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夏を吹き飛ばす一陣の風の到来(2)




 衝撃の事実が判明しました。

 どうやらお父様には姉がいたようです。

 いや、姉?

 え? 本当に?

 此処で嘘を付く理由はないけど、代わりに疑問が湧いて出るのですが。

 えーと、この国の継承権は生まれた順番が基本。

 才能、というよりも資質? の有無や当主達の意向により下の子が継ぐ事はあり得る、と。

 私は叔母に当たる方を向く。

 見ただけでは資質は分からない。

 けど、振舞いは貴族として完璧。

 弟に当たるお父様に対しても表面上は好意的。

 つまり感情的になる方ではない、と予測できる。

 じゃあ分家の女当主か? と問われれば「NO」と答える。

 分家にこの方はいなかった。

 じゃあ何処かに嫁いだ?

 なら、何でお父様達から一度もこの方の話が出なかった?

 何事も無くお父様が当主になり嫁いだのなら話題にでてもおかしくはないのに。

 私の誕生の時、一度来ただけ?

 良好な関係の姉弟が?

 本当にそんな事有り得るのだろうか?

 疑問は疑心に変わっていき、自然と叔母と名乗る人物への視線に不信が混ざりだす。

 気づいていないとは思わない。

 それでも平然としている。

 私にとってはその態度は更なる不信を煽るだけだ。

 そんな私を見てお父様は何処か困ったように微笑んだ。


「アール、ダーリエ。説明はしてあげるから、そんな目で姉上を見なくてもいいんだよ」

「敏い子達ねぇ。誰に似たのかしらね?」


 苦笑したお父様に言われてお兄様を見るとお兄様も私を見た。

 どうやら同じような思考で御客人を訝し気に見てしまったらしい。

 うん。

 業とと言えば業とだけど、この場合表情に出てた所は減点かも。

 精進あるのみ。

 ……ではなく、私達の杞憂、なんだろうか?

 不信は多少鳴りを潜めたが、代わりに疑問を残しつつ私達は再び席についた。

 メイドがいつの間にか用意してくれたお茶に口を付ける。

 物心ついた時から変わらないほっとする味に自然と肩の力が抜ける。

 すると、叔母様から安堵の息のような感嘆の声が漏れたのだ。


「このお茶の味は変わらないわね。相変わらず美味しいわ」

「お褒め頂き有難う御座います」


 叔母様の言葉にメイドさんは嬉しそうにお礼を言って出ていった。

 そのメイドさんの表情に「この方は悪い方ではないのでは?」という感情が芽生える。

 チョロイと言うなかれ。

 ただ単純に基準があって、其の上で判断しているだけです。

 基準が家人になっているのは仕方ないと思います。

 だって他に判断材料ないし。

 お茶を飲んで一息ついたのかお父様が口を開いた。


「姉上は彼女の入れるお茶が好きだからね」

「あら? 貴方もでしょう、オーヴェ」

「勿論僕も好きだよ。けれど姉上には負けると思うけどね」

「そうかしら? そうね。そうかもしれないわね」


 和やかに話しているお父様と叔母様。

 けどなぁ。

 何となく距離を感じる?

 うーん。

 距離を測っている、と言った方がいいのかな?

 仲が悪いとは言わないけど、とても仲の良い感じはしない?

 

 言葉程、良好な関係には見えないなぁ。仲が悪いとも言い切れないけど。

 

 私はお茶を飲みながら二人を密かに観察していると、二対の眸に見られて目を瞬かせる。

 観察していたのがバレたかな?

 気まずくてそーっと視線を逸らすと二人に笑われてしまった。

 こんな簡単にバレてしまうとは。

 まだまだ貴族としては半人前のようです。


「まずは自己紹介からね。私はリキューンハント。普段はリキュー=ラーズと名乗っているわ」


 嫋やかに笑みを浮かべた叔母様に私とお兄様は立ち上がり一礼し名乗る。

 一応初対面の挨拶だけど、まぁ私が赤子の時しかあってないのなら許容範囲だろう。

 実際叔母様は特に気にされた感じはしなかった。


「貴方方のお父様とは……そうね、当主の座を争った仲、かしら?」


 その言葉に私とお兄様に緊張が走る。

 姉弟間で当主の座を争う。

 しかも当主となれなかった方は何処かに嫁いだという話も聞かず、滅多に家に寄り付かない。

 トドメに普段は違う名を名乗っている。

 此処まで揃えば不審所ではない。

 警戒するなという方が無理だ。

 お父様の先程の言葉は嘘だったのだろうか?

