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先生一人目とのおかしな初対面






 お兄様とどう話せばいいのか分からない日々の中でも私の環境は少しずつ変化していく。

 

 【錬金工房】がある離れは第二の私の部屋のようになった。

 好きにカスタマイズして良いので楽しくなり書きなぐった計画書を見た時はやり過ぎたと反省しました。

 ただ今の所出来る事は少なく計画を立てているだけだから勘弁して下さい。

 計画書の全てを実行に移したら凄い事になると知っているのは今の時点で私とリアだけだし。

 だから止められる事はないんだけど、お兄様が見たら盛大にため息をつくかもしれない。

 ……そんな風に戻れればいいなぁ。

 私は何気ない時にお兄様の事を思い出して凹む日々を過ごしています。


 ――今なら片思いの子の気持ちが分かるわぁ。


 『地球』での事をひっくるめて片思いなんて経験した事はなく――モテてた訳じゃなく恋愛に興味が無かったんだけどね――大切な人を失う恐怖は基本友人に向いていた私がこんな所で片思いのあれこれを経験するとは。

 相手がお兄様である以上これは決して恋愛の愛情じゃないんだけどさ。

 ……ん? むしろ喧嘩してるカップルの仲直りの方法かな?

 だとするとこのままじゃ破局なんですけど、やだなぁこのまんまお兄様と喧嘩別れみたくなっちゃうの。

 そこまで考えて軽く頭を振って弱気な自分を叱咤する。

 

 ――そんな弱気じゃ駄目。絶対お兄様と仲直りするんだから。


 私は何度目かになる覚悟を心の中で決める。籠っていても精神的によくないと思い【魔法書】を手に取り離れを出るとリアと共に【工房】の前にある庭に出る。

 

 離れの前にある庭は【魔法】の練習をする事も出来るように広く取っている。

 近くにお兄様の【魔法工房】があると言ったけど、実際近くと言っても街で見かける隣家という程近くはない。

 そういう意味ではお互いの離れが確認出来る程度に離れているから、むしろ農家とかの距離感の方が当てはまるかも。

 

 という事で此処で幾ら【魔法】を発動させても問題は無いくらい広い庭に私は居る。

 何でかというと未だ家庭教師が付かないから本を読んで基礎くらいやってみようかという理由からだった。

 

 本来なら【魔力属性検査】を行ったら直ぐに家庭教師やらマナーの先生やらが付くはずである。

 社交界にも家の人間として簡単なお披露目をする事になるし。

 ただデビュタントは流石にまだ早いので子供ばっかりの誕生パーティーとか、身内のお祝いとかそう言った私的なパーティーに出るだけなんだけどさ。

 ……そういえば貴族の殆どはデビュタントの時期って学生なんだよね。

 ゲームのヒロインもパーティーに参加するイベントあったしなぁ。

 恋愛ルートの場合必須のパーティもあったし。

 私はめんどくてそこら辺は必要最低限のしか出なかったけど。

 今は公爵令嬢として出なきゃいけないんだよね。

 人脈を作らないといけないしねぇ。

 そもそも将来嫁ぐ家を探さないといけないし……いっその事【錬金術】を極めて独身でいるのも手かも?

 出来るはずないんだけどね。


 そんな空しい結論はともかく、私も再度【検査】を受けたし、早々に家庭教師が付くとばかり思っていた。

 なのに、何故か私には未だに家庭教師の一人もいないしマナー講師も居ない。

 お陰で暇でしょうが無い。

 速く【錬金術】習いたいんだけどなぁ。


 流石に【錬金術】は本を片手に独学で学ぶつもりはない。

 教師を得られるという最高の環境にいるのに、それをどぶに捨てるつもりは毛頭ない。

 だから【魔力操作】など【魔法】の基礎を本を見てやってみようと思ったのだ。

 初歩の初歩なら後で教師が付いた時私に変な癖が付いても直しやすいだろうしね。


 この【魔法書】は【錬金書】と共にお父様に貰った。

 【初級編】と書いてあるし、多分【中級】はあるし【上級】もあると思う。

 それ以上となると個人の【研究論文】とかになるんじゃないかな?

