ナメ×なめ
(1)
人が多くの戦、災害を乗り越え、現在へと己の血族を残すと同様に、闇の存在であった彼等(妖怪)もまた、人の世に交ざり、その血筋を子孫へと連綿と受け継がせている。
これは、受け継ぎたくもないのにその闇の遺伝子を受け継いだ、かわいそうでちょっとうらやましい少年のお話。
とあるマンションの浴室。
本編の主人公である高1の男の子。新宮聖美が、制服の裾を捲り上げ、懸命に浴槽をスポンジで洗っている。
「ごめんねぇ、聖美ちゃん。私が右腕を骨折したばかりに、こんな事させちゃって」
スポーツで有名な浄徳学園高校の制服を着た三宮遥が、となりに住む、幼なじみでクラスメイトの聖美に、自宅の浴槽の掃除を頼んだようだ。
遥は一年生だが、バレー部の次期エースアタッカーとして期待されている。
その鍛えられた腹筋と年齢にそぐわないほどに育った胸は、いい被写体を求める写真部のかっこうの獲物と評判だが、本人はそんな事知る由もない。
ポニーテールにまとめた黒髪からは、男の鼻腔をくすぐる甘い香りが漂ってくる。聖美も年頃の男。例外ではないはずだが……。
「大丈夫だよ。叔母さんも仕事で帰りが遅いし、僕で出来る事があれば、何でもやるよ。ここはいいから、向こうで休んでなよ」
「聖美ちゃんは優しいね。分かった、ありがとね!!」
浴室を覗き込んでいた遥が居間に戻ったのを確認。聖美は大きく息を吸った。
「はぁー、生き返る。遥ちゃんと、叔母さんの甘いニオイ。もう、ガマン出来ないや。よっと!!」
虫も殺さないような幼い顔をしている聖美だが、その口中からダラリと腹部へ吐き出したモノは、人間の舌とは思えないほどの長さがあった。
その長さは30センチを有にこえている。いや、それどころか小刻みに蠕動し、伸縮。その長さをさらに伸ばしている。
夫を亡くし、シングルマザーとして遥を育てた叔母さんも娘と同じくグラマラスで、男たちの視線を釘付けにする事で有名だ。
その二人が毎晩、ここで汗を流し、身体を横たえている。
突如、聖美のお腹がグゥーっとなった。空腹の証だ。
「いただきます!!」
手を合わせそう言うと、聖美はその長い舌で浴槽を隈なく、ペロペロと舐め始めた。
途端に全身に広がる幸福感と充実感。
聖美の空腹感は唯一、この垢舐め行為によってのみ、解消される。
妖怪、あかなめ。
古来より、古びた風呂場や朽ちた屋敷に棲むとされる妖怪。
風呂場や桶に付着した人の垢を舐めることで、その妖力を保つとされる。
聖美はそのあかなめが、人の世に交ざり後世に遺した貴重な存在なのであった。
舌の最長は約5メートル。
その先端の移動速度はプロボクサーのシャドーボクシングに引けを取らず、以前は舌で軽自動車を持ち上げた事もあった。
舌の側面には1円玉ほどの感覚器が点々と見られ、空気の流れ、音、味覚を鋭敏に捉えている。
キッチンからは、遥が夕飯の準備をしている様子が舌の感覚器にイメージとして伝わってくる。
(ん、料理の準備?)
途端に、室内に遥の悲鳴が響く!!。
「は、遥ちゃん!。どうしたの?」
慌てて舌を通常状態に戻し、キッチンに向かった聖美の前に、左手先から出血している遥の姿があった。
床に数滴の血痕がみえる。包丁でかなりスパッとやってしまったらしい。
「ごめん。漬け物切ろうと思ったら、滑っちゃって」
本来は利き手でない方で包丁を持つ時点でアウトだが、聖美は遥の気持ちが嬉しかったので責めることはない。
風呂掃除を済ませた自分を驚かし、喜ばせたかったのだろう。
「びっくりしたけど大丈夫だよ。
さ、傷を見せて」
遥の左手へ手を伸ばし、聖美は躊躇せず、その傷口へと口をつけた。
軽くねぶり、舌を這わせる。
「あっ……。ん、何、この感じ……」
驚きと恥ずかしさが交錯する数秒間の初体験に、遥の口から思わず吐息が洩れる。
と同時に、聖美にも雷に撃たれたかのような震えがくるほどの衝撃が走った。
(何だ、この美味しさ。女の子の身体を舐めるって、こんなにも気持ちが昂るんだ。
知らなかった。
こりゃ、垢なんて舐めてる場合じゃないな!!)
