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プロローグ

あと何回、こんな惨めな思いをしながら眠りにつこうとするのだろう。

あと何回こんな夜を越えればいいのだろう。


魚は、住むべき川を選べない。

人だってそうだ。

生まれる環境を選べない。


沖田ビル201号、陽当たりは悪く、洗濯機はベランダで、風呂場からの湯気や、料理をした際に発生する湯気で鳴る優秀な火災報知器を備えた、都内の片隅のH市K町の一室だ。


そこの住人、つまりは私だが、私も至って普通の住人である。26歳の体躯は157cm、病んだ精神への薬の副作用が相まって体重は増し、筋骨隆々で精悍とした姿は薬の副作用と怠惰な生活によって脂肪の肉塊へと変貌も遂げた。カフカが一匹の虫に変わったなら、私は脂肪の塊に変わった。それが現実の『変身』だ。


医者に診断された病以外にも何かを抱えているに違いない。

凛々しい姿はどこにもいなくなっていた。

こうなってしまったのはなぜか。

神が与えた試練なのであれば残酷である。

真っ白の状態で産まれてきた私に泥水を被せたのは誰か。


この201号室は内見に来た時から、張り替えたであろう床とそれに似合わない色の壁紙、水垢がこびりついた便器、詰まった排水パイプ、私が住むことによってしか画にならない部屋であった。


住んでからも、当然私にしか住むことができないであろう事柄が多々ある。7000円で購入した説明書もない中古の洗濯機は使用するだけで建物を揺るがすほどの轟音をベランダで奏で、隣人は窓を開けて12時間もアダルトビデオをみる。

当然、201号に住むのはこの私なのだから、問題はないのだ。断じて。


私はいわゆる学生の時代の喜びを断片的にしか享受していない。

健全なる学生が行うべき行事と悉く縁がない。

基本的に影を落として淡々と生活を送ってきた。

いついかなる時でも、である。


母校の大学では行事やサークル活動には無関心であったため、他者との関わりが学内で極端になかった。唯一いた友人の大酒飲みの竹田と坊主頭の石川も地方に就職が決まり、卒業後一度も会えていない。また、私は当時から病を患っていたので、その友人たちよりも遅れて卒業することになった。


「留年した」という耐えがたい屈辱と他者とのギャップで生じる焦りから、物事がうまく行くはずもなく、就職活動では私の生涯を他者に勝手に祈られ、社会から疎外され、陰鬱とした部屋の中で物寂しく時が過ぎるのを布団の中で待つことしかできずにいた。

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