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光闇の君と邂逅した先にあるものは?




 まぁ、問題が無い訳も無く。

 私達は今再び王城に来ていた。

 黒いのは相変わらず私の影の中に。

 けど今回は幸いな事にお兄様が隣にいてくれる。

 本当にどれだけ心強いか。


 さて、誘いの際いないはずのお兄様が何故今回同行してくれているかと言うと?

 ――王子様の方からの提案だったりする。

 どんな理由かは分からないけど先触れは「兄も共にどうだ?」というニュアンスの誘いだった。

 私に対してのモノと違い強制力は無いけど、こんな機会をお兄様が逃すはずもなく、同行を了承してくれた。

 

 理由は予測するしかないけど、多分交友関係を広げる事が目的なんじゃないかな?

 お兄様はラーズシュタインの人間として優秀だと囁かれている。

 私はお兄様が優秀な方である事を知っているけど、噂でしか知らない人もいるわけだし、噂の真偽を確かめるためには会うのが手っ取り早い。

 だから丁度良いしお兄様の人となりも知りたいと思ったんじゃないかな?

 お兄様は自分の側近になる可能性を持った人だしね。


 私を出汁にするのは別にいいけど、お兄様に対しての態度次第では私の好感度はだだ下がりします。

 今の時点で静観したい気分で一杯だけどね!


 という訳で様々な思惑渦巻く中、私とお兄様は王城にやってきた。

 ……何故か青空が見渡せる訓練場に居ますけどね。


 うん、色々突っ込みたい事はあるんだけどさ?

 一番の突っ込みは……どうして私達が此処にいるんだろうね? という疑問だよね。


 此処は訓練場。

 目の前には大勢の騎士達が訓練をしている光景が広がっている。

 此処ではきっと騎士達が日々訓練に明け暮れているのだろう。

 気迫と熱気と、色々混じって体感温度が数度上がっている気がする。


 公開訓練日なのかは知らないけど私達の他にも人がチラホラ。

 とは言え、とてもじゃないけど訓練を見ている風には見えないけど。

 相変わらず煌びやかで仕方ないですね、目に優しくないです。


 実を言えば格好に関して言えば人様に文句を言える立場にないんだけどさ。

 だって私達も訓練を見に来るような格好じゃないし。

 いや、言い訳させてもらえるなら不可抗力だよ?

 招待を受けた時は応接の間とかに案内されると思ってたもん。

 王子様が最初からこっちが目的だったなら、それ言ってくれないとそれ相応の格好なんて出来ないって。

 これって天然か策かで大分印象変わるんだけどねぇ。


 とまぁ王子様への評価はともかくとして私以外の見学者は一様にけばけばしい程に飾り立てていた。

 この場所に不相応な格好をしていると自覚している私達よりも凄い格好ってどうかと思うんだけどね。

 香水の匂いが此処まで香ってくるんですが。

 香水をつける時の原則を知らないのか、貴方方は。

 知っていてもそれだとしたら、化粧覚えたての子供か。


 ちなみに私は化粧はしてない。

 香水は、まぁ嗜み程度に香らせている事もあるけど、基本的にはしてない。

 この年で其処までする必要無いでしょ。

 特にこの愛らしい容姿は化粧なんてしなくても充分だし……ナルシスト発言すみません。

 この年から化粧塗ったくったら将来悲しい事になるよ?

 知り合いでもない人に注意する義理もないからしないけど。


 例のゴテゴテ令嬢サマ程とは言わないけど、この場には完全に不相応だと思う。

 これが私達と違って公開訓練日だと知って来たんだとしたら、浮くだろうに、と思ってしまう。

 実際他の人も似たり寄ったりで浮いてないのがなんだかなぁ、なんだけどね。

 私達も浮いてないとか……騎士様達に同類認定されているのなら泣きたいです。


 そんな場に相応しくないお嬢サマ方だけど、お目当ては一目瞭然だった。

 お目当ては私達を誘った方……第二王子様だった。

 どうやら既に実践訓練を受けているらしい。

 騎士達に混ざって王子様も剣をふるっていた。


 王子様が剣を振るうたびにお嬢サマ方の奇声が響く。

 というかコレを物ともしていない騎士様方が凄いな。

 私もお兄様も耳を塞ぎたくて仕方ないです。

 多分黒いのは何の遠慮も無く耳を塞いでるんだろうね。

 羨ましいんですけど。


「精神の鍛練かな?」

「否定できません、お兄様」


 こんな奇声を聞き続けてたら鬱になりそうですけどね。


 一応フォローしておくけど、騒ぐのも分からない事もないよ?

 動くたび、相手と切り結ぶたびに白金の髪が宙を舞い、陽の光を受けて金糸のように煌いている。

 闘気を湛えた金の双眸はきっと溶かし込んだ黄金のように深い事だろう。

 生きている拍動を感じられるからこそ美しい宝玉がそこには嵌め込まれている。


 それはきっととても美しいのだとは思うのだ。

 陽の下で動き、生きていると全身で謳っている王子様は、そこに在るだけで美しい人なんだと思う。


 それに見惚れるのも分かるし、歓声を上げたくなる気持ちも分からなくもない。


 とは言えさぁ、限度があると思う。

 王子様の相手に対する罵声は確実にアウトでしょ。

 其処までしたら見苦しくて仕方ない。

 ただでさえ此方は場違いなのだから、それを自覚して大人しくする事は出来ないんだろうか?