「は、はい。もう、いいよ。
血、止まったみたい」
「へっ?」
聖美がペロリと一口、舌で舐った傷口は完全に消失しており、その傷痕を見つける事は不可能であった。
(血を止めようと思わず舐めちゃったけど、変に思われないといいな。どうにか忘れてくれると、助かるんだけど?)
あかなめの子孫である自分が、人を、女性を舐める事で傷を癒す事が出来るとは知らなかった。
自分にあかなめの力がある事を初めて
知った時は、親にも言えず、一人苦しんだ事を思い出した。
そしてそれは今でも続いている。
自分の家庭も、遥と同じくシングル家庭だ。
物心ついた頃に母の記憶はなく、公務員である厳格な父親に、あかなめの力のことなんて相談出来る訳がない。
あの厳しい父さんがあかなめである訳も無く、だとしたら、あかなめは母さんの血筋?。
分からない。
でも、この身体はあかなめである事を常に僕に要求し、その欲望は次第に強くなっていく。
こうして、浄徳学園高校1年C組。
新宮聖美の新たな性的嗜好が開発、解放され、学園に謎のあかなめ伝説が広がっていくのだった。
(2)
私立浄徳学園高校。
文武両道を尊び、多くの部活動を推進する新設校である。
割合的には女生徒がその七割をしめ、女生徒用の寄宿舎も完備。遠方よりの生徒受け入れにも対応している。
だが、そんな中にも時代遅れの輩はいるようで……。
1年C組、クラス内。
窓側の席に着き、談笑する聖美と遥。
「遥ちゃん、昨日は傷がうまく塞がって良かったね」
後ろの席の遥に振り向いて話しかける聖美だが、遥の様子がおかしい。
「傷、傷って何のこと。
昨日、聖美ちゃん来た時、何かあったっけ?」
(覚えていない?。あれだけ出血してたのに?)
遥の左手の傷は既に完全に塞がっており、傷の痕跡は見つけられない
呆然とする聖美に、遥が右手のギプスに触れる。
「傷ってこれの事?。
このギプスとも今日でお別れ。
まだ、ちょっと痛いんだけどね。でも、来週からの地区予選大会には、残念だけど出場出来そうにないわ」
「そ、そうだね。残念だね」
遥の表情から、どうやら嘘を言ってるようには見えない。
遥は一年でレギュラーだったが、それだけに残念。悔しそうだ。
(も、もしかして、僕のあかなめとしての能力って……)
「おい、三宮ってのは居るか!!」
突如教室内に、平穏をぶち壊す怒声が響き渡る。
金髪のトサカ頭。2年の浅宮清春の姿が教室入口にみえる。
その勢いに、教室の皆の視線が遥に集中する。
浅宮はズカズカと遥の前に来ると、大声で感情を吐き出した。
「お前が三宮か?。
よくも京子に、あんな低脳とは別れろって、言ったらしいな!!。
余計な入れ知恵しやがって!。ただじゃ、すまさねぇぞ!!」
キッと浅宮は遥を睨みつけるが、どこ吹く風とばかりに、遥は切り返す。
「あら。
貴方が低脳だと言った覚えはないわ。ボクシング部の主将だかなんだか知らないけど、自分の力を誇示して、学園内で大声でバカ騒ぎするような奴とは別れたほうが良いと、同じ部活の友人としてアドバイスしただけよ!!。」