 それともお父様的には問題は無いと思っている?

 いや、それはない。

 お父様はそこまで楽観的な方ではない。

 お父様は私が思うよりもはるかに貴族らしい方なのだから。

 敵意を抑え叔母と名乗る人物を見やると、彼女は何が面白いのか微笑んでいた。

 その微笑みを見て徒花を思い起こすのは私が彼女に敵意を抱いているせいなのだろうか?


「ふふ。やっぱり可愛いわね。大好きなお父様、家族のために思考を巡らせている姿はオーヴェにそっくりだわ」

「姉上。あまり子供達を揶揄わないで下さい。この子達は賢いから、どれだけ些細な発言でも深読みしてしまうのです。あまりやり過ぎると嫌われますよ?」

「え? それは困るわ! ……アール、ダーリエ。ごめんなさい。少し揶揄いが過ぎたわ」


 慌てて謝る叔母の姿に嘘は見えないけど、信用していいのだろうか?

 出来るとも出来ないとも言えず黙っていると叔母様が泣きそうな顔になった。


「本当に賢い子達なのね。本当にごめんなさい。先程のは正確に言うと「私とオーヴェはお互いに当主の座を押し付け合った仲」なの」

「「当主の座を押し付け合った?」」


 叔母様?

 今、とんでもない事を言いませんでした?

 先程までの疑惑が一瞬吹っ飛ぶ程の発言である。

 驚く私達に苦笑する叔母様とお父様。

 いや、それって言葉の綾ではなく本当って事ですか?

 

「私は魔法の才を持ちオーヴェは錬金術の才を持って生まれたの。この国では女性でも跡継ぎになれることは知っているでしょう?」

「え? あ、はい。存じております」

「私も一応跡継ぎになれる程度の才能は有していると判断され、弟は勿論その才能を有していた。けれど私もオーヴェも後を継ぎたいとは思わなかったわ」


 珍しいでしょう? と問われて思わず頷いてしまう。

 私も別にラーズシュタインを継ぎたいとは思わない。

 私しかいなければ領民を無責任に放棄する事はしたくないから継ぐために頑張っただろうけど、私には優秀なお兄様がいる。

 きっと私の方が姉だったとしても私は弟に継いでほしいと思ったはず。

 だからまぁ、叔母様の考えは分からなくもない。

 けど、貴族としては珍しいとは思う。

 私みたいに『前』が無ければ家を継ぐ事は大切だと教わっているはずだし、それは絶対だと思っているはずだから。

 長子相続に態々反発する事は然程ないはずだ。

 しかも継げない方が言うのではなく継げる方がいうのは珍しいと言ってしまって良いと思う。

 珍しいと言う言葉に納得していると、お父様が口を挟んだ。


「姉上。そうは言いますが、ラーズシュタインには良くあることじゃないですか。過去にも長男、次男の間で当主の押し付け合いが長引いて結局、末子が押し付けられる形で当主になったという記録もありますし」

「そんな資料が残っているのですか?!」


 声が裏返ったお兄様を責められない。

 私もぽかんと口を開けてしまったし。

 ラーズシュタイン家って一体?

 驚き絶句する私達に対して叔母様は「分かるわ、その気持ち」と言いながらも朗らかに笑う。

 

「そうなのよねぇ。ラーズシュタインの人間にとって、当主と言う地位は特に魅力的ではないのよね。勿論、家を存続させることは必要なのだけれど、誰かを蹴落としてまで継ぐ価値を見出せないの」

「ただし、これはラーズシュタインの本家に見られる傾向なんだ。だからまぁあんな親戚がいるわけだけどね?」


 ああ、私達を傀儡に権力を握ろうとした人達の事ですね。

 驚愕の事実を聞かされてしまうと、お兄様を操ろうとした事やお父様達を侮った事には怒りが沸くけど少しだけ同情してしまう。

 あれだけ渇望している権力を当の本人達は姉弟間で押し付け合っていたと言うのだから。

 

