表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/304

『キースダーリエ』という存在とは?

第二部・スタートです。






 私的にお兄様と無事和解してリアとも前以上の関係を築く事が出来そうな、そんな一段落したような未来への明るい展望を思い浮かべる事が出来るような、そんなある日。

 その爆弾はなんとお兄様から落とされるのでした……びっくりだよね?


「父上? この国の宰相だよ」


 ……もう一度聞き返してもよろしいでしょうか、お兄様。


 この時私は笑顔のまま固まってしまっていたらしい……仕方無いよね!







 この世界に酷似した世界背景を持つゲーム『虹色の翼を纏い舞う乙女』は魔力を持つ男女――貴族は基本的に魔力を持つのでほぼ貴族が通う学校である――が通うレンリゲル学園が舞台となっている。

 主人公は平民ながら強大な魔力を持つ女の子なのだが、攻略対象は様々なタイプや地位を持っていた。

 ヒロインの幼馴染である平民や魔術師として将来を嘱望されている平民の少年から王位継承権を持つ所謂王子様まで各種取り揃えられていた。

 それぞれ攻略には条件があったし、難易度が設定されていた……はずだ。

 私はそっちは興味が無くておざなりだったし、ゲームの最後に攻略キャラの一人から告白イベントが起こって初めて「あ、今このキャラのルートに入ってたんだ」と気づく事もあった。

 だから正直名前とか経歴とか色々あやふやなんだけど、その中でそれなりに印象に残る攻略キャラがいた。

 その青年は最初に選んだ学部によって攻略が出来なくなる珍しいキャラだった。

 常に錬金科を選んで遊んでいた私なんて彼は攻略出来ないと思っていたくらいだ。

 彼が攻略できると知ったのは一応やってみようと魔法科を選んだ時に好感度などのステータスが表示されたからだったし。

 

 彼は魔法科に所属する人で冷静沈着で人に対して平等に冷たい態度を取るキャラだった……所謂優等生クールキャラと言えば良いと思う。

 学年主席を常に取る優秀な人で努力を怠らない凄いキャラだったけど、そんなのは付き合いが出来なければ分からない事なのは現実と同じなのだから、彼がある意味で冷酷な人であると思われるのは仕方ないと思う。

 金髪碧眼と地球では典型的な王子様という色彩を纏いながら笑わない人形のようなキャラ。

 魔法科に所属する主席、次期「宰相」の座を約束されていた公爵子息……そう『アールホルン=ディック=ラーズシュタイン』とはそういうキャラだった。


「えーと。つまりボクはそのげーむって奴にでていたって事になるのかな?」

「そうなる、ね」


 『ゲーム』の事はリアとお兄様には話していた。

 時期がズレていれば何の問題もないけど被っていたらイベント……騒動がかなり多いのだ。

 ヒロインと攻略対象の仲を深めるためかもしれないけど、騒動を起こし過ぎである。

 一般生徒として在籍しているだけで巻き込まれかねないイベントが幾つもあった。

 ……正直、未知のダンジョンが出現、その調査に成績優秀者が赴く事に成るとか絶対やめた方がいいと思う。

 場合によっては王位継承者がパーティーに居たりするからね?

 危険な所に王子を差し出すなよ! って私でさえ突っ込んだくらいだし。


 とまぁ一生徒として在籍しているだけで問題に巻き込まれかねないからその心構えとして『ゲーム』の事を教えたんだけど……。

 

「まさかお兄様が攻略キャラの一人だったとは」


 あーちなみに言葉使いだけど『私』を知っている人に対しては素で接していたりする。

 まぁあのお嬢様仕様も素といえば素、なんだけどね?


