方向音痴は程々に①
はじめまして
初投稿です。
世界観の設定云々はあまり練れてませんが、それでもよろしければどうぞ、お時間のある際にお楽しみくだされば幸いです。
どんよりとした雲が空を覆い、湿った空気が周囲を漂う中、一人の少年が道の端で空と同じような空気をまといながら、駅のホームで呆然と立ち尽くしていた。
「……どこだここ?」
俺はエダキス。【土の都】出身の上級冒険者だ。
各地の珍しい動物や植物を研究する、将来の目標のため、日々人に悪さをする魔物などを倒し銭を稼いでいる。
今日の目的地は、隣国の【焔祀国】だ。
なんでも3週間後に開催される祭りの宝具が盗まれてしまったらしく、それを探して欲しいと所属する組合に依頼が来た。
これも将来の夢のためだ!
そう思って依頼を受けたあと、意気揚々と電車に乗ったが……焔祀国に似ても似つかない、全く知らない場所に着いてしまった。
「えっ、ほんとにどこだよ。焔祀国ってこんな感じだっけ、依頼人が言ってた所と全然違うよな……?」
駅の文字は掠れており、調べようにもスマートフォンのバッテリー切れでお手上げ状態である。
「あぁーーまたやらかした……!」
普段、俺が所属している組合の人間や依頼主の大人に完璧超人だなんだと持て囃されているが、そんな俺にも弱点がある。
そう――方向音痴だ。しかも遭難するレベルのやつ。
幼い頃には近くのパン屋にお使いに行くはずが、いつの間にか隣町にいたり、片道三十分の学校に向かうのに何故か半日かかったり。
成長したら自然と治ると思っていたがそれは変わらず、初めて行ったダンジョンでは三日間同じ階層で迷い続け、危うく餓死しかけた。
これはもう一生治らないやつだ、と自覚したのは真冬の雪山で遭難した時かなぁ。
駅から少し離れ、近くの公園で現実逃避をしながら呆然としていると、ポツポツと雨が降り始めた。
カミサマもあまりの俺の方向音痴さに嘆いてんのかな。
宿がなかったら野宿確定だし、テント出して寝るの嫌だなー。しかも設置もちょっとめんどくさいし。
センチメンタルな気分に浸りながら、そそくさと天井のある所に移動した。
俺以外にもその公園にはチラホラと人がいた。
しかし、雨に気づいたのか帰り支度をしている人や、自分や荷物に防水魔法をかけながら大きな建物まで走る人など、数は減りつつある。
「あれ、君エダキスだよね?」
「うわっ!!」
段々と激しくなっていく雨を見て、野宿を想像して陰鬱な気分になっていたから、いきなり真横に人が現れたように思え、正直ものすごく驚いた。
「そんなにびっくりするとは思わなかった。ごめん。」
「だ、大丈夫、気にすんな。…………?、てか俺の名前なんで知ってんの?」
「………はぁ〜!?オレのこと覚えてないの?!フィティだよ!フィティ!!」
「フィティ……?」
白いフードを被った長髪の男に見覚えなんて正直ない。フィティ……?はてさて、そんな名前の知り合い居ただろうか?期待に満ちた表情の男に何となく似た人が思い浮かぶ。過去に一人、いた気がする、確かこんな風な水色の目をした――。
男の目を見たその瞬間、パチ、とパズルのピースがハマる音が頭の中で聞こえた気がした。
二年前――自分が十三の頃
雪山で遭難した時、一緒になって凍えて救助を待った、同い年の友人の名前と一致した。
「あぁ!二年前の!久しぶり。元気だったか!」
「君ってばホント相変わらずだね。元気だよ、真冬の山で遭難した時よりはずっと元気さ!」
「あー、そうだ。あの時はすごく寒かったよなあ」
「ウンウン、君の魔法石がなきゃ凍え死んで……ってそうじゃなくて、こんな所で何してんの?」
突然の旧友との再開に喜んで、うっかり自分の置かれた状況を忘れていた。現在地不明、スマホの充電なし、に次いで迷子である。詰み確定!
思わずへたり、と座り込む。
行儀が悪いのはどうか許して欲しい。
「実は……。」
ボソボソと自分の置かれた状況について話すと、フィティは途端に吹き出し顔が引つるほど笑っていた。
ゲラゲラどころか声も出さずにクツクツ笑っている。
コイツやっぱり腹立つ!
「エダキスはホントに方向音痴だねぇ。間違って反対側の電車に乗ったりしたんだろ? 残念、ここは【水の国】だよ。」
体感で10分くらい笑ったあと、笑いすぎで出た涙を上着の袖で拭きながらフィティはこう言った。
「水の国!??まじかよ……俺、何度確認したのに、なんで間違えたんだ……。」
「ちゃんと周りを見てないからだよ…全く。この辺りは暗くなると治安が悪くなる、とにかく市街地に向かおう。それに――」
そう言って空を見るフィティ。
連れるように眺めると、さっきまで激しく降っていた雨の勢いが弱まり、だんだんと晴れて行った。
しかしながら、雲は空からどかずその場に居座り続けている。
「ウン、やっぱり雨止んだね。多分30分くらい経ったらまた降るから、その前にどこか建物に入らないとまずいよ。さ、ホラ エダキス立って!荷物もってあげるからカバンよこして。」
「あ、おう……。」
急かされるまま、傘を出すために地面に転がした荷物を拾って水に着いて行った。さすがに持ってもらうのは悪い気がしたが、フィティは一向に出した手を下げなかったから、結局エダキスは諦めて小さい方を手渡したのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回の更新は未定です。




