い顔をし、俺らの時にもあったな、と口にしていた。

「彼女に、これ以上"メダカ"のことを言ってはならない、となんとかしてお伝えください。当然"タガメ"のことはもってのほかです」

私はわかりました、と相槌し、氷が溶け切った頃にようやくウイスキーを口にした。

気分がどんどんと悪くなってきた。

「では、あなたは"タガメ"の一員として今後我々の活動に参加していただく、それで良いですね」

「はい、それで結構です。お力添えができれば、と思います」

すると、田辺はカバンをごそごそと漁り、書類をテーブルの上に載せ、見せた。

名前と指印が押してあり、傘連判状のような体裁になっていた。

「こちらにお名前と、指印を、お願いします」

酔った私は、もう言われるがまま、なされるがままだった。

これで立派な反社だ、とずんと沈んでいく感覚に陥った。

すっかり吐きそうなほどに気持ちが悪くなり、きちんと連絡先を交換して、代金を払って先に帰らせてもらおうとしたが、代金はいらない、と返され、またじっくり話をしよう、と伝えられ、わかりました、と口から出たと思うが、それすらもわからないままフラフラと店を出た。

外に出て、すっかり冷え込んだ夜の中に溶けていくうちに、BUMP OF CHICKENというバンドの太陽という曲のワンフレーズを思い出した。

「このくらい寒い方がいい 本当の震えに気づかずに済む」

その通りだと思った。

今私が震えてるのは、寒さか、酔いか、指印を押してしまったことかわからなかった。

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