 ……それが自覚出来ていたらそも此処にそんな格好で来てないか。


 もう外野はシャットダウンしよう。

 私の精神安定のためにも。


「(あれは関係ない。あれは私とは違う。私はあそこまでしない。ってかあれは恥としか思えない)」


 自己暗示のように、そんな事を心の中で呟いて私は再び王子様に視線を戻す。

 今度は容姿ではなく剣筋を見るために。


 王子様の腕前は年不相応レベルだと思う。

 何時から訓練をしていてたかは分からないけど、少なくとも同世代の中ではずば抜けているんじゃいかな?

 相手をしている騎士は年上だし、流石に王子様の攻撃をなんなくいなしている。

 けれど然程手加減しているようには見えない。

 上手に手加減をしているのか、王子様の力量が手加減出来ないレベルなのか。


「(そう言えば『ゲームの第二王子様』は剣の才能がある、とか書いてあったっけ)」


 性格はともかく、採取に連れていくには良いキャラだったんだよなぁ。

 序盤では特に。


 どうやらこの世界の王子様にも剣の才能はあるらしい。


 今だって一歩も引かぬ強さで時に切り結び時に打ち合い、時に刃を交わしている。

 時折聞こえてくる「相手は何様なの!」的な罵声はスルーします。

 スルーったらスルーです。

 そんな接待訓練受けたい訳ないでしょうに。

 侮られている事と同義じゃん、それ。

 想い人? が侮辱されていている方が良いって良いご趣味ですね、って感じだよねぇ。

 本当に貴方は王子様が好きなんですか? と問いかけたい気分になります。……問いかけても無意味そうだからしないけど。


「そういえば、例の令嬢サマがいませんわね」

「ああ、確かに。居ても可笑しくはないよね」

「あれだけ殿下にベッタリだったようですし、このような場所は自分を売り込むのに最適な気がしますのに」


 アピール方法は間違えるだろうけど。

 と言うか、確実にアウトな事をしでかすと簡単に思いついてしまう。

 ここにいるお嬢サマ達みたいに訓練相手を罵倒するとか率先してしそうだし。


「<出禁でも受けてんじゃね?>」

「有り得そうで笑えませんわね」

「ん?」

「黒いのが、何かしらの理由で見学できない事になってしまったのではないかと」

「……否定しないといけないんだけど、ね」


 お兄様、それ否定してません。

 義務感で否定しようとしなくていいですから。

 

 パーティーが初対面の私でもぶっ飛び具合を見せつけられた訳だし、こういういかにもな場面でやらかさない、なんて事なさそうだもん。

 きっと一度はやらかしていると思うよ?

 令嬢サマが大の戦闘嫌いとかなら分からないけどさ。

 

 あーそうか、自分で言っておいてなんだけど、その可能性もあるか。

 「ワタクシ、争いごとなど怖くて見ていられませんわぁ」とか言えばか弱い令嬢サマに見せられるかも。

 猫かぶりにはちょうど良い題材だなぁ思わなくもない。

 王妃様になりたいならマイナスポイントだと思うけど。

 側室、愛妾ならともかく王妃様という地位は血を見てぶっ倒れるようなか弱い女性が就けるものじゃない。

 時に旦那を支え、時に王の名代を務めないといけない。

 血腥い戦場に出ない、又は自分の居る場が戦場にならないなんて誰が言い切れると言うのか。

 今の所戦争の兆しは見えないからって全く考えないというのはあまりに考え無しだ。

 

「(いや、これ全部予測なんだけどさ。どっちにしろ碌なもんじゃないよね)」


 他に理由があってその理由に正当性があるならごめんなさい、だけどね。


 頭では令嬢サマの事を考えつつ、視線は訓練場を見回していた。

 王子様の剣も見ごたえがあると言えばあるんだけど、剣の才能を全面に押し出した剣術は私の目指す代物とは違う。

 だからか王子様の訓練を見ても、彼を相手にした場合、自分はどうするか? 的な方向にしか思考がいかない。

 流石に物騒だし、周囲の耳障りな奇声と相まってあまり見ていたくない気分にさせられる。

 全く見ている光景と関連がないなら聞き流す事は出来るけど、映像と関連付けられてしまうと聞き流すのは難しいのだ。


 という事でポーカーフェイスを保つのも面倒だし、私は興味のある方へフラフラと視線を彷徨わせ始めた。

 お兄様も私の彷徨う視線の意味に気づいて苦笑しているけど、同じように周囲を見渡し始めた。

 王子様だけ見ていても何の糧にもならないからね。


 お兄様はどちらかと言えば集団対集団のチーム戦を見ているようだった。

 戦術を学び、集団戦の動きの流れとかを見ているのだろう。

 あわよくばブレーンの思考をトレースしたいんじゃないかな。

 