聖美は、自分と話すときには優しい口調なのに、他の男には理詰めでやり込めるその姿に、驚きの表情をみせる。
長文で捲し立てられた浅宮は、一瞬、考え込んだが、
「って、結局、それオレの事じゃねぇか!!」
「あら、そのようね!!」
「てめぇ、ふざけんじやねぇぞ。このブ……」
その最後の一言は聞き捨てならない。
カッとなった浅宮が振り上げた拳は遥に届く事なく、手首を抑えられていた。
聖美だった。
「あっ!!」
「聖美ちゃん、カッコいい!!」
目を輝かせる遥。
「ああッ!おい、コラ。てめェ、何しやがるッ!!」
ものすごい目付きで聖美を睨みつける
浅宮。
「おい、覚悟は出来てんだろうな」
「い、いやぁ。今のはつい勢いで」
頭をカキカキする聖美。
「ふん。聖美ちゃんはあんたなんかよりずっと強いんだから、甘くみない方がいいわよ!!」
「ち、ちょっと遥ちゃん、なに焚き付けてんの?」
「そうかい。いいだろう、放課後、ボクシング部に来い。そんなに護りたいなら、護らせてやるよ!!」
「ええ〜ッ、そんなぁ……」
(3)
そうして、舞台は一気に放課後。
ボクシング部。
逃げる間もなく捕らえられた聖美は、浅宮と、その取り巻き達に無理やりリングに立たされたのだ。
ヘッドギアに、ボクシンググローブ。
シューズまで身につけさせられている。
「聖美ちゃん、がんばって〜」
「あのね、誰のせいでこうなったと思ってるの?」
「大丈夫よ。聖美ちゃんなら、楽勝よ」
何故か遥は余裕でパイプイスに座り、応援している。
聖美がタコ殴りにされる事など、微塵も考えていないようだ。
「オレも舐められたもんだな。ど素人相手に。おい、誰もこないよう、見張っとけ!!」
対する浅宮は対コーナーで、今か今かとグラブを打ち鳴らし、ゴングを待っている。さらに部員に指示し、しばらくの間、ここは完全な密室となる。
レフェリーなんてものは存在しない、ルール無用の制裁が行われようとしているのだった。
「おい。お前が勝ったら、今回の事は謝ってやる。だが、オレが勝ったら、オレと京子に謝罪してもらうぜ」
「へ、なんで、僕が謝る事になってんの?」
カーン!!
そんな戸惑う聖美の事などお構いなしに、激しくゴングが打ち鳴らされた。
「いくぜ、オラッ!」
マウスピースなど付けていない浅宮は、真っ直ぐ聖美に接近し、左ジャブを繰り出してきた。
思わずダッキングする聖美。
浅宮の顔に愉悦が走る。
ビビって身体が萎縮するど素人の顔面を、アッパーで無理やり引き起こし、サンドバッグ替りにするいつもの作戦だった。
「そらッ!!」
だが身体を縮こませた猫背の聖美の顔面からは、いつもの衝撃を感じる事が出来なかった。
「あん?」
打ったスピード以上で跳ね返された感じ。まるで折りたたんだゴムでも殴ったかの感触だった。
だがそこには、屈んで懸命に顔面を両サイドからブロックしている聖美の姿しかない。
「そうかよ。そうやって顔隠しときゃ、殴られねぇとでも、思ってんだな」
(バカが、ボディーがガラ空きだぜ!!)