「という事はボクは騒動に巻き込まれる事が確定しているって事か」

「うん。そうなるかな?……えーと『ヒロイン』はかなり可愛くて良い娘、だったよ! うん、だから悪い事ばかりじゃないかなぁ?」

「可愛いと言われてもね。ボクにも好みがあるし平民の娘が公爵家を仕切るのは相当の努力が必要となるよ? それを好きになった娘に強いるのは」

「あ、うん。お兄様の場合「結婚して下さい=苦労して下さい」だよね、きっと」


 まぁそれは王家に嫁ぐ場合もだし……向こうなんて次期王様だから王妃教育からしないといけないだろうし、相当苦労すると思う。

 魔力が高いしあるイベントさえ熟す事が出来るなら、あからさまに反対はされないけど、それでも死に物狂いで努力しないといけないと思う。

 まぁ王子様が継承権を放棄してヒロインと共に生きる事は出来る……はず。

 次期王に関してはあれやこれやは私は分かんないし、他に継承権を持つ人間がいるなら、多分それは可能だ。

 継承権を持つ生粋の王子様が平民や冒険者として生きているかなんて問題あるけどどうでも良いと思ってる、興味も無いし。


 ただ状況的と立場的にお兄様がそう願うなら話は別だ。


「万が一、億が一、お兄様が次期公爵家の地位を捨てても彼女と一緒になりたいとおっしゃるのならば身を切る思いですが送り出しますわ。ですがその場合は分家を立ち上げて頂く事になると思いますけど」

「公爵家を捨てた恥知らずと言われても可笑しくは無いんだけどね、その場合」

「お兄様ならば魔術師として大成する事も可能ですし、貴族でなくとも生きていけると思いますが、それではワタクシ達が寂しいのです。地位など家族の絆の前には意味のないモノとは言え、最悪国を出てしまうなんて事になっては寂しくて泣いてしまいそうです」

「うん。想像だからね。本当に泣きそうにならないでね、ダーリエ」


 うぅ、想像だけでも泣きたい。

 相当ブラコンの自覚はあるけど、仕方ないよね、私家族の皆が大好きだし!


「背負うべき全てを放り出しても貫く愛ってのはボクには未知過ぎるよ。考える事すら不可能な状態だね」

「『備えあれば患いなし』だけど、公爵家を継がなくても生きていける準備でスッゴイ周囲が勘違いしそう」

「あー確かに。ただでさえ周囲はウルサイし、更に餌をまくのは辞めた方がいいよね」

「……その内私も【採取】のために外にでるから、その時冒険者登録くらいは一緒にしてもいいんじゃないかな?」

「そうだね。その時は一緒に行くよ。ボクも実践で魔術を磨く事は悪い事じゃないだろうしね」


 実戦経験は必要かもしれません、お兄様……主に学園でのはた迷惑な騒動のために。

 うろ覚えながら『ゲーム内』で起こった『騒動』を思い出して内心苦笑いを浮かべるしかない。

 

「学園に入るまで色々事前対策はするとして……えぇとボクがきゃら? として存在していたって事はダーリエもいた……んじゃないのかな?」

「私? ……そういえばそうだよね。攻略キャラの妹なんて普通にでてきても可笑しくないよね」


 確かにそうだ。

 攻略キャラの身内なんて味方キャラとしても敵キャラとしても出てこないとおかしい。

 歳を考えても……あれ? そういえばヒロインと『アールホルン』の年の差って……――


「――……うわぁ。私、ヒロインと同い年だった、かも」

「なら猶更出てこないと可笑しいよ」

「だね」


 えぇと『乙女ゲーム』のセオリー的には攻略キャラの妹はサポート的な味方になるか、邪魔をする敵になるか、だよね。

 けど確かあの中には攻略キャラの身内って形でのサポートはいなかった。

 学部毎にサポートキャラはいたと思うけど。

 

 ちなみに『サポートキャラ』って言うのはゲームを攻略する中でのアドバイスとかをしてくれるキャラの事である。

 最初のチュートリアル――ゲームのやり方とか動かし方とかの説明――を話してくれるキャラとかが一般的、かな?

 好感度を教えてくれたり、好感度が上がる方法を教えてくれたりする事もある……いわばお助けキャラって奴である。

 『虹色の翼』のサポートキャラは同級生の女の子だった気がする。

 行事とかを事前に教えてくれたり、攻略キャラの居場所を噂って形をとって教えてくれたりした……はず。

 あんま興味なくて詳しくは覚えてないけど、茶色の髪に榛色の可愛い娘だった……と思うんだけどなぁ。

 サポートキャラまで可愛いなんて乙女ゲーの世界だなぁと考えていた気がするし。


 ともかく、攻略キャラの身内は決して味方にはならなかった。

 じゃあ敵キャラか? と聞かれると……どうだったかなぁ。

 『アールホルン』を攻略したのは一度切りだった。

 魔法科ルートも一度はやろうと思って始めたら彼が攻略対象としてステータスがでて驚いたくらいだし。

 実はアールホルンって基礎能力値が結構高くて冒険をする際、よくパーティーに入るように頼んでいた。

 最初は冷たく断られたり、ため息交じりに付き合ってくれたけどその内断られる事が無くなって、恋愛イベントが発生するようになった。

 だからまぁ一応彼のルートでクリアしたんだけど……えー妹なんて出てこなかった気がするんだけど。

 味方でも敵でも無い名前だけのキャラって事?

