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お披露目会と計画始動




 家の中でも広い部類に入るダンスも出来るホール。

 一階にあるテラスに出るためだったり、中庭に出るためだったり、様々な用途を持っている大きな窓。

 そんな窓から差し込む柔らかい陽の光は今日が穏やかな日である事を教えてくれる。

 テーブルには軽食と楽しいお喋りで乾いた喉を潤す飲み物が用意されている。

 僅かにさざめく人の声とドレスなどによって満たされた色鮮やかな空間。

 

 そんな華やかな雰囲気の中、上段とも言える場所に立っている一人の少女。

 緊張により表情は少し硬いが、述べられる滑らかな口上を聞き入る人々。

 一人立つ姿は少女ながら堂々たるものである。

 ――そう見えているはずだ。


「――……未熟な身に御座いますが故、先達であられる皆様方にはご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願い致します」


 口上の締めの後ゆっくりドレスの端を摘まみ礼の形――子供らしかぬカテーシーで終えた少女。

 そんな少女を迎えたのは暖かな拍手の音であった。


「(まぁ本心で迎えてくれたのが何人いるのかなぁ、と思わなくもないけどね?)」


 口上を終えた少女――私は内心そんな事を考えつつ密かに周囲を見回してみる。

 正直殆どの子供と一部の大人は「面白くない」と顔に書いてあるとしか思えない。

 それほどまでに分かりやすく顔を顰めているのが見える。

 子供はともかくとして大人がそれでいいのかな? と思わなくもないけど、この程度の感情も隠せないのなら今後貴族社会でやっていけるとも思えないので放置である。

 勝手に自滅すれば良い。

 その際はラーズシュタインに迷惑をかけないで欲しいと思うだけだ。


 内心の黒い思考を表に出さないようにしつつ私はお父様について招待客の中を挨拶のためにめぐる。

 人の数だけあるかのように色とりどりの感情を披露してくれるお客様に感心しつつ、ニッコリ笑顔の仮面を被って受け答えをする私。

 騙し合いじゃ負けませんよ、なんてね?


 大抵の人は噂とか評判とあまりに違う私に一瞬面食らって、その後苦々しい表情を一瞬覗かせる。

 中には面白いというか、興味が沸きました的な表情の人もいるけど、そんな人は少数だった。

 多分、私に対して興味を持った人の大半は常識的な思考を持った招待客の人達なんだろう。

 お父様の表情も微かに柔らかいし。

 まぁ大半はさっき言ったように苦々しい表情を一瞬見せる人ばっかりだし、少数の常識的な人達とは殆ど話もしないで次に回る事になっていたから、碌に話もしてないけどね。


 大半の反応は仕方ないという事は私も分かっていた。

 

 私は今、派閥内でとんでもない我が儘お嬢様として知れ渡っている。

 もしかしたら派閥じゃない家の人にも、かもしれないけど、そこらへんはまぁ多分大丈夫だと思う。

 お父様、お母様、お兄様がそれとなく訂正してくれているらしいし、今回の事が終わったら大々的に否定するだろうし。

 今はちょっと私が我が儘お嬢様じゃないとバレると不具合があるからはっきりした否定できなかっただけだしね。

 

 私が我が儘お嬢様だと思われているのはタンゲツェッテのせいだった。

 彼は私の婚約者であると吹聴し、更に私がとんだ我が儘お嬢様で困っていると嘯いているのだ。

 私がまだ出ていなかった社交界という場においてはタンゲツェッテの言葉が全てだった。

 一度もパーティーに姿を現さない私よりもパーティーにて憂い顔の一つも作って困っていると溢すタンゲツェッテの方が現実味がある。

 更に私がタンゲツェッテに無理を言って婚約を結んだんだ、的な事を言えば完璧だ。


 結果として、現在私は派閥内では家の権力を使い我が儘放題であり、タンゲツェッテにベタ惚れのお嬢様だという事になっている。

 

 一種の外堀を埋める行為に近いのだが、上手くやっていると言えない事もない。

 お父様達も今回の計画の事があるから明言を避けていたのも周囲の噂を肯定しているように思われた要因だと思う。

 少なくとも、今この場にいる面子の中では私が御しやすい物事の通りを弁えない我が儘お嬢様である事を疑っていた人間はいない。

 常識的な人達でさえ、私が年相応に我が儘なのだろうと思っていただろうし。


 そんなある意味で散々な評価の私が堂々と立ち、笑みすら浮かべて優雅に口上を述べたら?

