初めまして【相棒】・そしてお兄様との事(2)
【錬金術】の【才能】が有り【魔法】も使えるだろうと言う事になって私も【工房】を持つ事になった。
離れみたいな所で近くにはお兄様の【魔法工房】も存在している。
お父様やお母様の【工房】は見つからないけど、その内何処にあるかぐらいは聞きたいなと思った。
……今の私にはお兄様の【工房】には入る事は出来ないのでしょうけど。
未だ恐れて何も聞けない自分の弱さに出そうなため息を殺して私に与えられるであろう【工房】を見上げる。
本当に此処に最初から存在していたようなしっかりとした造りに今度は別の意味でため息がでそうになったんだけどね。
――五歳になったばかりの子供に気軽に【工房】付きの離れを建設しちゃうって所中々親ばかなんだなぁと思うんだよね。
此処に連れてきてくれたのはお父様だった。
お父様に手を引かれて広い庭を歩き連れてこられたのが此処だったから、私は最初お父様がお作りになった魔道具を見せてもらうのかと思ってた。
まさか其処が私専用の【工房】兼離れになるなんて思いもよらなかった。
いや、判れって方が無理だと思うんだよね。
私が幾らこの世界で言う平民の価値観を持っているとはいえ――生活基準で言ったら『地球』の生活は此方の貴族に匹敵すると思うけどね。――【工房】として離れを建てくれるとは思わないでしょ?
だって五歳になって直ぐに私を連れてこられるように完成しているって事は少なくとも私の五歳の誕生日よりも大分前から施工しないといけない。
特に大きな病気を患っている訳ではないから五歳の誕生日は恙なく過ごす事が出来るとは思うけど、こう言った【工房】が必要となる程の魔力を持っているかどうかは作った時点では分からない。
お父様達が貴族の選民思想に染まりきっているならばこう言った事をしても可怪しくないかもしれない。
そう言った思想の人間は子供が魔力を低く持って生まれるという考え自体が存在しない。
だからそんな家に生まれた子供がその後どんな人生を歩む事となったか。
幾ら都市伝説的な噂で誤魔化されていたとしても悲しき事に実在したのだろうと言う事を少なくとも私には分かってしまう。
更に言えば、実在した出来事としては多分噂よりも悲惨だったであろう事も。
これに関しては『向こう』の感覚では無くても嫌悪せざるを得ない出来事だ。
反面教師として使わせて存分に利用させてもらうけどね。
勿論お父様もお母様もそう言った選民思想には染まっていない。
希望が混じるけど私が【錬金術】どころか【魔法】を使う【才能】すら無かったとしても娘として愛してくれたんじゃないかと思う。
隠されて育てられるかもしれない。
だとしても愛情は注がれていたのではないかと思う……思いたい。
その場合この離れは【魔法】も使えない私にとって見たくも無い象徴の場所となってしまう。
その前にお父様はこの離れを無かった事にするんじゃないかと思う。
一部の人の記憶にしかない私の【工房】として。
……もしかしたら『工房』として面影は全く無くして私を隔離するための場所になっていた可能性もあるけれど。
ただ『わたくし』の記憶の中のお父様とお母様は【魔力】の高さに然程傾倒しているようではなかった。
それが持つモノの余裕なのか、私の魔力が低いはずはない、という自信なのかは分からないけど。
少なくとも使用人の中にいる魔力の低い人間を蔑む事は無かったのは確か。
実の娘に対して「恥」だと罵るような人達ではない。
全てに於いて「IF」でしかない、むしろ【錬金術】の【才能】があると分かった今、全ては想像……むしろ妄想の代物でしかないけれど。
結局何を言いたいかと言うと、離れを前に淑女らしからぬ風情で立ち尽くした私は悪くないって事を言いたいんだけどね!
