同期
タイトルとあらすじを少し変更しました。
あのお呪いの後、しばらく四人で雑談をしていたが、高熱が続いているためか起きているのが辛そうになってきたようだったので、また明日見舞いに来ると言い残して、帰宅するようにした。三人が入院することとなった大石病院から家までは車で20分程度の道のりだが、途中で夕食の惣菜をスーパーで買い、書店でダンジョン熱について書かれた本を買っていたら2時間かかってしまった。買った本にダンジョン熱の治療法が書いてあるとは思っていない。完全に気休めだ。
帰宅後は買ってきた惣菜を食べたのだが、いつもは家族四人で食卓を囲んでいるからか、一人でとる夕食はひどく味気なかった。
「クソッ!!何で俺の家族が・・・。」
知らず知らずに悪態をついてしまう。
これまでの発症者の95%以上が日常生活をダンジョンの半径5km以内で過ごしている人らしく、病院を出る時に大石先生から三人が最近ダンジョンに近寄ることがあったか確認された。ダンジョンが出現してから三人がダンジョンの半径5km以内に長時間いたことはなかったはずだ。親父や母さんは農業をやっているから家の近くの田畑に行くだけ、沙弥の高校もダンジョンからは離れている。どちらかというと、俺が通っている大学院がダンジョンから3km以内にあるので、発症する順番的には俺が最初になるはずなのだが。なお、大学院は一ヶ月からリモートによる講義に切り替わっている。
俺についても、今日は発症していないが明日はどうなるか分からないので、何かあればすぐに連絡をするように大石先生から注意を促された。
一人で食べていると気分が落ち込んでしまうので、テレビをつけると、ニュースキャスターが今日のダンジョン熱の発症者数、発症から5日目の回復者数と死者数を読み上げていた。今日の発症者数は1023人らしい。そのうちの3人が俺の家族というわけだ。なお、発症5日目の回復者数は453人、死者数は526人とのことだ。5日後には俺の家族もどちらかに振り分けられ、こうやって読み上げられているのを想像するとゾッとする。
その後は、国会議員への批判が放送されている。というのも、ダンジョンとダンジョン熱の関係性、ダンジョン熱の死亡率が判明した途端、前政府の人間は全員、健康上の理由を名目に辞任し、今の政府に丸投げしたのだ。まあ、国会から程近い溜池山王駅周辺にダンジョンが出現しているし、総理や大臣なんて70歳近い人が多いから怖くなるのは仕方ない。だが、その後、療養という名目でダンジョンが出現していない沖縄の病院や海外の病院に入院するのでは、批判も止む無しだろう。野党議員も国外へ外遊しに行き、国外からSNSで政府を批判しているが、それもどうかと思う。結局、人は何よりも自分の命が最優先ということだろう。金持ちなんかも沖縄に移住したり、海外へ移住したりしているようで、今後の日本はどうなるのだろうかと不安になる。
気分転換にテレビをつけたのに、余計落ち込むことになる結果となった俺は、もうさっさと寝ようと考えて、スマホを見ながら自分の部屋へと向かった。
そして、ドアを開けて部屋へと二、三歩踏み入れたところで気が付いた。
「・・・ここはどこだ?」
俺の部屋は畳張りの6畳間だったはずだ。だが、今いるのはどこだ?まず、広さがおかしい。それに色もおかしい。いつもであれば、10歩も歩かずに部屋の奥まで行けるはずなのに、壁ははるか遠くにある。それに左右の壁も大分遠いし、壁にしろ床にしろ茶色い岩のようになっている。後ろを振り返ると、開けたままのドアからは家の廊下が見える。
とりあえず、ここから出よう。そう考えた時、突如機械音が聞こえた。
『マスター、堂島悠斗の存在を確認しました。マスターとの同期を実行します。同期を承認しますか?』
パソコンにソフトをダウンロードする時、スマホにアプリを入れる時、利用規約をしっかりと読み、『同意します』を選択する人はどれくらいいるだろうか。俺は基本的に利用規約は読み飛ばして『同意します』を押してしまう人間だ。だから、この時、突然の問い掛けに対して、
「お、おう・・・」
と答えてしまった。
『マスターの同意を確認。同期を実行します。」
そう聞こえた瞬間、俺の身体が光に包まれ、いや、俺の身体から光が放たれた。
『ふう。この瞬間をどれほど待ち望んだことか。やっとあなたと同期することができました。マスター。』
先ほどまでの機械音とは違う、やや力強い女性的な声が聞こえる。しかも、近い。というか右手のスマホから聞こえた気がする。しかも、この声には聞き覚えがある。
『はい、私自身はマスターと一体となっているのですが、外部端末としての私はマスターの手の中にいます。スマホの画面を上へと向けて頂けますか?』
そう言われて、俺は手を開いてスマホを上に向けた途端、スマホが勝手に浮かび上がった。ビックリして腰を抜かすと、浮かび上がったスマホが目の前に浮んできて、スマホの画面から一人の少女が浮かびあがった。少女の姿は、俺がよく見ているアニメの主人公に似ていた。
『初めまして、マスター。私はあなたと同期を果たすことができたエネルギー生命体であったものです。まずは、私に名前をつけてください。』
浮かびあがった少女は、にっこりと笑いながら言った。