 そりゃまぁ「なら寄越せや!」とか思わなくもない、か。だからと言ってお兄様を傀儡にしようとした事は絶対に許さないけど。


 後、私はお兄様が継ぐ意思を持って下さって良かったなぁと思った。

 だって下手をすると私とお兄様の間でも押し付け合いが起こる所だったわけだし。

 二世代にわたっては流石に笑えないよね。

 と、考えていると今度はお兄様から爆弾発言が投下された。


「僕としてはダーリエの方が優秀ならラーズシュタインを継いでもらって構わないのですが」

「お兄様!? そんな事絶対にありえませんわ! お兄様はワタクシなど及ばない程優秀な方ではないですか。当然お兄様の方が当主に向いていらっしゃるのでは?」

「そうかい? 僕としてはダーリエだって立派な当主になれると思うけどね?」

「ありえませんわ! ワタクシにそんな大仰な地位に付ける器量はありませんから」


 お兄様、私は中身詐欺なだけで優秀ではありません。

 どこからそんな勘違いを?

 真に優秀なのはお兄様の方です!


「僕はダーリエが当主になりたいなら、喜んで補佐に付くつもりだよ? その気は無いのかい?」

「全く! 一切! 御座いません! お兄様ならばラーズシュタインを立派に導いて下さるとワタクシは信じております!」


 あれ? これって押し付け合いっていいませんか?

 二世代かけて当主の押し付け合い。

 ああ、成程。

 これがラーズシュタインの血なんですね。

 逃避気味に考えつつお兄様と話していると三つの笑い声が耳朶を打った。

 慌てて振り向くとお父様、お母様、叔母様の三人が笑っていた。

 しかも爆笑したいのを我慢している感じで。

 明らかな失態に顔が熱くなる。

 隣を見るとお兄様も顔が赤かった。


「小さい頃を思い出すわね、オーヴェ?」

「そうですね。僕も姉上の補佐に付くことを疑っていませんでしたし」

「私も男子である貴方が継ぐのが当然と思っていましたわ。やりたいこともありましたし」

「やりたい事、ですか?」


 自分の失態はさておき、懐かしそうに目を細める叔母様に問いかける。


「ええ。当主ではなしえないことだったの。たとえ宰相職に付かずとも公爵家の当主になってしまっては私の夢は絶対に叶わない。だから一度は夢を諦めたわ」

「つまり次期当主は叔母様だったという事ですか?」

「そうね。お父様はそうお考えだったわ。とはいっても年齢の順番で、だけれどね」

「けど、今はお父様が当主になっている。という事は……」

「そう。オーヴェが当主になりたいとお父様におっしゃったの。その時のやり取りを私は知りません。けれど、結果としてオーヴェの望み通り、お父様はオーヴェを次期と公表しました」


 穏やかに語る叔母様。

 そこには次期当主という地位を簡単にひっくり返された事に対する負の感情を見えない。

 けど、内心はどうなんだろうか?

 お父様にどんな心境の変化があったかは分からない。

 けれど、次期当主に決まっていたという事はそのために色々学んでいたはずだ。

 夢を諦めてまで。

 それが簡単に翻されてしまった。

 幾ら家族だからと言って……いえ、家族だからこそ。

 怒りが沸かないとは言えないのではないだろうか?

 叔母様は私の考えに気づいたのか苦笑した後、とても優しく微笑んだ。


「当主になれなかったことに関して言えば、本当に怒りも悲しみもありませんわ。元々オーヴェの方が当主の才覚を持っていたのだから必然とすら思っていました。それに私もその状況を利用して夢を叶えたのだから御相子なのよ」