 そりゃ噂とのギャップに驚くだろうし、御しやすいと思っていた小娘が実はそうでなかったと分かったら苦い顔の一つも浮かべたくなるだろう。

 表に出す所、三流な気がするんだけど、ね。


 私の噂に関しては私自身は特に気にしていなかった。

 訂正する場は今後あると思ってたし、実際今回の事でマリナートラヒェツェとの事が明るみに出たのと同時に私の性格において、訂正された噂が流れれば、勝手に深読みして「演じていた」だの「首謀者が偽りを流した」だの思ってくれるに違いない。

 例え噂を信じて私を舐めてかかって来たとしても返り討ちにするだけである。

 真実を探る術も噂の真偽を見極める目も持たない人間など此方からお断りって話なだけだし。

 篩をかける事が出来る事を考えれば、噂が完全払拭されなくても私は全然構わなかった。

 

「(だからさぁ。遠巻きにして、私を何一つ知ろうともしない相手は眼中に無いって事なんだよねぇ)」


 今回の招待客の中には子供もいる。

 まぁ最終目標であるフェルシュルグを招待するためには致し方ない処置なんだけど、御蔭で子供の視線にうんざりである。

 親が親なら、という事なのか、それとも噂に振り回されて真偽を見定める眼が拙いせいか、私を見る目は不穏で私の不快感を盛大に煽ってくれるのである。

 「大人の前で良い子のふりしてんじゃねぇよ」的な視線をビシバシ感じます。

 どうやら私の素の状態は媚び売っているようにしか見えないらしい。

 初対面に近しい人間ににこやかに相対するのは社交術としては当たり前なんですけどね。

 大人が騙されて子供である自分達だけ真実を知っている、という幻想に酔っているのか優越感と得意げな色が視線に混じっている。

 はっきり言ってみっともないと思う。

 今回の招待された子供の内、何人が私よりも年上かは知らないけど、噂に振り回され過ぎである。

 タンゲツェッテも相当間抜けだと思ったけど、実はこっちの方が普通でお兄様が年不相応に聡明なだけ何だろうか?


「(それもどーなんだろう)」


 事実なら嘆かわしい事である。


 私は今回のパーティーでは「我が儘お嬢様」を演ずる気は無い。

 その必要性がもうないからである。

 タンゲツェッテの唖然とした間抜け面でも見られないかなぁとも思っている。

 散々イライラさせられたのだから、それくらい見せてほしいモノである。

 あのポジティブ思考で躱される可能性もあるけど。


 内心そんな事を考えていると、タイミングが良いのか悪いのか、タンゲツェッテがフェルシュルグや取り巻きを引き連れてやってきた。

 ……何と言うか、立ち位置が逆な気がするのは気のせいなのかな?


 いや、だってさ、今回のパーティーを開いたのはラーズシュタインで名目はようやくラーズシュタインと公言できる年になった令嬢・キースダーリエ、こと私のお披露目。

 言いたくはないけど今回の主役は一応私って事になる。

 だからまぁタンゲツェッテの方からやってくるのは別に良い。

 子供だけなのもまぁいいけどさ。

 何でタンゲツェッテは傍仕えであるフェルシュルグを引き連れてくるだけでは無くて取り巻きの子供達も引き連れてやってくるのかな?


 これでタンゲツェッテや取り巻きの性別が女の子だったら、悪役令嬢がヒロインをイジメます、の構図が出来上がりだよね。

 

 私の性格とかタンゲツェッテの性別とかミスキャスト過ぎて、そうならないのは言うまでもないけど、なんでまた悪役令嬢のテンプレみたいな真似するかなぁ。

 体はってコント仕掛けられている気分になるんだけど。

 一応これでも一歩間違えれば、って計画を立てたのに、ね。

 拍子抜けというか、無防備過ぎて計画を看過されて罠に掛けられているのではないかって邪推しそうになるんだけど。

 

