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束の間の休息を王都で(2)




 大分話が脱線したから話を戻すけど、取り敢えず今回は第二王子、というよりも王家主催のパーティーが近々あるという事だった。

 それはつまり私、と言うかラーズシュタイン家が断る事が難しい数少ない場所からの招待だったりする。

 ラーズシュタインは家格は公爵。

 上位から数えた方が早い家柄である。

 理由も無く断る事で問題があるのは同格か王家くらいだったりするのだ。

 いや、家柄的にはって事だから、心情的には理由も無く断れば問題しかないけど。

 ただ領地に居るために無理だと言う言い分が殆ど場合通る。

 事前の招待状だからすぐに領地を出れば問題無いけど、家格が下であり、なおかつ大した関係性も無い家の招待状に対して急ぐ事はあまりよくは思われない。

 上位になればなるほど体面を気にするし、パーティーの招待状に対して慌てて駆けつけるとしたら、忙しなく上品さを損なう。

 それ相応の理由……それこそ親戚やら幼い頃の好など特別な関係があるか派閥の人間の強い要望など、そういった“そこまでしなければいけない理由”が必要となる。

 領地に居る人間に都合も関係無く強制参加を匂わせる招待状を送りつけるのは自身よりも上の家格である存在にしては絶対にいけない。

 そんなモノをプライドで凝り固まった貴族サマが受け取ったら?

 まぁ送り付けた方の家はただじゃすまない事になると想像に難くない。

 呼びつける事に等しい行為をしているって事は舐めているととられるのが、この世界での「貴族としての常識」だったりするのだ。

 

 そこら辺の事情を考えれば同格の家でも予定を伺わず、不意打ちのような招待状はやっぱり失礼にあたる。

 結局、今回のような招待状をラーズシュタインに出せるのは家格が上の王家くらいのモノである。

 あと例外的に力を持った辺境伯とかもあり得るかな?

 

 今回だって王家が取り仕切るパーティーじゃなければ無理に参加する必要はない。

 領地にいるって言う事はそういう事だった。

 

 ただ常に領地にいる場合、情報を得るのが遅くなったり、場合によっては良縁を逃すから家格上位の貴族程【検査】をした後は王都で過ごすモノらしいけどね。


「第二オージサマとやらは物好きなのか?」

「現在数多の噂が流れている例の人間を見たい、ってのが今回のパーティーの本当の目的ならそうかもね?」

「違うってのか?」

「そりゃそうでしょーよ。そうだとしたらどれだけ暇人なのよって話になるからね」

「オージサマってのは暇なイメージあるぜ?」


 それって『向こう』で良く見かけた物語の類のせいじゃないの?

 言いたい事は分からなくもないけどね。

 英雄譚に出てくる王子も恋愛物に出てくる王子も比較的に自由に好きに過ごしているイメージがあるもんね。

 特に英雄譚に関してはバックグラウンドが分からないまま普通に魔王との決戦とかドラゴン討伐とかに出てるしねぇ。

 そりゃ王子様に暇人のイメージがついても仕方ないかもね?


「残念ながら王子様に限らず王家の人間にそんな暇はないと思うよ?」


 一家臣である公爵家の令嬢である私ですら幼い頃から様々な事を教えられていた。

 本格的になったのは家の人間として認められてからとはいえ、貴族の家はいるだけで礼儀作法の修練になるような所だ。

 基本的に家を仕切る奥方様は貴族の令嬢、婦人として最高の教育を受けていた人間なんだから。

 礼儀作法の基礎なんて物心ついた時には教え込まれているようなモノだ。

 付け焼刃では到底かなわない体に染みついた所作はそれだけで教育がしっかりしていた証である。


 王家ともなれば国民全ての見本でなければいけない。

 国王だけじゃなく王妃様もそうだし、そんな王家の教育が甘い訳がない。

 ま、生まれながら持った地位に溺れて堕ちていく王族も居る訳だから、絶対ではないだろうけどね。


 シビアな話をすれば英雄譚のドラゴン討伐とかしている王子様は他に後継者がいるか、継承権が低いか、ぶっちゃけ死んだとしてもリカバリィが効く人間って事になるんじゃないかな?

 偶に王太子とかいるけど、それは文武両道な上権力もある最高の存在として描写の一環って所なんじゃない?

 一種の舞台装置って所だと思うけどね。

 

「――所謂深く考えちゃダメでしょ? って所だって」

「相変わらず発言が元も子もねーな!」

「私だって黒いのが王子サマに憧れや理想を抱いているんだったら言わないけどさ、違うじゃん?」


 それくらいの気は使いますよ?

