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死ガミとユウ者の転生輪廻  作者: 断目
魂務員との出会い
3/9

理解と虚しさ/魂務員の失敗談

 -理解と虚しさ-



 突然謝罪を述べられ深々とお辞儀をされた私は、訳もわからずただ「私を助けられなかったことに責任を感じている?」と解釈した。

 しかし、どうやら謝罪したいのはそこではないみたいだ。


「て、てんしょうりんね?」


 漢字に変換できないその単語、「乗り損ねた」というこれまたよくわからない言葉。

 よくわからない、よくわからないが…「損ねた」という響きは実に不安を煽ってくる。


 目の前の男は、私の方を見てはいるものの口を開こうとはしない。

 ……ここも、話を促さないとダメなんだろうな。


「その、まずは説明をお願いしたいんだけど…。てんしょうりんね?とかの。」


 真っ赤な瞳を見てそうお願いすると、男はコクリと頷いた。そしてその赤い瞳はこちらに意識を向けてくる。

 はじめに目を合わせたのは私だったはずなのに、思わず見入ってしまう。


 あ…この瞳、見てる景色が反射しないんだ。吸い込まれそうなほど魅惑的なのに、手前で閉ざされてるような。

 長い前髪のせいで元々閉鎖的な印象だから、ちょっと近寄りがたく感じる。


 ぼうっと見つめながらそんなことを考えている最中にも、男は愛想無く話し始めた。


「そう、だな。まずはヒトが死んだらどうなるか___」


 そこから聞かされた話は、正直追いつけない部分が多かった。

『死んだことなんてないんだからわからないのも当然』と思いたいところだったが、私はこれまで何回も生まれ変わりを経験しているらしい。


 というのも、私たちの言う「あの世」には、永遠に幸せに暮らせる天国も、永遠に罪に苦しめられる地獄もないのだと言う。


 あるのは『乖脊界(かいせきかい)』と呼ばれる魂の終着地点。肉体から離れた魂はその世界に運ばれ、転生へと導かれるそうだ。

 故に、人はほぼ必ず前世を持っているらしい。


 なんだか、死んだ後の魂を生に繋ぐというのは、不思議に感じる。

 生から始まり死に終わるのが『この世』であれば、さしずめ、死から始まり生に終わるのが『乖脊界』なのだろうか?


 そのことを伝えると、男は「まあ、色々な解釈がある」と曖昧に返してきた。


 そして、肝心の『転生輪廻』についてだが、簡単に「生まれ変わり」という認識で良いらしい。

『この世』と『乖脊界』を何回も何回も繰り返し廻る。これは魂の大きな流れであり、その流れのことを「転生輪廻の軌道」と呼んでいるそうだ。


「は、はぁ……ええっと、私はその『転生輪廻の軌道』に乗り損ねてしまったと。」


「そうだ。」


 と言われてもぴんとこないのが本音である。

 軌道に乗り損ねたってことは私は生まれ変わりができないってこと?


