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最悪な「騎士」との最初で最後の邂逅




 結局、今回の一件は国家間のお話合いの上、皇女サマ達が表向き何かしらの罰を受ける事はない、という事になった。

 全ての原因をあの琥珀の狂人とその主サマに背負ってもらう事になったらしい。

 あとまぁ、一応皇女サマに心酔していたキシサマ方にも多少教育が入るそうです。

 そっちはどうでも良いと言えばどうでも良い話なんだけどねぇ。

 聞いた時は何処の国も騎士教育が大変ですねぇ、と他人事のように思っただけだったし。


「<原因がそれでいいのか?>」

「<騎士教育に関してはどっちにしろ被害者ではあるけど、原因ではないからね? ……多分>」


 騎士の中に居る一部の変なのが私と偶々遭遇して結果として自分で馬鹿を晒して自滅しただけで。

 ……あれ? これってある意味私が原因か?

 ――うん、深くは考えないでおこう。


「<にしてもよー。国家間の問題になるのがヤバイとは言え、騎士一人と、そのアルジサマとやらに罪をひっかぶせるってのはなー>」

「<納得できない?>」

「<まーなー>」


 納得いかないクロイツに苦笑する。

 彼の言いたい事も分からなくも無いのだ。

 幾ら直接、手を下したのは例の琥珀の狂人だったとはいえ、そこに至るまでの皇女サマと皇子サマの態度とキシサマ方の態度の罪は自分自身が背負うべきだ。

 その全てあの男と男の主にかぶせて断罪するのは、筋が違うとこの世界に順応している私でさえ思うのだ。

 私よりも余程『向こう』の感性を持ったままのクロイツが気に入らないと感じるのは当たり前といえる。

 本来なら口を挟む権利も無く、口を挟めばややこしくなると分かっている私でさえ「それは筋が違うのでは?」と言いそうになった。

 それをせずに済んだのは単に全ての話を聞いて納得したに過ぎなかったりする。


「<大丈夫だよ、クロイツ>」

「<ん?>」

「<今説明したのは対外的なモノだからさ。実際皇女サマと皇子サマも罰を受ける事になるよ>」


 私があの時「被害者として顛末を知りたい」と言ったからか、それとも王国での私の対応を知っているからかマクシノーエさんは今回の事について表向き以外の「真実」ってのも話してくれた。

 全てではないとは思うが、それでも自分の権限で話せる事は話してくれたんじゃないかと思う。


 今回、王国側が王族である殿下達が二人、そして公爵家の人間が二人、共に子供とは言え高位の人間を遊学に送り出すという異例の事態にも関わらず帝国は受け入れてくれた。

 この時点で本来なら王国は帝国に多少の借りが出来るはずだった。

 それが今回皇女サマ方の言動により貸し借り無し……キシサマ方の事を考えれば帝国が王国に借りを作った形になった。

 つまり皇女サマ方は自身の言動により帝国の有利をかき消してしまったのだ。

 これが今後の様々な事に響かない訳がない。

 国益を損ねるまではいかずとも優位性を手放した代償は今後負う事になるだろう。


 それでも皇帝陛下は皇女サマの独断だと切り捨てる事はしなかったが、あの琥珀の狂人騎士と、その主に対しては厳しい処罰を降すと聞いた時はちょっと引っかかった訳だけど。

 聞いた直前はただの娘贔屓か? とも思ったけど、どうやらあの琥珀の狂人とその主は帝国でも色々やらかした曰く付きの人間だったようなのだ。

 むしろようやく突っ込める大義名分が出来たから、今まで証拠不十分で裁けなかった事件の代わりに皇女サマ方の罪を表向き被る形で本来受けるはずの処罰まで持っていったらしい。

 皇女サマ方に対してはこれからの負った悪評。

 さらに罰の一環として、自分達のした事の罰を他の人間が受けた事をしっかりと説明し、その上でその罪悪感を生きていく限り背負っていく事を罪の一つとした、という形にもっていきたいらしい。