お父様は私がこうなる事を予想していたはず。
だって此処に至るまでの道中で私の質問を悉く躱していたんだから。
それに私の態度も笑って見ていただけですしね。
驚いていた私を余所にお父様は扉のノブの上に当たる場所に手を翳した。
するとお父様が手を翳した部分が光った気がした。
「こう言った【工房】はね、所有者と所有者の許可した人間以外は入れないようにするんだ。物理的に鍵を掛けるだけでは魔術師や錬金術師に解除されてしまうだろう? だから魔道具を使って魔力を登録して、その魔力の持ち主以外は誰も入れないようにするんだ」
取り敢えず入るために僕が登録したけど、魔力操作を覚えた後はダーリエが登録し直すんだよ? とお父様に言われて頷くしか無い私。
――『地球』の金庫真っ青のセキュリティ? 魔法って本気で凄いな。
どういう仕組みで建物に結界? を張っているかも気になるし、どんな魔道具を使っているかも気になる所だけど今の時点じゃ悲しきかな聞いても分からない状態である。
ただ分かるのは【錬金術】がこの国に生活レベルで浸透しているって事だった。
そうして中に入った私の目に最初に入ったのはリビングだった……うん、何処をどう見ても普通の家のリビングだった。
――えー。普通は此処で工房らしい造りに感動する事じゃないの?
一歩足を踏み入れてキョロキョロする私。
部屋数はこのリビングを除くと三室ぐらいだと思う。
ドアが三つあるし、忍者屋敷じゃないんだから隠し扉もないはず。
って事はこの部屋の何処かが工房って事になる、と思う。
――何と言うか、此処で生活出来る仕様なのかな?
三室の内の一室にベッドとか完備されていれば完璧だと思う。
食料の問題を解決すれば何日でも此処にいる事は出来る……ってか住める仕様になってる気がする。
――そう言えばゲームだと創り出すための必要日数とか言う設定があったっけ。
つまり工房にこもりきりになる必要があるって事か。
そのために色々完備されているんだ。
それって学園の錬金科って魔窟にならないのかな?
……今は考えないでおこう。
取り敢えず私は【工房】を見てみる事にした。
どうせ何も入って無い部屋だろうけど、多分窓とか存在していないか、窓が存在しても外から入れないよう魔道具や魔法で施錠されてる部屋なんだと思うけど。
右から開けていった結果一番左のドアの向こうが【工房】でした。
うん、真ん中かなと思ったけど、違った。
もしかしてこれ、フェイクじゃないよね?
だとしたらどんだけ【工房】って言うモノが厳重に守られているのかって話になるんだけど。
何時か誰かに嫁ぐ娘にこんな立派な建物用意して本当にいいのかな?
その内結界の登録解除の方法とか調べておかないと。
【工房】はまだ道具も少なくて、何と言うか、とても駆け出し【錬金術師】って感じがする部屋だった。
多少なりとも道具がある事こそ驚きと言えば驚きなんだけどね。
「【錬金】の基礎に必要な【大鍋】と【乳鉢】【濾過器】【蒸留器】は新品を用意したよ。これから【錬金術】を覚えていく内に自作したり、ギルドで買ったりする事になるけど、取り敢えず初心者にはこれで十分だからね」
私はお父様に背を軽く押されて恐る恐る【大鍋】に近づく。
これが私の【錬金術】の第一歩。
私の最初の相棒達。
【大鍋】と混ぜるための【混ぜ棒】に埋め込まれた無色透明の石に触れる。
すると水晶玉に触れたように体から何かが抜けていく感覚を受けた。
同時に石が濃紺色に染まる。
「……どうやらダーリエは感覚で【魔力】の操作方法を分かっているようだね。【魔力操作】の方法も学ばず魔道具の登録をしてしまうなんて」
「体から何かが移動する感覚に襲われました。これが【魔力】なのですね?」
「そうだね。きっとダーリエの言う感覚こそが【魔力】が動いた感覚だと思う」
あの暖かい何かが【魔力】
成程【魔力】を操作するって事はあれを自分の意志で体内で動かさなければいけないって事かな?
そこら辺は先生の下できちんと習った方がいいと思う。
基礎から自己流は後々行き詰まるだろうから。
私は天才じゃないから自己流じゃなく基礎をきちんと学びたい。
基礎を積み、その上で応用に生かす。
そう言った堅実な方法をとらないと絶対途中で行き詰まるから。
自己流は格好良いんじゃなくて無駄な労力を使う無駄な行為だと思う。
そりゃ自己流で学ぶしかない人にはこんな事言えない。
けれど学ぶ機会があるのに、それをはね除けて自己流が格好良いと暴走する輩は軽蔑に値する。
学ぶ機会を自ら放棄したアホって事だし。
そんなアホに私はなりたくない。
私は【混ぜ棒】をきゅっと抱きしめる。
――これから宜しくね、私の【相棒】
最初の挨拶を交わすと【混ぜ棒】をしまいお父様と共にリビングの椅子に座る。
それなりの大きさで数人で……家族ぐらいの人数は一緒にご飯を食べる事が出来る程度の大きさがある。
此処で家族で食事をする日は来るんだろうか?