渾身の力を込めた右フック。
聖美の左方向よりわき腹を狙ったそのパンチは、何かの力によってバチンといなされた。
「うおっ!!」
激しい音を立て、マットに右肩から倒れ込む浅宮。
一瞬、部室内の時間が停止する。
浅宮の倒れる姿など、そうそう見る事はないからだ。
パンチを流され、勢い余って転倒。今までにない事だった。
「ち、違う。今のはダウンじゃねぇ。おい、カウントとるな!!」
部員に怒鳴りつけ立ち上がる浅宮。
そこで第一ラウンド終了のゴングがなる。
「チッ、命拾いしやがって!!」
そそくさとコーナーへ戻る聖美。
グウ〜ッ!!。
安心した為か、高らかにお腹が音をたてる。
実はさっきからお腹が空いて空いて、どうにかなりそうなのだ。
もちろん、この空腹感は人間としてのものではなく、妖怪あかなめの血を継ぐ
者として感じる空腹、虚脱感にほかならない。
そしてその解決法は、あれしかないのだ。
「聖美ちゃん!」
遥がコーナーにて待機しており、左手で聖美の汗を拭こうと懸命に手を動かしている。
実は汗など一滴もかいていないのだが、遥の手が自分の口元に近づいた瞬間、制服の袖口から香る微量な汗の香気に、思わず聖美の舌は反応していた。
「ヒャっ!!」
「?」
浅宮もまさか自分に背を向け立っている聖美の舌が、ゼロコンマ2秒という速さで遥の左腕に制服袖口から侵入し、腋までとぐろを巻き、余すところなく遥の肌を味わったとは思う筈も無い。
(うわっ、ガマン出来ずにやっちゃった。
名付けて、秘技トルネード。
でも、やっぱり遥ちゃんの肌は美味しいや!!。
懐かしくもあり、それでいて毎日、絶妙な変化を遂げている。
遥ちゃんが、それだけ日々成長しているって事かな?。
それにしても、この肌の感覚、匂い、汗の味からすると、遥ちゃんは本当に僕が勝つと信じてるみたいだな。
良いところ見せないと!!)
「ねぇ、聖美ちゃん……」
ギクッ!。
(考案したばかりの技、トルネード。思わず試しちゃったけど、やっぱり、バレちゃったかな?)
「今日の帰り、ギプス外しに行くから付き合ってね?」
「う、うん。もちろんだよ。ちなみに、今日も風呂掃除は任せてね」
カーン!!
第二ラウンド開始。
「いちゃついてんじゃねぇぞ。コラッ!!」
再び左からのワン、ツーで攻める浅宮だが、今度はどうも相手の様子が変だ。
左右の拳を口元に寄せ、まるで口を左右よりガードしている。
だが、さっきよりは顔を上げてるからやりやすい、と思った次の瞬間、自分の視界が反転。
自分の頬がマットに触れている事に衝撃を覚えた。
(う、嘘だろ。このオレが……)
だが、懸命に立ち上がる。
(くそっ。ヘッドギアしてるのに、額がクソ痛い。なんてパンチを持ってるんだ。そうかい、只者じゃなかった訳だ。おもしれぇ!!)
「うおおッ!!」
渾身の一撃を聖美打ち込もうと迫る浅宮だったが、次の瞬間、部室内の全員が息を呑んだ。
口元をガードする聖美。
だが、前方の浅宮の身体に神速で撃ち込まれる打撃の数々。
それは時間にして、三、四秒だが、舌パンチ数にして五十発をこえる。
瞬く間に、浅宮の身体に内出血を伴う打撲痕が複数、生じていく。
視認出来ないほどのスピード打撃に、なすすべなく全受けする浅宮。
「み、見えないパンチだ」
「す、すげー。グラブ、動かしてないみたいに見える必殺パンチ!!」
「ストップ。主将、気絶してるぞ!」
「こりゃ新主将、決まりだな」
リング外から好き勝手な事を口にする
部員たち。
だが、周囲の評価とは裏腹に、聖美はその舌を動かして、パンチを受け止め、流し、舌で高速連打しているだけなのだ。
口元でガードを固めたのも、ただ口元から舌が伸びてるのを見られたくないだけ。もっとも、人間に視認出来るスピードではないが。
車さえも軽く持ち上げるほどのパワーを持つ聖美の舌は、手加減したとは言えボクシング部主将を瞬時にノックアウトし、周囲の度肝をぬいた。
慌てて浅宮に駆け寄る部員達を他所に、遥と聖美はそそくさと帰路に着くのであった。
(4)
陽は既に落ち、辺りは闇に包まれている。
(今日は一日、本当に大変だった。
今まで自分では自制出来てるつもりだったけど、何の事はない。
遥ちゃんの素肌が一瞬見えただけで、その腋にまで舌を這わせるとは、自分自身が情けない)
聖美は額を押さえうなだれるものの、自分が今立っているのはなんと遥の部屋のベランダなのであった。
となりの自室のベランダから、ヒラリと飛び込んできたのだ。
あかなめとして覚醒しつつある聖美は、異常なまでの身体能力が身につきつつあり、こうしてベランダの細い柵に立っても恐怖心を感じなくなっている。
(ううっ。自分が情けない。さっきまで遥ちゃんと夕飯を食べてたっていうのに、今度は遥ちゃんを食べたくなっちゃうなんて」)
(あかなめの神様。再度、遥ちゃん家に潜入する事をお許しください)
いるかどうかも分からない神に祈りを捧げたあと、カーテン越しに、遥の部屋のベッドに誰かが寝ているのに気が付いた。
時間的に遥だろうか?。
顔は向こうをむき、こちらに背を向けた状態となる。
(よし、ミッションスタート!!)