 もしかしたらお父様のモノもあるかも知れないから、その内探してみたいと思う。

 自分の【工房】に置いてあったらどうしようもないけど。

 まぁそれなりの人の目に触れて良いレベルの【本】も書いてあると思うから、そっちくらいは我が家の図書室にあるはず。

 そのうち探してみよう。


 【魔法書】は開いて直ぐに【魔法】を使う事の注意事項が書いてあって、次のページからさっそく【魔法】の基礎について書いてあった。

 ただこういう本って最初に長々と【魔法】を使う事に必要な知識として神話レベルのお話がつらつらと書いてあると思ってたんだけど、どうやらそこら辺は省かれていて合理的な仕様になってるらしい。

 この【本】がそうなのか、全部そうなのか分からないけど。

 取り敢えず基礎の基礎を学ぼうとしている私には有り難い仕様だと思った。


「やっぱり最初は【魔力操作】から、みたい」

「そうですね」

「あ、リアも【魔法】は使えるんでしたね」

「はい。私の場合【土】の【属性】がありました。なので【土魔法】が得手となります」

「成程。ここら辺は全ての【魔法】を試してみないと分からない部分がありますものね。【属性】についての説明は【魔力操作】を終えた後のようですし、まずは【魔力操作】をやってみたいと思います」


 私は【本】をリアに預けると胸の前で両手を握り目を閉じる。

 ……何となくぶりっ子している気分になるのは何でだろうね?

 今の容姿なら似合う所が恐ろしい所です。

 うん、この容姿を衰えさせないように手入れの手を抜けないんですよね。

 

 容姿は貴族において一つの武器である。

 貴族というのは総じて容色に優れている。

 そして第一印象において容姿というのは大きな武器になる。

 勿論、容姿が優れているから全てが万事上手くいくなんて話は無いが、容姿が優れているに越したことは無い。

 平凡と言われる容姿の人だって清潔にし仕草を矯正すれば清廉な印象を受けて色々カヴァーされるし。

 

 お父様なんかは線の細い王子様風の容姿をいかして常に穏やかな笑みを浮かべている。

 まぁぶっちゃけ腹黒っぽいと言えばっぽいけど。

 実際お父様は交渉事が得意そうだと思う。

 もしかしたら外交官とかなのかもしれない。

 今度聞いてみないとなぁ。


 ともかく、容姿が武器となり得る中手入れをほったらかす訳にはいかない。

 リア達、家の使用人達が全力で保全してくれているけど、私も気を付けないと。

 うん、自分だと分かっても、この容姿が崩れるのは見たく無いし。

 

 いや、そうじゃなくて。

 集中、集中。

 

 盛大に逸れた思考を戻し集中する。

 

 数度起こった、自分の中から【何か】が出て行った時の感覚を思い起こす。

 体の中から【暖かな何か】が水晶玉などの魔道具に注がれていき、同時に体から抜けていった。

 あれが【魔力】なら自分の中に【暖かな何か】の存在を認知すれば良いって事になる。


 目を閉じて意識を更に集中する。

 自分の中にある【何か】を探る。

 【暖かい何か】が体を巡っている。

 それは決して自分を傷つけないモノ。


 ――きっとこれが【魔力】


 【暖かな物】を【魔力】と認知し【魔力】を意図して何処かに留めてみる。

 右から左に動かして、握った手に集める。

 両手がほんわり暖かくなっていく。

 これが【魔力】が集まった感覚なんじゃないかと思う。

 

 けど……これが【魔力】だとしたらどうやって自分の【魔力量】を把握するんだろう?

