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入学式






 入学式は講堂で行われる。

 代り映えのしない事実である。

 なので私もこうして講堂にいたりするのであるが。

 

「<人、多いなぁ>」


 ひしめく人の群れに遠い目になってしまう。

 そうだよね。

 ディルアマート王国ってこの大陸の二大国家の一つだもんね。

 人も多いよね。

 私って交友関係狭いなぁ。

 改めて自分の生活圏の狭さに頭痛が。


「<多いな>」


 そして同意するクロイツも同じくらい交友関係が狭いって事に。

 いや、まぁ結構長い間一緒に行動してるもんね。

 その前のフェルシュルグも狭かっただろうし。

 仕方ない。

 仕方ないけど、お互い自覚はした方が良いかもしれない。


「<取り敢えず同世代がこれだけいる事に驚きなんだけど……驚いてたら駄目なんだよねぇ。私の場合>」

「<オマエ、公爵令嬢だからな>」

「<そういう事>」


 公爵令嬢、というよりも高位貴族の令嬢として下位貴族の事をある程度把握していないといけない。

 特に庇護している家、派閥関係で覚えておかないといけない家は五万とあるのだ。

 ……現状、殆ど知らないけど。


「<そこらへんはぼちぼち覚えるとして……席にいこっか>」

「<誤魔化したな>」


 うるさいですよクロイツくん。

 私はクロイツに突っ込みつつ指定された席に向かう。

 入学式の席は半分指定と言った所だ。

 家格によって大体の場所が指定されており、その場所に講堂に入った順に席につく。

 前から王族と公爵、侯爵、その次は伯爵、子爵と言った感じだ。

 今年は確か公爵、侯爵の子供は私だけのはずだから、ロアベーツィア殿下と私が一番前。その次の列から伯爵以下の子供達が座るのだろう。


「(『ゲーム』では此処にヒロインを座らせちゃうんだよねぇ。そして後々、この事を悪役令嬢的な人に指摘される)」


 よくよく考えるとその令嬢が指摘した言葉はきついけど正論と言えば正論なんだけどね。

 殿下にも苦言を呈していたはずだし。

 流石にそこまで序列を無視するのはまずいのですわ。

 ヒロインって元庶民の現男爵令嬢だしねぇ。

 『ゲーム』では何故かヒロインに対する嫌がらせのいっかん扱いされていたけど。

 ……その後の言動が行き過ぎていたせいなんだろうけどねぇ。


「あ、ここかな?」


 席に座ると小さくため息をついて前を向く。

 『ゲーム』では殿下がヒロインをつれて遅れてやってくる。

 考えてみればここからおかしいと言えばおかしいのだが、『ゲーム』の『第二王子』も方向音痴だったのだろか?

 『電子掲示板』っぽい案内図に関しては知らなかったと言われればそれまでだ。

 とは言え、『出逢いイベント』の場所から講堂までは特に迷う仕様ではなかったのだが。

 

「(ゲームにそこまでの整合性を問う方がおかしいか)」


 あれはあくまでイベントとしての見栄え優先だし。

 ……元も子もないと言われると、それまでだけどね。


「(そういえば新入生代表は誰なんだろう?)」


 代々新入生代表挨拶は騎士科のトップが務める。

 忖度云々はあるけれど、概ねその世代の一番位の高い人がやっているイメージだ。

 騎士科からだから女性はなれない。

 だから絶対ではないけど、今年はどうなる事やら。


「(ん? そう考えると『ゲーム』では『殿下』は代表じゃなかったのかな? 普通に席についてたし)」


 学力に難がある設定だったんだろうか?

 それにしては完璧でありつつも性格が俺様なタイプだったような気がするんだけど。

 後、ロアベーツィア殿下は普通に努力もしているし代表になりそうなもんだけど。

 もしかしてこんな所に修正力が働いているとか?


 なんて暇なので色々考えていると隣に気配が。

 疑問を抱きつつ隣を見ると今まで考えていたロアベーツィア殿下が普通に座っていた。

 あれ? 何で?


「殿下?」

「ああ。キースダーリエ嬢、久しぶりだな」

「え? あ、はい。おひさしゅう御座います」


 え? えぇ?

 『イベント』は?

 もしかして不発?