 これは子供に課す罪としては相当重たい部類に入るだろう。

 特に皇子サマに関しては完全に次期皇帝になる事は諦める事になると思う。

 皇女サマも下手すれば今後の縁談に関わってくる。

 罪悪感を背負い、更にこれから自業自得とはいえ悪評を払拭していかなければいけないのだから、罰と充分にいえる。

 私は全ての話を聞いてそう納得し声をあげずに済んだのだ。


「<それでもまぁ、命に係わる処罰じゃないって所は甘いって言えば甘いのかもね?>」

「<ま、直接の被害がオマエだけだからな。そこまではどう頑張っても無理だったんじゃねーの?>」

「<だろうね。私も特に皇女サマ達の命なんて要らないし、私のせいで死んだなんて聞いたら流石の私も気分が良くないし>」

「<すぐに忘れるくせにか?>」

「<否定はしないけど、一時的でも気分が悪くなるのは事実だからね?>」


 一応顔を知っている人間が自分のせいで処刑された、なんて言われれば気分が悪くなるし、多少罪悪感を感じる。

 まぁ敵対していた相手なら直ぐに昇華してしまうのも確かだけどね。……今回の結末がそうだっとしてもやっぱり直ぐに事実として昇華してしまったかもね。


「<あーそりゃそうだ。顔知ってりゃ、嫌な気分になるわな。切り替えできるかどうかは完全に個人の性格だとも思うけどな>」

「<はいはい。私は切り替えが早い性格ですよ。特に悪いと思ってないから直す気もありませんけどねぇ>」

「<いいんじゃね? 別にオレは嫌じゃねーし。オレも似たようなモンだしな>」

「<んー? どうしたの、クロイツ? 何、デレ期?>」

「<なんじゃそりゃ>」


 何時になく穏やかな? というか優し気な言葉に首を傾げる。

 もっとスパっと切れ味良く切り捨てる言葉が出てくると思っていたから余計に不思議だった。


「(まぁ突然海に投げ出された私を心配でもしてくれたのかな?)」


 あの時は流石の私もマズイと思ったし。

 クロイツも優しい言葉になるってもんだろうね、きっと。

 何となく心の中で納得してるとクロイツが何時ものように突然話題を変えてきた。


「<そういやよー。あの犬っコロ達似のキシサマの主ってあの赤髪の奴なのか?>」

「<さぁ?>」

「は?」


 私の切り替えしに驚いたのかクロイツが影から出てくる。

 これでもかってほど驚いた顔に私はニンマリと笑った。


「確証なんて一つもなかったよ? つまり、勘?」

「おまっ! あんだけ自信満々に言っておいて勘だったのかよ!」


 ありえねーと頭を抱える(両手で頭を抑えても可愛い猫ポーズだけどねぇ)クロイツに手をひらひらを振って笑う。

 けど仕方無い。

 本当に確証なんて無いのだから。


「ただまぁ、いくつかの推測を組み立てた結果、かな? ―― 一つ、皇女サマを主としてはいない」


 これはまぁ道中の動作とか、喜悦を浮かべた姿を見たタイミングで確証を得た。


「一つ、ルビーンとザフィーアみたいに命すら捧げる主がいる」


 これも船上でようやく分かった。

 というよりも海に投げ出される直前にようやく気付いたんだけどね。


「ここまでは、まぁあの男から分かった事ね? ―― 一つ、赤髪の女性に会った時、あの場所にいるって事は高位の貴族ないし皇族だという事」


 下位貴族には場所すら秘密らしいから徹底しているし、多分、半プライベート空間なんだと思う。

 そんな所に他国の人間をほいほい入れていいのか? って問題はあるけど、今は無視しておく。


「一つ、赤髪の女性の執着の対象は皇女サマである」


 あの粘着質な視線はそれ以外説明しようがない。

 私ならあんな視線に晒され続ける事には耐えられない。

 その点だけはあの皇女サマに同情してるよね。


「一つ、皇女サマ自身が「御姉様の騎士」だと言い切った事」


 この言葉だけだと御姉様が誰だか分からない。

 けどまぁ今までの事を全部合わせると、ね?


