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課題と向き合い、心と向き合う




 錬金術は武器の【錬成】も可能とする。

 じゃあ【鍛冶師】はいないのか? ってなると実は居るんだよね、というある意味矛盾した答えになったりするんだけどね。


 錬金術師が武器を錬成する事が出来るのは嘘でも何でもない。

 創造錬金術は一応どんな武器も創り出す事が出来る。


 けれど、それはあくまで平均的な武器の場合だったりする。

 誰もが使える一般的で初心者用のものか大量使用を必要とする小ぶりのナイフなど、そういった代物を作り出す事は出来る。

 多分時間的にも錬金術の方が早いと思う。


 けれど鍛冶師が造り出す武器は基本的に一点物。

 複数の、あるいは一人の鍛冶師によって作り出される武器は、切れ味も鋭く、そして武器特有の特殊効果も付加されている。

 錬金術で幾ら付加しようと思っても出来ない付加能力を宿した武器を創り出す事は鍛冶師にしか出来ないのだ。


 勿論鍛冶師だってレベルがある訳だし、駆け出し、見習いならナイフの一本創り出すのだって大変だと思う。

 それでも中級レベルくらいの錬金術師が作り出すナイフよりも切れ味が上がる事もままあるんだから、世の中ってうまく行ってるよねぇ、とか思ってしまう。

 

 ちなみに【鍛冶】もスキルの一つだったりする。

 ただ【錬金術】と違うのは後天的に得る事が出来るスキルって事だ。

 つまり努力で身に着ける事で【鍛冶師】となるための【鍛冶】と言うスキルを得る事が出来る……らしい。

 まぁ正直、そこに至るまでの血のにじむような努力を積み重ねる気概が普通の人にあるのか? って話なんだよね。

 途中で諦める人、他に流れる人、そんな数多の人の中、頑固ともいえる強い気持ちで自らを鍛えぬいた人だけがスキルを得る事が出来る。

 そんな事が出来る人がどれだけいるのか私には想像もつかない。


 でも、多分私に錬金術の才が無い状態で錬金術が後天的に取得可能なスキルだったら?

 何をしても習得するために動いたと思う。


 ただ私みたいなタイプは少数だと思うから、実際そうやって習得した人がいるかどうかは分からない。

 けど逆に言えば私だけじゃないから何処かには居るんじゃないかなぁとも思ってる。


「(生きてる内に会えるとは思えないけどねぇ)」


 公言する事でも無いし、多分後天的に習得するだけの努力を重ねる事が出来る人は周囲に言いふらす事もしないタイプだと思うし。

 偶々懇意になった鍛冶師が「後天的にスキルを得た」なんて教えてくれない限り知る事は無い。

 けどそれってどんな確率よ? って話だよね。

 

 だから結局後天的にスキルを得た人間がいるかは分からないし、今後も私が知る事は無い。

 それでいいと思うし、言ってしまえばどうでも良い事ではある。

 私がこれから生きる中で得る知識の一つとして調べたにすぎないのだ。


 普通は鍛冶師の創った武器を入手し使用する。

 他の入手方法はまぁ色々あるけど、それが一番安全で確実だ。


 じゃあ錬金術で武器を錬成する事に意味は無いのか?


 実はそうとも言い切れない。

 確かに一点物にはそれだけが持つ良い処が沢山ある。

 けれど量産物にも量産物の良い処があるのだ。


 その一つに初心者が持つ修練用の武器を作り出す事がある。

 錬成された武器は創り出した錬金術師に限り、専用性の要素を持つ。

 ここら辺は解明されていないけど、錬金術師本人の魔力、という事にあるんじゃないかなぁと思っている。


 錬成された武器は創り出した本人に限り、手に馴染むって事だけじゃなくて、付加錬金を加える事が可能になるのだ。

 又武器の元となる【アゼイン】などや他の材料に付加錬成をする事で武器自体にある程度の能力を付加する事は可能だったりする。

 ただそれでも出来るのは武器自体の向上程度で、斬りつけた相手に対して毒効果を発揮するとか「これぞファンタジー!」って感じの効果はやっぱり鍛冶師の創った武器しか現れない。

 それでもまぁ軽量化とか魔力伝導率を上げるとか地味に有難い効果は付加する事が出来るから初心者とか量産して持つとか、使い道が全くない訳じゃない。

 錬金術師は誰もが自分にあった武器を作り出す。後【錬成】【採取】に必要な小型のナイフとかも自作する。

 手に馴染むモノを自分で創り出して愛用するのだ。

 

 ちなみに、錬成した人間以外の錬金術師が使うとどうなるか? という疑問の答えは「付加錬金を加えた後の武器ならば使える」と言う事になる。

 ただし錬成した人間以外が付加錬金を施す事は出来ない。

 けど付加錬金を施した材料を使って創造錬金をする事は出来る……というなんとも分かりずらい仕様になっている。

 

 これら一連の工程や結果を解き明かすための研究をしている錬金術師もいるくらいだから、相当ややこしいんだと思う。


 普通の錬金術師はそんな難しい事は置いといて自作の武器を生み出し使いこなす所までで、それ以上は考えない。

 それ以上はそういった研究をしている専門家の分野だからだ。

 私も例にもれず、そこらへんは深く考えないようにしている……まぁ面白い研究といえば面白そうだと思うけどね。


 武器の錬成に関しては錬金術師にしてみれば通るべき道、と言えるのである。

 だからまぁシュティン先生が「武器を【錬成】しろ」という課題を出す事自体は有り得ない話じゃない。

 まだ早いかも? という指摘がされる程度の事だった。


「このタイミングで出されたんじゃなければ、ね」


 正直早すぎると言って断る事が出来るぐらいは難しい課題だとは思う。

 ただ間違っちゃいけないのは、別に今回作った武器を永久的に使えという話ではないと言う事だ。


 武器を自作して常に持ち歩く事は錬金術師にとっては当たり前だけど、別に最初に創り出した武器をずっと使っている訳じゃない。

 というよりもそんな事出来ない。

 大抵は修練に使って壊してしまう。

 それくらい最初に創った武器というのは脆いモノなのだ。

 色々な試行錯誤の上、自分にあった武器を作り出す。

 それが多分、今回のような課題の最終目標だと思う。

 ……まさか其処まで熟せと言われている訳じゃないと思うけど、ね。

 シュティン先生なら或いは、と思ってしまうぐらいにはあり得ない話じゃないけど、まぁ多分今回出した課題はそういった額面通りの事じゃないんだろうから違うんじゃないかと思ってる。


 結局、私がこの課題を通して本当にしなければいけないのは、自分の中に気鬱と向き合い、そして克服する事なんだと思う。 

 

 私は認めないといけない、この課題を熟していく中で。

 戦闘訓練の時間が気鬱になる理由を。

 もっと言えば、私が刹那の瞬間、剣先を相手に向ける事を躊躇う理由を――瞬間的に私は相手を殺す事を恐れているのだという事を。

 

 認めないといけない。

 私はその瞬間『前世の道徳観』に支配されているのだ、と。 

 それを色んな人に見抜かれていたのだという事も含めて。


 私は『前世』を持つが故に悩み、そしてこの課題を通して克服しないといけない。

 根底に刷り込まれた無意識下で発揮する「人を殺す事への忌避感」を。

 

 この世界に生きる人間だと再び胸を張って言うために。




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