サッシに手をかけるも、当然ロックはかけられている。
(遥ちゃん、セキュリティはバッチリだね。安心したよ)
グッジョブとばかりに親指を立てるが、当然ベッドの主はすやすやと寝息をたてている。
もっとも、こんなものは最初から聖美には障害の内に入らない。
サッシ上部にある未使用のエアコン室外機用のパイプ穴から舌を2メートルほど差し込み、カチリと器用にサッシのロックを開けてしまった。
(おじゃましま〜す!!)
音をたてぬよう、ゆっくりとサッシを
開け、中に潜入する。
今回、闇に紛れるため全身黒のスーツを新調した。
招かれるのと忍び込むのとでは、どうしてこんなに興奮度が違うのだろうか?
恐らく、あかなめとしての本性だろう。
何だか、すごく楽しくなってきたッ!!。
月光の光を浴び、すやすやと寝息をたてるベッドの主がなんと淡いピンク色のスリップ姿である事にも、今、気が付いた。ノーブラだ。
(うーん。普通の人間の男なら、こんな時、大喜びなんだろうけど、僕は全然興味ないんだよなぁ。)
(目の前の大きなお尻やおっぱいも、素手で触れたり、それこそセックスしてどうこうってのは、僕にはナンセンス。僕には手も性器もいらない。
舌でのみ味わうという高いポリシーがあるんだ!!)
「う〜ン!」
ギクッ!!。
慌ててクモのようにベッド下に這いつくばる。
ベッドの主の喘ぎに、あかなめとして
聖美の反応は早かった。
なんだかんだ言ったって、見つかるのは絶対に嫌なのだ。
(姿を見られずして、味わう。これこそ、あかなめの真髄なり)
そして、ついに聖美が行動を開始する。
ベッド下に身を伏せたまま、女性の足元を感知し、舌先を伸ばす。
視認せずとも、体温の熱反応で場所がイメージ出来る。
舌の長さは30センチ。
まずはペタンと足の甲に舌先をのせる。
(お風呂に入った後かな?)
入浴後の為か、足先の独特のキツイ匂いなど無く、入浴剤の香りの方が強い。
身を清潔にする女性としては合格だが、あかなめ側からすると、純粋な肌の香りを楽しめないのはいただけない。
女性からの違和感による反応はない。
ならばと、足首まで一気に舌を伸ばし、絡める。
あかなめは舌を伸縮させても、その舌の至る所から唾液を放出する事が出来る。
その成分はあかなめ特有のもので、長い舌をなめらかに滑らせるためだけでなく、皮膚病の特効薬としても古くから知られている。
聖美の舌先は、川を遡る鮭のように、上気した肌の上をすべり逆流する。
踵から膝をこえ、その奥の秘所へと突き進むつもりだが、そこは厳重にレース生地を重ねてあつらえた、高級下着。所謂ランジェリーが行手を阻んでいた。
(遥ちゃん、いつからこんな高そうな下着履き出したんだろ。小学校の時はウサギのパンツだったのに)
聖美の舌は側面に鋭敏なセンサーを備え、目標を視認せずとも、その形状、色を認識する。
(ええい、いっちゃえ!!)
