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エルフという種族(2)




 真に残念な事にエルフの長はやっぱり同類でした。

 後、分かった事と言えばノエルと言うエルフは同じエルフから見ても相当の変わり者扱い、という事ぐらいですかね。

 私は辛うじて残っていた猫を全力で被り、長と挨拶をすると、説得に説得を重ねてようやく一人になる事が出来た。

 いや、リア達の心配コールも心にきたんだけどね?

 なによりもエルフのか弱き者に対する庇護欲? 加護欲? みたいなモノが厄介だし、心底吐き気がしたもんだから最後は我が儘を押し通した形で半ば無理矢理出てきました。

 あのままだと本音が出そうだったから必死です。


「<確かに。人の世界でも私はまだ成人前どころか幼子扱いだけどね? でも! 幼子どころか赤子扱いまでされる謂れは無いし。むしろあれって赤子よりも愛玩動物扱いだよね? 短命でか弱いって、そりゃあんたよか短命だわ。けど、それなら私も言いたい事が山ほどあるんですけど? あんたらのその警戒心何処に置いてきた? 状態よりは有事に対して動ける自信がありますけど? 少なくとも枷の上に胡坐をかいて、平和に浸りきって本能すら落としてきたあんたらに心配される謂れはこれぽっちもないし!>」


 人がいない事をこれ幸いに愚痴る愚痴る。

 ただし、誰が聞いているかも分からないから念話でだけど。


「<お、おぉ。相当鬱憤が溜まってたんだな。気持ちは分かるが>」


 恐る恐る話しかけて来たクロイツに私は大きく深呼吸をする。

 別にクロイツに対して怒りがあるわけじゃない。

 これは完全に八つ当たりだ。


「<ごめん>」

「<いんや、別に? 気持ちはわかんしな。ありゃ確かに赤子って言うよりも愛玩動物に対してだわ。しかも完全無自覚だしな>」

「<同意いただき恐悦至極?>」

「<貴族対応やめれや。気持ちわりぃぞ>」

「<失敬な>」


 素を散々見ているからだろうけどその言いざまは酷いですよ、クロイツさん。

 クロイツと話して少しだけ落ち着いたけど、代わりにこの集落に来てからのエルフ族の対応に今度が頭痛がしてきた気がする。

 ここで一晩とか出来れば勘弁してほしい。

 まさかノエルってエルフがましに思えるとは。


「(多分、だけど)」


 もしかしたら隠すのに長けているだけであのエルフも同じ事を考えているかもしれない。

 ただまぁ私が気づかないって事は無いって事と同じだし、ましといえばまし、という事になってしまうのだ。


「<隠しているって事は、少なくとも自覚はしている事だろうし>」

「<んぁ? ……あー、あのエルフ野郎のことか?>」

「<そう。あの愛玩動物に対する対応がデフォだとすれば、あのエルフは珍しいタイプって事になるよね? 100%善意も方向を間違うと此処まで気持ち悪いモノになるとは思わなかったけど。あれ、このままだと危なくないのかね?>」


 敵意しかないのもやりずらい。

 それは事実だ。

 実際、敵意に晒され緊張を強いられた経験がすると、あれはあれで結構疲れる。

 ただ、厄介度で言えば、こちらの方が高いのでは? と思わなくもない。

 敵意、悪意にはそれ相応の対応を返す事が出来る。

 だが、善意、好意の場合、下手すれば此方が悪者になってしまう。

 それをお互いに損なく改善するなんて完全に取り扱い注意ってレッテルが張られ、解決は期待できないと言われる案件である。

 

「<あとさ、最悪なのは、此方の悪意溢れる対応すら癇癪を起した子供としてなだめられる事だよね? あーどうしたもんだか>」

「<ある意味で話が通じないってやつだな。確かに厄介だな。くどくど言っても意識は変わんないじゃね?>」

「<染みついた性分だからねぇ。……後、此処まで悩んでてなんだけど、別に私ってエルフ族に怒ってもいいし、気持ち悪がっても良いけど、何が人族にとって侮蔑になるかを教える必要ってないんだよね。ただ単純に“私が”現状を気味悪がっているだけで>」


 思わず改善策まで悩みそうになったけど、そこまでする必要ある? ってふと冷静に自分に突っ込みをいれてしまう。


「<エルフ族を私が変える必要があるのか? って言われると困るし、ないんじゃない? とか答えたくなるし>」


 私達のように【完全遮断】なんてしていない限り、どれだけ歪んでいようとも気づかず相手からの好意を素直に受け取っているのだ。

 これから先、出てくるか分からない私達の同類のために、意識改革なんてする必要あるの? って話だ。

 ……うん、ないんだよねぇ。

 どれだけ考えても悩んでも断言できる。

 そこまでする義理は私にはない。

 

「<たとえば、この先【魅了完全遮断】を習得した誰かがエルフ族に対して悪意を持って、エルフ族を殲滅したとしても、自業自得。たとえ私がこれから訴えかけて改善する事で回避される未来だとしてもね>」


 そもそも神々の【枷】が原因である。

 それを人の私がどうにかする?