「父上に罪悪感を抱かせて、勝ち取ったと言った方がいいのでは? あの後父上は頭を抱えていらっしゃいましたよ?」

「私が実際は全くと言っていい程罪悪感を抱いていなかったことに気づいていましたものね。それでも許して下さったのだからお父様も案外甘い所がおありだったわね」

「そもそも、姉上は僕達家族に対する言い訳ではなく、対外的な言い訳を用意しただけでしょう?」

「あら。どうだったかしら?」

「あ、あの。叔母上の夢、とは一体?」


 お兄様が口を挟むとお父様を見ていた叔母様は此方を向いてニィと不敵な笑みを浮かべた。


「この世界に眠る最大の謎。歴史が紡がれる前の文明についてを解き明かす。それが私の夢よ」

「「……えぇ!?」」


 私とお兄様の驚愕の声が部屋に響き渡る。


 この世界は神々が創造された訳では無い、と言われている。

 『日本神話』の国産み。

 『創世神話』の世界創造。

 それらにあたいする神話は存在する。

 だが、光と闇の双子女神は既に存在する大地を支える形で世界を創造していったと記されているのだ。

 神々の誕生や生物の誕生を担ったのは神々である。

 その事実とは別に神々は世界を……より正確に言えば大地を創造していない。

 それを裏付けるようにこの大陸には人類史には記録すら無い遺跡が存在しているのだ。

 既に壊れていてヒトが決して足を踏み入れる事が出来ない場所もある。

 だが、辛うじて遺跡として現存している物も存在している。

 ただ、大半の研究者の間ではこれらの遺跡は神話時代、神々がまだ近かった時代の建造物であり、実際創成期以前に文明があったとは考えられていなかった。

 そう、過去の話だ。

 現在は文明は一度滅び、神々の慈悲により再び生物が生み出された、と話が主流になっている。

 嘗て異端と言われていた研究者達の研究により世界の常識は訂正されたのだ。

 ―― 一説には神々の介入があったと囁かれているが真偽は定かではない。


 叔母様の夢は『前』の世界で言えば多分『考古学』に分類されるんじゃないかと思う。

 研究題材としてはマイナーに分類されるが、いなくはない。

 ただし、貴族令嬢としてその道に踏み込む人が過去にいた話は聞かないが。

 だからこそ私もお兄様も驚いたのだ。

 叔母様が今もなお考古学者として行動しているのならば、叔母様はまさに貴族令嬢のまま、考古学者となった、先駆者となるのだから。

 影の中でクロイツも驚いている気配を感じた、


「<おいおい。オキゾクサマのレイジョウが研究者って。ありなのか?>」

「<研究者なら他にも居る。錬金術師として生涯を錬金術に捧げた女性もいるくらいだし。ただ、貴族籍を持ったまま考古学者になった人は聞いた事ない>」

「<オマエが知らないってだけじゃないのか?>」

「<有り得るけど……お兄様も驚いているし、滅多にいない事は確かだと思う>」


 今でも貴族の女性というのは駒として見られがちだ。

 大抵の女性は良き殿方を見つけ、家に入り奥方として手腕を振るう事が最高の幸せな人生とされている。

 だからこそ国母となる事は最高の名誉であり、女性のトップとされているのだ。

 一応才能を発揮し国に貢献する女性もいるが、偏見と闘い、自分の道を貫くために相当の努力が必要だ。

 

「<高位貴族になればなるほど他の道を選ぶのが難しくなるのが現状だね。特に公爵家ともなれば、考古学者の道を選ぶならば貴族籍を抜けた方が楽かも、って感じだと思う>」

「<けど、眼の前の奴はそうはしなかったってことか?>」

「<多分ね。まさか貴族籍を持ったまま学者になるなんて>」


 この世界では変わり者と言う言葉では表せない程だ。

 『地球』の記憶を持つ私でも思いつかなかったし、実行するのは難しいと思ってしまう。

 公爵家の教育を受け、領地経営の勉強もしていたであろう叔母様。

 嫁いでほしいと願う家は、多分引く手あまただったはずだ。

 その中で体外的な“言い訳”を作り、周囲の声を押さえつけて学者となるなんて。

 家族の協力があったとしても大変だっただろう。

 しかもそれを現在まで続ける事が出来ているなんて。


「<凄い>」

「<オマエの血筋ってぶっ飛んだやつしかいねーんだな。『DNA』に刻み込まれてんのか? それとも類友か>」

「<ちょっと! 私は別に吹っ飛んでは……いるかもしれないけど、お兄様もお母様も吹っ飛んではいないわよ!?>」

「<自分は認めんのかよ>」


 だって自分が普通じゃないのは今更だし。

 後、お父様もちょっと普通じゃないと思うし。

 けどお兄様とお母様は普通だし!