「あの、殿下は代表では?」

「ん? お前には名を呼ぶ許可はだしている。普通に呼ぶが良い。……そして代表だが。確かに俺だな。もう少ししたら向かうが、その前にキースダーリエ嬢を見つけたので来てみた」


 「先程まで兄上といたのだ」と嬉しそうに話す殿下、基ロアベーツィア様に私は出逢いイベントが完全に不発だった事を悟る。

 同時にロアベーツィア様ならそうなるよなぁと納得もしたのだが。

 『第二王子』ならともかく、ロアベーツィア様は努力家であり、王になるために何が必要かも理解しておられる。

 なるかどうかはともかく対抗馬である兄もいるのだから努力は惜しまない。

 まぁ勉強しても首位になれない可能性はあったけど、どうやら問題はなかったらしい。

 

「(対抗馬とは言え兄弟仲もいいけどね。だからか現時点ではどちらが王太子が決まって無いし)」


 これからの学園生活の中で決まるのだろうか?

 『ヒロイン』がその邪魔にならなければいいけど。


「(ん? 教材にされる可能性もあるかな?)」


 王族として厄介事の対処能力を問われるとか?

 『ゲーム』では第一王子は影も形もなかったから問題なかったけど、もしかして『第二王子』って結構危なかったのでは?

 華やかな『ゲーム』に隠されたいたかもしれない事実に内心顔を顰める。

 いやまぁ今更の話ではあるのだが。


「そういえばお前の兄君も一緒だったぞ?」

「え? お兄様もですか?」

「ああ。兄上の側近候補なのではないか?」

「成程。年頃も考えるとありえますね」


 『ゲーム』では『第二王子』の側近候補だったが、現実では兄であるヴァイディーウス殿下と同い年だし、そっちの側近なる可能性の方が高いか。


「羨ましい事ですわ。ワタクシは朝会ったきりですもの」

「相変わらず仲が良いな」

「それはロアベーツィア様もでは?」

「そうだな」


 穏やかに笑うロアベーツィア様。

 『ゲーム』とは全く違う笑い方にこの世界は『ゲーム』の修正力が強くはないのではないかと感じる。

 その方が嬉しい。

 お兄様は勿論の事、殿下達だって不幸になってほしくはないのだから。


「学年は違うとは言え兄上と共に学園に通えるのは嬉しいな。邪魔をしてはいけないのは分かってはいるのだが」

「ワタクシもですわ。どうにか邪魔にならない方法でお兄様との時間が取れないか悩んでおりますの」

「それは見つかったら俺にも教えてくれ。俺も兄上と一緒に過ごしたいからな」

「分かりましたわ。ロアベーツィア様も何か思いついたら教えて下さいませね?」


 ロアベーツィア様も相変わらず兄が好きな御方である。

 というか年々落ち着いていく気がするのだが『ゲーム』のような俺様の片鱗が全く見られない。

 ロアベーツィア様を見ていると、むしろ『ゲーム』は一体どんな環境だったんだと聞きたくなる。

 

「(完璧だけど俺様で、だけどコンプレックスがある? だっけ? いや、本当にどんな環境で育ったらそうなるの?)」


 首位にはなれない程度の学力で完璧ってのも片腹痛いけど、そもそも尊大になるって。

 国王陛下も父親として足りない方なら分からなくもないけど、そうは見えなかったけど。

 いや、これは考えるだけで不敬だな、やめよう。

 ともかく、ロアベーツィア様は尊大な俺様にはならない。

 それが分かるだけで十分だろう。


 その後、世間話を幾分した後ロアベーツィア様は席を立った。

 打ち合わせもあるだろう。

 「後でまた会おう」と言われたが同じクラスなのだろうか?

 一応クラス分けは成績と家格を考慮して決められるので同じクラスの可能性は高いのだが。

 ロアベーツィア様を見送った私は椅子の背もたれに背を預けると小さくため息をつく。


「<まさか『出逢いイベント』が完全に失敗とはねぇ。ロアベーツィア様を見ればさもありなんだけど>」

「<ヒロインとやらはどうでるんだろうな?>」

「<うーん? 別の攻略対象と一緒にくるんじゃない? それかとっくに講堂内にいるかも?>」


 チラっと後ろを見渡すが、それらしき人はみかけない。

 とは言え、私も容姿がうろ覚えなので確かではないのだが。


「<『修正力』はさほど強くない、と見ていいと思う。朗報だよね!>」

「<お兄様に毒牙がかからないからか?>」

「<それもあるけど、学園生だからって強制的にイベントに参加させられずにすむかもしれないし>」


 学園行事の場合は無理だが、それ以外ならどうにかなるかもしれない。

 回避行動が許されるのだ。

 それは大きい。


「<後は『ヒロイン』がまともだと良いよね。それなら関わらずに済むんだからさ!>」


 ……そこまで甘くなかったと知るのは少しあとの事である。






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