 冗談じゃない。

 どうして大切でもなんでもない人のために私がそこまでの労力を割かないといけないのか。

 なら、今晩必死に耐えて、後は関わらない方が良い。

 未来は未来の当事者達がどうにかして下さいって放り投げれば良い。

 

「<ここで痛む胸がないから、オマエはセージンサマになれねーんだよなー>」

「<なりたいとも思わないけど? 何? 私に聖女サマになって欲しいの?>」


 皮肉全開で問うとクロイツも鼻で笑う。


「<まさか。オレの同胞がそんなやつじゃなくて嬉しいくらいだぜ>」


 哂うクロイツに私も肩を竦めると同じように哂うのだった。





 使い魔と温かい交流――殺伐風味を添えて――をしていたのだけれど、そろそろ何処からか突き刺してくる視線が鬱陶しくなってきた。

 誰からの視線か? なんて事をクロイツと顔を見合わせ、お互い答えが同じである事を共有すると溜息を隠さずつく。

 一人にして欲しいと言ったのだけれど、見張りか見守りか。

 何方にしろ視線が強すぎて鬱陶しい。

 だがしかし。

 話しかけるのも嫌だ。

 何故、此方から接触しなければいけないのか。

 ただでさえ、エルフが嫌いになっている中で、記憶の奥底にこびり付きそうなエルフの男性。

 エルフの存在を“在る”事実だけを残し忘れたいというのに、それを許さず頑固に残りそうなエルフの男性。

 何故にそんな存在と共に居る記憶を増やし、こびり付く量を増やさないといけないのか。

 一気に無関心まで振り切れる私の性質上、この集落を離れれば忘れてしまうはずなのに、アレは残るだろうと言いきれてしまう。

 勝手に奥底にこびり付くなと八つ当たり気味に思ってしまう。

 一緒に忘れたいと心の底から願う存在。

 ノエルと呼ばれるエルフの男性が監視役なのは嫌がらせか?


「(いや、顔見知りの方が気が休まるとか言う100%善意なんだろうけどさ)」


 多分、エルフ的には見守り行為なんだろう。

 か弱い人族を一人に出来ないとかなんとか。

 

「<これが私の外見年齢に引きずられているなら、まだましだっただろうに>」

「<だとしても、オマエ来年には入学だし、幼子扱いもされねーんじゃねーの?>」


 学園に入学するという事は、成人扱いにはならないが、半成人? ぐらいの扱いにはなる。

 入学前は許されたミスが入学後は許されない、なんて風になる。

 勿論、本当の成人ではないので、あくまでも許されない事が増える、程度ではあるが。

 貴族ならば、貴族としての自覚を持て、と言われるラインだという話なのだけれど。

 クロイツの言う通り来年学園に入る私は『前世』の記憶がなくとも、大人になるための自覚が必要となる時期であり、むやみやたら子供扱いされれば気分を害するのが“普通”である。

 私としては入学するまで甘え倒して良い気がするのだけれど、これも貴族としてのプライドだろうか?

 兎角、確かに本来なら私は幼子扱いされれば怒る年齢ではあるのだ。

 

「<けどさ。『前世』ならまだ子供、もとい幼子って言われる年齢じゃない?>」

「<まーな。成程。事実だから怒る必要もねーって?>」

「<そういう事なんだけどさ。……これって年齢関係無く人族に対しての対応なんだよねぇ>」


 だからこそいい気はしないわけで。

 

「<後、そういった事、全部抜きにして視線が強すぎて鬱陶しい!>」

「<そりゃどーかんだ>」


 好奇心のままに観察されるのって凄い不快!

 これ、見守りじゃないけど監視でもないよね?

 むしろ彼の趣味なのでは?

 性癖全開過ぎる!

 『前世』ならば通報一択だし!

 ……あれ? 前にも言わなかったっけ?

 何となくデジャヴを感じつつ、これからを考える。


「<さて、どうしたもんだか>」


 いっその事、向こうから声をかけられるような行動に出る?

 たとえば、禁止区域に入るとか?

 いやいや、そんなルビーン達みたいな事はしたくない。

 じゃあ、素直に声をかけるしかない?

 嫌だなぁ。

 接点増やしたくないよぉ。


「<仕方ないから戻るかなぁ>」

「<また猫かぶりの時間だな>」

「<気が重い>」


 深く深く溜息をつくと、私は踵を返す。

 と、その時、後ろから何かが着地した音が耳朶を打った。

 

「キースダーリエ嬢。少しいいかい?」


 人の判断を見透かしたようなタイミングに眉間に皺がよる。

 心底、本当に心底振り返りたくはないが、名前を呼ばれている以上、知らない振りも出来ない。


「<結局、このエルフと関わらないといけないのかぁ>」

「<どんまい>」


 クロイツの大変心のこもっていない声援を貰い、私は肩を落とすと、ゆっくりと振り返るのだった。




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