24:バイト使用人と小型船の月たち
「お嬢」
「なんでしょう、穂積さん」
「この学校ってさ、一応聞いておくけど名門のお嬢様学校なんだよね」
「はい。そう伺っています」
「使用人含めて大部屋で寝泊まりって凄くね?」
俺たちは一応、小型船の中を探索していた
まあ、あるのは本当に広いスペースのみ。机どころか椅子もない。座布団ぐらいくれよ
豪華客船との落差が酷すぎて、ため息が出てしまう
「・・・クラス格差かもしれませんよ」
「それはどういう?」
周囲を一通り見て回ってきたであろう水仙様がお嬢にそう告げる
何か根拠でもあるのだろうか。気になるな
「加菜さんに見せていただいたんです。先程の試験で鳥組に配られた地図。指示の内容も私達みたいに曖昧ではなく、出口には鍵があること。氷野花様を始めとした鍵を持つ存在に遭遇することも含めて公開されていました」
「なるほど・・・」
「それ、私も文芽と確認しあったのです。風組は鍵の存在まで公開されていたのですよ」
うちだけ地図だけ・・・逆に地図が公開されていただけマシか?
まあ、それぞれゴール地点が異なるのだから、地図の用意までは最低条件だよな
本当に、合格できたのは運みたいなものだよな
「さて、お嬢。格差のことも考えたいところだけど、それは銀花に到着してから、加菜と春小路さんに聞いてみたらいい」
「そうですね」
「今は、同級生になる子たちに目を向けるべきだと思うよ」
「あ・・・」
そう、この船には五組の人間が乗り込んだ
俺とお嬢、茨様と環、水仙様と異羽さん。それから二組
スラックスを履いた短髪の少女と、小さなメイドの女の子
全体的にほわほわした雰囲気を身にまとう少女と、活発そうなポニーテールのメイドさん
同級生になるこの二人に関することはまだ何も知らない
「行ってきますね。穂積さんたちも、お二人と」
「ああ。わかってるよ」
まずはお嬢たちが動き出す
こうしてみると、お嬢はなんだかんだで中心役
水仙様と茨様がセットだと取り巻きがついているように見えなくもない
もっとも、二人共そういう人間ではないのだが
「あの、お時間よろしいですか?」
「ああ。君たちか。ちょうどよかった」
「はい?」
短髪の少女はお嬢の手を恭しく取りつつ、まるで紳士のように彼女たちに接する
執事ならともかく、彼女は法霖の制服を着ている
・・・間違いなく、女子生徒だ
「今、僕とらぎらぎも君たちと話したいと思っていたところでね。設備がないから簡単なものしか用意が出来ないが、一時間、お茶を飲みながら歓談でもどうだい?君たちの同伴者も一緒にね?」
「いいのですか?」
「ああ。僕はその辺り気にしないし、らぎらぎも同じ。それに」
彼女はお嬢にあるものを突きつけながら、小さく笑う
どうやらその手に握られているのは・・・
「ようかん・・・?」
「お茶は大勢のほうが楽しめるものだよ、レディ?」
ポトンとお嬢の手のひらに羊羹を落とし、彼女は俺たちを手招いた
それを真似るように、もう一人の少女も俺たちを手招いてくれる
この誘いに乗らないわけにはいかない
遠くで見守っていた俺と環と異羽さんはお嬢たちの輪に混ざっていく
「岩滝咲乃様、その使用人の穂積砂雪・・・君たちのことは知っているよ」
「どうして」
「あんな場で目立てば自然と名前も覚えるよ。まさか月だったとは。三年の花だったかな?気に入られるなんて、一体何をしたんだい?」
「「あはは・・・色々と」」
言えない。タックルして水路に突き落としたとか
言えない。這い上がってきた彼女の顔面を蹴って水路に押し戻したとか
・・・絶対に言えないな
「おや、言えないようなことをしてきたと。想像以上に逞しいお嬢さんのようだね、さくのんとほずみんは!」
「さ、さくのん・・・?」
「ほ、ほずみん・・・?」
一人で笑う彼女からつけられた奇妙なあだ名
それに困惑していると、もう一人の少女が俺たちの肩を叩く
「楓さん、人に変なあだ名をつけるのが好きみたいなの」
「そうなんですか?では、貴方も?」
「うん。あ、私は紅花柊って言うの。「しゅう」は柊って書くから、楓さんからは「らぎらぎ」って呼ばれていたりするんだ。よろしくね、咲乃さん。砂雪さん」
紅花様はとっつきやすい性格の方のようだ
砕けた口調。穏やかな雰囲気も相まって、なんだか普通の世界に戻ってきたような感覚さえ覚える