一瞬ある人の姿が脳裏をよぎったけど、今は敢えて考えない事にした。
椅子に座り改めて部屋の中を見回すと思ったよりも広い事に気づかされた。
今更だけど外観と部屋の中の広さが一致していない気がする。
けど学園の個室兼【工房】も中は広かったし……意外と空間を広げる魔法とかがあるのかもしれない。
現時点じゃ何処から調べていいかも分からないから頭の片隅に置いておく事しか出来ないけど。
空間を広げる魔法はあらゆる方向に有効だし出来れば使えるようになるか魔道具を作れるようになりたい。
どう考えても【上級スキル】が必要そうだけどね。
「ダーリエ。入り口の魔道具は何人でも登録する事が出来る。其処に登録された人は所有者が居なくても入る事が出来るんだ。【工房】に関してはそれこそ所有者以外は入れない仕様になっているけどね。そこの入り口の登録も後で済ませておこう」
お父様の言葉に私は【工房】の入り口に目を向ける。
其処にはやはり無色透明の石が埋め込まれている。
あれが登録するための魔道具なんだろうと思う。
「取り敢えず【工房】の登録はダーリエ一人。所有者が許可をしたと言う形の鍵を使えば他の人も入る事は出来る。ダーリエが認めない人間は触れる事も出来ない仕様になっているから落としても平気だよ。出来れば落とさないで欲しいけどね」
「気をつけますわ」
「そうしてね。……離れの入り口の登録に関しては所有者をダーリエに変えるとして他に誰を登録して置く?」
「まずはリア……クロリアですわね。彼女はワタクシの専属ですし」
「だと思ったよ。あの子はお前が見つけた子だしね。あの子ならお前を裏切る事はないだろうからいいと思うよ。他は?」
「勿論お父様とお母様も登録する事に問題ありません」
「僕は【錬金術師】で彼女は【魔術師】だけど?」
何処か試すように言うお父様に私は内心「意地悪」と呟きにっこり微笑む。
「ワタクシがお父様達を信じないとでも?」
「其処で、じゃあ辞めますって言われたらショックだったから嬉しい限りだね。それにそんな事をラーヤに言ったら泣きくずれてしまうだろうね」
ついでにその切欠のお父様を責めますね、きっと。
お母様は【魔術師】として高位の方だと思う。
そしてお父様も【錬金術師】として高位の人間のはず。
そんな二人の喧嘩はあまり見たくはありませんし、何となくじゃれ合いレベルで周囲が怪我をしそうです。
……正確なレベルなどを聞いていないのであくまで推測なんだけどね。
「僕とラーヤとクロリアだね……アールはどうするんだい?」
「お兄様には……」
先程登録して欲しいと言う中にお兄様の事を上げる事が出来なかった。
勿論お兄様を私は信頼しているし登録して欲しいと思う。
けど……【魔力属性検査】の再検査の日のお兄様を思い出すと、どうしても躊躇してしまう。
あの時のお兄様は私に【錬金術】の【才能】がある事を喜んで下さっていなかったように見えた。
お兄様の目に浮かんでいた悲しみ、苦しみ、寂しさ。
憎しみが見えなかった事だけが私にとって唯一の幸いだった。
それに、お兄様の【工房】は【魔法工房】だと言う事も少し引っかかっている。
私のように【錬金工房】では無く【魔法工房】を頂いたお兄様。
それが指し示す事はただ一つです。
もし私だけに【錬金術】の才能があったのだとしたら?
お兄様だってラーズシュタインの人間としてその【才能】を欲していたら?
……その事で私に憎しみを抱いてしまったとしたら?
今はまだお兄様は私に対して「憎しみ」の感情は抱いていないはず。
けれど様々な感情が渦巻き目に出る程悩んでいらっしゃる事は間違い無い。
原因は確かに私だと言う事も分かってる。
ならその原因たる私に何を言えばいいんだろう?