 その場合もっとオブラートに包んで言うって。


「んなモンに理想持ってるなんて気色わりぃ事いうんじゃねーよ!」

「思ってないって」


 だから言ったんだって、と言えば少しだけ落ち着く黒いの。

 どんだけ嫌だったのさ。

 いやまぁ私もそんな勘違いされたら暴れたくなるけど、ね。


「ともかく、王家の教育は相当厳しいだろうし、今の殿下達に問題があるという噂は流れてこないから、王子サマ達も暇じゃないと思うよ?」


 そう、一応両殿下には問題があるという話は聞こえない。

 ……それは王家に問題がない、という訳では決してないけど。

 

「微妙な顔になってんけど?」

「うーん。……いや、両殿下にそういった噂が無い事は事実なんだよね。だから暇つぶしが主な目的じゃないとは思う。思うんだけどねぇ」


 両殿下の素行云々はともかくとして、その方が厄介な気がしないでもないんだよね。


 第二王子主催とはいえ、基本的には側近か兄殿下が手助けをした上で、王妃様や国王様が少々口出すという形式なんだと思う。

 そうなると私を招待したのは誰か? って言うのが問題になる。

 勿論噂の人物像を確かめる事が目的なら何の問題も無い。

 公爵家の人間である「キースダーリエ」は将来王家にとっても関わりが切れない相手であるが故に真実を見極めようとした、なら筋が通らない訳でもないし、ね。

 問題になるのは私を招待した人間が第二王子以外であり、なおかつ別の目的がある場合だった。

 その中でも私にとって最悪なものの可能性が地味に高い事が問題なんだよねぇ。


「身分的には問題ないんだよねぇ……どっちの王子様が相手だとしても」

「ん?」

「知っていた、黒いの? 公爵家って王家に嫁ぐ事が出来る身分だって」


 相当嫌そうな声をだしていると自覚はあるけど仕方ない。

 実際嫌だし。


 別に王家に嫁ぐためにある程度の家格が必要だと明文化されている訳では無い。

 けれど暗黙の了解というモノは存在していた。

 王家の人間としての教育を受けても潰れないだけの素地を培うためにはある程度の家格の家の教育が必要となるのだ。

 その素地がない人間が王家に嫁ぐとなると、それこそ血のにじむような努力と才覚が必要となる。

 ……それが王族になるという事なのだ。


 考えるだけでうんざりするよね。


「……お前王妃になりてーの?」

「まさか!」


 あまりの即答に黒いのはすっごい微妙な顔になる。

 今更だけど猫って表情出ずらい種族じゃなかったっけ?

 前が人だったせいか、黒いのは分かりやすく表情が変わる。

 有難いと言えば有難いけど、多彩に変化する表情が黒いのをいっそう人臭くしている気がする。


「即答すんな」

「即答したくもなりますよ。王家に嫁ぐなんて面倒事はごめんだって」

「普通王妃って言ったらこの世界のオンナ共が憧れる存在なんじゃねーの?」

「そりゃねぇ。女性がなれる最高位だからね。そうじゃなくても麗しのオウジサマに愛されて国民にも慕われる王妃様に憧れる女性は多いと思うよ? (――正直、この国の王妃様は憧れる存在か? と思わなくもないけどねぇ)」


 王妃様について囁かれる数多の噂を思い浮かべて内心眉を顰める。

 先入観は禁物とはいえ、それにしては微妙な噂が多すぎる。

 とは言え、噂の数じゃ「私」も負けてない所、何かしらの理由で噂が流れたか被害者か、目的があってあえて噂を流している策士系か。

 そこらへんは会ってみないと分からない所ではある。

 会う機会はありそうだしねぇ。

 こういう時公爵令嬢という肩書は時に疎ましく時に便利ではあるな、と思ってしまう。

 それが権力を持つと言う事なのかもしれないけど。


「確かにそーいったモンに固執する性質にはみえねーけど。全く興味もねーのか?」

「ないねぇ。……大体王家ってかなり縛りが多そうだしね。王家に嫁げば自由は望めないと思った方がいいと思うんだよねぇ」

「そーいうもんかね。……ってかよ、婚約者候補の一人として見られてるってのか? ちょっと自意識過剰なんじゃね?」

「いや、可能性として有り得ると思っているだけだからね!? それが確定していると思っても無いし、身分的には有り得ない話じゃないって事なんだけど? 人を自意識過剰の馬鹿みたいに思うのやめてくれない!?」

