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エルフの寵児(5)




「ここに蔦のデザインは譲れないわ。勿論、素材は金でしょうね?」

「素材に関しては魔石との相性もあるので断言できません。デザインの蔦は出来るかもしれませんが、今の時点でその要望は必要ないですよね?」

「試作品だとしても、検証用だとしてもアタシは妥協しないわよ!」

「いえ、検証用は妥協して下さらないと困ります。と、言いますか妥協以前の問題です。検証用は目盛りを刻む可能性もありますからね?」

「目盛り!? そんな美しくないデザインはごめんよ!」

「ですから最終的に身に着ける魔道具ならともかく検証用はただの裏付けや検査のための代物ですからね!?」


 手元にあったコップを無造作に掴み、中身を飲み干す。

 なんとしても目の前のエルフさんに妥協を教え込まなければいけない。

 じゃないと話が進まない!


「今、貴方に必要なのは身を飾る物ではなく、研究のために集める資料用です!」






 何故、こうなったのかを語るには小屋に戻った所まで遡らないといけない。






 聊か緊張感が漂う中、小屋に戻った私達は「まずは」と改めて先程の魔道具の件についての謝罪を貰った。

 それについてはまぁ本気で気にしていない私はあっさりと流した。

 その後、一つの可能性として出て来た推測について話し合う事に。


「可能性の一つとしてですが、今回“エルフ族の【魅了】は魔法やスキルに類似している。又は魔力を媒介にしている”という仮説が立ちました。これは今までの貴方方の仮説とは方向性が違いますよね?」

「そうだね! 僕達はあくまで神より授かった特別な力という前提で仮説を立てていたんだ。だから完全に抑えることは不可能であり、あくまでコントロールすることで過剰な魅了を抑えるべきだと考えていた。だから今回のことは本当に驚いたよ!」

「それか体質ね。どちらにしろ、魔力のように遮断することが出来るものとは全く考えてもしなかったわ。迂闊だったわね」


 そりゃ神々が与えたもう【枷】だと思っていたなら、そうなるよね。

 神々は絶対的な存在であり、たとえ【枷】だとしても与えられたならば、それを和らげる事は考えても根絶させようとは思わないだろうし。

 多分、エルフ族が獣人族に対しての【枷】である“生命の危機以外では獣人に対して攻撃する事が出来ない”ってのが本能的なモノだというのも理由にあるはず。

 

「(まぁその割に獣人族は人族を殺す事が出来ないって言う、強固なモノではなく、それなりに躊躇する程度なのがねぇ。何、その落差? って感じだよね。まぁその代わりに【従属契約】を結んだら問答無用で命を握る事になるけどねぇ)」


 バランスが取れているのかいないのか微妙な所だ。

 ただ分かるのは何方も本能に刷り込まれた代物だって事である。

 なのに人族からエルフ族に対しての【枷】だけ対処が可能かもしれないなんて……――。


「――……普通考えてませんものね」


 正直な所、私自身、全ての可能性を潰すために提案したようなものだった訳だし。

 仮説を立てる所までいくとは。


「では次に考えなければいけないのは“魔法やスキルと類似したモノ”なのか“魔力を媒介にしているのか”ですね。前者ならば魔法封じやスキルを封じるなどの魔道具で対処できてしまう事になりますし。後者の場合魔力を遮断する魔封じなどでどうにか出来てしまうので、もっと安易になってしまいますしね」


 その前に、本当に仮説が正しいのか検証しなければいけませんが、と言葉を締める。


「どうやって?」

「この魔道具が通用した事を鑑みて、何種類かの魔道具を作成し、試してみる、ですかね」


 本来は【精霊眼】の事を話して魔力の塊に包まれている事を教えるべきかもしれない。

 だが、私はそこまでこのヒト達を信頼できない。

 二人に話すなんて絶対に御免だ。

 一応特定の存在しか認識出来ない事象ではなく、万人が納得する結果を出す必要がある、と大義名分があるので問題はない。

 言い訳が出来るのは幸いである。

 

「(私としては魔力に魅了が付与されている、又は魔力を放出する器官がそういった作りだと言う説もあると思うけど。けど、それだと魔力を幾ら吸収、循環しても、放出する際、再び魅了が付与されるから、今回には当てはまらないのかな?)」


 その場合、周囲の魔力を吸収する魔道具と一定量の魔力を魅了を無効化した状態で放出する魔道具が必要って事になるなぁ。

 魅了の力をフェロモンと考えた方がいいのかな?

 だとしたら無効化なんて相当難題になるけど。

 目標が果てしなく先になりそうな予感に遠い目になっていると、いつの間にか二人のエルフが話し合いを終えていたらしい。

 話しかけて来て私を現実に引き戻した。


「その魔道具の作成をアンタに頼めるの?」

「うーん。申し訳ありませんが、力量的にも職種的にも難しいかと。ワタクシは錬金術師の見習いですし、魔道具師ほど精密な魔道具は作成できませんし」

「出来ればアンタに頼みたいのだけれど」

「と、言われましても。見習いですので」

「あんな魔道具を創り出せのに?」

「あー。あれは魔石が特殊なんです。ですので、今のワタクシの力量では難しいとお答えするしかありませんね」


 あの魔道具の付加錬成は魔石に相当助けられた感触があった。

 例の小屋にあった魔石なんだけど、あれ自体天然物なのか錬成したものなのか判別がつかないのだ。

 少なくとも私の現在の習練度では色々足りてない。

 

「そう。でも案は出してもらうわよ?」

「そう、ですね。此処まできたら放り出すわけにもいきませんし。まず大まかな枠をつくらないといけませんね。少なくとも検証用に創られた魔道具は一定期間使用してもらわないといけないわけですし」


 そう。

 この言葉が切欠だったのだ。

 何気なく放ったこの言葉にエルフさんの目がキランと光ったのを見て私は自分が迂闊な事を言ったと悟ったのだった。

 



 こうして私とエルフさんのくだらないにも程がある言い合いは白熱したのである。




 始まりのくだらなささを思い出しクールダウンした私は隠さず溜息を吐く。


「根本から間違ってましたね。まず、必要なのはデザインではなく、機能です。どういった機能を付加するかをまず考え、その上で形態を何にするか。最後にデザインです」


 「今の時点でデザインの話なんて不毛以外ありません」と言い切ると少しばかり怯んだのかエルフさんも嘆息一つ、椅子に座り込んだ。


「ごめんなさい。少し熱くなっていたわね」

「君はあんな風に言葉を投げ合うことも出来なかったからね。楽しい時を止めることは誰にもできないさ!」

「そう、ね。確かにあんな風に意見をぶつけることすらアタシには出来なかったわ。心のどこかで楽しんでいたみたい。くだらないことに付き合わせて悪かったわね」

「あー。いえ、気にしないで下さい。ワタクシも少々熱くなっていたようですわ」


 根が深いなぁと思いつつ流す。

 だって私はエルフ族の問題に深く関わる気は微塵もない。

 現時点で片足突っ込んでる感があるのだから余計に、だ。


「お互いに冷静になった所で建設的なお話合いといきますか」


 私はあえて義務的に笑みを浮かべるとそう言い放つのだった。






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