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死ガミとユウ者の転生輪廻  作者: 断目
魂務員との出会い
6/9

守護課天使

「うわぁああああ!!」


なんて可愛げのない悲鳴なのだろうと自分でも思う。

体全体から出すようなその絶叫は、真後ろに迫りくる風切音と雷鳴に掻き消されていく。自分で自分の声が聞き取れなくなる頃には、身の危険ーーいや魂の危険か?ーーを感じざるを得なかった。


今の今まで、信じられない状況を目の当たりにしてきても、辛うじて耐え続けていた一本の精神の糸さえ磨耗していく。

それと同時に叫ぶ気力も失せていく。そして、たった今私は、首をただがくんがくんと振動に任せ、飛ぶ景色を呆然と眺める存在となった。


そんな私が自分の足元を見やればそこには、すぐそこまで来ている気味悪い車輪がある。その車輪と一体となったあの奇怪な天使ケルビムの姿はもう見たくはない。私はそっと目を瞑った。


遡ること数分前___いや、十数秒前かもしれない。



♢♢♢♢



「門に飛び込む。その際必ずあのケルビムは起動するだろう。」


微動だにしない門番ーーケルビムを見て死ガミはそう言った。

()()が動くところなんて出来る限り見たくないのだが、この死ガミが「必ず」と言い張るのだからきっと動いてしまうのだろう。

その場に立っているだけで圧はすごく、ずっと見られているような気がしてならない。そんなものが更に私を狙って動くのだと想像しただけで、無いはずの胃が痛む。


門まであと歩いても1分とかからない。そんな距離を飛んでいるのだから門まであと数秒だろう。私は固唾を飲んだ。



深呼吸をする。ーーまだ動かない。


周りの人々がこちらを見る。ーーまだ動かない。


死ガミが前に手をかざす。ーーまだ動かない。


門に死ガミが吸い込まれる。ーーまだ動かない。


門に私の手が触れる。ーーその時だった。



私は衝撃にたまらず声を上げていた。腹に当たる部分が熱い、熱い、熱い熱い熱い!

その刹那光が目を貫いたかと思うと、私は死ガミに引っ張られ門の中に転がり込んでいた。そこは闇に包まれた空間であった。


「あ゛ひ、……ッッう……!!」


熱線で切られたと思うほど痛い腹を抑えて蹲る。息がままならない状態で、死ガミはまた手首を力強く引いてくる。抗議しようと開いた口からは痛みが作る喘ぎしか出てこない。


「心配しなくていい。腹は切れていない。」


そう言って容赦なく引っ張り上げ、私はそれに連れられまた飛び立つ。

私は苦しさに声を漏らしながら、本当に切れていないのかと恐る恐る腹を見た。


……確かに私の腹には傷一つついていなかった。ならばこの痛みは一体……?


その時、後方から轟然たる音がドンッ!!と身体の芯を揺らした。あまりの衝撃に、一瞬で車酔いのように気持ち悪くなる。ビリビリと続く余韻が頭痛を刺激していく。


「なんだろう」なんて考える余裕はなかった。そも、私はこれが何の仕業かわかっている。あぁ、わかっている自分を自覚して狂いたくなる……それ程に恐怖だ。


ーー束の間、宇宙的な闇さえ感じさせる程の底無しに暗い空間に稲妻が走った。

思わずはっと目を見張り後ろを振り返ると、またもや轟音の後、今度は炎のような煌きを放つ何かがこの空間に現れた。


「……………………ケルビム………。」


先ほど見た、三種の動物の頭を持った一つの体。しかし、何故だか正面にある人の顔の後ろからもう一つ視線が感じられた。


「わ…鷲……!?」


情報を訂正しなければならない。三種の頭では無い、四種だ。それは人間、獅子、牛、そして鷲の頭を持った天使であった。

首を捻り視線で貫くその鷲の目は、「逃げられない」と直感を震わせる。


ケルビムは巨大なため距離感が把握しづらく、今なお近づいてきてるのかわからない。しかし、バリバリッと烈しい音を立てる光が猛スピードで迫ってきていることで大体の位置を把握することができた。

だのに私はその場を動けないでいる。恐怖ではない、畏怖だ。崇敬から膝さえつきたくなるほどに。


ケルビムは車輪で移動してきていた。

車輪の中に車輪があるような形状で、おそらく四方向に素早く方向転換ができるのだろう。私の身長近くあるその車輪の一面に、目がびっしりと詰まっていることを視認できるくらいには距離が狭まっていた。


ああこれが神のいる世界なのか……。人が天を崇める理由がわかった気がする。人は天に逆らえない、逆らいたくない……。


その時、光に満ちる視界では不自然なほどに黒いものが目の前を塞いだ。


「あまり見るな。慈眼(じげん)に自我を融戒される。」


死ガミが、そう言って手を私の前にかざしている。その黒い線を辿って後ろを向けば輝きに負けない存在感を放つ赤い瞳がこちらを見ていた。


ーー相変わらず何を言っているのかわからないよ。

そう諦め混じりのため息を出したときにはもう、ケルビムへの畏怖は薄れていたのだった。


私はその瞳に吸い寄せられるままに前へ前へと連れられ飛ぶ。いまだに腹は疼くし、頭も心臓も空気の振動と同調して気持ち悪い。畏怖が剥がれても根底にある恐怖が覗くだけ。

それでも前にしか道はない。


「っ……!」


死ガミが一瞬息を止めたような声を出した。


いきなりグッと腕を引っ張られたかと思うと、私は死ガミの腕の中にいる。


その直後私は背後からの熱気に声を上げていた。


「焔の剣だ。当たってはない。」


焔の剣……視界にとらえたその剣は、まさにその名の通りのものだとしか言いようがない風貌だった。先ほどの腹の痛みも、あの焔が掠ったからなのだろうか。


「………」


こんな私みたいなちっぽけな存在にも、あんなに強大な力が動くものなのか?

