式の前には穏やか時間を
<[8-2]2.式の前には穏やか時間を>
突然ですが、実は私、学校というモノにあまり良い思い出はなかったりします。
『わたし』は所謂優等生と言う奴だった。
そこそこ勉強が出来て、そこそこ仲の良い友人と遊んで、迷惑とも言えない悪戯をしてみたり、親孝行をしてみたり。
親にとっても先生にとっても“都合の”良い子。
それがわたしだった。
その生き方が嫌だったわけではない。
「学校なんて、友人なんてそんなモノだよね?」なんて言いのけてしまう程度には生意気な小賢しい悪餓鬼だったのも事実なので。
ただ表向き優等生であったためか、それともわたしの運命がそうだったのか。
高校の時、結構な事件に巻き込まれてしまったのだ。
それにより私の学園生活はかなり波乱万丈だったし、思い出したくない出来事も多々出来た。
大学は高校時代の人間が誰もいない所に行った御蔭で悪友達にも出逢えたし、それなりの生活は出来た。
だからまぁ総合すると別に悪い事ばかりじゃなかったのだけれど、だからと言って悪い思い出が消えるわけでもなし。
結局、わたしにとって「学校」というのは好き好んで通いたい所ではないという結論になったりする。
だからと言って、貴族の義務として通わなければいけない学園の入学を拒否するわけにはいかないのであるが。
馬車に揺られながら考える事の暗いこと暗いこと。
我ながらもうちょっと晴れやかにはいかないのだろうか?
「(無理か。ただでさえこれからに心配事もあるし)」
昨日の夜はクロイツにああ言ったが、実の所、全く気にしない、なんて、難しいのだという事は理解している。
この世界に【修正力】なんてモノはないと思っているが『ヒロイン』が入学してくる限り平穏な学園生活は送れまいという確信はある。
なんていっても、彼女は学園全てを巻き込んで騒動を起こすのだから。
「(見て見ぬ振りを最大限したとしても私が関わらないといけない機会は必ず出来る。全く以て厄介な事だよねぇ)」
世界が滅亡する、なんて大事はなかったが、学園単位の騒動は起こっていたのだ、ゲームでは。
学園の一生徒である以上、それらに巻き込まれる可能性は高い。
いや、高位貴族である以上確定事項と言っても良い。
どれだけ接触を最低限にして身を護るか?
もはや天災相手の対策を講じているようなものである。
「(やってられないよねぇ。ただでさえ学校生活なんて憂鬱なのにさ)」
そのご褒美が『ゲーム』でみた事のある学園の外観とオープニングだなんて割に合わないにも程がある。
「(勿論『ゲーム』で見た学園の外観やらを見れるのは嬉しいけどさ)」
前の時はじっくり見ている余裕がなかったのだし、嬉しい事は嬉しい。
だとしてもご褒美がそれだけとかあんまりである。
「(ゲームのヘビーユーザーだったら、もう少し嬉しかったのかな?)」
ミニゲームに嵌っていた邪道派にとっては多少気分が向上するだけだ。
大した褒美にもなりはしない。
「はぁ」
溜息を殺しきれない。
憂鬱だ。
「オマエね。これから新しい生活だってのに、少しはそれらしくすれや」
「無理」
「一言で切り捨てるなよ」
影から出て来たクロイツの一言を切って捨てたのだが、会話を終わらせる気は無いらしい。
いや、別に会話したくない程憂鬱な訳じゃないけどね。
「わたし、元々、学校、嫌い」
「いや、言葉覚えたての生物か、オマエは」
「騒動、起こる、面倒」
「喋るのが面倒なんじゃなくてか?」
「クロイツ、平気」
「お、おう。……いや、猫呼び戻せ。せめてクールな表情でいろ。キノコ生えそうなつらはやめろ」
「…………うん。そうだね」
カタコトで話すのは案外大変でした。
「明るい未来へ! って言うのは無理だけど普通の顔なら出来るかな? そうだよね。それで十分だよね!」
「今度は吹っ切れすぎだっての。大体昨日はあんだけ問題無いってツラしてたくせにどうしたんだよ?」
「あー。『ゲーム』の事を考えるとさ? 学園の生徒である事で色々巻き込まれる事を思い出して」
「そうなのか?」
「うん。『イベント』は学園の生徒であるだけで起こるし」
いわゆる『学園祭』『文化祭』みたいな平和な行事もあるにはある。
けど、もっと物騒な行事も起こるのだ。
ただ解決の中心に『ヒロイン』がいるだけで他は全く無関係というわけにはいかない。
学園生というだけで巻き込まれるのは確定しているという不親切設計だったりする。
全く以て面倒である。
「ふーん。普通に学園生活を送っても駄目ってことか」
「そうなんだよねぇ。昨日はうっかりそこらへん忘れてたけどさ。その上、そんな面倒事の褒美が『ゲームのスチル』を生で見られるだけって」
天秤が釣り合ってなさすぎる。
「私が『ヘビーユーザー』ならそれでも充分かもしれないけどねぇ」
「違うもんな、オマエ」
「そういう事」
だから入学前から憂鬱なんですよぉ。
「一切関わらない方法とかはないのか?」
「普通に授業を受けるだけで起こる『イベント』もあるからね」
せめてクラスが別なら少しはいいかもね? と言うとクロイツは「難儀だな」と苦笑する。
「引きこもりにでもならないと無理そうだな」
「だよねぇ。けどラーズシュタイン家……ってかお兄様達に迷惑はかけたくないからそれは無理だ、し……」
「リーノ?」
本当に無理だろうか?
私がこれから入るのはどの科だ?
基礎を学ぶ最初の二年は絶対に無理だが、専門的な知識になる三年からなら?
「最初の一年、二年は図書館に引きこもって。三年以降は錬金術ギルドとの行き来だけに制限すればいける?」
「そこ。快適な引きこもり計画をたてんじゃねーよ!」
「え? 駄目?」
それなら『ヒロイン』に関わる事もないし、息抜きはお兄様と会う事にしておけば、兄弟仲は悪くない事も示せるし、社交に出ない口実まで出来て良いと思ったんだけど。
「友達は絶対に出来ないがいいのか?」
「それは別に。もしかしたら錬金科でできるかもしれないし!」
なによりそれなら『ヒロイン』のとんちき恋愛騒動に巻き込まれずにすみそうじゃない?
「オマエの立ち位置的に難しいと思うけどな?」
「変わり者の誹りは別に気にしないけど?」
「最悪オニーサマの弱点扱いされるんじゃね?」
「うっ」
じゃあ駄目かぁ。
「……駄目かぁ」
「ためたな」
「お兄様達の邪魔になる事だけは絶対にしたくない。けどいい案だと思ったんだけどなぁ」
「諦めろ」
「はーい」
クロイツと話していた御蔭が多少気分も向上したし、これで一応表面を繕うくらいは出来そうだ。
「ありがとう、クロイツ」
「別に?」
相変わらず素直じゃないクロイツの頭をグリグリと撫ぜると私は窓の外に目を向けた。
さぁ、もう少しで学園だ。
この時は冗談半分に言っていた引きこもり計画が、形を変えたとは言え、微妙に引き継がれたりするのだが、今の私には当然しるよしはない。