「さっきの俺みてーになってんぞ?」

「……アンタ、私で遊んだわね?」


 黒いのが浮かべたイジワルそうな顔に私は揶揄われた事に気づく。

 さっきの仕返しとはやるじゃないの。

 引っかかった私が抜けているのかもしれないけどさ。


「とは言え、実際の所、可能性としては有り得るのか?」

「現在王家に嫁ぐ事の出来る家格と釣り合う年齢の令嬢はあまり多くないからね。他にも候補者が大勢いるなら、噂で実体が掴めない人間なんてほっといてもいいかもしれないけど、そうもいかないって所なんじゃないかな?」

「公爵家のレイジョーサマだしな、お前」

「そういう事」


 公爵家って言うのは無視していい身分じゃない。

 更にお父様は宰相だし、下手すれば最有力候補って奴になりかねない。

 私が現在、そして未来でも背負う肩書はその地位を望む存在とっては強力なモノなのである。


 私は別にそんな地位望んでないけど。

 

 王家や貴族が私をどう考えているか?

 噂は多種多様。

 本人は高位貴族の癖に王都に出てこない。

 正体不明の珍獣扱いされても仕方ないのである。


 多分お父様は流れているうちの最低限の噂の払拭しかしていないはず。

 お兄様は結構頑張って下さったようだけど、結果として色々な噂が混ざり込む事になったらしい。

 まぁ既存の噂と真逆ともいえる噂が流れれば混ざってオカシナ事にもなるよねぇ。

 本人が殆どの人間の目に触れていない以上噂が妙な方向に捻じ曲がるは必然だし、

 お父様はそれが分かっているから積極的に噂を払拭しようと動かなかったのか……別の意図があるのか。

 可能性としては有り得るけど、流石に微妙な線かな?


「(お父様自身は私が王家に嫁ぐ事を良くも悪くも思ってないみたいだし)」


 自身が公爵家の当主である事や宰相である事とは別にお父様はこれ以上権威を持つ事に興味がない。

 だからこそ野心持つ貴族に異端視されているし、腑抜けと思われてもいる。

 ある意味変わり者と言えるかもしれないけど、お父様の本質は【錬金術師】……研究者なのだから、何もおかしくはないと思うのだけれどね。

 そこらへんはお兄様に言わせると「同類しか分からない」らしい。

 ……つまり私が同類って事になるんだけど、褒められている気がしませんでした。

 積極的に否定もできないけど。


「ぶっちゃけ珍獣みたさの方が対応は楽。正直王子様達にも会わないでもいいなら会いたくないし」

「お前な。ぶっちゃけ過ぎ。イケメンに憧れるオンナノコじゃねぇのかよ……ん? イケメン?」


 黒いのは自分で言った事に何か引っかかったのか、少しばかり悩んだ後、私の会いたくない理由に思い当たったのか「成程」と勝手に納得してしまった。

 多分間違ってないだろうけど。


「そういや此処は『ゲーム』に類似した世界だったな。つまりオージサマ等も『攻略キャラ』って奴だって事か」

「……正解。ただし第二王子の方は、だけど」


 いや第一王子も出てきていたのかな?

