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隠し部屋





 思ったよりも広い?


 思わずそんな事を考えてしまう程、隠されていた部屋は広かった。

 この部屋にも本棚が並び資料と思わしき物が多く並んでいるが、本以外は物が殆ど無かった先程の部屋よりもそれ以外が目に付いた。

 素材、だろうか?

 棚には鉱物、というか天然石や宝石の類がかなり無造作に敷き詰められている。

 またそれなりに大きな机の上にも研磨されたりカットされた石が置かれていた。

 

 ……研究室?


 錬金術の工房にも通じる雰囲気をこの部屋から感じる。

 シュティン先生もなのか、何処か興味深そうに部屋の中の見回していた。


「この部屋には魔法が掛けられているようだ」

「え? ……確かに薄くですが魔力の気配を感じます」


 注意深く探ると薄っすらとだが魔力を感じる。

 流石に何の魔法かは分からないが、何かの魔法がかけられている事には違いないようだ。


 防犯ではない、とは思うけど。どうだろう?


 これだけ盛大に不法侵入しても何の音沙汰も無い処、防犯系の魔法や魔道具ではないらしい。

 

「保存だとは思うが。だとすると理由が分からないな」

「確かになー。ここは放棄されてんだし。誰のために残したんだ? って話になるよな?」


 先生方の言う通りだ。

 この集落は放棄された。

 最低限必要なものだけを持ち出したのだと思う。

 もう二度と戻ってこないと言う意志でもって。

 だからこそ隠し部屋を設置した理由も保存の魔法をかけた理由も分からない。

 

 まるで後々此処を訪れる人がいる思っていたみたい。


 その時、ふとルビーンとザフィーアの顔が浮かんだ。


「この部屋はルビーンとザフィーアのために残されたのでは?」


 全員の視線が私に集まる。

 

「正確に言えば、この集落の長の血を引く存在のために、だと思います。ルビーン、ザフィーア。貴方方は集落の中で捕まったの?」

「いいヤ。森に居た時に住処の方から轟音が聞こえたはずダ」

「是」

「だよナ? んデ、住処に戻る最中に襲われて捕まっタ」

「そう。きっと貴方方の両親、多分長達は貴方方が生きていると信じていたのでしょう。ならば何時の日か貴方方が此処に戻ってくるかもしれないと考えた。そのためにこの部屋を残したのでは?」

「筋は通るが、隠し部屋では見つけられない可能性がないか?」

「……確かに。そうですね」


 なら違うかな?

 だとしたらどんな理由で残されたのだろうか?

 何て悩んでいるとザフィーアが溜息をついてルビーンを頭を叩いた……え? 何で?

 痛がりつつ不思議そうなルビーンにザフィーアは大きくため息をついた。


「部屋の存在を我々、認知。口頭で伝達済」

「……ア! そういやそうだナ。確か時計を調べろって言われてたナ」


 本当に忘れていたのか、ルビーンの表情等に嘘は感じられない。

 両親に対しての情が薄いのは良いけれど、大切な事まで忘れないで欲しいのだけれど。


「貴様、物忘れが多いようだな?」

「はン! ここでの記憶なんて面白くもなんともねぇからナァ。覚えておく必要もなかったんだヨ」


 刹那主義、快楽主義ならば変化の無い集落での生活はさぞかし楽しくなかっただろう。

 とは言え、故郷に対して此処までドライなのも凄い。

 これが自己防衛意識じゃない所が本当に凄いと思う。

 更に嫌味を言おうとした先生もルビーンのドライさに徒労を悟り溜息をつくと話題を変えた。


「これらは売ればそれなりの値段になる。売る場所を間違えなければ一財産になるだろう。生きていると信じ残された可能性はある。つまりこれらは貴様等の所有と考えるのが妥当だ」

「ふーン。ンー? 主、いるカ?」

「はい? いえ、此処にある物は全てお二人が引き継ぐものですわ。どうしたいかも貴方方が決めるべきです」


 親の愛情と言っても良いのだと思う。

 それを奪うつもりは更々ない。

 当然の事としてそう答えたのだが、ルビーンとザフィーアは顔を見合わせ、何故か困った表情になってしまった。

 いや、そこは困る所ではないと思うのですけれど。

 困惑……ではないし。

 そんな顔されても、私が困るのだけど。


「ッテ、言われてもナァ。これいるカ?」

「否。我らの物は全て主の物」

「だよナァ。ってな訳デ、これ全部主が好きにしてくレ」

「えぇ」


 珍しく、本当に珍しく素直なルビーンだが、言っている事は何時以上に厄介事だった。

 私は改めて部屋を見回す。

 様々な資料に数多くの鉱物。

 もう少し探せばお金の類も出てくるかもしれない。

 それらは全て二人に残された財産だ。

 だと言うのに、あっさり私に渡すって。

 要らないと言っても良いのだけれど……。

 