「<いや。オニーサマはともかくオカーサマは血筋の意味では関係ねーし。後、オカーサマも普通じゃねーよ? 普通はオレとか犬っコロ共をあっさり受け入れたりしなからな?>」

「<うっ>」


 確かにお母様はお嫁に来たわけだからラーズシュタインの直系の血筋じゃないけど。

 後、まぁクロイツやルビーン達をあっさり受け入れたなぁとは私も思ったけど。

 けどけど、お母様は誰もが認める淑女です!


「<オニーサマもなぁ? 普通ではないんじゃね?>」


 あれとかこれとか、とクロイツに言われて当時の事が思い出されて私は心の中で唸る。

 私の突拍子もない言動に隠れてはいるけど、中々お兄様も普通の貴族とは言い切れない……かもしれない。


「<うぅぅ>」

「<安心しろ。変わり者筆頭はオマエだから>」

「<褒めてない! 安心できない!>」


 クロイツと念話漫才をしている内にお兄様の動揺は一応落ち着いたらしい。

 表情が平素のものに戻っていた。

 内心はともかく繕える所、お兄様は貴族として成長しているって事になるのだろう。

 うぅ。

 未熟な自分が恥ずかしい。

 私は必死に平静を装い、平気なふりの仮面を被る。

 内面は嵐だけど。

 後、クロイツとの会話はまだ続いているけど。

 自分の事で必死な私は気づかなかったけど、どうやら叔母様は私達を観察していたらしい。

 何かを確信した叔母様は最後に私達の顔を交互に見ると満面の笑みを浮かべた。

 花が咲き誇るような笑顔に意味が分からず思わず首を傾げる。


「貴方方は驚いても否定はしないのね。貴族の令嬢として明らかに間違った道を選んだ私を」


 叔母様の卑下的な言葉に私とお兄様は顔を見合わせる。

 一体何を言っているのだろうか?

 私とお兄様は一度頷くと叔母様を見やる。


「叔母上は一度は夢を諦めたとおっしゃっていました。それはきっと領民のためなのでしょう。きっと強い悲しみと諦めが胸を占めたはずです。けれど民のためにその覚悟をなされた。それが翻った。諦める必要がなくなり、民へに心配がなくなった。そうして民のために諦めた夢を叶える機会が巡って来たのなら、それをつかみとるためにあがくのは当然のことでは? そしていまなお努力なさっている方を否定しなければいけない理由など存在しないと思います」

「家の継続は確かに大切ですが、全てを知り、茨の道と分かっていても夢に邁進する事に男女は関係ないかと存じますわ。周囲の口さがない言葉を跳ねのける力を持つ叔母様を尊敬こそすれ、軽蔑する理由などありませんわ」


 心からの言葉を叔母様へ告げる。

 すると叔母様は一瞬驚いた顔をしたけれど、直ぐに泣きそうな、それでいてとても嬉しそうに笑った。

 その後お兄様と楽し気に話している叔母様を見て私は内心安堵の息をつく。

 私が同じ道を進む事はない。

 けど、それは私と叔母様にとって一番が違うだけ。

 そして偶々私の一番は貴族社会に適合していただけだ。

 とはいっても、私の一番は家族だから、貴族らしいか? と問われても頷けないけど。

 

 ただ、少しだけ気になるのはお父様の叔母様に対する感情なんだよね。叔母様がお父様に対して引け目を感じているのは、きっと自分の生き方が家に迷惑をかけていると思っているから。じゃあお父様は? 突然家を継ぐ事を決めた事? けど、それ以上に何かに対して罪悪感を感じているみたいなんだけど……。


 私がこそっとお父様の方を見やると、お父様はなおも何処か罪悪感を宿した眼差しで叔母様を見ていた。

 一体お父様は何に、そこまでの罪悪感を感じているのだろうか?

 

 悩んでいる私は気づかなかった。

 お父様を見て悩んでいる私をお兄様と話している叔母様が見ていた事に。

 そしてその眼差しに複雑な色を宿していた事に。

 その事実を知るのは大分後になってからだった。




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