 名前はあったはず。

 と言うよりも攻略キャラが第二王子表記だったし、上には絶対いたはずだ。

 そーなると第一王子も攻略キャラの可能性が高い、とは思うんだけど。

 正直、居たかなぁ程度の認識しかない。


「と言うか、どっちの容姿も思い出せないんだけどね」

「それはそれでどーよ。ってか何のために『乙女ゲー』だったか? んなゲームやったんだよ」

「え? サブのミニゲームのためですけど?」


 脇道の錬金術要素が面白過ぎて本筋の恋愛要素はおざなりでした。

 御蔭で攻略キャラもステータス的なモノは結構覚えているけど、細かい時代背景とか容姿とか性格とか、そういったモノはうろ覚えだったりする。

 お兄様も『攻略キャラ』だと分かったのは宰相の息子って言う背景を偶々覚えていたからだし。


「ゲームの意味ェ」

「そうなると分かって私にゲーム勧めた『悪友』が悪い」


 まぁ当の本人も純粋に乙女ゲーとして楽しんでいた訳じゃないけど。

 だってアイツゲームに出てきたあまーい台詞に爆笑しながらやってたし。

 完全にネタ扱いだったよねぇ、アレ。

 自分で再現する癖に途中で噴き出して、最後まで台詞言い切った事もなかったしね。


「……どっちもどっち、だな。完全に類友だったみてぇだな」

「まぁね。否定はしないよ」


 癖が強いからこそつるむ事が出来た『親友』や『悪友達』

 だってあの場所にいる時だけは個性が強い事が「普通」だったんだから。

 アイツ等と類友だったのは『わたし』にとって誇るべき事、なんだからね。

 今の私がどんな表情だったのかを知る事は出来ないけど、黒いのは特に顔を顰める事も無く、ただ少しだけ目を眇めて話を変えた。

 懐かしさを感じつつ、少しずつアイツ等が思い出になっている事は良い事なのか違うのか。

 ……これもある意味でこの世界の人間になっていっているって事なのかもしれないけど、ね。


「『攻略キャラ』だから会いたくないって事か」

「あーそれも無くはない、と言えなくもない」

「どっちだよ」


 この世界が『ゲーム』と同じ時が流れるのならヒロインも攻略キャラも常に騒動の真ん中にいる事になる。

 好を結べば平穏は訪れないだろう。

 悪いけどメンドクサイとしか思えないから関わりたくない気持ちが強い。


 同じ『攻略キャラ』にあたるお兄様には騒動が起こる事は言ってある。

 無数ある予言の一つという位置付け程度の意味合いで伝えた。

 知っていれば避ける事が出来る可能性が上がる。

 実際問題私は『ゲーム』の知識にその程度の価値しか認めていないのだ。

 

 『ゲーム』に置いて攻略キャラ達はそれぞれに重たい過去を持ち、ヒロインに救われていく。

 そのために強い絆を紡ぎ最終的には恋愛に発展していく、という失礼ながらありふれた流れだったはずだ。

 つまり同じ時と言う事は今のこの時点で攻略キャラに当たる人間達は苦痛を暗い過去を背負わされているという事になる。

 

「(けれど、それが一体なんだと言うの?)」


 顔も知らない、会った事も無い。

 友人になるかも分からない人間のために私が手を貸す必要性は全くない。


 私はお兄様が不幸になる事を望まない。

 だからこれからお兄様に降りかかるかもしれない不幸は薙ぎ払って見せる。

 けれどそれはお兄様が『攻略キャラ』だからじゃない。

 お兄様が私のお兄様だからだ。

 私の愛しい人の一人だから私はお兄様の不幸を薙ぎ払おうとしている。

 

 一方的に知識として知っているかもしれない存在に手を差し伸べるなんて無駄な事何故私がしなければいけないのか。

 そんなモノ、やりたい人間がやれば良い。


 私には全く関係のない話なのだから。


「そーいう意味では『攻略キャラ』だから会いたくはないって訳でもないんだけどねぇ」

「ま、聖女サマでもあるまいし、全部救ってみせる、なんてバカバカしいはな」

「聖人も聖女も物語の中にしかいないと思うけどね(まぁフェルシュルグは聖人としての素質がありそうな感じはしたけど、ね)」


 少なくとも目の前の不幸を悲しむ心優しさは持っていたし、同郷の人間に対しての情を抱くだけの甘さも持っていたんだから。

 ただ知りもしない『攻略キャラ』の不幸まで嘆くような人間じゃなくて良かったけど。

 流石にその手のタイプと付き合っていくのは面倒だからねぇ。

 黒いのがそんな性格だったら今みたいな気安いやり取りをする関係になれたどうかも怪しい、ってのは現状有り得ない「IF」って所かな?


