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春に溺れる  作者: しろね
1/3

前編



 高校二年の冬。そろそろ明確な進路を決めなくちゃいけない時期であり、様々なイベントが控えている年。そして 新たな始まりの時でもある。




   ――要は 慌ただしい 。




「あ〜 寒っ。早くコタツコタツ〜 」


 高校から帰ってきた俺達四人は 颯爽と家に上がって 炬燵こたつの中に狭苦しく入る。


 いち早く炬燵の中へ足を入れたのは、秋川あきかわ 純恋すみれ。黒色のストレートロングヘアーを美しく揺らす、大人びた長身の女の子。強気な性格で素直になれない ツンデレと言われる彼女だが、根は真面目であり楽しい事が大好き。 いつもは周りに合わせて大人びた振る舞いをしているが、この四人で集まった時だけは 素の自分を出せている。



「あ、純恋ちゃんズルいよ〜!私も入れて」



 次に炬燵へ入ったのは倉科くらしな もも。俺と同じクラスの女の子。ピンク色のフワッとしているショートカットが特徴的な可愛らしい子で、百四十センチ程しかない身長だが あまりにも発育が良いとされる体つき。天真爛漫で分け隔てなく優しい彼女の性格は、クラスで男女問わずに一番人気だ。常にマイペースであり、スローテンポで繰り広げられる会話や仕草も彼女の可愛らしい一面である。



「ったく、なに人の家で堂々とくつろいでんだてめぇら!先に俺を入れろよ!」



 偉そうな口振りで炬燵に入るこの男は、黒鉄くろがね いち。全てが整ったイケメンであり、黒髪の彼のモテ度は半端ない。告白された回数を 『いちいち覚えていない』と 憎たらしいセリフと堂々を告げる、自称俺のライバル。何から何まで白黒つけたがるコイツだが、俺は別にコイツより優れた所はないと思っている。というか 勝ったことねぇし。



「お前ら一応言っておくけど、ここ俺の家だからな 」



 この三人のくつろぎっぷりに軽く呆れる俺は 白凪しらなぎ 隼人はやと。肩までかかる白髪意外、なんの特徴もない何処にでもいそうな平凡な男子高校生だ。夢は漫画家であり、その為に毎日原稿を手がけている。



 そんな個性がバラバラな俺達は 幼稚園からの幼馴染。



「ちょっと隼人、炬燵こたつ狭いから出てよ!」


「何で俺の家で 俺がものにされんだよ 」


「狭いなぁ。誰だよ片足に二トンの肉詰めてる奴は、とっとと出ろよ隼人 」


「何その片足だけで半年食費に困らなさそうな奴 、てか俺じゃねーよ!」


「あの、隼人くん。今はノリツッコミとかやめない? 寒いから 」



   チーーン 。



 桃の天然発言にトドメを刺された隼人は、部屋の隅っこで抜け殻のように倒れてしまう。生気がユラユラとどこかへ抜けてしまった彼を置いて、他の三人は炬燵でぬくぬくと温まっていた。


「出たよ 桃の殺傷発言さっしょうはつげん



「ねぇ隼人。明日から冬休みだけど どーするの?」


「それ、俺だけ炬燵こたつの外で考えないとダメなんですか?」


 そんな会話をしていると、桃が『ごめんね 隼人くん。コッチおいで〜?』と俺に気を使って優しく炬燵の中へと入れてくれた。



 あれ?ここ俺の家だよな。もしかして今一番この場を乗っ取っているのは、純恋でも壱でもなくて、桃なのか!!



「天然 、恐ろしい 」


「ん〜?どうしたの 隼人くん 」


 ゆっくりと柔らかな笑みを向けてくれる桃に対して、俺の心は何事も無かったかの様に癒されてしまう。

 これは俺がチョロいのではなく、桃のポテンシャルが高過ぎるのだ。


「ありがとな桃 。暖かいよ 」


「いえいえ、どーいたしまして 」


「あんたチョロいわね〜 」


「うっせ 」


 そんないつも通りの下らない会話を繰り広げている途中で、先程純恋が言っていた本題に戻る事になったのだが――


「お腹空いたな 」


「だね 」


 高校が終わって、今は午後六時過ぎ。四人で居残り勉強をしていた為、帰りが遅くなってしまったのだ。


二対二ににの買い出しジャンケン〜」


 桃のその言葉を合図に、俺達四人は利き手を握りしめて振りかぶる。



『買い出しジャンケン ジャンケンポン!!』



 家に残る二名と 買い出しに出掛ける二名が決まった俺達は、雪の振る寒い街を歩く羽目になった。


「何でこうなんだよ … … 」


「まぁまぁ 良いじゃん 。私は隼人くんとなら楽しいよ〜」


 隣で歩く桃が、俺の事を分かりやすく慰めてくれる。気持ちは有難いのだが 冗談と分かっている手前、気休めにはならなかった。


「漫画、今どんな感じ?」


「まぁ ぼちぼちだな。詰まってる訳でもなく、はかどってる訳でもなく 」


「わぁ さすが隼人くん 」


 特に慰めてくれる訳でもなく、思った感想をそのまま口に出してから俺の前を突然走り出す桃 。その場で楽しそうに辺りの景色を見渡して、雪が降る夜の街を堪能していた。更には俺と 視線が合う。