「楓さん、一人で笑っていないで。そろそろ自己紹介したら?」
「ああ。そうだね。僕は園宮楓。三度の食事より三時のお茶、それよりもいろはが大好き。こちらは僕の使用人を務めてくれている海原いろは。十歳だ」
抱き上げられた小さなメイド服の女の子。どうやら彼女が、園原様とやってきた使用人らしい
環も若いな、とは思っていたが・・・まさかそれを下回る十歳が現れるとは
こんなにも小さいけれど、かなり優秀な使用人なのかもしれない
勉強させてもらうことは多そうだ
嬉しそうに園宮様の腕の中で笑い、俺達の方を見てはその腕の中に顔を隠す
恥ずかしがり屋・・・なのだろうか
「お嬢様、お嬢様!」
「もちろん、風音のことも紹介するよ。この子は丘野風音。私についてきてくれたメイドさん!」
「ご紹介に預かりました、丘野風音と申します!元気が取り柄です!よろしくお願いいたします!」
こちらは海原さんと真逆の活発な少女
紹介前から、紅花様の前で紹介はまだかまだかと待ちわびていたし・・・わんこ系というやつだろうか
その流れで水仙様と茨様も自身と環と異羽さんの紹介を済ませ、話は「次」に移っていく
「明日は入学式だけど、まずは寮だよね!どんなところなのかなぁ」
「楽しみですよね!お嬢様!」
「ワンルーム、だったりするのかな。それとも相部屋?」
「私たち使用人はまた別の部屋なのでしょうかね・・・?」
「かもしれないね。まあ、別々だろうがいろはは僕と一緒の部屋で寝泊まりをしておくれ」
「はい、お兄様。それに私は、お兄様がいないと眠れませんので・・・怖いのは嫌です」
「多少汚しても怒られない部屋がいいのです・・・」
「お嬢様は「多少」で済ませられませんよね。借り物ですからね。いいですか!?」
「穂積さんは、どんな部屋だと思いますか?」
まさか俺に部屋の話が振られるとは思っていなかった
何も考えていない・・・無難な解答?と言っても、俺は真純さんの事務所とかつて自分が住んでいたあの家しか知らない
お嬢たちが求める答えは出せない
「んー・・・押入れさえあれば何も文句言わないかな」
「・・・押入れ?」
「うん。部屋にできるでしょう?」
「ちゃんと穂積さんの部屋もあると思いますよ。そんな猫のロボットみたいな住処を作らないでください」
お嬢が何を言っているかわからないが、とにかく俺と同じように押入れに自室を築いている存在がいるらしい
「そういえば、穂積さんが住んでいらした場所は六畳一間の風呂なし物件でしたね」
「ああ。だからそこを自室」
・・・っていうか、避難先にしていた
酒癖、悪かったからな。そこに入って息を殺していれば、酒で上機嫌な両親から存在が認識されなくなる
負けて不機嫌になっていた時もあった。けれどその時、憂さ晴らしに呼ばれるのは俺だけ
あいつらに雅日が殴られないだけマシだと言い聞かせながら
「・・・」
「どうしたんですか、穂積さん」
無意識に腹へ手を当てていたらしい
お嬢が不思議そうに俺の顔を覗いてくる
「ううん。そういえば、お腹すいたなって思ってさ・・・安心したからかな」
「言われてみれば、そうですね。何か食べるもの・・・羊羹!半分に分けっこして食べましょうか」
「いいの?」
「ええ。一緒に食べましょう?」
適当にはぐらかした言い訳をお嬢は信じてくれたようで、先程園宮様から頂いた羊羹を半分に割って、俺に差し出してくれる
『お兄ちゃん、おまんじゅう、はんぶんこでたべよ!』
「・・・」
昔のことを思い出した影響か、お嬢と雅日の姿が重なる
けどその幻は一瞬で消えてしまった
目を見開いた俺の目の前にいたのは雅日じゃなくて、お嬢
「どうしました?羊羹、苦手でしたか?」
「ううん。苦手じゃないよ。ありがとう、お嬢」
「いえいえ。それでは、いただきます」
「いただきます」
口に含んだ瞬間、ほのかな甘さが口の中に広がる
あの時の饅頭もそうだった
ずっと寄り添って生きてきたあの子は今、隣にはいない
簡単に会える場所にもいない
そばにいるのが当たり前だったから、いないのが変で
違和感で、寂しいと心から思うのだ
船内の放送で、もうすぐこの船が銀花につくと連絡が入る
よかった。やるべきことができた
俺たち使用人は下船準備を整えるためにそれぞれ動き出す
寂しさは、頭の隅に追いやれた