 今の所引き出そうと思えば無限大に引き出す事が出来そうな気がする。

 体から【魔力】が溢れて出てくる感じ。このままだと【魔力】に溺れそう。

 水の中にいる訳でもないのに感覚に支配されて溺死は洒落にならない。

 私はこれ以上【魔力】を引き出そうとするのをやめる。

 【魔力】は私の意志にすんなり従ってくれた……そりゃそうだよね。

 【魔力】に意志があるわけじゃ無いんだし。

 多分だけど【魔力】は目に見えない自分の一部って扱いなんだと思う。

 

 ゲームの中の【魔力】は何かを創る際重要だった。

 一つ何かを創る際に必要な【必須魔力】があって、それは【熟練度】によって低くなったりするけど、ゼロにはならなかった。

 必要な【魔力】が無ければ失敗したし【魔力量】がゼロになっても何かを創造しようとしたら倒れて日数だけが空しく加算されていく設定もあった。

 【魔力量】はレベルと共に上限が上がったし、最終的には何をどれだけ創っても問題ない量になってたけど。


 現実ではどうなんだろう?

 ゲームでは気絶――あれは失神と言った方がいいかもしれないけど――しただけだったけど、枯渇すれば死ぬとかもあり得ない話じゃない。

 そんな死に方はごめんだし自分の【魔力量】は正確に把握しておきたい所なんだけど。

 このまんまじゃ引き出せるだけ引き出すのは危険だと言う事しか分からない。

 【魔力】を計る魔道具でもあるのかな?


 私は取り敢えず【魔力】を引き出す事をやめると今度は体の中で【魔力】を循環させる。

 すると巡らせるたびに【魔力】に変わっていく感覚に襲われた。

 近しい意味で称するならば「精製」されていく感じだった。

 原石が磨かれていくような、不純物が取り除かれて純度が高くなっていくような。

 【魔力】を循環させるとそのような感覚を感じたのだ。

 もしかしたら【魔力】はこうやって質を高めるのかもしれない。

 高められた【魔力】なら少ない【魔力】で高度な【魔法】を使ったり高度な【錬金】を可能とするのかもしれない。

 ゲームで云う【熟練度】の高さをこうやって補う事も可能……なのかな?


 ゲーム内の【熟練度】は回数をこなす事でやり方を把握して無駄を省く事で効率化を図る事で【必須魔力】を減らしていた気がする。

 【熟練度】が高くなれば配合を少しずつ変化させる事も可能になった。

 ただし【錬金】の【上級スキル】を会得しなければいけなかったけど。


 ――そこまで行くとギルドではお得意様って云うか、冗談とはいえ受付に「このまま【錬金術師】にならないか?」なんて言われるようになるんだよねぇ。


 これ、一応選択肢が与えられて「それも良いですね」を選ぶと貴族との今までの恋愛メーターがリセットされてしまう。

 平民が相手の場合は全く変わらなかったけど。

 そしてエンディングで「【錬金術師】ルート」というか、国一番の錬金術師になるってEndが出現する。

 一種のノーマルエンディングだったんじゃないかなぁ。

 ちなみに私は個別恋愛ルートのイベントが煩わしくて、これを選択してノーマルエンディングにしていた。

 つくづく普通の人とは違う遊び方をしていたと思う。

 だから「国一番の錬金術師End」はとってもおなじみのエンディングだったんだけどね。


 そんな私の変わった遊び方はともかく、多分現実では【初級スキル】の時点で配合を変える事は可能だと思う。

 ただ【レシピ】が一番失敗しにくい方法だからこそ世間に広まっているんだろうし、自分の【属性】の得意、不得意も存在するだろうから、いきなり応用をやる意味が分からない。

 それこそ【上級スキル】を会得するぐらいこなれないと難しいんじゃないかな?

 

 【熟練度】に関してはまだ基礎もやってない私には関係の無い話だけど精製した【魔力】はどうなんだろうか?

 たかだか【魔力操作】をやってみただけの初心者でも「精製」は出来るのか、出来ないのか。

 それによって多分意味合いは変わってくるはず。

 これが私のように『反則的』な何かがないと出来ないのならば、この【魔力】をいきなり使うのは無謀極まりない。

 逆に初心者でも直ぐに出来る程度の代物なら大した出来事でもないと思って使ってみれば良い。

 後者の方が有り難いけど、『反則的な自分』を知っている以上楽観視は出来ない……んだよねぇ。

 

 ――先生の授業を受けてから話すかどうか判断した方が無難だよね?