「この街って こんなに綺麗だったっけ?」


 頭上にクエスチョンマークを浮かべる桃は、顎に人差し指を置いて 首をコテっと横に倒す。


「 … … 綺麗だよ 。ずっと前から 」


 そんな桃を他所に、一瞬だけ瞳を閉じた隼人が前を歩き出した。


「隼人くんは 気付いてたの?」


「少し前だけどな 」


 後ろを小幅でぴょこぴょこ着いてくる桃を 少しだけ視界に移して、俺は先導する。街灯に照らされた粉雪は、キラキラと反射しながら地面に舞い落ちていく。


「漫画を書いてるとさ、色んな事に気が付くんだよ 」


 それは 新しく見つけた訳でも、また 生まれた訳でもない。元からそこにあったというだけで、誰も気づいていないんだ。


「視点を変えると 見えてくるんだよ。それの本当の姿が 」


「ふーん 」


 興味があるのか無いのか、イマイチ分からない返事だった。



「じゃあさ 、私は?」



「ん? 」


 後ろを振り返って 視界に映った桃の姿に、俺は思わず 動きを止めてしまう。



 右手は胸元で祈るようにして当て、閉じていた瞼が開いた瞬間、その紫色の瞳は 真剣な眼差しで隼人の事を見つめている。



「私の事は 分かる? 隼人くん 」



 吸い込まれそうなその瞳から、視線を逸らせなかった 。



「な、なんだよ急に 。変な空気出しやがって 」



 はぐらかす事しか頭に浮かばなかった隼人は、冷や汗を流しながら 困ったように首に手を当てる。



「ダメなの?」



「ダメって言うか … … 桃が何言ってるのか分かんねぇよ 」



 嘘をついている訳でも 誤魔化している訳でもない。これが彼の本心であり、彼の未知なる部分ゾーンなのだ。


「 … … そっか 」


 何事も無かったかのように笑顔に切り替える桃は、再び隼人の前を歩いて行く 。それから二人は コンビニに着くまで会話をすることは無く、妙な距離感を保ちながら 歩いたのだった。



純恋すみれちゃん何がいいかな〜?」


 食品コーナーでウロウロしている桃は、皆のご飯を何にしようか迷っていた 。事前に聞いておけば良かったものを、いつものノリで何も考えず出てきてしまった為、完全なるノープラン。


「純恋はパスタ系で良いだろ 。キノコが入ってないやつ 」


「え、純恋ちゃん そんな事言ってたの?」


「いんや? でも純恋パスタ好きじゃん 」


「 … … そー なんだ 」


 歯切れの悪い返事をした後、目の前に並ぶ数種類ものパスタを意味無く眺めてしまう桃。



   そんな事 私、知らなかったよ 。



「良く 見てるんだね 。純恋ちゃんの事 」


「あぁ 、まぁな 」


 当然のように返事をする隼人は、食品コーナーを後にして別の場所へ移動する。一人ここに残された桃は、目の前に並ぶパスタを手に取って 内容と値段を確認した。


「あ、これキノコ入ってる 」


 それを棚に戻した後、また別のパスタを手に取って中身と内容を確認する。そんな事をしている内に隼人が戻ってきた。


「桃 どっちがいい?」


「ん?」


 隼人くんの方を振り向くと、両手に違う種類のドーナツを持っていた。一つはあっさりサクサクのイチゴ味、もう一つはふんわり甘々チョコドーナツ。二つとも 私の大好きな味だった 。


「え、 どーして … … 」


「ん? いやだって お前ドーナツ好きじゃん 」


「 ッ … … 」


 またもや当然のように返事をする隼人くんを見て、私は思わず視線を切ってしまう 。その理由は もはや一つしかなかった。




 ――瞳で貴方が好きだと、伝えてしまいそうになったから 。




「どうしたんだよ 桃 」



「う、うるさいなぁ〜。二つともカゴ入れといて 」


「?? わかった 」


 理解できない桃の挙動に首を傾げる隼人だったが、言われた通り 二つのドーナツをカゴに入れる 。隼人といちはラーメンでいいと適当な味をカゴに入れて レジに進む。

 あらかじめ皆から貰っていたお金と、自分の持ち金をレジに出して お釣りを貰う。その様子を見ていた桃は袋を持って 先にコンビニを出る。


「あんなに自然にされたら、意識してるコッチがバカみたいじゃん … … 」



 小さく呟くその声は、舞い落ちる粉雪と共にふわりと溶けていく。



「おまたせ。 そしたら行くか 」


 そう言いながら さりげなく桃の荷物を手に取る隼人は、一歩先を歩き始める。何もかもを当然のようにしてみせる優しさに、隼人を見つめる桃の瞳は潤んでいた 。



 抑えるのが 苦しくなる程に、貴方への気持ちは溢れてくるばかり。



「ねぇ 隼人くん 」



 すっかり暗くなった夜空の下で、雪風に包まれる二人は 一つの街灯に照らされる 。街の明かりが綺麗に灯って 粉雪にキラキラと反射する、そんな幻想的な光景を背に 。



「ん?どうした 桃 」




 これは 未成年の主張だ 。我慢が出来なくなる程の感情に、私は溺れている 。





   ――「 好き 」






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