……そんな綺麗で優しい感情だけでお兄様の事を思えれば良かったのに。
――本当は違う。そんな綺麗な感情だけじゃない。私はただ怖いんだ。何かをお兄様に言ってお兄様に嫌われてしまう事が。
私は基本的に線引きが激しく――『地球』の頃の親友曰くしっかりしすぎる程にしっかり引くタイプらしく――線を越えていない外側の人間に対しては全く心が動かない薄情な人間ですらある。
その分というか極端と言えばいいのか、此方側に入れた人間を失う事に過剰に反応してしまう所がある。
嫌われる事も怖いし、その結果としてその存在を失う事に震える程の恐怖を感じ、そうならないためにとても臆病になってしまう。
『向こう』では親友が激怒してくれたお陰で大分その恐怖と折り合いを付ける事が出来るようになったけど、それまでかなり酷かったと今の私なら分かる程だった。
親友は私に怒鳴りながら泣いていた。
『そう簡単に離れると思ってたの?! 見くびらないでよ! アンタがどんだけ嫌がっても離れてやらないんだからね!』と心から叫ぶように怒鳴った親友の言葉。
それを悪友達は止めようともしないで、むしろ親友の言葉に一々同意していた。
それからしばらく本気で『わたし』を物理的に一人にしなかったのはやり過ぎだと思う。
……けど、その心自体はとても嬉しかったのを覚えている。
そんな親友や悪友達のお陰で折り合いを付ける事が出来るようになったはずだった。
沸く恐怖を消す事は出来ないけど、それだけが全てではないと思えるようになった事は私にとって大分前進したって事だったはずだった。
そこら辺は親友達も認めてくれてたし……まぁ呆れ半分だったのは否定できないけど。
だと言うのにこうして私は再び、強い恐怖を抱いて臆病になっている。
嫌われ失う恐怖から一歩も進めない『あの時』と同じ状況に私は今陥っていた。
お兄様に嫌われたくない。
何かを言って傷つけたくない。
私を嫌わないで。
私の存在に傷つかないで。
どちらの気持ちも私にとっては無くす事の出来ない気持ちだから、私は身動きがとれない状態に陥ってしまった。
――もしかして、お父様。そんな私の状態に気づいて一人で私を此処に連れてきたのかな?
いつの間にか落としていた視線をお父様に向ける。
お父様は苦笑の中に寂しさみたいなモノを感じているように見えた。
……そうですね。
お父様は人の心に聡い方です。
私の拙い隠し方ではあっさり見破ってしまう。
それでも相談という形を取る事は無かった私はお父様も傷つけていたのかもしれません。
どうやら大分煮詰まっていたようです。
心の内は晒すのは怖いけどお父様なら大丈夫なのかもしれない。
こうして私が何かに悩んでいる事も悩んでいる内容も分かって、それではき出せる場所を提供してくれたんだから。
私は小さく覚悟を決めるとお父様にお兄様との事をお話しました。
再検査の日、部屋に行くまでにお兄様が自らの不甲斐なさを嘆いていた事。
【錬金術】の【才能】があった事を共に喜んで欲しくて振り返った時にお兄様が浮かべていた悲しみや苦しみや寂しさの感情を宿した眼差しの事。
もしかしたらお兄様は私の存在を重荷に感じてしまうかもしれないという予測。
【錬金術】の【才能】はとても嬉しいのに【才能】がお兄様を苦しめる原因だったらどうしようという恐怖。
……お兄様に嫌われてしまう事に強い恐怖を感じて何も言えなくなってしまった事。
ゆっくりと、心の中を吐露していく私。
『地球』での事は言えないけど、話していく内に少しだけ心の中を整理出来たような気がした。
ほぼ全てを話してしまった事に『大丈夫かな?』という不安もあるけど、お父様はとても優しい目をなさっているから大丈夫なのだと分かって、私は少しだけ泣きそうになりました。
「成程……ダーリエは優しい子だね」
「そんな事……本当に優しければお兄様に何か出来ていましたわ。本当に何も思いつかないのです。お兄様に何かお言葉をかける事すら出来ないのですから」
「けどアールが悩んでいる事には気づいていた。それはダーリエがアールの事を心配して良く見ているからじゃないかな? その人の事を心から思っているから少しの違和感にも気づく事が出来るんだよ」
「……お兄様だから、ですわ。お兄様を傷つけたくはないのです」
――そしてお兄様に嫌われたくはない。
最後の所は心の中に留めたけどお父様にはバレバレだったようです。
