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終末ロボット

終末のロボット(2)

作者: 今日の空

「研究が進んでも、見つからなかったの…」



私はロボットの研究者をしている。

「先生、この資料は何処に置いておきますか?」

「それはそっちの棚にお願いします」

先生なんて呼ばれているが、偉い立場ではない。ただ、助手が妙に私の事を尊敬していて勝手にそう呼ばれている。


 ある日、研究発表の帰りに助手と飲みに行った。

「先生は、何故ロボット研究を始めたのですか?」

思い出すのは三日間の少年行方不明事件。

「君は、ロボットは何のために造られていると思うか?」

「便利な世の中にするため…ですかね?」

「正解だ。では、便利な世の中とは誰にとっての便利な世の中だと思う?」

「人間の為?」

「そうだ。人間が絶滅したら、ロボットはどうするだろうか?」

助手は不思議そうに首をかしげて私を見る。

「停止するのでは?」

「人工知能が発達すれば、自力で動くことも可能になる」

難しい顔をしている助手に、昔の話をしようと思い立った。

「昔の話をしようか。三日間の少年行方不明事件の話を…」





「…君、雷君」

公園で遊んでいると、ぼくを呼ぶ声がした。

「なあに?」

ぼくは返答をした。すると、目の前が真っ白になって_





 ぼくは、焦げ茶色の扉の前に立っていた。

「ここは何処だろう?」

何となく、その扉の先に何か面白い物がある気がして、冒険気分で扉を開けた。


「…本がいっぱいだ…!」


何処を見ても、本、本、本、本、本…。高い高い天井まで見上げてみても本ばかり。かわいい絵本、外国の本、難しそうな本、分厚い本、図鑑、写真集、巻物…、あれは…木の板? よくわからないけど、とてもカラフルな部屋だ。