「生きている人間を『攻略キャラ』という型にはめ込まなきゃいけない理由は無いしね」

「だろーな。……けど会いたくねぇのか?」

「厄介事ではあると思うけど? どっちにしろ」

「……否定はできねぇか」


 王族である王子様、しかも次期国王。

 しかも騒動の中心に置かれる可能性の高い『攻略キャラ』の一人。

 それが今回の主催者である第二王子様である。


「あー。確かに俺でも会いたくねぇわ。盛りだくさんすぎて」

「そーいう事。この場合『ゲーム』で知っている性格とか一切関係無く、面倒事そうって理由で会いたくはないって訳」

「『ゲーム知識』意味ねぇ」

「現実なんてそんなモンなんじゃない?」


 この世界において『ゲームで得る事が出来る知識』の位置づけを私が知る術は無い。

 もしかしたら修正力が働いて『ゲーム』と同じ状況になるのかもしれない。

 もしかしたら似ているだけで全く違う世界なのかもしれない。

 今後どうなるかなんて一切分からない。

 数多ある未来の可能性の一つでしかないのだろうとは思うけどそんな曖昧なモノでしかない。

 的中率は予言なんかよりも高いかもしれないけれど。


 私は確かに『ゲーム』の知識に疎い。

 本筋よりも脇道に尽力を注いでいたのだから仕方無い。

 攻略キャラとされているお兄様ですら背景を聞いて初めて思い出したぐらいなのだから。

 それでもこの世界が『ゲーム』に類似している事くらいは分かっている。

 時間軸的にも『ゲーム』の時間軸と一致しているであろう事も何となく気づいてる。

 このまま過ごせば私は騒ぎの渦中である学園で同じ時を過ごさないといけない、その覚悟はしている。

 

 けどそれだけだ。

 

 『ゲーム』の中で起こった大きな事件や騒動は起こる可能性が高いだろう。

 あれはキャラと呼ばれる存在が居る事で起こった事件も数多くあるから。

 そして『ゲーム』と類似した世界ならば起きる事も充分に在りうる騒動ばかりだっらから。

 

 けれど人の性格までは操作する事は出来ない。

 些細な出来事でその人の進む道筋なんて簡単に変わる。

 選択肢一つ違えるだけで広がっていく道は全く違うモノになるはずだ。

 その全てを操作する事なんて“神”にだって出来るはずがない。

 

 だから私は『ゲーム』の知識の価値なんてその程度しか認めていないし、一部有効的に使ってやる程度しか思っていない。

 仮初『ゲーム』通りの展開を望み、私に知識を与えた存在がいたとしても、他はともかくお兄様の事に関しては「知識を有難う御座います。上手く使いますのでご苦労様です」と「ただアナタの思う通りには行きませんけどね?」鼻で笑ってやる程度の事はするだろう。

 まぁ『ゲーム』の通りにしようとする修正力が本当に存在する場合の話だけど。

 それになにより『ゲーム』の通りならば?

 

「……――『ゲーム』の通りに時が進むなら“私”なんて生きていない可能性があるからなぁ」

「テメェはなにがなんでも生き残りそうだけどな」

「それでお兄様が苦しむ事がないのであればどんな方法を使っても生き残りますけど?」

「けっ。ブラコンが」

「誉め言葉ですけど?」


 家族大好きで何が悪いのさ。

 キースダーリエの家族の暖かさは貴族らしくないかもしれないけど、私は大好きなんだぞ?

 むしろ胸を張って家族大好きですと言いまわりたいレベルです。


「……全くどうじねぇよな、お前」

「動じる理由がないからね」


 ブラコン上等、マザコン、ファザコンも同様!

 後リアや屋敷の皆も大好きだから。

 ……まぁ黒いのも嫌いじゃないけどね?


「『ゲーム』の知識も形無しだな。……一応聞いておくけどよ、『ゲームでの第二オージサマ』ってのはどんな性格だったんだ?」

「その程度の価値でいいんじゃない? ココで生きているのは私達なんだし――『第二王子』の性格? あー確か俺様、だった気がする?」


 メインヒーローである時期国王である第二王子様。

 確か典型的な俺様だった気がする。

 騎士科の主席だったはずだから優秀ではあったはず。

 うん、意外と器用に魔法も使ってたから優秀な前衛だったなぁ。

 メインだったからか比較的初期からパーティーに入ってくれたし。

 ただ回復系は使えなかったはず……ん? 使えないんじゃなくて使わなかったのかな?

 どっちだったっけ?


「回復役は他のキャラを入れるか、錬金術で錬成した物を使ってたからなぁ。回復役として見た事がないんだけど、確か回復系は使えなかった気がする」

「それ性格じゃねぇし」

「えー。そう言われても確か少女漫画で云う典型的な俺様だった気がするけど……」

「うげぇ。余計近づきたくねぇ」

「いや、この世界の第二王子がそうとは限らないけど? 後まだ子供だし」


 今の時期から俺様だったら私も近づきたくはないんだけど。

 ……有り得ない話じゃないってのは黒いのには言わないでおこう。


「(環境的には有り得るんだよねぇ。王妃様の噂が何処まで真実かで性格がどうかは分かるはず)」


 噂が真実に近しい程第二王子の性格は『ゲーム』に近くなるはず。

 噂の真否を探る術がない以上結論は出ないんだけど、ね。


「まぁ結局会ってみないと分からないって事になるんだよねぇ」


 メンドクサイ事に、ね。


 私は隠さずため息を吐くと紅茶に口を付けるのだった。




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