 じゃあそんなキャラ作るなよと言いたいんだけど。


 あと気になる事がもう一つ。

 実は『アールホルン』は大の錬金術嫌いだった。

 錬金科に入ると攻略出来ない程の筋金入りだった。

 錬金科に所属していてもしつこく誘えば一応パーティーには入ってくれるし、良き先輩としての地位くらいは確保できるけど、最後まで錬金術を認める発言は無かった。

 お兄様とは違い冷静で冷たい雰囲気なのも気になるけど、一番気になるのはそこだった。

 だってラーズシュタイン公爵家は錬金術師を祖とする、錬金術師を多く輩出している家だから。

 そこの次期当主が錬金術嫌いとか普通に考えれば有り得ない。

 一体『アールホルン』に何があったんだろう?

 錬金術の事を嫌悪すらするようになる理由なんてそう簡単には思いつかなかった。


「(……ん? 錬金術に嫌悪感を抱くぐらいの「何か」があって、彼には妹の影も形もない。……そしてなにより私が『私』じゃなかったら?)――あっ!?」

「ダーリエ?」


 驚きの声を上げる私にお兄様が心配した顔をしているけど私は答える事が出来なかった。

 お兄様はこうして私を心配してくれる優しい人であり家族思いの人だ。

 「キースダーリエ」は疑う事も知らない無邪気で無垢な娘だった。

 そして悪意に対して真っ当に傷つく脆さを持っていた。


 もし……もし『私』が居ず、人の悪意の防波堤がいないのならば?

 【属性検査】のあの時耐えられたのだろうか?

 あの押し寄せる悪意に打ち勝つだけの気力を普通の子供が持つ事が出来たんだろうか?

 もし、負けていたら?

 私なんかよりも長い眠りについたり、最悪死んだりしていたら?

 お兄様は一体どう感じてその後どう生きただろうか?

 もしかしたらその元凶である錬金術に対してただならぬ思いを抱いたかもしれない。

 錬金術を嫌悪する『アールホルン』のように。


「――もしかしたら、ワタクシは死んでいた、のかもしれません」

「っ!? 一体どういう事だい?」

「お兄様。もしあの時……【属性検査】の時ワタクシが目覚めない眠りについたり死んでいたとしたら、お兄様は【錬金術】をどう思いますか?」

「……成程、そういう事か。げーむの中のボクは錬金術師により妹を奪われた。しかも同じ錬金術師の父上もいたのに助けられなかった、と考える可能性は否定できない。自分の力不足を間違った方法で昇華した結果がげーむのボクって事か」

「可能性の話、ですけど」

「いや、あるかもしれない。実際ボクはダーリエの言葉に救われたんだ。その相手が目覚めない……死んでしまったならボクは錬金術を元凶と考えて憎む可能性は高い。しかもそれならば色々説明もつくんだろう?」

「……多分、だけどね」


 強引な所は多いけど、一応の説明は付く。

 『アールホルン』の妹である『キースダーリエ』は【属性検査】から目覚めないか死んでいる。

 『キースダーリエ』が『ゲーム』に居ないってよりもあり得る話だと思うけど。

 

「けど、そうなると思い切りゲームのシナリオと違う未来を進んでいるって事になるけど」

「問題あるのかい?」

「んー。……『運命の修正力』って奴が無ければ問題無い、かな」


 『運命の修正力』というか歴史の修正力ってのは歴史上大きな出来事を改変した時、同じような歴史が何処か別の場所で起こり結局は同じ現代に繋がるって話なんだけど、この場合乙女ゲームのシナリオって言う大きな外部の力がシナリオを無理やり動かそうとする……なんて正直ファンタジーな現象とも云える事を心配しないければいけないかもしれない。

 有り得ないと一蹴したいけど、この世界自体が既にファンタジーの世界だという事を考えたら……絶対にありえないと言えるんだろうか?