一気に腰回りに舌を這わし、半周させる。
あかなめなら腰回りに回した舌だけで、人の身体を抱える事など造作もない事。
腰に回した舌先は、アナコンダが獲物を締め付けるかのように、ゆっくりとしたストロークで遂に、その豊かなバストを蹂躙、征服した。
だが、ここが肝心。
決して乳首には触れない。
まだ、早い。
女性のデリケートな部分に軽はずみに手を、いや舌を出すと瞬時に気付かれる可能性がある。
「んッ!あなた……やめて……」
(おっと、危ない、危ない。こんなおいしい肢体、もっと大切に味あわなくっちゃ……って、あなた?)
聖美は何か自分が大変な勘違いをしているのではないかと、血の気が引く思いがした。
途端に興奮度は急降下。
瞬く間に、舌はノーマルサイズに縮んで戻ってしまった。
(思わず、萎えてしまった。って言うか、まさか……)
聖美は床から身を起こし、ベッドの主のお顔をそっと覗き込んだ。
(うわっ、うわぁ〜。やってしまった!!。遥ちゃんじゃなくて、楓おばさんじゃん。なんで、ここに寝てんの?)
ベッドにスリップ一枚でスヤスヤ寝てるのは遥の母、楓だった。
記憶にない聖美の母とも仲が良く、歳もそう変わらない。
親友だったとも聞いている。
40歳を間近に迎えながら、この肌のハリ、ツヤ感。
ウェーブのかかった髪に豊満なバストとくびれたウエスト。
さすが遥ちゃんのママ上だ。
(じゃあ、遥ちゃんは一体何処に?。奥、行ってみるかな)
聖美は四つん這いでドアを抜け、そのままリビングへ。
(何か物音がする。テレビ?)
細心の注意をはらって、リビングへ。
明かりは消されており、テレビの画面からもれる明かりのみが、部屋をかすかに照らしだしている。
(遥ちゃん、発見。どうやら寝ちゃってるみたいだな)
パジャマ姿の遥はテレビ前のソファーで、抱えた膝に顔を埋め、どうやら寝入っているようだ。
(これ、この間のバレーの試合。この後、遥ちゃんは転倒して腕を痛めたんだよな)
遥が見ていたのは他校とのバレー部の練習試合を撮影したものだった。
遥の目元からは一筋の涙が流れた跡があった。
(なんだかんだ言って、バレー好きなんだよね、遥ちゃんは。
自分は部活出来なくて悲しいのに、僕に付き合ったりして。
せっかくギプスが外れたのに、次の試合には間に合わ……、まてよ!!)
その時、聖美の頭の中に稲妻のように、グッドなアイデアが閃いた。
(リハビリも必要って言ってたし、まだ痛みもあるなら、それを全部
取っちゃえば良いじゃん。
そうだ。今、遥ちゃんを助けられるのは、僕だけだ)
そう思ったら聖美の舌は既に動き始めていた。
だらりと下に垂れた遥の右手の先に舌を這わす。まずはそっと重ねてゆっくりと動かす。
反応はない。
(いけるかも!!)
ボクシング部で披露した技、トルネード。
(あの時は何も考えず、空腹感で舐めてしまったが、僕の舌には様々な能力が秘められているはずだ)
その効果は傷の回復や、舐めた事への認知の低下。いや、それは忘却と言ってもいいレベルのものだ。
強い意志を持ち、相手を舐める事で特殊な効果を相手に付与出来るのではないか?。
聖美はそう考え、今回は空腹感を満たす為ではなく、遥の腕の回復を目的とし、実行に移したのだった。
(バレたら、全ておしまいだ。注意しないと)
舌の先端で指先を優しく包む。
その後、腋の下まで気付かれないようゆっくりととぐろを巻き、右腕を包んでいく。
パジャマが舌に押し上げられ、ゆるゆると肩口まで上がっていく。
この感覚で遥が目を覚まさないとも限らない。
(注意、しなければ!!)