「こんにちは」

「!」

本の山に驚いていると、髪の毛を結んだ女の人が本の後ろから出てきた。優しそうな笑顔につられてぼくも笑う。

「こんにちは。ぼくは雷です。あなたは?」

「…そっくり」

女の人は驚いたように言った。

「そっくりさん? 変わった名前だね」

「あわわわ! 違う違うの! 私の名前は、結」

結は顔を真っ赤にしてパタパタと手を振って、慌てて訂正する。ちょっと面白い人だ。

「あのね、知ってる子にそっくりだったから、思わず驚いたの!」

「へぇー、そうなんだ。世界にはそっくりさんが三人いるって言うよねー」

「そうなんだ。でも、この時代にはいないよ」

なんで? と聞く前に、結は続けた。


「人間は絶滅したから…」


「…じゃあ、案外、猿とかゴリラ辺りにそっくりさんがいるんじゃない? そっくりさんが人間のみなんて法律はないし」

キョトンと言うような間があって、

「その発想は、無かった…」

と結は呟く。ここで遅れて気が付いた。

「ねえ、ちょっと待って。人間が絶滅した?」

「はい」

「じゃあ、結は何者?」

「ロボットだよ」

「ここはなに時代?」

「時代という概念はもうないの」

「……」

これは、つまり、


「異世界に来ちゃった!?」


「ちがーう! み・ら・い!」

「あれ?」

少し違ったらしい。失敗、失敗。

「でも、なんでぼくを呼んだの?」

「お話しがしたかっただけなの…。ここは寂しいから…」

結は眉を下げてそう言った。

「結はロボットなのに、人間に見えるね」

「人間に一番近く造られていると、おとうさんは言っていたわ。食べようと思えば、ご飯を食べる事もできるよ!」

「そうなんだ。すっごいね!」

「凄いのは、私を造ったおとうさんだけどね」



「でもさ、人間そーっくりのロボットが造れるくらい研究が進んでるなら、なんで人間は絶滅したの?」

「研究が進んでも、見つからなかったの…」

「死なない方法が?」

「それもそうだけど、()()()()()()()が見つからなかった」

「…え?」

結は積み上がった本を見つめる。

「勿論、医療は発達したけど、変化したのは人間だけではないの。病原菌も子孫を残そうと必死なんだよ。だから新しい病気は次々に出てきた…」

「それが人が少なくなった理由?」

結は悲しそうな顔をして、緩く首を振った。


「世界規模の自殺…。いや、心中だよ…」


世の中が豊かになりすぎたの…。という言葉はぼくに響いて何かを造る。

「なんで…?」

「努力も、我慢も、忘れたから…。私の推測だけどね」

「難しい…」

「まあ、人間は長生きできない生き物っていうこと」



「でもね、人間に造られたロボットは長生きするけど、ロボットは誰かの為じゃないと動けないの。人間が造ったからこそ起きた現象なんだけどね」

「そうなんだ」

「うん。だから、人間が絶滅した後、人間の代わりの誰かを探したの」

「…人間の代わりの誰か…?」

「そう。それが地球環境だった」

「木とか植えたの?」

「勿論。先ず、道路の破壊で土面積を広げた。次に、緑化が行われた。最後に、『守地球法(粗大ごみ処理)』…つまり、ロボットの破壊が行われたの」

「地獄絵みたいだね」

「本当に気が狂いそうな光景だった。でも、彼らにとっては幸せだったの。誰かの為になるなら…」

「結はロボットだけどなんで一人で残ったの?」

「…死ぬ勇気が無かったから…。人間そっくりだから、痛いのは嫌なの。そのせいで私は独りで残ることになった…」

寂しいけどね。結はそう笑った。

「だから、お話しがしたくてぼくを呼んだんだね」



結はぼくをまっすぐ見つめて、

「本を書いてくれない?」

と言う。

「ぼく、国語できないよ」

とぼくが答えると、結は数冊の本を手にとってソファーに広げて指を指す。

「これは、写真集でしょう」

真っ赤な花火の写真。

「こっちは、絵でしょう」

ひまわり畑で麦わら帽子を被った少女が笑っている絵。

「これは、数学でしょう」

数学…。算数と何が違うのか…。


「それは、設計図…」


ドキッ

何が描いてあるかは解らないが、胸が高まる。これだ! ぼくはこれを描きたい。描いて、何かを未来に残したい。ここが未来なら、結に読んで欲しい!


「結。ぼく、本書くよ」

「じゃあ、私は雷君の書いた本を守るよ」


言い忘れたけど、私はここ歴史博物館の管理者なの。結は楽しそうに笑ってそう付け足した。


「終末のその時まで…」



「そろそろ時間だよ」

「もう!? 結とまだ居たい!」

結が唐突に切り出した。

「ごめんね。もう、会えないんだ」

「なんで?」

「このタイムトラベルマシーン、一人往復一回しか使えないの」

「じゃ、じゃあ、ぼくがタイムマシーン造るから…!」

「楽しみにしてるよ」

少し眠くなってきた。結の顔を見ることはもうできない。

「さよなら、雷君…」

「またね!」


「…っ、ねえ、おとうさんの名前は!?」


「みくる、だよ?」

「そっか。じゃあ、よろ……」

最後に結が何と言ったのかは聞き取れなかった…





 その後、目が覚めると色々あって…ありすぎて忘れた。ただ、おとうさんが昔、タイムトラベルをして結に合っていたらしい。びっくり。


 ぼくはそれから猛勉強して、研究者となった。あの日の設計図と出合った衝撃は忘れない。勿論、結との約束も…。





「…先生、酔ってます?」

「まあ、信じ難い話だよな」

助手は訝しげに私を見た。

「夢の中の話ですよね?」

「否定はしきれない。でも、夢では片付けられない空白の三日間は本当の話さ」

調べてみるといい。〇年〇月25日の新聞をね。私はそう言ってお酒を飲み干す。さて、明日は研究結果を纏めよう。結と約束した通り、私は本を描かなければ_





県立図書館にて。

「〇年〇月25日の…。あった!」

『三日間の少年行方不明!? 三日前の夕方から行方不明となっていた少年、中野 雷君が発見された。病院によると少年に目立った怪我はないが、失踪中の記憶がないという。発見者は…』

「…本当だ。先生の言った通りだ」




 三十数年後…。先生は信号無視の車に跳ねられて亡くなった。先生の本は完成間近だったというのに…。

「先生、タイムトラベルマシーンがあるならば僕は先生の事故の時に使いたかったです。あのロボットは何故そんな中途半端な時に使ったのでしょうか? 事故の直前のタイミングで使って先生を助けてくれれば良かったのにっ…」

もはや、ロボットに対する八つ当りだった。まだ、知らない未来の話。



 数年後、僕は結婚して娘ができた。しかし、娘は不登校となり終には部屋から出て来なくなってしまう。それでも、食事や用を足す時は部屋から出てきたが、二日間部屋から一歩も出なかった時があった。

 その後部屋から出てきたと思ったら、学生服を着ている娘。


「私、学校行く」


二日間の間に何があったのだろうか?



まだ、誰も知らない未来の話_

今日の空です。

お付き合いして下さり、ありがとうございます!


結構切ない話になりましが、ここで余談。

ちょっとおバカな雷ですが、努力しました。

もしかすると、

あの博物館のなかに雷の本があるかも…!




あらすじにも記載しましたが、この話は

『終末のロボット』『終末直前のロボット』と

関連しています。

もしよろしければ、そちらもお読み下さい。


精進します。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  人間とロボットの関係性、人類の絶滅してしまった暗い未来とロボットを開発しようとする明るい現代の対比が印象的でした。  それぞれの登場人物が何のために行動しているのか、しようとしているのか…
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