「……取り敢えず預かりましょう。後で目録などを作りますので、受け取る気になったら言って下さいまし」

「一生来ないとおもうがナァ」


 本当に受け取る日が来ない気がする。

 要らないと言えばあっさりと放棄し忘れてしまいそうだと思い預かる事にしたのだが、正解のようだ。

 私は盛大にため息をつく。

 何と言うかこの旅に出てから溜息をばかりついている気がする。

 幸運が逃げたらどうしてくれよう。

 取り敢えずこの部屋の中の物の事は後で考えるとして、本命は開かない箱である。

 その箱……というよりも『金庫』は壁に埋まった形でそこにあった。


「これですの?」

「あア。どぉも俺達だけじゃ開けられねぇらしくナァ」


 ルビーンは言いながら箱に手を伸ばすと、触れるか触れないかという所で何かに弾かれる。


「この箱自体が魔道具になっているのでしょうか?」

「……そのようだな」

 

 この金庫って隠し部屋に埋め込まれているという事は、これもルビーン達に残された物って事だよね?

 ならルビーン達には開ける事が出来る仕様だと思うのですが?

 なのに弾かれる?

 何故?


「隠し部屋の物は生きているであろう者達へ。けれどこの箱は違う、という事なのでしょうか?」

「可能性はあるが、その場合に誰に向けてということになるな」

「そうですね」


 そしてルビーン達は何故私を此処へ連れて来たのでしょうか?

 私が居れば開けられるという確信でも?


「これに最初触った時ニ、妙な言葉が頭に浮かんダ。その言葉通り開くんなラ、主が必要になル」

「……成程?」


 この金庫、そこまで性能の良い魔道具なんです?

 うーん。

 私は悩みつつも金庫に手を伸ばす。

 が、触れる前に腕をつかまれてしまった。

 あまりの速さに除ける事も出来ず、掴まれてしまった。

 しかも掴んだのザフィーアだし。


「危険。安易に触れてはいけなイ」

「二人は触れて何か問題ありましたの?」

「否」

「なら大丈夫では?」

「俺達は獣人。主は人間。危ないかもしれねぇだロ?」


 どうして急に従者ムーブかますんですかね?

 

「触れても指が飛ぶとうの事は起こらないと思いますけれど」

「いやいやいや、物騒だな、キース嬢ちゃん」


 後ろから突っ込みが入る。

 振り返るとトーネ先生は苦笑なさっていてシュティン先生は蟀谷を抑えていた。

 あれ? 私の言葉ってそこまででしたかね?


「主は意外と自分の身を大事にしねぇよナァ?」

「そんな事はありませんわ。ワタクシが自身を蔑ろにしてしまえばお兄様達が傷つくではありませんか」

「これだからナァ。ここでそう言いきっちまう所、主は主で結構歪なこっタ」

「笑顔でいわないで下さいまし」


 明らかに「普通」ではない事を喜んでいるのが見えますけれど?

 

「それで? 触る事を良しとしないならば、どういたしますの? 後、言葉とは?」

「安全が確認できるまでは触るナ。んで言葉ハ――土の守護の血筋の者達ヨ。楔となりし者と共に言葉を唱えン。さすれバ、道は開かれル――って感じだったナ」

「色々突っ込み所がある言葉ですこと」


 集落の長と言う意味以外に彼等には何かの役割があった? という事なのだろうか?

 【土の】となるとすぐに思いつくのは土の眷属神や精霊。

 後は聖獣様って所かな。

 つまりルビーン達は『巫』……えぇと神官って事になる、のかな?

 いや、神官よりも上位者っぽいけど。

 次に“楔”って言い方なんだけど、多分【契約】した【主】って事だと思う。

 二人もそう考えたから私がいれば開けられると考えたのだろうし。

 ただ、そうなると共に言葉を唱える必要があるって事で。

 

 その言葉をルビーン達が知っている気がしないのですが? どうすれと?


 箱を見ていれば分かるとか?

 いや、それはなさそう。

 後、魔道具なのに妙に古風と言うか偉そうというか。

 この魔道具に意志があるかどうかを考えたい所なんだけど、その前にこの口調に若干イラっとするのがなぁ。

 

「うーん」

「主?」


 段々色々考えると面倒になってきたのですが。

 目の前には金庫。

 他の面々は離れているし……。


 うん。さっさと試してしまおう。


 めんどくさくなった私は邪魔が入らないうちに素早く箱に手を伸ばす。


「「主!!」」


 慌てる気配を後ろに感じたが無視である。

 大丈夫。

 消し炭にでもならない限り、シュティン先生の回復魔法で修復出来るから。

 私がちょーと痛い思いするだけだから。

 私は制止を無視して箱に触れた。

 途端、ピリッと僅かな痛みを感じる。

 けど、それだけだった。

 他の人が心配するような過剰な拒絶は感じなかった。

 その事実に内心ほっとしつつ暫く触れていると指先が仄かに温かくなる。

 それと共に頭に【言葉】が木霊する。


【汝、楔に足る者と認める。守護者と共に我に触れよ】


 最後まで言葉を聞きどけると私は手を箱から離した。

 途端、後ろから腕が伸びて来て箱に触れていた手を取られてしまう。

 二度目である。

 少しばかり鍛錬不足なのだろうか?