巨大な爬虫類が獲物に巻き付き、その身体を締め上げる様子にも似ているが、今回は腕の回復が目的。
痛みなど感じぬフェザータッチを心がけ、なおかつ遥の腕が回復するように一心に願いながら、聖美は舌を動かし続けた。
舌の先端はようやく腋の下まで到達。
舌の位置はそのまま。
今の状態を保ち、腕を舌で熟成させるかの如く、その位置をキープする。
何分間、経っただろうか?。
(くっ、結構キツイな)
ただ早く動かすより、ゆっくりと動かす方が体力を消耗するようだ。
遥も入浴後なのか、腕全体からほのかにボディーソープのにおいがしてくる。
聖美(この香りってバナナかな?。最近のボディーソープは色んな香りがあるなぁ)
聖美の舌の側面に浮き出た感覚器は、味、匂い、温度、空間認識、と様々な野生動物にも似た特殊能力を備えている。
その感覚器が突如、状態の急激な変化を聖美に知らせる。
(汗の香りと、体温の変化。まずい、遥ちゃんが目を覚ます!!)
どのくらい、舌で回復出来ただろうか?。
不自然な姿勢でのチャレンジという事もあり、聖美は慌てて舌のホールドを解除。
遥があと数秒で目を覚ますところで、その場を無事、後にしたのだった。
(5)
いつものクラス風景。
(あれから遥ちゃんの腕はリハビリ要らずで完全回復。地区予選にはレギュラーとして参加出来る事になった。
良かった、良かった)
遥の怪我も無事完治。
あの後、遥の母親とは気まずいが、あのプレイはバレてなさそうだ。
「ねぇ、聖美ちゃん。お母さんが今度、聞きたい事があるって?」
ギクッ!!。
(やっぱり、バレてた〜)
「お風呂の磨き方がすごいから、今度教えてほしいって!!。すごくツルツルになってて、驚いたみたい!!」
「え、あ〜、うん。分かった。また、遊びに行くよ」
遥が身を乗り出し、前席の聖美の耳元で囁く。
「そういえば、こないだ聖美ちゃんが夜中に遊びに来た夢、見ちゃった。
なんか私の腕の事、すごく心配しててね。なんか嬉しかったよ。それ以来、腕の痛みもキレイになくなったし。ありがとね」
「ゆ、夢の話でしょ。僕はなんにも関係ないかなぁ〜」
じっと見つめる遥から視線を逸らす聖美。その顔は紅潮し、汗ばんでいる。
「そうだ。もうそろそろ、来るんじゃない。カレ?」
ドアの方へと視線を向けた遥。それと同時に教室の扉が開き、浅宮が飛び込んで二人の方へ向かってきた。
「アニキ〜、今日こそは良い返事、きかせてもらうぜ。
俺の代わりに、ボクシング部主将となってくれ。頼んまっす!!」
床に膝をつき、聖美を拝む浅宮。
先日の一件から、浅宮は連日のように
聖美のクラスに押しかけ、自分の代わりに部を率いてくれと懇願してくるのだ。
「お話中、失礼するわ。あなたが新宮聖美くんね。
私は石宮恵子。新聞部の部長よ」
そこへ現れた新たな女生徒、石宮。
黒縁メガネと知性を感じる立ち振る舞いに、聖美は嫌な予感がした。
「ちょっとあなたに聞きたい事があるの。この町に古くから伝わるあかなめ伝説について……」
聖美「ぼ、僕、何にも知りませ〜んッ!!」
慌ててダッシュし、教室から逃走する聖美。
「聖美ちゃん!」
「アニキ〜」
「新宮君、待って!。大事な話があるの!」
逃げる聖美に、追う3人。
この学園でのあかなめ伝説は今、こうして始まったばかり。
この時はまだ、世界をまたにかける壮大な話になるとは、誰も想像しなかったのであった。
この後のお話はいずれ、また!!。
(完)