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死ガミとユウ者の転生輪廻  作者: 断目
魂務員との出会い
1/9

プロローグ/サマヨウ者

 -プロローグ-



 あの世に天国地獄はない。


 あの世とは、ヒトが受精卵となる前にいた世界。ヒトが肉体から霊魂(れいこん)を切り離された後に()く世界。


 あの世とはヒトの故郷である。


 あの世に還ったヒトは、自分が産まれる前のこと、さらに前世、さらに前々世___今までの転生輪廻(てんしょうりんね)の全てを思い出すらしい。


 あの世とは転生輪廻の狭間である。


 生死と生死の間に必ず戻ってくる場所。それがあの世。


魂務員(こんむいん)』とは、あの世____もとい『乖脊界(かいせきかい)』に住う、全ての魂の管理を行う者らである。



 -サマヨウ者-



「まいったな。」


 その言葉に重みはなかった。『感情』ではなく、ただ『状況』を表しただけのそれは、ハスキーがかった中低音と共に空間に染み渡る。


 ここはとあるアパートの一室。

 ベッドやテレビ、円形の小さなテーブルの置かれた部屋の隣には、仕切りを隔ててキッチンがある、いわゆる1Kと言われる間取りだ。


 羽毛布団が畳まれたベッドは、少し違和感を覚えるほど綺麗にシーツのシワが伸ばされており、枕元に置かれたクマのぬいぐるみは少し首を傾げて座らされている。

 対して、テーブルに敷かれたテーブルクロスは不自然に乱れていた。

 だが、清潔感のある白を基調としたデザインに、裾にあしらわれた黄色の小花柄は朗らかな印象を受ける。

 キッチンには最低限の調味料が置かれ、ガラス棚には装飾の施された皿が重なっている。


 それらを見ていくと、この部屋の主は女性と推測できるだろう。


 しかし、そんなフェミニンな部屋に一箇所、明らかに異質なものがぶら下がっていた。

 端を輪っかに結ばれているロープが、梁に括られ揺れているのだ。


 明らかに首吊りロープである。


 だが、その輪っかにヒトの首は通されていない。

 先程まで誰かに触られていたかのようにゆらゆらと動くそれは、確かに首を吊ろうとしたヒトがいたことを主張してくる。


「……。」


 無言でロープの下を見やる男。その視線の先には学生服らしきものを着た、一人の女が横たわっていた。

 ()()()()()()()()


 おそらくは、この部屋に住んでるヒトだ。首を吊って自殺したかったんだろう。だがそうはならなかった。


 何故ならこの男が来てしまったからだ。


「あなた、だ、誰?何者なの…?」


 男は、垂れ下がったロープと倒れている女の間の空間を見た。

 そこには、こちらを警戒するように、顎をぐっと引いて睨みつける女がいた。

 しかし男は、「何者なのか」という問いに答えることはなく、黙りこくる。


 何者かなど、いずれ勝手にわかることなのだ。男としては、『どうやってこの仕事を何事もなく滞りなく完了させられるか』が重要であった。


 全く相手をする気のない男の様子を見た女は、「なんで知らない人が家に…」と言いながら何気なく下を向く。


「……ん?」


女は目をこする。まるでそこにヒトが倒れていることを疑うかのように何度も何度も目を擦っては、しっかりとその瞳に光景を写し込んだ。


そんな女が段々と狼狽していく様子を、男はただただ見ていた。


「いや、いや、いやっ!なになに、なんなのこれ…っ!」


「なんで私がいんのっ?」


 ただでさえ血色の悪い肌を真っ青にさせた女は、ヘナヘナと床に手をついたのだった。

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