「主! 痛みハ!? 痺れは感じないカ?!」


 などという戯言は珍しいルビーンの焦った様子に吹き飛んでしまった。


 え? 貴方ルビーンよね? あの人をおちょくるのが大好きな? えぇ、別人のようなんだけど?


 驚いている私の様子に気づかないのかルビーンが私を抱えてシュティン先生の所へかけていく。

 いや、部屋狭いし、駆けるのは言い過ぎだけど。

 気分的にはそんな感じだった。

 しかも皮肉嫌味一切無しで掴んだ私の手をシュティン先生に突き出すと「回復魔法!」と叫んだのだ。

 これには先生も面食らったのか、初級の回復魔法をかけてくれた。

 この状況でも的確な魔法を使える先生は凄いですねぇ。

 けど、回復魔法自体要らないと思いますよ?

 案外先生も混乱してました?

 なんて思わず考えてしまったのは現実逃避だろうか?

 あの、別に魔法かけてもらう程の怪我は負っていないのですが? などと言ってはみたのですが……。

 誰も話を聞いてくれませんでした。


「問題ないナ?」

「大丈夫ですわ。……ご心配をおかけて申し訳ございません」


 先生に頭を下げると「問題はない。が、大袈裟だと思うが、これも獣人の性質なのだろう。諦めろ」と言われてしまった。

 どうやら渋々感がにじみ出ていたらしい。

 しかも今後取れる言動が「諦め」一択と断定さてしまい、僅かな頭痛を感じる。 

 あのルビーンでさえこうなるとは。

 主従の契約、そして獣人の性質は中々性質が悪いようだ。


「それで? 何かあったのか?」

「触れた所がピリっとする程度でした。後は脳内に言葉が浮かびましたわ」

「ほう?」

「ワタクシを楔と認める、と。後は守護者と共に触れよ……ってルビーン?! ザフィーア!? 壊そうとしないで下さいまし!」


 私の腕を離した後静かだと思っていたら、二人は武器を金庫に向かって振りかぶっていた。

 貴方方、本当に少しばかり性格が変わっていませんかね?!


「アァ? 主を傷つけるもんなんかいらねぇだロォ?」

「何を普通の事みたいに言っていますの? 貴方方、ワタクシが攫われた時にはもう少し大人しかったですわよね?」


 一回目の誘拐の時も普通に笑みを浮かべていたし、二度目に闇の空間に閉じ込められた脱出した後も何時もと変わらなかった。

 なのに、どうしてこう今回だけはこんなに性格が変わっているの?

 疑問のままに問いかけると二人は顔を見合わせて、ニィとそれはそれは悪い顔で笑った。


「あン? あん時は主が相手をぶち殺すことを望んでなかったじゃねぇカ。だからやらなかっただけダ。それとモ、やっちまっても良かったのカ?」

「駄目ですけれども!」


 今更の新事実。

 この二人、装っていただけで結構怒ってました。

 驚きなんですが?!


「だロォ? だガ、今回は相手は箱風情だからナァ。何の問題もネェ」

「早急に破壊」

「しないで下さいまし!」


 折角安全に開けられそうなのに、破壊しないで。

 私は必死に言葉を尽くす。

 その御蔭か二人渋々だが武器をおさめた。

 どうして主たる私が此処まで疲れているのかな?


「では、共に触れましょう」

「俺達が先に触ル」

「……ええ。よろしくてよ」


 譲らないとはっきり目が物語っている。

 私は内心ため息をつき先を譲る。

 大分何時もの二人に戻っている、ような気はする。

 気はするのだが、少しばかり従者としての側面が強くなっている気もする。

 

 何時から? 道中は違った気がする。なら集落に入ってから? いえ。多分この建物に入ってから。それも隠し部屋に入ってから顕著になった。


 建物に魔法の気配はしなかった。

 それは先生方が何も言っていない事からも確実だ。

 けれど、二人の様子に変化が見られた事も事実。

 獣人にだけ変化が出た?

 方法は?

 目的は?

 

「「主?」」


 自分の思考に沈んでいると二人の声が私の意識を引き戻した。

 顔を上げると二人が不思議そうに私を見ていた。

 私は苦笑すると首を横に振り何でもないと示す。

 取り敢えず、目の前の事を片付けてからだ。

 私は小さくため息をつくと金庫へと手を伸ばした。



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