「あの男性の主は赤髪の女性であり、彼女は皇女サマの姉君……つまり第一か第二皇女サマだったって結論に達したってわけ」

「オマエさー。それ勘か?」

「勘だよ? だって全部推測の上でしか成り立たない。穴だらけの推理だしね。『推理小説』でこんな事言ったら読者に「お前は才能無いから推理物を書くのやめたら?」って言われるよ?」

「あー。まーそーいわれるとそうなんだけどよー。オマエ、それで良く自信満々言い切れたな、おい」

「あそこで自信なさげに言ったら気迫負けしているのが見え見えじゃん」


 結果として無事だったけど海に投げ込まれた事を怒っていないわけじゃない。

 なによりあの狂人にとって私の命など「助かれば良いけど別に助からなくとも問題ない」程度の扱いだった。

 つまり、あの狂人にとって私は路傍の石と同じ扱いだったのだ。

 いくら懐に入れた人間以外はどうでも良いと思っている私でもそこまで他人に対して酷くはない……はずだ。

 あそこまで突き抜けた相手には何を言っても無駄だと経験上分かってはいる。

 だから時間の無駄にしかならない事はしたくはないと思う気持ちもあった。

 とは言え、怒りが収まるはずもないからこそのあの囁きだった。

 外れていればただのアホだけど、そこそこ自信もあったし。

 気持ちの折り合いをつけるため、態々囁くようにあんな事をいったのだ。

 結果、主以外に心揺らさないはずの男の驚き顔が見れたのだから多少留飲は下がった。

 

「(逆に言えばその程度の事しか出来なかったって事なんだけどね)」


 もう二度と会わない狂人から一本取ったという事で満足しておこうと思う。

 退きどころを見誤るわけにはいかない。

 

「と、いうよりも。ぶっちゃけ。帝国の問題にこれ以上巻き込まれたくない」

「オマエ、それが本心だろ」

「当たり前でしょ。何が悲しくて王国の問題だけじゃなくて帝国の問題にまで巻き込まれなきゃいけないのさ」


 ただでさえあの聖域の神殿の問題があるのだ。

 これ以上問題は増やしたくはない。

 

「名目が遊学とはいえ、休息をとってこいって言われてるんだから、これ以上の問題はいりません。私に休息を下さい。休ませてください」

「疲れ切ったリーマンみたいな事いうなよ、外見詐欺の幼女が」

「誰が外見詐欺よ。子猫のクロイツ君や」

「黒豹だっていってんだろーがよ!」

「私だって外見詐欺って言われる筋合い無いからね!」


 クロイツのデレ期はあっさり終わったらしく、何時もの通り辛辣な言葉に戻っている。

 まぁこっちもその方が何時も通りだし有難いんだけどさ。……もう少しぐらい優しくても罰は当たらないと思うよ?


「っと。軽口はともかく、話を聞く限り結果として本当に皇族だったらしい赤髪の主サマと琥珀色の騎士サマに重罰が課せられる、ってのが表向きで実際は皇女サマ方にもそれなりの罪が課されたって所に落ち着くんじゃないかな? って感じになると思うよ?」

「ふーん。ってかよー、実際の罪を換算すると皇族だろうと死罪になりかねないって……一体あの赤髪のコウジョサマは何やらかしてたんだよ」

「さぁ? それこそ帝国内部の極秘情報だろうから知らないし知りたくもないなぁ。此処まで教えてもらったのだって異例といえば異例だろうしね」


 ただ、問題があるとすれば死罪すらあり得る事を承知の上で今回の事をしでかした琥珀の狂人とその主の真意だ。

 多分私達王国の人間には関係ない事だろうとは思うんだけど、もし少しでも関わっているなら厄介だと思う。

 

「ま、それはないか」

「ん?」

「いや、今回の首謀者達の真意? って言うか顛末やら問題やらに王国の人間である私達が関わっているのかなぁ? って一瞬思ったんだけどさ。流石にそれはないよなぁってお話」