 初っぱなから【大鍋】を爆発させたくないし。

 行き成り【相棒】を壊してしまったら流石に泣く……想像だけで泣きそうになったし。

 

 私は自分が出来た事の整理とこれからしなければいけない事を考える事に必死で周囲の警戒が疎かになっていた。

 ……自宅で過度の警戒をする必要がないという事もあるけれど。

 ともかく、自分の思考に没頭するあまり周囲の警戒を疎かになっていた私は誰かが近づいて来る事に気づかなかった。

 リアが必死に私を守りながら相手に誰何している事すら気づかなかったのだから、私は集中すると周囲の反応に鈍くなるのかもしれない。

 公爵令嬢としてトラブルが起る日々を送るのなら致命的かも。

 

 って、そんな事はどうでも良くて、かなり接近するまで気づかなかった私は精製した【魔力】を取り敢えずどうしようか考えていた。

 だから突然後ろに知らない気配を感じて――少なくとも私にとっては突然だった――驚愕し存在を探ろうとした……そう誰かを知ろうとした。

 私にとってそれは意図してやった事では無かった。

 

 偶々精製した【魔力】を持てあましていた。

 集中して周囲の警戒を怠っていたから突然気配が現れた気がした。

 その誰かを「知ろう」とした。


 だからそこから私がした事は完全に無意識だった。


 【魔力】を先程練習した方法で双眸に移動させる。

 暖かな【力】が双眸に集まり熱を持った事を確認する。

 ただ相手を【見たい】と思い眼を開けて振り返る。

 

 私はまだこの時点では知らなかった。


 【魔法】とは想像力が威力を左右するものだと。

 【魔力】を自分の想像で創り出した効力で発動するものだと。

 色々必要なプロセスはあれど、基本は【想像力】さえ正確ならば【魔法】に近しいモノは発動するのだと。


 私は精製された【魔力】と【想像力】が噛み合い【魔法】に限りなく近しいモノを創り出したという事を。


 全く知りもしない私はその相手を見た途端驚き声も出なかった。

 勿論気配の主が美形だったからじゃない……あ、いや、端正な顔立ちだったのは確かだけどね?

 見た事無いほど嫌な感じがした訳でも無い。

 

 ただ色鮮やかな色彩の光を纏っていた事に眩しさと威圧感を感じただけだったのだ。


 年の頃は三十代。

 多分お父様と同世代の男性。

 烏羽色の髪に漆黒の眸のイケメンさん。

 ただし私を見る目には全く感情が浮かんでいない。

 私に興味が無いというのが丸わかりの無機質な眼差しだった。

 そんな無気力っぽい人なのに、周囲を彩り鮮やかな光が舞っているのだ。

 ミスマッチすぎて言葉が出ない。

 と言うよりも手品師か何かですか? と聞きたくなる光の数々だ。

 そしてどうして此処にいるんだろうか?

 

 多分、今この屋敷は厳重に警備されているはず。

 顔見知り程度では易々と入れないと思う。

 だからといって警戒心皆無でいて良い訳ではないけど、少なくとも不審者が進入し、こうして私と対峙する必要は無いはずだと思っていた。

 しかも未だに警備兵が誰も飛んでこないし、この人は多分危険な人ではない、はず。

 言い切れないのはこの私に徹底的に無関心な眸のせいだ。

 ……正確に言えば私という個人ではなく「人」に興味が無いのかもしれないけど。

 私と男性の間に入り私を守ってくれているリアに対しても無機質な眼差しを送っている所後者が正解かな?

 そういえばリアの周囲も黄色の光が舞っている気がする。

 

 ……ん?


 じゃあ此は意図して出しているモノじゃないって事かな?

 え? 変なの私の方なの?

 

 思考が考察モードに入りたいと訴えているけど、そのためには目の前の人がせめて何者なのかぐらいは知り安全を確保したい。

 私は小さくため息をつくと、リアの肩を数度叩きリアの斜め前に立った。

 真っ直ぐと男性を見ると私はゆったりと微笑みを浮かべた。

 勿論外用ですけどね?


