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脇役な主人公補正者 〜偶然が俺を英雄にする世界  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第34話 恋と誤解の花束戦争

 都市ガルドの中央区は、久しぶりに穏やかな空気に包まれていた。

 教団事件の傷跡も少しずつ癒え、街の人々は明るい声を取り戻しつつある。


 そんな中、悠真は小さな通りの角にある花屋ルフレ・ブーケの前で立ち止まった。


「……たまの休日だし、花でも買ってみるか」


 窓辺には、色とりどりの花々。

 白、赤、青、ピンク――街の喧騒とは違う静かな世界がそこにあった。

 だが、扉を開けた瞬間。


「――あれ? 悠真さん?」

「っ!? リサ!?」


 中にいたのは、見慣れた栗色の少女――リサだった。

 その隣には……。


「ふん。あんたも来てたのね、悠真」

「……え、ミリア!? なんで!?」

 さらにカウンターの奥では、長い青髪をまとめた少女が涼しい笑みを浮かべる。


「奇遇ね。こんな時間に同じ店にいるなんて」

「セレナまで!?」


 とどめは、奥から現れた貴族服の少女――。

 「まぁ、みんな同じ考えだったのね」

「クリスティア……!?」


 悠真は店の入口で固まった。

 全員集合。しかも花屋。


(……なんでよりによって、全員ここにいるんだよ!?)


「まぁまぁ、今日は若いのが多くて賑やかじゃのう」

店主のおばあさんが目を細めて笑う。


「賑やかっつーか……修羅場の香りしかしねぇ……!」



「えっと、この“白いマーガレット”ください!」


 リサは真剣な表情で花を選んでいた。

 その花言葉は「真実の愛」「信頼」。


「悠真さんって、白が似合うと思うんです! ……その、清潔感とか!」


「恋の花じゃな」

店主がニヤリと笑う。


「えっ、ち、違っ――いや違わなくも!?」


 顔を真っ赤にして両手をばたつかせるリサ。

 その様子を、悠真は遠くから眺めていた。


(……なんの会話だあれ!?)


 天然爆弾、可愛く炸裂である。



「……この“赤いガーベラ”、包んでくれる?」


 花言葉は「挑戦」「情熱」。

 ミリアの選ぶ花として、あまりに分かりやすい。


「別に好きとかじゃないけど、頑張った奴には花くらい、ね。」


「贈ると恋が実るって言うが?」

店主がニヤリ。


「うるさい、ジンクス嫌い!」


(……顔真っ赤だけど!?)悠真の心の突っ込みが炸裂する。



「私は“青いバラ”をお願いするわ」


 花言葉――「奇跡」「夢叶う」。


「感情じゃなくて“象徴”。彼に似合うと思って。」


「冷静な顔して、一番高いの選んでるんじゃが」

店主の呟きに、セレナは微笑で返した。


「……この程度の投資、必要経費よ。」


(いや、花に経費って概念!?)悠真の脳が混乱する。



「ピンクのバラのブーケを。感謝と幸福を込めて。」


 花言葉は「感謝」「恋の誓い」。


「これはお礼よ。あなたが守ってくれた街に、感謝を込めて。」


「……まぁ、これは本気のやつじゃな」

店主がため息交じりに呟く。


「え、ちょ、ちょっと待って!? 本気って何!?」


(お願いだから誤解を誘発しないでくださいクリスティア様ァァァ!)



 その瞬間――店頭で全員が鉢合わせた。


「……あら、全員集合ってわけ?」

ミリアが睨む。


「偶然、ね。」

セレナは微笑む。


「みんなも……花、買いに?」

リサが焦る。


「ふふ、贈る相手は――言わなくても分かるわね?」

クリスティアが微笑む。


「やめてぇぇぇ! 花屋で戦争やめてぇぇぇぇ!!!」


 悠真の叫びも虚しく、花びらが舞い散る戦場と化す。

 店主はカウンターの奥でお茶を啜りながら、「これが青春じゃのう」と微笑んだ。



「悠真さん! お礼ですっ!」リサ。

「別に深い意味はない!」ミリア。

「観賞用に、どうぞ。」セレナ。

「私からの感謝の気持ちよ。」クリスティア。


「待って待って待って!? 手、二本しかねぇから! っていうか全部バラ!? トゲ刺さるって!」


 押し寄せる花束、ぶつかる肘、飛び散る花弁――。


 そして――


 バサァッ!!


 花びらが空を舞う中、悠真の足元から悲鳴が上がった。


「ぎゃああ!? 花束、踏んだ!?」


「ひゃああ!? マーガレットがぁぁ!!」リサ。

「てめぇぇぇ花の仇!」ミリア。

「落ち着いて、殺傷禁止!」セレナ。

「……これは、悲劇ね。」クリスティア。


 市場通り中に笑い声が響いた。

 悠真の尊厳は、花びらと共に風に散った。





 夕暮れ。

 悠真は店先で潰れた花を一つひとつ拾い集めていた。


「……ごめんなさい、悠真さん。花、台無しにしちゃって。」

リサが肩を落とす。


「悪かったわよ……戦争って言ったの、あたしだし。」

ミリアが頬をかく。


「でも、あなたらしい混乱だったわね。」

セレナが笑う。


「ふふ……花って、壊れても香りは残るものよ。」

クリスティアがそっと言った。


 その言葉に、悠真は苦笑した。


「ほんと、お前らってさ。にぎやかすぎて、嫌いになれねぇよ。」


 四人とも、一瞬固まり、顔を赤らめる。


「そ、そういうセリフ軽く言わないでよ!」

「……不意打ちはずるいわね。」

「……分析不能。」

「ふふ、今の聞いた? “嫌いになれない”って。」


「やめろぉぉぉ恥ずかしいんだよぉぉぉ!」




 夜。

 帰り道の途中、悠真はふと足を止めた。

 ポケットの中には、潰れた花々の中で唯一形を残していた“青いバラ”。


「……誰のだろうな、これ。」


 誰が贈ろうとしたのか、もう分からない。

 でも――確かに温かかった。


「花一輪で、こんなに騒げるなんて……。でも――悪くないな、こういう日常も。」


 夜風に揺れる青い花が、月光に照らされて小さく輝いた。


 そして、背後から小さな声が届く。


「……花一輪で、戦争勃発ね。」


「もうやめてくださいほんとに!」

悠真が即ツッコミ。


 その笑い声が、夜の街に溶けていった。

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