お父様は優しく私の頭を撫でてくれました。
その撫で方がお兄様にそっくりで、やっぱり親子なのだなと思います。
……お兄様がお父様にそっくりなんだけどね、本当は。
「大丈夫だよ、ダーリエ」
お父様の優しい声。
表情も声と同じく優しく微笑んでいます。
「アールも賢い子だからね。考えすぎで深みに嵌まってしまっているんだ。本当はもっと簡単な事なのだけれどね。その事が一時的に見えなくなって、考えなくても良い事まで考えてしまっているだろうね。……物事というのは確かに色々なモノが絡み合い複雑になっている。けれど案外根本は簡単に分かったり、簡単に解決出来たり。拍子抜けする程簡単な解決法で済む事だって少なくないんだ。それを気づかず難しくしてしまうのは頭の良い人間の悪い癖なんだと思うよ」
「……お兄様もお父様にだけは言われたくはないと思いますわ」
私の知る中でお父様程賢く聡明な方は知らない。
お兄様はそんなお父様に似ているから、何時か肩を並べる事が出来るかもしれない。
けど其処は私には到底たどり着けない極地のように感じる。
「お兄様はワタクシを嫌いになったりしないでしょうか?」
「大丈夫だよ。確かに今アールは悩んでいる。その原因の一つにダーリエの事があるかも知れない。けれどね、それは決してダーリエを傷つけたいと思っている訳でもなく、ダーリエを嫌いになったからでもない。あの調子じゃむしろ自分を嫌いになっていそうだ」
「お兄様は素晴らしい方ですわ! ご自身をお嫌いになる理由なんてありませんのに」
「うん。そうだね。僕もラーヤもアールが自身を嫌う必要なんか無いと思っているよ……どうもアール自身はそこら辺が見えなくなっているんだろうね」
そういえばお兄様は自分の事を不甲斐ないと言っていた。
あの時お兄様はもっと自分に出来る事はあったのだと思っているのだろうか?
――だとしたらお兄様は一種の完璧主義なのかも。
年の事を考えればああやって自分の出来る事と出来ない事を取捨選択し周囲に助けを求めようとした判断すら素晴らしいと褒められてもいい事だったのに。
私だけに高い【錬金術】の【才能】があるかもしれない。
その状態で私を憎むのではなく自分を嫌う事もあり得るんだろうか?
「ダーリエも考えすぎな所があるようだね。……ダーリエ。アールの事は好きかい?」
「はい!」
淑女としては少々はしたないかもしれない。
けどお兄様への素直な気持ちだった。
お父様はこの場だからか見逃してくれた。
むしろ少しだけ嬉しそうだったような気がする。
「そんな素直な気持ちをアールに伝えて御覧。そうすればダーリエの恐れも杞憂だと分かるし、アールも見えなくなっているモノが見えるようになるだろうから」
「い、いいのでしょうか。ワタクシの言葉にお兄様は傷ついたりしませんか? ワタクシを嫌い疎んだりしませんか?」
「うん。大丈夫だよ。アールは素直な気持ちをひねくれて解釈したりしないし、ダーリエを傷つける事はしないから」
「そう、ですか」
まだ怖いと叫ぶ心があります。
嫌われたくはないと心が叫んでいます。
けどお父様の言葉を信じたいという心もあります。
『わたくし』越しに知ったお兄様の優しさも大丈夫だと言っている気がします。
臆病な私をそう言った気持ちがそっと後押ししてくれます。
……けれど、後一歩を踏み出す勇気が私には足りない。
本当に私はとんだ臆病者です。
そんな私の葛藤に気づいたお父様は「直ぐに行動する事はないよ。悩んで考えて、そしてアールと話をしたいと思ったらすればいいのだから」と言ってくれた。
「ただこれだけは覚えていて欲しいんだ。アールは決してダーリエを嫌ったりはしない、とね」
「……はい」
私は小さく、だけどしっかりを頷くのでした。
この日私は自分だけの離れと【錬金工房】を貰いました。
そしてお父様に心情を吐露しお兄様との事を深く考える事が出来ました。
今はまだお兄様に心をお話する勇気はもてませんが、近いうちにお兄様とお話したいです。
前のようにたわいない話をして笑い合いたいのです。
――お兄様、もう少しだけお待ち下さいますか? 臆病な私が一歩踏み出してお兄様と向き合うため、もう少しだけ。
まだまだお兄様の妹と胸を張って言えない私の臆病さに呆れ、そしてもう少しだけ時間を頂ければと思います。
私は心の中でお兄様への謝罪を呟いた。