風の神殿へ(4)
さも当然と言った感じで付いてくる男性エルフに突っ込める強者はおらず、中々の人数での神殿訪問となった。
元々多いし、一人ぐらい増えても問題ないだろうけどさ。
単純に多いなぁと思ってしまうのは許して欲しいです。
いや、水の神殿の時も多かったし別にそれはいいんだけどね。
殿下達もいるし警護の事を考えればどうしても人数は多くなるし。
ただ、エルフさんが少々挙動不審になっているだけで。
ここ結構透明な階段だけど、その足取りで大丈夫なのだろうか?
いや、もしもの時はあの変わり者エルフが颯爽と助けるよね。
基本善性のヒトだろうし。
ヒトの事よりも自分の事を考えるべきかな?
今のとこ大丈夫だけど。
「<あー、高所恐怖症じゃなくて良かった>」
「<どんだけ高い所が平気なやつでもここは勘弁してほしいと思うぞ?>」
「<まぁそれはそうなんだけどさ>」
色が薄くついてるだけのほぼ透明な階段を登ってるものだから、段々地上から離れていくのも丸見えだもんね。
水の神殿の時はほぼ平行の道を歩いている気分だったからいいけど、今は段々木々とかが小さくなってるからなぁ。
ただなぁ、あの時って実際は月へと伸びているように見えたって事は上がっていっていたって事だよね?
なのに今回の方が「高所!」に居る感が強いんだよね。
この違いはなんだろう?
うーん。
あー月までのながーい距離だと平行に見えるけど、今回はそういった目標地点が無くて素直に上に伸びている感覚がするかも。
こっちの方が危機感は煽るよねって話か。
皆の方を見ると苦笑したり、微妙な顔したりで階段を上がって行っているのは体感出来てるみたいだしね。
……あれ?
「<ねぇ。テルリーミアス様の顔色が悪くない?>」
私の言葉にクロイツは視線をそちらにむける。
少し首を傾げ、こっちに視線を戻したクロイツは「<確かに?>」と呟く。
「<顔色悪いって言えば悪いな。んん? その割には真っすぐ歩いてね? むしろ真っすぐ過ぎるぐれーに>」
そう。
他は私を含めて下が気になるのか視線は結構彷徨っている。
それは多分慣れているであろうエルフの二人もだ。
その中で下を一切見ず、前だけを見据えて歩くテルミーミアス様は浮いて見えるのだ。
……んん? 下を一切見ず?
「<……もしかして高所恐怖症、とか?>」
「<成程。そー言われるとそー見えるな>」
顔色が悪くて下を一切見ない。
足取りは確かだけど、わき目もふらずに歩いているのでちょっと危ない。
護衛対象の殿下達の方も碌に見ていない姿は珍しいというよりも今の状態だと有り得ない。
総合的に考えても高所恐怖症の可能性はあるように思う。
「<とはいってもなぁ。今更一人で戻れって言われても戻れないよね? 職務的にも心情的にも>」
殿下を残して一人帰る選択肢は無いだろう。
特にテルミーミアス様の場合は。
心情的にも、もしも本当に高所恐怖症なら戻るには今度こそ下を見ないといけない。
足が竦んでもおかしくはない。
無いんだけど……。
「<テルミーミアス様、帰り道どうするんだろう?>」
「<そーいやそうだな!>」
やけに嬉しそうなクロイツの声に私は首を傾げる。
別にテルミーミアス様に対してはそこまで反発心を持ってないような気がしたんだけど?
不思議に思ったがその理由をクロイツはあっさりと口にする。
「<あのしかめっ面が崩れるのが見れるってことだよな?! すっげーみてー!>」
そういう事ですか。
クロイツさんや。
中々辛辣かつ性格悪い事いいますねぇ。
私相手にしか言ってないから良いけどさ。
「<案外。殿下達がいれば忠誠心が勝って、大丈夫かもよ?>」
「<えー。つまんね>」
退行してません?
あー、考えてみればエルフ達の傲慢な善意はクロイツにも降り注がれていたっけ。
そりゃストレスもたまるわ。
テルミーミアス様で発散せんでもとは思うけど、この場合は誰でもいいんだろうなぁ。
……うん、物騒だね。
無差別テロリストだね。
大丈夫。
実行しないなら無罪です。
結局若干後ろめたく思いながらもすこーしばかりワクワクしつつハラハラしてテルミーミアス様を確認しつつ歩いているうちに扉が目に入った。
「(今回も扉なんだなぁ)」
さて、今回は入った先でどんな光景が見える事やら。
海中程のインパクトはなさそうだけどね。
もろもろはともかくとして……。
今回は目を閉じなくても大丈夫かなぁ?




