家にて色々な事を整理する(2)
起き上がった私は自分の工房に入ると錬成室ではなくもう一つの部屋の扉を開き机に向かう。
机の引き出しに入っている一冊のノートを取り出すと表紙を開くと懐かしい文字の海に目を細める。
もはや懐かしいと言える『文字』の数々に何となく苦笑が漏れ出てしまう。
「私って『日本語』が懐かしく感じるようになったんだなぁ」
と、感傷に浸っても仕方ない。
このノートは記憶を思い出した当初に覚えている事を書き留めた物である。
よくよく見て分かる様に、当時からうろ覚えだったものだから乱雑なメモのようなものに成り果てているが。
「そろそろ、これも【巡り人の休憩所】に置いた方がいいかも?」
この工房も不審者の侵入を許す程セキュリティは甘く無い。
と言うか、この屋敷に侵入するのがまず無理だ。
とは言え、万全を期するなら【巡り人の休憩所】の方がいいだろう。
「あそこなら私とクロイツ以外入れないしね」
今の所、だけど。
今後転生者ないし転移者が現れる可能性はある。
その場合、その存在は此処に入る資格があるかもしれない。
私達が中に入れる可能性だってある。
とは言え、今の所私とクロイツ以外入れないのも事実であるのだが。
「うん。やっぱり【巡り人の休憩所】にしまっとこ」
今日確認した後ノートをしまう事を決めると改めてページをめくる。
「乙女ゲーム『虹色の翼を纏い舞う乙女』の中で舞台になるのはディルアマート王国にあるレンリゲル学園」
書いてある部分をなぞりながら声に出し確認する。
誰も聞いていないから出来る事である。
「期間は六年間。これは学園の就学期間と同一、と。入学は基本的に十歳から」
まぁ平民は年齢が正確ではない事もあるし、貴族だって例外は存在するから「原則十歳から」というのが正確だろうけど。
「その中で最初の二年は基礎という事で学科ごとにクラス分けこそあれど習う事はほぼ一緒。……まぁ初等部と言えばいいのかな?」
そう考えると中等部が二年で高等部が二年?
それはそれで中等部と高等部が短い気もするけど。
「あー。そういえば『ゲーム』ではちらっとしか描かれていないけど、大学部に相当する専門的な知識を得る事が出来る学舎もあったっけ」
錬金術師になった主人公がそこで更に専門的な知識を学ぶってルートがあったはず。
ノートには……書いてない、か。
「残す必要のない知識だしねぇ。そもそも忘れてたし」
一応書き足しておくかな?
ノートに大学の事を書き足しておく。
出来れば私自身が大学に行きたいし。
……いけるかなぁ?
「貴族令嬢はそこまで行く事を希望する人が殆どいないからなぁ」
そもそも大学に入るためには優秀な成績の他に何か功績みたいなモノが必要だったはず。
あれ? いや、功績じゃなくて貢献できる研究テーマだったっけ?
うーん。
これだと大学っていうか研究室っぽいなぁ。
どっちだったっけ?
後で調べてみないとだけど、どんな理由にしろ普通に入りたいと思って入れる場所ではなかったはず。
こうなると私が入れるのかも錬金科での成績次第な気がする。
後、婚約者の意向も……そっちは私が公爵令嬢である限り大丈夫な気もするけど。
「我が儘お嬢様を貫くという手も? ……今はいっか」
さて、次は、と。
「学園では入学時に「騎士科」「魔法科」「錬金科」を選択する。途中で変更も可能。ただ基本的には三年に上がる時に変更するかどうか決める、と。ここら辺は基礎から専門的知識に変わるし仕方無いよねぇ」
勿論私は錬金科に入るし変更する予定は全くないけど。
「ただし「騎士科」についてはほぼ男性だけ。女性に関しては特例扱いだったはず。いやまぁこの時代の考え方からすると当たり前かなぁ?」
女性騎士って必要な気もするけどね。
ほら王妃様の護衛とかさ?
「うーん? そう言えば女性騎士っていたっけ? いなかった気がする。あれ? 私が王妃様と関わりないがないから知らないだけかな?」
可能性はあるな、うん。
「ともかく『ゲーム』では騎士科は選択不可。だから「魔法科」と「錬金科」の二択だったっけ」
ここで問題が。
『わたし』って錬金科しか選択した事ないんだよねぇ。
魔法科がどういう講義をしていたかとかさっぱり分からない。
「確か、科によって攻略対象との関係に変化があったはず」
大の錬金術嫌いの攻略キャラがいて、錬金科を選択すると攻略出来ないか、攻略するのに厳しいスケジュール管理が必要になるとかだったはず。
「まぁそのキャラを攻略したいなら素直に魔法科を選ぶべきだと思うけどね」
後、それぞれの科を選んだ特典があったはず。
「んー。魔法科は攻略キャラと早期に冒険に出れる、とかだったかな?」
錬金科は冒険に必要な魔道具を自分で作成するからゲーム全般を通して費用が節約できる。
後、ギルドのクエストをこなす時、採取系のクエストで恩恵にあずかる事が出来る。
高品質な代物を見分け事が出来たりね。
……錬金科のメリットばかり覚えているのは其方しか選択してなかったせいです。
当然同じくらいのメリットは魔法科にもあったはず。
さっぱり覚えてないけど。
「という訳で、そういった前提で入学と共にゲーム開始、と」