「ワタクシ、ラーズシュタイン公爵家の娘キースダーリエに御座います。此度は礼を欠きました事深く謝罪致します」


 カーテシーを行う私にリアが一歩引き深く頭を下げる。

 私は礼をしたぞ?

 これで尚無言ならば非礼は相手になる。

 この男性が王族でも無い限り私は当然の権利として相手を咎める事が出来る。

 まだ一人前になっていない存在だとしてもある意味の儀式をし公爵家の人間と認知された以上私を下に見る事は許されない。

 まぁ私もそれ相応の態度が必要なんだけどね。

 私がらしくない対応をすれば今度は相手が私を咎める事が出来る。

 つまり態度一つでどちらが優位か決まるって事になる。

 貴族の恐ろしい所の一つだと思わなくも無い。


 とはいえ、私の行動は功を奏したらしい。

 無礼な行動には出ないと分かった。

 男性の眼に少しだけ光が灯った気がするから。

 それなりの礼は相手の興味を少しだけ引いたらしい。

 見た目は完全に教育をまだ受けていないような子供がやるには十分に見られたらしい。

 男性は胸に手を添えると腰を折り挨拶を返してきた。

 これは子供にするには上等すぎる。

 爵位の問題か、それとも子供を試す意味か。

 分からないけど、気は抜かない方がいいかもしれない。


「此方こそ非礼をお詫び申し上げます。私はシュティンヒパル=コルラレと申します」


 ……あえて爵位を名乗っていないのか、名乗る習慣が無いのか分からないけど、無機質であり無表情なコルラレ様から何かを読み取る事は不可能だと思った。

 ただここまで悠長にしている所、今の所私に害をなす相手ではないと言う事かも知れない。


 ――過剰に警戒しても疲れるだけかもしれない。


「コルラレ様。どうして此方へいらっしゃったのですか? 父に用があるのならば家の者に案内させますが?」

「確かに私はラーズシュタイン当主に呼ばれて来ましたが、公爵家に来た途端強い【魔力】の波動を感じ、元を知るため辿り此処に至りました」

「強い【魔力】ですか?」


 【魔力】に敵意や殺気でも感じたとか?

 じゃなければ成人した貴族がふらっと他家の敷地を供も使用人も付けずに歩けるはずないと思うんだけど。

 ……すみません。

 この人のキャラが分かりません。

 無表情で無機質なのに好奇心旺盛な変人な訳?

 顔が整っている分残念なんですけど。

 これが全部演技で実は暗殺者です、なんてオチも勘弁して欲しいんだけどさ。

 

 どう対応していいか考えあぐねている私は来てくれたお父様に後光が見えました。

 ……うん、半分冗談だけど、半分は本気です。

 お父様の周囲も白と金の光が飛び交ってます。

 お陰でお父様が眩しいです。

 もしかして私の目って本格的におかしくなってる?


「パル! どうしてこんな所にいるんだい?」

「シュティンヒパルだ。純度の高い【魔力】を辿ったらお前のご息女に出くわした」

「ダーリエ? ……ああ、ダーリエ、済まないね。この男の相手は大変だっただろう?」

「……そんな事はありませんわ」


 はい、そうでした。

 なんて言えないんだよねぇ。

 それにしてもこの人ある意味分かりやすい。

 コルラレ様にとってお父様は「人」だけど、それ以外――この場合私とリア――は「有象無象」「路傍の石」程度にしか思っていない。

 ここまで突き抜けていると失礼を通り越してこの人は相当の人嫌いか子供嫌いなのだと思ってしまう。

 礼を執った事で反応や表情が僅かに変わった所子供嫌いの方なのかもしれないけど。

 纏う雰囲気的には人嫌いで厭世的な感じがするけど。

 

 まぁ何はともあれお父様がこの人を認めた以上私が警戒する必要は無い。

 むしろ此処であからさまに警戒すれば、私の不作法と取られかねない。

 密かに警戒するしかないんだけど……難しいんだよね。

 そこら辺はほら、私基本的に平和ボケしている『日本』の人間だったんだしね?