「それじゃあ私は、どこに行けばいいの……?」


 口からついて出たその言葉は、部屋の家具に吸音されることなく、かと言って壁に反響することなく、静かに消えゆく。

 ぽろっと出てしまった自分の思い、それはどうしようもない哀しさを実感させるに十分な程、的確な言葉であった。


 あぁ、だめだ。喉が震えてしまう。


「本来であれば、私が魂を回収し、運ばなければならなかった。」


 空虚感のあった室内に、男の声が通る。


 まるで気遣ったようにタイミングよく放たれたその言葉。不思議だ。なぜかその声を聞くと心の波がゆっくりと落ち着いていく。


「魂の回収」、か……。さっきから何度か聞くそのワードは、当初の疑問を解消できる気がした。

 一体この人が何者なのかを。


「ねえ。」


 先程までは今にも泣き出しそうであったのに反して、今出た声は淡然たるものだったと自分で思う。


「さっきから思っていたけど……。あなたって死神?」



 -魂務員の失敗談ー



「あなたって死神?」


 自分の死体がある傍らで、女は薄い茶色の毛を揺らした。

 一時は取り乱した様子を見せたものの、この状態で状況を把握しようとするというのは、なんとも豪胆なヒトだな……と感じざるをえなかった。


「死神といえばそう。だが、おそらく貴方の知ってる死神とは違うものだ。」


 一問一答。その上で僕が適正と判断して出した答えは、曖昧な言葉と感じ取れるかもしれない。しかし、質問の答えとしては十分だろう。

 当然ながら、目の前の女は髪の毛をゆらりと動かしながら首を傾げてくる。


 しかし質問には答えた。故に、僕は何も音を発することなく、女の次の行動を待った。もし何もないようであれば、早急に今回の仕事のミスを処理しなければ。


「じゃああなたは、死神として私の魂を転生輪廻の軌道に乗せるために、『乖脊界』からここに来ていたってことね?」


 その認識は正しい。肯定の意を示すために首を動かした。

 そんな僕の反応を見た女は少し満足げに頷き返してくると、「大雑把だとは思うけれど大体の理解はできたんじゃないかな!」と、緊張の糸が緩んだような雰囲気を出した。


 だが、今は状況と事情を把握されただけ。問題はここからだ。


 まずこの女は『乖脊界』にいくことができない。正確には、入れはするのだが直ぐに排除しようとする者たちが動き出してしまう。

『乖脊界』は、その世界の住人以外に、ヒトの魂のみしか滞在を受け付けないのだ。


 ヒトの肉体と霊魂の間には「シルバーコード」と呼ばれる、ふたつを繋ぐ紐状の物質がある。

『乖脊界』が受け付ける魂というのは、この「シルバーコード」が切られたことで肉体から完全に切り離された霊魂のことだ。


 一般には「シルバーコード」の切れた瞬間がヒトの死と言われているが、ならなぜ死んだはずのこの女は『乖脊界』にいけないのか?


 その原因こそが僕にある。


 僕は『乖脊界霊魂公務員』略して『魂務員(こんむいん)』として乖脊界にて公務を行なっている。

 所属は、「乖離界管理本部 霊魂乖離部 死ガミ第一課」。つまり、死神ではあるが「神」ではなく、ただの役職の名称の一部だ。


 そんな僕の仕事は、死期が訪れたヒトのシルバーコードを切り、霊魂を運ぶこと。

 そのシルバーコードの切断という過程が一番肝心であり、仕事の結果はこれで決まると言っていい。


『乖脊界』に魂を運ぶためには、シルバーコードを切ると同時に、魂とこの世との関係も切り断ち、完全なる霊魂にしなければならない。

「この世との関係」というのは、生への未練であったり生者への想いであったり、だ。


 この世への想いの糸が繋がったままだと、シルバーコードが切れても魂をこの世に彷徨わせることになる。そのため、その2本を同時に切ることが仕事の成功に繋がるのだ。


 さて、僕はこの2本を上手に切れたのか。


 答えはいいえである。


 あの時、

「女は自殺をしようとしている。」

 と、そう油断していたのが過ちだったのだ。


 前提として、自殺者の魂は死ガミがどう手を施そうと『乖脊界』にはいけない。

 その理由は諸々あるのだが、ざっくり言うと、ヒトが自らシルバーコードを切ったからだ。

 死ガミは自らが狩り取った魂しか運ぶことができない。


 そもそも、シルバーコードと想いの糸を切るのは死ガミだからこそ出来る所業であり、それをヒトが出来るはずがないのだ。

 そのため、自殺者は転生輪廻の軌道から完全に落ち、この世を彷徨い続ける。


 これらを踏まえて僕は、「自殺者は放っておく」という考えが出てしまったのだ。

「死期はもうすぐだったのに、勿体ない。」なんて気持ちさえあった。


 しかし最終的に、女は事故死した。


 その展開に僕は自分らしくもなく慌ててしまい、魂の切り取りを不十分な準備で行ってしまったのだ。


 とは言え、女はしっかり死んでいるためシルバーコードはちゃんと切れている。問題は「想いの糸」だ。

「ハサミ」で切れるシルバーコードとは違い、想いの糸は死ガミの能力をハサミに込めて、()()()()()()()()()()切る必要があった。僕はそこを疎かにしてしまった。


 となるとこれを切る方法は一つ。「この世に遺した想いを晴らすこと」だ。

 想いを物理的に切れなかったのであれば、根本的に解決するまで。

 元々自殺を図ったヒトだ。「生きたい」なんて未練を遺したとは考えにくい。つまり、自殺を図った原因を払拭してやればいい。


 仕事処理への糸口が見えた俺は、動かした思考を冷ますように一息ついた。


 よし、まずはこれら全てをこの女に理解してもらうとしよう。

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