「(まさかとは思うんだけど。子供である事を差っ引いてもタンゲツェッテの言動が浅はかなのがなぁ)」


 あまりに突き抜け過ぎて演技に見えてくる気がするだけなんだろうけどね。

 まぁお兄様もリアもあれは演技ではないだろうと予測してはいたけど。

 私もそう思うんだけど……だとしたら随分貴族らしかぬ事だとも思う。


「(富裕層特有の余裕や大らかさはあるような気がしなくもないけど、それ以上に権謀術数飛び交う貴族という生き方が出来る器には思えない)」


 考えてみれば「キースダーリエ」であった頃から内側には入っていなかったからか彼が何を考えて、何も思い、どんな野心を抱いているか、そんなタンゲツェッテという男を構成する要素を私は気にかけた事が無い。

 親の影響は確実に受けているだろうから貴族主義で血筋主義であるのは確定している。

 フェルシュルグに対する扱いを見れば平民への思いも碌なもんじゃないという事も分かる。

 けど彼が私やラーズシュタインに対して何を思っているか、なんて事は分からないのだ。

 親に対しても全てを肯定しているのか、それとも何か違和感を感じているのか。

 タンゲツェッテという人間を構成する全てを私は知りたいと一度も思わなかった。

 薄情な話、私はタンゲツェッテの好きなモノの一つも知らないのだ。

 

 彼は私が好きだと思って……例え、それが的外れであり押しつけがましいモノだとしても、私に花束などを贈って来た。

 それは私を懐柔する作戦だったかもしれないし、内心嫌々だったかもしれない。

 だとしても私よりは余程、人らしく子供らしい人間なのかもしれない。

 

「(とはいえ、今更だけど)」


 「今からでも知りたいか?」と問われても、私は「Yes」とは言わない。

 知ったからどうにかなる訳じゃない。

 万が一、億が一、彼が内心で親に対する反発や、ラーズシュタインに対する愚行について思う所があったとしても、それを吐露する機会は数少ないとしてもあったのだ。

 それら全てを無視してこうして引き返す事の出来ない所まで来ているという事は分岐点で敵対する道を選択しているという事だった。

 彼もまた自分で選んだのだ、こうなる事を。

 ならば、フェルシュルグに対してもだが、私に手加減する気は無い。

 タンゲツェッテも又、私の大切なモノを害そうとした人間なのだから。


 こっちに笑顔でやってくるタンゲツェッテに私もニッコリと笑ってやる。

 おやおや、取り巻きの方々、お顔が歪んでいらしていますよ?

 子供とはいえ貴族なのですから、もう少し取り繕う事をしましょうね?

 フェルシュルグの無表情の方が完璧ですよ……まぁ彼は彼で相変わらず眸の奥が複雑なようですが。


 タンゲツェッテも演技が拙すぎる。

 表面は笑顔だというのに、目が私を見下している事を隠していない。

 我が儘お嬢様を騙している事に対する優越感まで見えていて、浅はかだとしか思えない。


「(やっぱり演技ではないよねぇ。もしこれが演技なら、とんだ役者なんだけど)」


 けどまぁ、問題はない。

 舞台は整ったのだし、計画はもはや崩せない所まで来ている。

 此処まで来てしまえば例え気づいたとしても、計画を潰す事は簡単には出来ない。

 貴族生命と引き換えなら出来るかもしれないけど。

 その場合結果は同じって事になるから私に損は無いしね。

 貴族以外を見下している人間が、それを賭ける事が出来るとは思えないけど。


「ダーリエ。取り敢えず、お疲れ様」

「キースダーリエですわ、マリナートラヒェツ様」


 もはやお約束のようなやり取りで始まるタンゲツェッテとの会話。

 取り巻きの紹介をされたけど、誰もかれも私を見下したり、嫌悪したり、噂に振り回されているかラーズシュタインに思う所がある輩ばかり。

 本当に類友ばかり集めたもんだ、と逆に感心してしまう人間ばかりだった。

 一応名前は覚えたけど、次の機会がある人間がどれだけいる事か。

 最悪タンゲツェッテと共倒れになると思う。

 まぁマリナートラヒェツがどうなるかも今の所分かっていないんだけどさ。


 一体彼等は今こうしている私の何処を見て「タンゲツェッテに迷惑ばかりかけている我が儘お嬢様」だと思えるんだろうか。

 我が事ながら先の口上には問題が無かったと思う。

 お父様について挨拶した時もそれらしいミスは犯していない。

 子供らしくないと言われる可能性がある程には大人しくしていたと言い切れる。

 それともそれすらも「大人の前では大人しくしている」「媚びを売っている」「従順な振りをしている」と変換されているんだろうか?

