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ダンジョン熱

連載始めます。

宜しくお願いします。

 「悠斗君、君も感づいているだろうが、俊彦と良江さん、それに沙弥ちゃんの三人の症状は『ダンジョン熱』によるものと考えられる。」


 目の前に座っている医師・大石良太さんからの無情な宣告に、俺は思わず顔を覆ってしまう。


 「そんな、どうして・・・」

 「『ダンジョン熱』について概要は知っているかね?」

 「テレビやネットで流れていることぐらいなら・・・、もし流れていない情報があれば教えて頂けますか?・・・治療法とか薬とかがあったりしませんか?」

 「残念ながら治療法や薬については国や医師会から通達は流れてきていないよ。知っていることもあるかもしれないが、国がまとめた『ダンジョン熱』の概要について話すね。」


 そう言ってから、大石さんは俺に『ダンジョン熱』についての概要を話してくれた。



 『ダンジョン熱』・・・熱とはされているが、熱の要因となるウイルスや細菌が確認できておらず、そもそも病気であるのかどうかも定まっていない。初めて『ダンジョン熱』が確認されたのが2020年4月20日で、その日から新規発症者数は増え続けており、発症者が日常生活を送っていた場所をプロットするとダンジョンを中心として同心円状に広がっていることから、この熱病を『ダンジョン熱』と呼ぶこととしている。

 ダンジョン熱の症状は年齢や性別問わず一定であり、ある日の正午に38.5℃の発熱を起こす。この発熱は解熱剤などでの解熱が一切通用せず、5日間継続する。そして、5日目の正午に熱が下がるか・・・死亡する。なお、解熱するか死亡するかについては年齢と相関があると考えられ、統計的には年齢=死亡率となっている。

 また、解熱する場合には身体中が光に包まれるという謎の現象が発生することが観測されており、解熱した者は以前から持っていた疾患や身体の不調が治るということも確認されている。解熱者の中には末期ガンや糖尿病が治ったり、視力が回復したという者もいる。


 大石さんの説明はテレビやネットで流れているものと殆ど同じであったが、死亡率が年齢と相関していることを再認識して急に怖くなった。親父が確か53歳で、母さんが47歳。沙弥は17歳だから、三人共が無事に解熱する確率は約2割か・・・いや、死んでしまったら確率とか関係ない。でも、治療法がないんじゃ、どうすることもできない。俺はただ祈ることしかできないのか。


 その後、今後のことについて大石さんと話をしてから、俺は三人が寝ている病室へ向かった。ダンジョン熱については治療法はないが、5日後の運命の日まで入院させて、症状の変化などを確認するように国から指示があっているらしい。そのため、三人共同じ病室に入院することとなった。なお、ダンジョン熱は人から人への感染はないと考えれらているので、面会の制限はない。


 病室に入ると、妹の沙弥がすぐに気付いた。


 「あっ、お兄ちゃん!!」

 「起きていたのか。熱があるんだから、寝ていたほうがいいぞ。」

 

 なるべく俺の不安が伝わらないように、平静な声で沙弥に返す。まだ若いからか、沙弥は熱があっても元気そうで、ベッドで小説を読んでいたようだ。


 「おう悠斗。良太・・・あの藪医者は何て言ってたんだ?」

 「あんた、良太さんに失礼でしょ。」


 親父と母さんも起きていたようだ。親父と大石さんは幼馴染だからか、軽口をたたいている。


 「ああ、季節外れの風邪だってさ。家族仲がいいですねだって。何か熱出してない俺だけ仲間外れみたいに言われたよ。大丈夫、すぐに治るよ。」


 きっと三人共、自分が何を発症しているか分かっている。それでも、敢えて俺は笑いながら嘘をついた。


 「そうか、じゃあ熱が下がるまでは良太の世話になるかな。悠斗、熱が下がったら迎えに来てくれや。ああ、そうだ。何かあったら寝室にある箪笥の上から二番目の引き出しに色々あるから使っていいぞ。」


 親父が仰向けになり、天井を見ながら言った。その顔は何かを思い詰めているようだ。


 「そうね。風邪がうつったらいけないし、熱が下がったら連絡するわね。ああ、通帳とか印鑑はさっき父さんが言った箪笥の一番上の引き出しにあるからね。」


 母さんは俺のほうを向いて言った。その目には少し涙が滲んでいるように見える。


 「私ももうダンス部の皆に今週はお休みするって伝えたし、入院生活を楽しんでみるね。あ、そうだ。お兄ちゃんちょっとこっち来て。」  


 沙弥が俺を手招きしながら言う。

 

 「どうした、沙弥?」


 俺は沙弥のベッドの横の椅子に腰かけて聞いた。


 「ただの風邪だから大丈夫だろうけどさ、いつものお呪いをお願い。」


 そう言って、俺の方に両手を差し出してくる。

 沙弥は昔から心配性で本番前には凄く緊張する子だった。最初は何だったかな・・・ああ、小学校から始めたダンスの発表会の時か。出番の前に声をかけに行ったら、ガチガチに緊張して今にも泣きそうになってたっけな。だから、その時とっさに沙弥の両手を握って、目を合わせながらお呪いの言葉をかけたんだった。お呪いが効いたのかは分からないが、結局そのダンスの発表会では金賞を受賞したんだったな。それからは、ことあるごとにお呪いを頼まれて、部活の大会前や高校受験前、果ては次の日に小テストがあるからといった理由で頼まれたな。


 「ああ、そうだな。()()()()()だけど、念のためにな。」


 そう言って俺は沙弥の手を握りしめる。握りしめた両手は震えていて、近くで顔を見ると目元には涙のあとが残っていた。

 俺はいつものお呪いの言葉に一言加えて言った。


 「大丈夫だ。沙弥はきっと大丈夫。上手くできるし、上手くやれる。沙弥なら絶対大丈夫だよ。そうさ、三人共絶対に大丈夫だ。」 



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