「成程。けど、そりゃ大丈夫なんじゃね? あのコウジョサマに執着してたんだろ? 赤髪のやつは」

「うん。その流れで私にとばっちりが来たって所だと思う」


 私が真正面から対峙した事で多少興味を引いたようだったけど、皇女サマに向ける執着心と比べれば、路傍の石が道の上にある石に上がった程度だろう。

 どっちにしろ生死すらどちらでも良い扱いだったのだ。

 私が彼女達の計画を完全に阻止でもしていない限り私に対しての興味が再び沸く事はないだろう。

 それは私にとって僥倖でしかない。


「(あれだけの執着心を向けられたら、とてもじゃないけど「普通」でなんていられない)」


 もしも私が帝国の皇族だったら?

 多分私と赤髪の彼女は徹底的に敵対しだだろう。

 継承権などが理由ではなく、お互いの気質がために。

 そのぐらいあの「執着心」は傍から見てもおかしかった。


「(あれは、多分私の大事なモノを壊すくらいは容易くやる。そういった類の代物だ。だからこそ私はアレを受け入れる事も受け流す事も出来ない)」


 結果が血みどろの争いなんて冗談じゃない。

 

「つくづく「私」が帝国に産まれなくて良かったと思うよ」

「音楽の才能もねーしな」

「そこでまぜっかえさないで下さいます? クロイツ君や」 


 結局いつもの軽口に戻った事に苦笑しつつ私は窓を開けると空を見上げる。


 今、私達は帝国の王城に戻ってきている。

 流石にあんな事の後悠長に街を見学とはいかない。

 結局、強行軍も良い処で私達は帝都へと戻って来た。

 しかも本来私に与えられていた部屋は何かが仕込まれていないか調査中のため、私は客室を一時的に与えられる形で移動する事になった。

 本来の標的ではないのは帝国側も分かっているのだろうけど、直接被害を加えられたのは私だけなのだ。

 こうなると部屋を一度は調査しないと帝国側も面目が立たないのだろう。

 この部屋自体は一時的にと言われてはいるが、別にあの部屋に愛着があった訳でもないし、このまま帝国滞在中はこの部屋でもいいんだけどなぁと思ったのはあえて口に出さなかったけど。


「(そもそも遊学は続行されるのかねぇ)」


 色々あったから帰国って話が出てもおかしくはない。

 ただ、王国での厄介事? 掃除? が終わっていればの話になるだろうけど。


「(ある程度終わっていれば帰国。そうじゃなければ理由をつけてもう少し滞在って所かな?)」


 いや、神殿の事を考えれば帝国側が引き留める可能性もあるか。

 ヴェールが消えていく瞬間を見てしまった以上、あの神殿に関しては当事者として関わらないといけないだろう。

 皇女サマもいるし帝国だけでいいのでは? と言いたい所だけど、言っても無駄そうだし。


「(どうしてこう、問題事が次から次へとやってくるかねぇ)」


 溜息をつきながらも何と無しに中庭を見ていると噴水の一部にふと違和感を感じた。


「ん?」

「どーした?」

「いや、噴水の一部分が変な気がする?」

「どこだ?」


 指さした方をじっと見つめるクロイツはしばしの後「確かにおかしーな」と頷いた。


「だよね? うーん。……どうしよう?」

「気になるなら近くで確かめればいーんじゃね?」

「あー……ここ帝国だし」

「今更だろ?」

「……そーですね」


 現状、帝国全体があんまり信用出来ない以上、この部屋に居ようが中庭に出ようが、危機感は変わらない。

 それをきっぱりと言い切ってしまうクロイツに私は大きくため息をつくしかない。……否定しない私にも問題あるかもしれないけど。


「『好奇心は猫をも殺す』とはよく言ったもんだけど。まぁ好奇心無くして錬金術師にはなれないってね。……行ってみようか」

「ま、一応周囲を警戒しといてやるよ。オマエの悪癖が出たらな?」

「ありがとう、クロイツ。一言多いけどね」


 相変わらずなクロイツと軽口を叩きながら部屋を出ると私達は中庭へと足を踏み入れるのだった。




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