 だとしたら真偽を見抜く目を持っていないという事になる。

 それと一度自分を顧みる、又は自分のしている事に疑いを持つ心も。

 

 誰だってミスはする。

 だから一度くらいは自分のしている事に対して「本当に大丈夫なのか?」と疑いを持つ必要があると私は思っている。

 常に後ろを振り返れとは思っていない。

 突っ走る事で上手くいく事だってある。

 けど、周囲を見回す事が出来るくらいの余裕が出来た時、自分の軌跡を振り返る事は可能である。

 其処には失敗も見落としもあるだろうから。

 後悔もあるかもしれない、別に後ろ向きになれとは言わないけど、冷静に自分のしている事を思い返す程度はした方が良いと思う。

 

 自分は間違っていないと突っ走る事が最善だとは私には思えない。


 とは言え、此処で彼等にそれを説いても「大人に媚びを売っている」としか思われないだろうけど。

 まぁ態々言ってやる必要性も感じないけど。

 今後の私の人生に彼等は必要ない訳だし。


「次は僕がパーティーを開くから、ダーリエも来てくれるだろう?」


 来ない訳がないと自信満々のタンゲツェッテ。

 その言葉だけで私は欠片も気づかれていない事が分かったけど。

 何処まで自分の策に盲目になっているんだろうか、この男は。

 何が彼を此処まで盲目にさせたんだか。


 私は微笑むと小首を傾げた。


「その様な機会がありましたら、その時考えさせていただきますわ」


 今後、そんな余裕が貴方にあれば、ですけどね。

 更に言えば例えパーティを開けたとしても、考えた結果「行けない」って答えるのが関の山、だと思うけどねぇ。 

 

 対して身にもならない会話をしていたけど、そろそろ時間もいい処だし、次の段階に進めましょうか。


「お話中ではありますが、ワタクシ少々用事が御座いますの。ですから此処で席を外させて頂きますわ」

「パーティーの途中でドレスでも変えるのか?」


 取り巻きが私の許可も無く私に話しかけるって、それはそれで不敬だと思うんだけど。

 しかも内容は完全に私を小ばかにしているし。

 更にタンゲツェッテも諫めない。

 それがどれだけ不味い事が全く分かっていない。

 多分タンゲツェッテが私を除けば一番家格が高いだろうに。

 此処で諫めない事がどれだけ問題か分からないんだろうか?

 子供だからお目こぼしされる範囲を超えている気がするんだけど。


 というよりも分かってないんだろうか?

 もし、私が噂のままの我が儘お嬢様だったらタンゲツェッテはともかく、他の人間に対して「不躾で野蛮な方ですわね」とか言って不快を露わにする可能性も充分にあるという事に。

 その結果自分が窮地に陥ると想像出来ないんだろうか?

 少し考えれば最悪の状況も想定できるだろうに。

 タンゲツェッテが取り成すとでも?

 ……それはあまりに楽観的な気がする。

 其処までの関係を築いているようには到底思えなかった。


「ダーリエは充分今の姿でも綺麗だと思うよ?」

「(だからまだここにいろ、と? しかも着替える事確定しているし)」


 取り巻きの言葉を意外と聞いている事には驚いたけど、自分に対するイエスマンだからかな?

 フェルシュルグの報告を聞き入れなかったところ、間違っていない気がする。

 それも上に立つ人間としては不適格な気がするけど。

 まぁ今更タンゲツェッテの人間性を考えても仕方ないけど。


 私は「着替えではありませんわ」と答えると微笑んだ。


「それよりも綺麗なモノをお見せいたしますわ」


 ――貴方方にとっては最初で最後かもしれない、私にとって最高の満天の空を、ね。

 私は内心でこっそりそう付け加えるのだった。




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