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第3話
チョコはバニラの死を知らされないまま過ごしていた。
叔父が徹底的にその情報を遠ざけたのだ。
だから、チョコは数ヶ月たった今も、バニラがどこかで生きていると思っている。
探しに行きたいと言ったが、まずは自分が元気になってからだよ、とたしなめられた。
そうして真綿にくるめとられるように、チョコは叔父の家に留められ、優しさを一身に受け、何も話せずにただ暮らしていた。
その日々は間延びして、数ヶ月は数年になる。
チョコはもうジャンボやバニラの名前を口にしなくなった。
そして自らの名前も、チョコとは名乗らず、5歳までの名前を使うようになった。
あの時、記憶を封印したのと同じだ。
ジャンボやバニラの姿は霞んでもう、水の底に沈んでいる。
気がつけば彼は叔父の跡を継ぐことになっていた。
ゆっくりと狂った針は動き続けて、彼は記憶と引き換えに感情を取り戻した。
もうあの四合院は誰もいない。
誰も彼らのことを話さない。
あの雨の日に違った選択はあったのだろうか。
それも馮少春には分からなかった。
こうしてひとつの幕はおりていった。
終わり