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第1話

 雨が倒れたジャンボの体から血液と体温を奪っていった。

チョコは落ちた手を見つめ、震える指先でその手に触れた。

もうすでにジャンボは冷たくなっていた。

呼吸の音が自分の分しか聞こえない。

あとは雨音だけが辺りをつつみ、ジャンボは薄く目を開いたまま、もう動かなかった。


 殺してしまった。

この手で、初めて人を殺めた。しかも、ずっと一緒に暮らしてきた人を。

チョコはまだ現実を受け止められず、すぐにジャンボを背負って雨の中、重たい体を引きずった。

鼓動の音も呼吸の音も、もうジャンボからは聞こえない。

ただうなだれる体は重く、そして雨も吸収して、冷たい人形を背負ってるかのようだった。


 さっきまで殺すことしか頭になかったのに、なにをしているんだろう。

チョコは正気がぐらつきながら、ジャンボを引きずっていく。

背負ってはいるが、足は地をこすり、雨をかき分けていた。



「病院……病院……に行かなきゃ……」



 自分の正気を確認するように声を出す。

そんな雨の中、遠くから誰かが駆け寄ってくるのが見えた。

傘もささずに夜を走る人影に、チョコは警戒して目を見開いた。

 しかし、視線の先には息の上がったバニラが、困惑した表情で立っているだけだった。



「殺したのか……」



 バニラはこうなることも予感していたが、目の前の死体を見てしまうと、やはりたじろいでいた。

チョコはすがるような目で首を横に振る。



「違う……病院……病院に行こうとして……」



 チョコに背負われたジャンボは、延々と傷口や口から血を流し続けていた。

目もずっと動かず、開いた隙間に雨が流れ込んでいる。

手は下にだらりと伸びて、足は引きずったせいで泥まみれになっていた。



「もう……手遅れだよ」



 チョコはもはや正気ではない。

背負った体の生死さえも判別がつかなくなっている。

バニラはそっと近づいたが、チョコは酷く拒絶した。



「死んでない!!!病院にいくんだ…!見てもらえばきっと」



 チョコは激しく動いたせいで、ぬかるみに足を取られて倒れ込む。

もちろん背負われた体も、一緒にずるりと倒れ込んだ。

雨が強く打ち付ける。

チョコは過呼吸になりかけて、ぐっとうずくまった。

 その横で、妙に冷静なバニラは、一応ジャンボの首元に触れてみたが、脈は止まり体は冷たかった。



「逃げよう」



バニラは言った。



「自業自得だよ。チョコが悪いんじゃない」



 慰めるようでもなく、乾いた声でバニラは言った。

本当に目の前のジャンボをもはや物としか見てないような、冷淡な目つきだった。

チョコはまだ病院と呟いていたが、その腕を引き立ち上がらせる。

そして、二人で倒れた遺体を見下ろした。



「逃げよう。きっと捕まったりしない。誰も目撃者なんていないんだ」



 チョコは憔悴しきり、バニラに手を引かれるまま走り出した。

雨は全てを包み隠し、チョコとバニラの行く手も、あやふやに溶かしていった。

残された遺体は雨に打たれ続け、もう血も流れ落ちなかった。

ただ、涙のように、瞼の隙間に入り込んだ雨粒が流れ続けていた。

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