 現状、要訓練状態なんだよね。


 ――護身程度は最低限習うべきだよね。


 そもそも【採取】を行うならばそこら辺のモンスターを倒す事が出来るだけの戦闘力が必要となる。

 【魔術師】としてか何かしらの武器を扱うか。

 どれにしろ外に出て殺されないだけの実力を身につける必要がある。

 ……お父様達と相談の上だよね、これって。

 最近過保護なんじゃないかな? と思うお父様とお母様の許可をどうにか得る算段をつけないといけない。

 かなり高い壁にため息が出そうだけど。


 私は考えていた事を取り敢えず頭の片隅におきリアに向き直る。


「リア、屋敷に戻り先触れをお願い致します。もうお父様がしているかもしれませんが」

「いいや。パルは屋敷の門を潜った途端玄関ではなく此方に来たからね。屋敷内に入ってくると思って居た気配が遠ざかるから流石に慌てて手がけていたモノを終えて此処に来たんだよ」


 ――自由か! そして屋敷内の気配を把握なさっているのですかお父様?!


 コルラレ様の自由さとお父様のあり得ない実力に頭痛を感じてしまう。

 慌てても仕事を一区切りさせる冷静さは持ち合わせているのですね、お父様。

 何と言うかお父様って何者なの? と聞きたくなる時が結構あるんだよね。

 真っ向から聞いても絶対に答えてくれないだろうけど。 

 

「コルラレ様はお父様の御客人のようです。至急応接室の用意とコルラレ様に対してのお茶の用意があるなら其方も用意するよう伝えて。御客人の名前は〈シュティンヒパル=バロニア=コルラレ〉――で宜しいのですね?」


 一応此処で爵位を名乗らなくても良いのか? と聞いたんだけどコルラレ様はあっさりと「問題ない」と言われた。

 本気で名乗る気ないんですね。

 それでいいならいいんですけどね。


「一応容貌も一緒にお伝えしておいて。漆黒の髪と眸のお父様と同世代の男性だと「ちょっと待ってくれ、ダーリエ」――お父様?」


 今まで口を挟まず私の指示を聞いていたのに、突如お父様が私の言葉を遮った。

 しかもお父様とコルラレ様の纏う空気が固くなった気がした。

 と言うより突然この場の緊張感が高まったと言った方がいいかもしれない。

 私の言葉を遮るお父様の声音も何処か固く緊張した色を孕んでいたし。

 そんなお父様達の突然の変化に私はついて行けず不思議だと云う思ったままの表情のまま振り返ってしまう。

 

 お父様とコルラレ様は何故か私を驚愕の表情で見ていて、そんな眼で見られるような事をした覚えの無い私は居心地の悪さを感じてしまう。

 私が理解していない事が分かったのかお父様は何かを考える様子をしていたけど、直ぐに今度はご自身がリアに指示を出した。


「クロリア。僕とシュティンヒパルはダーリエの離れで話をするからそのように用意してくれ。客人は黒髪と“灰色”の眸を持つ僕の友人だと云えば通じるから」

「え?」


 お父様の言葉に今度は私が驚いてしまう。

 けれどその事についての説明を此処ではしてくれないらしく一瞬戸惑う素振りをしたが一礼して屋敷内に行くリアを余所に私達は私の離れに行く事になった。

 その間コルラレ様の視線が怖かった。

 何と言うか研究者に見られる実験動物の気分ってこんな感じなのかな? って言いたくなる。

 無機質なのに興味津々な眼は先程の子供嫌いはどうしたんですか?! と突っ込みたい。

 いや、悪化してるかも。

 今の私は多分モルモット……いや特殊な生態を披露した珍獣かもしれない。

 どちらにしろ碌でもない何かを引き起こしそうなんですけど!


 ――お父様! いざという時は助けてね!? 友人みたいだし殴ってでも止めてね!?


 心の中で懇願する。

 ……声には出せませんけどね。


 こうして私、お父様、コルラレとお茶と軽食を持って戻ってきたリアを含めた四人で奇妙なお茶会? は始まりを告げたのだった。





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