もしあの剣に当たってしまったら私はどうなる……?


先ほどと同じように手首を引かれながら前へ前へと進む。しかし、私の意識は後ろへ後ろへと遠ざかっていっていく感覚がした。



ーーなんて可愛げのない悲鳴なのだろうと自分でも思う。


体全体から出すようなその絶叫は、真後ろに迫りくる風切音と雷鳴に掻き消されていく。自分で自分の声が聞き取れなくなる頃には、身の危険ーーいや魂の危険か?ーーを感じざるを得なかった。


今の今まで、信じられない状況を目の当たりにしてきても、辛うじて耐え続けていた一本の精神の糸さえ磨耗していく。

それと同時に叫ぶ気力も失せていく。そして、たった今私は、首をただがくんがくんと振動に任せ、飛ぶ景色を呆然と眺める存在となった。


そんな私が自分の足元を見やればそこには、すぐそこまで来ている気味悪い車輪がある。その車輪と一体となったあの奇怪な天使ケルビムの姿はもう見たくはない。私はそっと目を瞑った。


「もう……もう無理……もう、良いから、大人しく捕まろ……」


恐怖心を押し殺すように死ガミの手首に爪の跡がつくほど力強く掴んでいた私の手は、その言葉を漏らすとともにぶらりと垂らされた。

それでも死ガミは私の手首を掴んで離さない。聞こえていないのか?そう思った時、何故か霹靂の中はっきりと、呆れるほど落ち着いた声が聞こえてくる。


「仕事を断念するわけにはいかない。失敗は処理しなければならない。」


思わずため息が出そうになった。バカ真面目というか、病的なド社畜というか。そんな理由でここまでやるのか?

私は「どうでもいいよ」と息で呟きながら、弱々しく死ガミの手首を手のひらで覆うのだった。




ー守護課天使ー




そろそろだ。

目の前に開ける黒い景色には目印などない。だが、自身の瞳の発熱、形態維持許容範囲外な腕。身体が『今』だと告げている。



『________,__. ___.___ ___•___  __,__…… 』



解けて溶けて融けて遂げ、砥がれる。


後ろから息を飲む声がする。そうだな、息は止めていた方がいいかもしれない。



ーーーー。



音はなかった。ただ真っ直ぐに空間を切り裂いた感覚はした。

さあ飛び込め。


僕は手首を掴んでいる人を思い切り前へ投げ飛ばす。


そして、後ろ目に追いかけてくるケルビムを見ながら俺もそこへ飛び込んだのだった。






『………!!………て!!ね……!』



声が聞こえる。て、ね?



『お………てっ…ら!!おき…!!』



この声質音程はあのヒトだ。起動しなければ、早く……。



『……て!!おきて!!』



「起きてってば!!」



乾いた音がその場一体に響き渡った。


なんだ、何が起きた?僕は思わずハッと目を開けると状況把握のため眼球だけをせわしなく動かした。

傍にいたのはやはりあのヒトだ。無事にイェソドから切り抜けられたようで、しっかりと開いた目をこちらに向けている。だが、かなり真っ青な顔だ。視認できる出血はないため失血ではないと推測できる。


そして、僕はようやく脳の起動に追いついた身体を起こした。


「……。参ったな。」


そこで事の重大さに気付いた。見渡せば、大勢の天使らが誰一人身動ぎ一つせずに、臨戦体勢で僕たちを囲っていたのだ。


「あなたが寝ている間にだんだん集まって来て……!」


横から非難の声を上げられる。確かに僕は通常より長く意識を放していたらしい、これはその結果だ。

そうこうしているうちに、既に上方まで天使が埋め尽くし始めている。外側から見ればドーム状に見えるであろうそれは、少しの隙間を残して完成しつつあった。


足に力を込める。


この世界は乖離界とは違って存在干渉力が働く。所謂重力と似た力がこの身体を下へと押しつけてくるのだ。

それに対抗するべく、脚に力を溜めていく。ヒトの手首を掴めば「まさか……」と呟き冷えていくその肌に、僕は「まさかとは?」と問いかけることはなかった。


ヒト一人通れるほどしかなくなった天使の翼と翼の隙間……そこを狙って瞬発的に脚の力を解き放った。ーーその時だった。




「アイン……?」




視界に残像として写る天使、天使……その中に一体。


構える姿勢を解く天使がいた。


ローズピンク色の鮮やかな瞳、ただ一人煌めく衣を纏う天使。俺はその天使の名を知っていた。


「メ……」


その天使を視界に入れ、口を開いたその刹那、悲鳴が聞こえた。

何事だ?僕は悲鳴の出どころを探す。どうやらこのヒトが叫んだようだ。こちらを見て口元をワナワナと震わせている。


「胸を、撃たれて……!!」


その言葉につられて首を曲げ、自分の胸元を覗き込む。そこには指二本程度が入る大きさの、風穴が開いていた。

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