 此処があくまで『乙女ゲーム』に酷似した世界だってのは分かってる。

 お兄様はお兄様だし私は私だし。

 創造神達の箱庭って言う感じならともかく『地球』の開発者達が神様な訳じゃない。

 だからきっといないはずの私が世界滅亡させる、なんてレベルの出来事を引き起こさない限り見逃されるはずだ。

 私の些細な行動が大きな波紋となる可能性は否定できないけど、そもそも『乙女ゲーム』って様々な未来の中の一つを選ぶ事になる『マルチエンディング』を採用している『ゲーム』だ。

 という事はあらゆる面において自由度が高いんじゃないかと思うんだけど。


「(シナリオに囚われてもダメだけど全く考えないのも危ないって所かなぁ。取りあえず本来はいないはずの人間が生きている事で起こりうる消極的なアプローチとなると――)――うん。精々私が死にやすくなるくらいかな?」

「十分問題あるよね、それ」

「けどこんな世の中だし『地球』と比べると、ね。……その時少しでも後悔が少ないように生きるしかないんじゃないかなぁ」


 この世界は地球よりも死が近い。

 死にやすいというか命の価値に差があるというか……結構道徳観が違う気がする。

 何故か公爵家の割にお兄様を含めて家族は大きなズレはないけど。

 むしろ私の方が身の内以外の命に対して非情だと思うくらいだし。


 そこらへんはともかく、この世界では一日一日を必死に大事に生きている。

 そんな世界で私も生きているんだ。

 だからそれに則って私も生きれば良い。

 少しばかり気を付ければ他の人と変わらないって事だよね?


「……分かった。可愛い妹はボクが守れば良いって事だね」

「同じように私もお兄様を守るよ?」

「十分守られてるよ……コレとかね?」


 お兄様が私の作ったネックレスを取り出して笑っている。

 何処まで効果があるかは分からないけど、お兄様のこんな笑顔が見れるのなら作った甲斐があったなぁと思う。

 今度材料を手に入れたらリアの分を作って余力があれば自分の分も作ろうっと。


 ……『アールホルン』にはこんなやり取りが出来る相手がいなかったんだろうか、とチラっとだけ思った。

 

「(……あれ? そういえば『アールホルンルート』の途中のイベントでチラっとそんな会話があったような?)」


 断片的にだけど身内の事を話していたイベントがあった気がする。

 けど恋愛要素には興味が無かった私はルートの中でも最低限のイベントで確定できる『ノーマルエンド』で終えた。

 だからか『恋愛エンド』と言えば良いのか『真・エンディング』と言えば良いのか、そのキャラの背景や内容を深く掘り下げていくエンディングは一度も辿り着いた事はない。

 『ノーマルエンド』で分かるのは親との関係が上手くいっていない事くらいだった、と思う。

 今更だけどその時点でオカシイなぁと思う。

 お父様もお母様も「私」が居なくてもお兄様を放っておくとは思えない。

 実際今回の仲違いだって二人が陰ながら支えてくれたわけだし。

 

 もしかしたら『ゲーム』においての『ラーズシュタイン公爵家』は私の知るラーズシュタインとは違うのかもしれない。

 けど何かの理由でそうならないとは限らないから警戒は必要だけど。


 ともかく『アールホルン』の会話の中に身内の事でヒロインに何かしらの謝罪をするような場面があった……気がする。

 一体どういう事なんだろうか?

 もしかしたら『妹』という存在が間接的にヒロインに迷惑をかけたのかもしれない。

 どんな状況なのか分からないけどね。


「ダーリエ?」

「……何でもない」

「……無理には聞かないけど、話せそうならいつでも話していいんだからね? ボクじゃなくクロリアにでも構わないし」


 静かに給仕をしてくれていたリアもお兄様の発言に頷いているのが見えた。


「……うん。もう少し『思い出したら』話すよ」


 胸に宿った暖かいモノを抱いたまま私は笑ってそう返すのだった。




 とは言え色々『思い出したり』この時の疑問の答えを別の人間から聞く事になるのは大分後……この時の会話を既に忘れそうになるくらい後だったりする。

 『ゲーム』のサブであるゲームに嵌ってしまった事に後悔は無いけど、もう少し本筋にも興味を持ってれば良かったなぁと思ったのは私だけの小さな後悔だったりする。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