 私はと言うと。

 ある程度一連を見回した後、基礎訓練の方をじっくり見た後、両手剣以外を使っている人を中心に見渡していた。


 騎士のスタンダードは多分両手剣だと思う。

 大半の騎士の人が使っているし、立てかけられている武器もそれが多い。

 一部槍を使っている人がいる所、槍も使えるのかもしれないけど。

 明らかに見習い風の人達も複数の人が槍を使ってるし。


 と、なると少数派の武器の人は自分にあった武器を使う事を決めた特殊な類の人って事になるはず。

 手数の多さと策により自分の身を守るしかない、器用貧乏の私にとっては、しっかりと訓練された自分だけの武器を持っている人達を参考にした方が有意義だ。

 出来れば私と同タイプの才能よりも努力をしている人が良いんだけど、其処までは高望みし過ぎかな?

 騎士になれると言う事は最低限の実力を有しているはずだし。

 コネとかなければ良いなぁとは思うけど。

 騎士ってある側面から見れば国の要だし。

 ずっと戦争をしていない事やこれからもしばらくは無いであろう事を考えちゃうとコネで入っている人がいないとは言い切れない、んだけどね。

 最後の砦はきちんと守って欲しい所である。


 此れもまた私が考えなきゃいけない事じゃない訳だけど。


 ざっと見た所ずば抜けて動きの悪い人はいないけど、此処で訓練している人達で騎士が全員って事はないだろうし、偶々かもしれないしなぁ。

 ただ王子様がいるならこれ幸いと擦り寄る貴族サマがいても可笑しくはないとも思うんだけどねぇ。

 王子自身がそういった事が嫌いとかだといいのになぁ。


 当の王子様は私達そっちのけで訓練に夢中な訳ですけど。


 ん? 発言だけなら乙女っぽいかな、今の?

 発言は恋する乙女っぽいのに内情が殺伐とし過ぎていてときめく事も出来ないけど。

 いや、私の性格のせいか、どう考えても。

  

 自分の残念な思考に突っ込みを入れつつ、私の視線は益になりそうな騎士を観察していく。


「――うーん。流石にあの動きは難しい気がしますわ」

「ああ、体が硬いのかしら? あれならどうにかなるかしら?」

「ダーリエ。あの人は多分考えて動いているんじゃないかな?」

「どの人ですの、お兄様?」


 なんて時折お兄様と同じ人を見ながら、訓練を見学していると、いつの間にか終了の時間になったらしい。

 見学時間が終わるとかじゃないんだなぁ。

 一定の時間で締め出されるかと思ったんだけど。

 あれ? そういえば見学していたお嬢サマ達が消えてない?

 んん? もしかして私達こそ居座りました?


「見学時間が終了という言葉聞きましたか、お兄様?」

「いや、聞いてないはずだけど……身分で気をつかわれたかな?」


 それは……無いと言えない所がなんとも言えません。

 私達自身が然程気にしないとはいえ、一部の人達が全く気にしていないとはいえ、私達が公爵家の人間である事は揺るがない事実である。

 そんな私達が居座ったら声かけにくいよね、って話ですか。

 否定できない所が物悲しい。 


 別に敵を作りたい訳じゃないんだけど、明らかに見学する服装じゃない上、こうやって居座って騎士をガン見している公爵家の人間って……。

 あ、うん、控えめに言っても心象は良くないよね。


「……仕方ありませんわ。諦めましょう」

「諦め早いなぁダーリエは」

「挽回する機会もなさそうですし、仮に他の見学公開日に来たとしても、それはそれで威圧しているようにしか感じられませんわ、きっと」

「……確かに。仕方ないか」


 お兄様も充分諦めが早いと思いますよ?

 まぁ、多少の思惑はあるんだろうけど。

 お兄様が目指すのは文官であっても武官ではありませんしね。


 私なんかもっと関わらないと思うし。

 採取に騎士を引き連れるなんて王子様じゃあるまいししませんから。

 いや『ゲームの王子様』はヒロインの採取に護衛もつけずについていってましたけどね。

 むしろ『王子様』自体が護衛扱いでしたけどね。

 現実でそう簡単にできません、って話です。


「これからどうしましょうか?」

「殿下もいつの間にか消えているしね」

「戻るのは流石にダメですわよね? では応接の間にでも行きます? あぁ、でも案内も無しに歩き回るのも問題ありますわね」

「うーん。――どうやらその心配はなさそうだよ、ダーリエ」


 共に悩んでいたお兄様がある一点を見た後苦笑した。

 私もつられるように其方を見たからお兄様が苦笑した理由も分かったけど。

 私とお兄様は顔を見合わせると、膝を折り、首を垂れる。

 その時、少し周囲がざわついた気がしたけど、気のせいって事にしておく。

 仕方ないでしょーよ。

 今回王城に来た理由である第二王子だけでも問題なのに、なぜか会う事は無いと思っていた第一王子まで居たんだから。


 もう王族はお腹一杯です。

 このまま流れで王様とか王妃様とかに会うって話になりませんように。

 フラグ?

 私は何も聞こえていません。




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