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脇役な主人公補正者 〜偶然が俺を英雄にする世界  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第15話 森での魔物遭遇(また偶然で大勝利?)

朝。

 まだ薄い霧が残る灰色の空の下、俺たちは領主館の前に並んでいた。

 冷たい風が吹き抜け、荷馬車の帆布をばさばさと揺らす。


 ――出発だ。

 目的地は北の森。

 魔物が出没しているとかで、領主ガルド卿から「調査兼討伐」を頼まれた。


「……やっぱり平穏って、長持ちしねぇな」

 荷物を載せながら俺――悠真ゆうまはぼやいた。

 たった二日前まで“武闘会で転んで優勝した人”として笑い話にされてたのに。

 今じゃ、“領主直々の依頼を任された英雄様”扱いである。

 いや、ちょっと待て、俺そんなに頼りがいあったか?


「悠真さん、準備はできましたか?」

 柔らかな声で振り向くと、銀の髪を風に揺らすセレナが微笑んでいた。

 青い瞳は相変わらず落ち着いていて、どんな状況でも“癒し系上司”みたいな雰囲気を出してくる。


「……うん、まぁ。心の準備はまだだけどな」

「大丈夫ですよ。私たちがいますから」


 さらっと言ってくるな、この人。

 信頼というより、なんか俺が“幸運のマスコット”扱いになってないか?


「森って、怖くないですか?」

 今度は明るい声。元気印のリサが、帽子を押さえながら訊ねてきた。

 栗色の髪がふわっと揺れて、瞳が心配そうに揺れる。


「怖いもんは怖いよ。特に俺はな」

「でも……一緒なら大丈夫ですよね?」

 そう言ってにこっと笑うな、心臓に悪い。


「リサ、油断するな」

 低く冷ややかな声が割り込む。

 ミリア

 無表情に見えるが、誰より周囲を観察しているタイプだ。


「訓練されてない者には、森は危険。足を取られた瞬間に、死ぬ」

「えぇ……脅かさないでくださいよぉ……!」

「事実だ」

 バッサリ。情け容赦ない。


「でも、悠真さんがいれば……なんだか心強い気がします」

 とリサ。

 まさかのフォローに、俺は条件反射で叫んだ。


「いや俺が一番訓練されてないだろ!!」


 三人がくすりと笑う。

 なんだこれ。ツッコミ役が完全に定着してる。


 ――けれどそのとき、ミリアだけが一瞬、視線を森の方へ向けた。

 その表情に、微かな緊張の色。

 何か、ただの討伐依頼ではない気がした。


 馬車は、そんな不穏な空気を乗せて、静かに北の森へと走り出した。




 昼過ぎ。

 森の入り口は、思っていたよりも重苦しかった。

 木々が空を覆い、昼間なのに光が薄暗い。

 湿った土の匂いと、冷たい空気。


「ここ……昼なのに夜みたいですね」

 リサが小声でつぶやく。


「音が、しない」

 ミリアが呟く。

 確かに、鳥の声すらない。

 ただ、風の音だけが耳に残る。


 そして――その沈黙を破るように。


 ――グルルルルルル……。


 低い唸り声。

 次の瞬間、木陰から一匹の狼が姿を現した。


「っ!」

 セレナが即座に杖を構える。

 ミリアは剣を抜き、淡い光の線が走る。

 俺? もちろん身を引く以外の選択肢はない。


「で、出たぁぁ!!」

 リサの悲鳴が響く。

 狼は一匹じゃなかった。次々と茂みから影が現れ――あっという間に十数匹の群れが俺たちを囲んだ。


「悠真さん、下がって!」(セレナ)

「もう下がってる!! というか逃げてる!!」

「ミリア、どうする!?」(リサ)

「……やるしかない」


 ミリアが剣を構える。

 淡く光る封印陣が足元に浮かび上がり――って、おいおい本気モードか?


「うわっ、待って待って、俺、戦うとか聞いてない!」

「悠真さん、気をつけてください!」

「無理!! 無理だから!!」


 狼の一匹が唸り声を上げ、飛びかかってきた。

 反射的に俺は後ろへ跳ね――


 ――つまずいた。


「わっ!?」


 そのまま荷物袋の上に転倒。

 中身が盛大にぶちまけられる。干し肉、パン、乾燥果実、全部。


 ……そして狼たちは、一斉にそれへ突撃した。


「……え?」

「え、食料に群がってる?」(セレナ)

「まさか……おとりにしたの?」(リサ)

「計算づく……?」(ミリア)


 やめろ、その真顔で分析するの。

 違うから。マジで違うから!


「さすが悠真さんです!」(リサ)

「偶然とは思えない」(ミリア)

「……“導かれし運”ですか」(セレナ)


 いや、そんなカッコイイ言葉でまとめないで!?


 狼たちは満足したのか、数匹がそのまま引き上げようとした。

 ……だが、森の奥から――低く、重い咆哮が響いた。


 ――グオォォォォォォ……ッ!


 木々を押し分けて現れたのは、群れの中でもひときわ大きな影。

 漆黒の毛並み、赤く光る双眸。

 牙は人の腕ほどもあり、息をするたびに熱風が吹く。


「……ボス、だな」

 ミリアが呟く。

「いやいやいや! 俺たち、討伐しに来たんじゃなくて調査だからな!?」

「悠真さん、下がって!」(セレナ)

「もう十分下がってるわぁ!」


 狼が地を蹴る。

 目にも止まらぬ速さで突っ込んできた。

 やばい、避けきれ――


 ガッ!!


 反射的に木剣を振り上げた。

 ……が、相手の攻撃を受け止められるはずもなく、木の枝をへし折るような音が鳴った。


 そして。


 ――バキィッ!!


 真上の枝が折れ、俺の頭上に何かが落ちた。

 丸くて、でかくて、ぶんぶん音がする。


「……あ」


 蜂の巣だった。


 次の瞬間――。


 ブゥゥゥゥン!!!


 怒り狂った蜂の大群が飛び出し、真っ先に襲いかかったのは――ボス狼。


「グギャアアアアア!!!」


 漆黒の巨体が森の中を暴れ回る。蜂は離れず、さらに群れ全体に飛び火した。

 逃げ惑う狼たち。あっという間に森の奥へと消えていく。


 静寂。


 ……嘘だろ。


「……勝った?」

「悠真さん……すごいです……!」(リサ)

「自然を……操った?」(セレナ)

「……皮肉ね。力がなくても、運命は力を与える」(ミリア)


 いや、違うんだって!


「ちょ、待って! 俺、ただ枝折っただけで――!」

「結果的に救われた。感謝する」(ミリア)

「“枝の英雄”ですね!」(リサ)

「それ、全然かっこよくないから!」


 三人が笑い、緊張が解けていく。

 セレナが魔法で森の空気を浄化し、リサが荷物を拾い集める。


「……でも、助かったのは事実。あなたがいたから」

 ミリアが小さく呟いた。

 その横顔は、どこか遠くを見ている。


「……この気配。まだ終わっていない」

「気配?」


 その言葉に、背筋がぞくりとした。


 偶然の勝利。

 ――運命なんて信じない。

 けれど、もしも俺の“偶然”が誰かの力になるなら――。


 俺は、もう一度ため息をついた。


「……はぁ。俺、いつになったら脇役でいられるんだろな」


 木漏れ日の中、ミリアの青髪が静かに揺れた。

 その瞳の奥で、微かな光が瞬いていた。


 この森の物語は、まだ終わっていなかった。



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